StudyMed医師国家試験

膵液が逆流すると何が起こる?―先天性胆道拡張症と胆道癌、そしてMirizzi・Lemmelの取り違えに注意

第106回医師国家試験 A問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第8問

肝胆膵疾患とその原因の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.胆道癌 ―― 先天性胆道拡張症
  2. b.膵管癌 ―― 原発性硬化性胆管炎
  3. c.Gilbert症候群 ―― 胆嚢炎
  4. d.Mirizzi症候群 ―― 十二指腸傍乳頭部憩室
  5. e.Lemmel症候群 ―― 胆嚢結石

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肝胆膵領域の疾患とその原因を結び付ける問題だよ。ポイントは「どこで」「何が」起きているのかを解剖とセットで考えること。特に後半の2つの症候群は、名前だけ覚えていると入れ替えに引っかかりやすいから要注意だ。
医学生医学生
胆道癌と先天性胆道拡張症の組合せは聞いたことがあります。でも、なぜ拡張していると癌になるのかまではよく分かっていません。
ドクタードクター
そこが一番大事なところだね。先天性胆道拡張症は、ほぼ全例に膵・胆管合流異常を伴うんだ。本来、膵管と胆管は十二指腸壁の中で合流して、Oddi括約筋がその合流部を締めている。ところが合流異常では十二指腸壁の外で合流してしまうから、括約筋の作用が合流部に及ばない。
医学生医学生
膵管のほうが内圧が高いので、膵液が胆管側に流れ込んでしまう、ということですか。
ドクタードクター
その通り。胆道内で活性化した膵酵素が上皮を繰り返し傷つけ、過形成や化生を経て癌化すると考えられている。成人例では胆道癌の合併が約2割ともいわれ、一般人口よりずっと高い。だからこの組合せは正しいんだ。
医学生医学生
解剖の講義で習った乳頭部の構造が、こんなふうに病態につながるんですね。治療はどうするんでしょうか。
ドクタードクター
癌化の予防と、胆汁と膵液の混ざり合いを断つために、拡張した肝外胆管と胆嚢を切除して肝管と空腸をつなぐ分流手術を行う。胆管が拡張していない合流異常では特に胆嚢癌が多いので、予防的胆嚢摘出術が行われるよ。では次、原発性硬化性胆管炎と膵管癌の組合せはどうかな。
医学生医学生
原発性硬化性胆管炎は潰瘍性大腸炎を合併するって、CBTの勉強でよく出てきました。膵臓にも病変が出るイメージがあったんですが……。
ドクタードクター
そこはよくある混同だね。自己免疫性膵炎を合併しやすいのは、ステロイドがよく効くIgG4関連硬化性胆管炎のほうで、原発性硬化性胆管炎とは別の疾患なんだ。原発性硬化性胆管炎で問題になる悪性腫瘍は胆管癌と、合併する潰瘍性大腸炎による大腸癌。膵管癌の原因とは位置付けられないよ。
医学生医学生
胆管の名前がついているのに、膵臓と結び付けたら引っかかるわけですね。Gilbert症候群と胆嚢炎はさすがに関係なさそうです。
ドクタードクター
そうだね。Gilbert症候群はビリルビンをグルクロン酸抱合するUGT1A1の活性が遺伝的に低下した体質性黄疸で、間接ビリルビンが軽く上がる。空腹や疲労、感染で黄疸が目立つけれど、予後良好で治療は要らない。胆嚢炎が原因になることはないんだ。
医学生医学生
内科の実習で、健診で間接ビリルビンだけ高い若い人がいて、絶食で上がるかを確かめる話を聞きました。
ドクタードクター
いい経験だね。では最後の2つ。Mirizzi症候群とLemmel症候群、それぞれ何が胆管を圧迫するかな。
医学生医学生
Mirizziは……十二指腸の憩室でしたっけ。あれ、逆かもしれません。
ドクタードクター
まさにこの問題の狙いどおりの迷い方だ。この問題では2つの原因が入れ替えてある。Mirizzi症候群は、胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓した結石とその炎症が、並走する総肝管を外から圧迫して閉塞性黄疸を起こす病態。進行すると胆嚢と胆管の間に瘻孔をつくることもある。一方Lemmel症候群は、十二指腸乳頭近くの傍乳頭部憩室が胆管末端や乳頭を圧迫したり、憩室炎や食物残渣で乳頭機能を障害したりして、結石も腫瘍もないのに黄疸や胆管炎、膵炎を起こすものだ。
医学生医学生
胆嚢側から押すのがMirizzi、十二指腸側から押すのがLemmel、と方向で覚えればいいんですね。
ドクタードクター
その覚え方で十分だ。臨床的には、Mirizzi症候群を知らずに胆嚢摘出術を行うと、炎症で一体化した総肝管を損傷する危険がある。術前に画像でしっかり見抜くことが大切だよ。また胆道癌の危険因子として、合流異常のほかに原発性硬化性胆管炎、肝内結石症、胆嚢結石、肝吸虫症、印刷業での有機溶剤曝露なども押さえておこう。
医学生医学生
胆汁の通り道に慢性的な刺激が加わるものが癌のリスクになる、とまとめられそうです。
ドクタードクター
そういう理解で応用が利くはずだ。病名と原因を丸暗記するより、仕組みで結び付けておくと迷わなくなるよ。

まとめ

先天性胆道拡張症はほぼ全例に膵・胆管合流異常を伴い、Oddi括約筋の作用が及ばない合流部から膵液が胆道へ逆流して上皮を障害するため、胆道癌の発生が多くなります。治療は肝外胆管切除と肝管空腸吻合による分流手術です。原発性硬化性胆管炎は潰瘍性大腸炎を合併し胆管癌のリスクとなる一方、自己免疫性膵炎を合併するのはIgG4関連硬化性胆管炎であり区別が必要です。Gilbert症候群はUGT1A1活性低下による間接ビリルビン優位の体質性黄疸で、Mirizzi症候群は胆嚢頸部・胆嚢管結石による総肝管の圧迫、Lemmel症候群は傍乳頭部憩室による胆管末端の圧迫が原因です。病名と原因を解剖学的な位置関係と病態の仕組みで結び付けて理解することが、入れ替え型のひっかけに強くなる近道です。

解答・解説

正解はaです

問われていること

肝胆膵領域の疾患と、その原因・基礎疾患の組合せを問う問題である。それぞれの疾患が「どこで」「何によって」起こるのかを、解剖学的な位置関係と結び付けて整理しておくと正誤を判断しやすい。

各疾患の要点

・先天性胆道拡張症:総胆管を中心に胆管が生まれつき拡張している疾患で、ほぼ全例に膵・胆管合流異常(膵管と胆管が十二指腸壁の外で合流する形成異常)を伴う。膵液が胆道内に逆流して胆道上皮を慢性的に刺激するため、胆道癌の発生率が高い。 ・原発性硬化性胆管炎(PSC):肝内外の胆管に炎症と線維化による多発狭窄を来す原因不明の疾患。潰瘍性大腸炎の合併が多く、胆管癌のリスクが高い。 ・Gilbert症候群:ビリルビンのグルクロン酸抱合酵素の活性が低下して起こる体質性黄疸。 ・Mirizzi症候群:胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓した結石が、隣接する総肝管を外から圧迫して閉塞性黄疸を来す病態。 ・Lemmel症候群:十二指腸乳頭の近くにできた憩室が、胆管末端や乳頭部を圧迫・機能障害させ、結石や腫瘍がないのに閉塞性黄疸や胆管炎、膵炎を来す病態。 このように整理すると、正しい組合せは「胆道癌 ―― 先天性胆道拡張症」である。d と e は、Mirizzi症候群とLemmel症候群の原因を入れ替えたひっかけになっている。

選択肢考察

  1. ○a.  胆道癌 ―― 先天性胆道拡張症

    先天性胆道拡張症は、アジア人、特に女性に多く、腹痛・黄疸・腹部腫瘤が古典的な三主徴とされる。ほぼ全例に膵・胆管合流異常を合併する。合流異常があると、膵管と胆管の合流部が十二指腸壁の外にあるため、Oddi括約筋の作用が合流部に及ばない。そのため膵管内圧が胆管内圧より高く、膵液が胆道へ逆流する。胆道内で活性化した膵酵素が胆道上皮を繰り返し障害し、過形成や化生を経て癌化すると考えられている。成人例では胆道癌(胆管癌・胆嚢癌)の合併頻度が約2割に達し、一般人口より著しく高い。したがって正しい組合せである。

  2. ×b.  膵管癌 ―― 原発性硬化性胆管炎

    原発性硬化性胆管炎(PSC:primary sclerosing cholangitis)は、胆管の線維性狭窄が多発し、胆汁うっ滞から胆汁性肝硬変・肝不全へ進行し得る原因不明の疾患である。若年者と高齢者の二峰性に発症し、潰瘍性大腸炎を高率に合併する。PSCで問題となる悪性腫瘍は胆管癌(および合併した潰瘍性大腸炎による大腸癌)であり、膵管癌の原因として位置付けられる疾患ではない。なお、ステロイドがよく効くIgG4関連硬化性胆管炎は自己免疫性膵炎を合併しやすいが、PSCとは別の疾患であり、鑑別が重要である。

  3. ×c.  Gilbert症候群 ―― 胆嚢炎

    Gilbert症候群は、肝細胞でビリルビンをグルクロン酸抱合する酵素UGT1A1(UDP-グルクロン酸転移酵素)の遺伝子変異により酵素活性が低下し、間接(非抱合型)ビリルビンが軽度上昇する体質性黄疸である。肝細胞へのビリルビン取り込み障害の関与も指摘されている。人口の数%にみられ、空腹・絶食、疲労、感染症などで黄疸が目立つが、予後は良好で治療は不要である。遺伝性の体質によるものであり、胆嚢炎が原因となることはない。

  4. ×d.  Mirizzi症候群 ―― 十二指腸傍乳頭部憩室

    Mirizzi症候群は、胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓した結石と、それに伴う炎症が、並走する総肝管を外側から圧迫・狭窄させて閉塞性黄疸を来す病態である。進行すると結石が胆管壁を侵食し、胆嚢と胆管の間に瘻孔(胆嚢胆管瘻)を形成することもある。原因は胆嚢結石(胆嚢頸部・胆嚢管結石)であり、十二指腸傍乳頭部憩室はLemmel症候群の原因である。

  5. ×e.  Lemmel症候群 ―― 胆嚢結石

    Lemmel症候群は、十二指腸乳頭の近くにできた十二指腸傍乳頭部憩室が、総胆管の末端や乳頭部を圧迫したり、憩室炎による炎症や食物残渣の貯留で乳頭機能を障害したりして、胆汁や膵液の流出障害を起こす病態である。胆管結石や腫瘍がないにもかかわらず、腹痛、閉塞性黄疸、胆管炎、膵炎などを生じる。原因は十二指腸傍乳頭部憩室であり、胆嚢結石はMirizzi症候群の原因である。

膵・胆管合流異常と先天性胆道拡張症

・膵・胆管合流異常:膵管と胆管が十二指腸壁の外で合流する先天的な形成異常。胆管拡張を伴うもの(先天性胆道拡張症)と、伴わないもの(胆管非拡張型)がある。 ・胆管拡張を伴う場合は胆管癌・胆嚢癌の両方が、胆管拡張を伴わない場合は特に胆嚢癌が発生しやすい。 ・治療:先天性胆道拡張症では、癌化の予防と胆汁・膵液の混合を断つ目的で、拡張した肝外胆管と胆嚢を切除し、肝管と空腸を吻合する分流手術(肝外胆管切除+肝管空腸吻合)を行う。胆管非拡張型では予防的胆嚢摘出術が行われる。 ・診断:MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)などで合流部の形態を確認する。胆汁中のアミラーゼが高値になる。

胆道癌の主な危険因子

膵・胆管合流異常(先天性胆道拡張症)、原発性硬化性胆管炎、肝内結石症、胆嚢結石(胆嚢癌)、肝吸虫症、印刷業での有機溶剤(ジクロロメタン、1,2-ジクロロプロパン)への曝露などが知られている。

体質性黄疸の整理

・間接ビリルビン優位:Gilbert症候群(軽症、UGT1A1の活性低下)、Crigler-Najjar症候群(I型は酵素活性の完全欠損で核黄疸を来す重症型、II型はフェノバルビタールで改善する)。 ・直接ビリルビン優位:Dubin-Johnson症候群(肝細胞から胆汁への排泄を担うMRP2の異常、肝が黒色調になる)、Rotor症候群(肝細胞へのビリルビン取り込み・再取り込みの障害)。

胆道周囲の「圧迫」で起こる黄疸の覚え方

・胆嚢側から総肝管を圧迫 → Mirizzi症候群(原因は胆嚢頸部・胆嚢管の結石)。 ・十二指腸側から総胆管末端・乳頭を圧迫 → Lemmel症候群(原因は傍乳頭部憩室)。

POINT

・先天性胆道拡張症はほぼ全例に膵・胆管合流異常を伴い、膵液の逆流により胆道癌の発生が多い。治療は分流手術である。 ・原発性硬化性胆管炎は潰瘍性大腸炎を合併し、胆管癌のリスクが高い。自己免疫性膵炎を合併するのはIgG4関連硬化性胆管炎である。 ・Gilbert症候群はUGT1A1の活性低下による間接ビリルビン優位の体質性黄疸である。 ・Mirizzi症候群は胆嚢頸部・胆嚢管結石による総肝管の圧迫、Lemmel症候群は十二指腸傍乳頭部憩室による胆管末端の圧迫が原因である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。