ステロイドが効かない、そのとき疑うべき「もう一つの敵」―重症潰瘍性大腸炎とサイトメガロウイルス
第106回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
ステロイド抵抗性の重症潰瘍性大腸炎への対応で適切なのはどれか。
- a.アメーバ赤痢の治療を追加する。
- b.注腸二重造影で全大腸を観察する。
- c.モルヒネの投与で腸管の安静を図る。
- d.サイトメガロウイルスの検索を行う。
- e.非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉を投与する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ステロイド抵抗性の重症潰瘍性大腸炎では、免疫抑制治療を強化する前に、サイトメガロウイルス腸炎やClostridioides difficile感染症の合併を検索することが基本です。サイトメガロウイルス腸炎は内視鏡での打ち抜き様潰瘍、生検での核内封入体をもつ巨細胞や免疫染色、PCR、アンチゲネミアなどで診断し、陽性ならガンシクロビルなどで治療します。重症例では注腸造影やオピオイド・抗コリン薬・止痢薬が中毒性巨大結腸症の誘因となり、NSAIDsは増悪因子となるため避けます。アメーバ性大腸炎は重要な鑑別疾患ですが、治療は検査で確認してから行います。感染を除外したうえでカルシニューリン阻害薬や生物学的製剤による強化治療、無効例や合併症例では大腸全摘術へと進む流れを理解しておくことが、重症例の安全な管理につながります。
解答・解説
正解はdです
問われているテーマ
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)は、直腸から連続性に口側へ広がる大腸粘膜のびまん性炎症を特徴とする原因不明の炎症性腸疾患である。中等症〜重症の活動期では副腎皮質ステロイドが寛解導入の中心となるが、十分量(プレドニゾロン換算で1〜1.5mg/kg/日程度)を1〜2週間投与しても改善しない例を「ステロイド抵抗性」と呼ぶ。
ステロイド抵抗性と判断したら最初に考えること
ステロイドが効かないとき、まず疑うべきは「本当にUCそのものの活動性だけが原因か」という点である。ステロイドや免疫抑制薬の投与下では腸管感染症が重なりやすく、とくに以下の2つは治療抵抗性の原因として頻度が高い。 ・サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)腸炎の合併 ・Clostridioides difficile(旧名 Clostridium difficile)感染症の合併 これらが重なっている状態で、さらに免疫抑制を強める治療(タクロリムス、シクロスポリン、抗TNF-α抗体など)へ進むと、感染が悪化して病状がかえって増悪する。したがって、治療をステップアップする前に感染症、特にCMVの検索を行うことが基本である。
重症例で避けるべきこと
重症UCでは腸管壁が脆弱で、中毒性巨大結腸症(toxic megacolon:結腸が著しく拡張し全身の中毒症状を伴う状態)や穿孔を起こしやすい。腸管内圧を上げる検査(注腸造影)や、腸管運動を抑える薬剤(オピオイド、抗コリン薬、止痢薬)は巨大結腸症の誘因となるため避ける。また、NSAIDsは粘膜障害を起こしUCを悪化させる。 以上から、ステロイド抵抗性の重症UCで適切な対応は、合併感染としてのCMV腸炎の検索である。
選択肢考察
- ×a. アメーバ赤痢の治療を追加する。
赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)による大腸炎は、粘血便や直腸〜盲腸の潰瘍を呈し、UCと誤診されやすい重要な鑑別疾患である。しかも誤ってステロイドを投与すると劇症化・穿孔を来しうるため、UCの初回診断時には便の顕微鏡検査、生検、血清抗体などで除外しておく必要がある。しかし、本問のようにUCと診断されて治療中の患者で、ステロイドが効かないというだけで診断の裏付けなくメトロニダゾールなどの抗アメーバ治療を追加するのは適切ではない。疑うなら検査で確認してから治療するのが原則であり、ステロイド抵抗性の原因としてまず検索すべきはCMVである。
- ×b. 注腸二重造影で全大腸を観察する。
注腸二重造影は肛門からバリウムと空気を注入して大腸を膨らませ撮影する検査である。重症UCでは炎症で腸管壁が薄く脆くなっているため、送気・バリウム注入による腸管内圧の上昇が中毒性巨大結腸症や穿孔の誘因となる。そのため重症例では原則として禁忌である。重症例で病変評価が必要なときは、腹部単純X線やCTで腸管拡張・遊離ガスを確認し、内視鏡を行う場合も前処置や送気を控えて直腸〜S状結腸の観察と生検にとどめるのが一般的である。
- ×c. モルヒネの投与で腸管の安静を図る。
モルヒネなどのオピオイドは腸管の蠕動を強く抑制する。重症UCで腸管運動を止めると、腸内容とガスが停滞して結腸が拡張し、中毒性巨大結腸症を誘発・増悪させるおそれがある。同じ理由で抗コリン薬やロペラミドなどの止痢薬も重症例では避ける。また、腸管の動きを止めても炎症そのものは改善せず、治療的意義はない。重症例での「腸管安静」は、絶食と中心静脈栄養によって図るものである。
- ○d. サイトメガロウイルスの検索を行う。
CMVは多くの成人に潜伏感染しており、ステロイドや免疫抑制薬の投与、強い炎症によって再活性化し、UCの炎症粘膜に腸炎を起こす。CMV腸炎が重なるとステロイドに反応しなくなるため、ステロイド抵抗性の重症UCではその合併を必ず検索する。検索法には、大腸内視鏡での特徴的な潰瘍(打ち抜き様潰瘍、境界明瞭な地図状潰瘍など)の確認、生検組織の病理検査(核内封入体をもつ巨細胞=フクロウの目様細胞、免疫組織化学染色)、組織のPCR、血液のCMV抗原血症(アンチゲネミア)検査などがある。陽性であればガンシクロビルなどの抗ウイルス薬を投与し、免疫抑制の強化は慎重に判断する。あわせてC. difficile感染症の検索も行うのが実際的である。
- ×e. 非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉を投与する。
NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害して粘膜保護作用をもつプロスタグランジンの産生を低下させ、消化管粘膜を障害する。UCでは再燃・増悪の誘因として知られており、投与は避けるべきである。仮に解熱・鎮痛効果が得られても対症的なものにすぎず、UCの炎症を抑える治療にはならない。なお、UC治療薬の5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤は構造的にはサリチル酸系だが腸管局所で作用する薬剤であり、全身投与のNSAIDsとは区別して考える。
潰瘍性大腸炎の重症度(Truelove-Witts分類を基にした本邦の基準の概略)
・重症:1日6回以上の排便、顕血便(+++)に加えて、発熱(37.5℃以上)または頻脈(90/分以上)のいずれかを満たし、かつ貧血・赤沈亢進などの全身症状を伴うもの ・劇症:重症のなかでも特に激しく、15回/日以上の血性下痢、38℃以上の持続する高熱、10,000/μL以上の白血球増多、強い腹痛などを伴い急性に経過するもの
ステロイド抵抗性の重症UCの治療の流れ
1. 合併感染の除外:CMV腸炎、C. difficile感染症 2. 内科的な強化治療:カルシニューリン阻害薬(タクロリムス経口、シクロスポリン持続静注)、抗TNF-α抗体(インフリキシマブなど)、そのほか近年はJAK阻害薬や他の生物学的製剤も選択肢となる。血球成分除去療法を併用することもある。 3. 外科治療:内科治療で改善しない例、中毒性巨大結腸症、穿孔、大量出血、癌合併では大腸全摘術を行う(回腸嚢肛門吻合術など)。重症例では手術のタイミングを逸しないことが重要である。
重症UCの全身管理
絶食・輸液(必要に応じ中心静脈栄養)、電解質補正、貧血の補正を行う。オピオイド・抗コリン薬・止痢薬・NSAIDsは避ける。毎日の腹部診察と腹部単純X線で結腸の拡張(横行結腸径6cm以上が中毒性巨大結腸症の目安)を監視する。
CMV腸炎のポイント
・免疫抑制状態で潜伏感染していたCMVが再活性化して起こる。 ・内視鏡:打ち抜き様潰瘍、縦走潰瘍、地図状潰瘍など。 ・病理:核内封入体をもつ巨細胞(owl's eye)、免疫組織化学でCMV抗原陽性。 ・治療:ガンシクロビル(静注)など。
POINT
・ステロイド抵抗性のUCでは、治療強化の前にCMV腸炎(およびC. difficile感染症)の合併を検索する。 ・重症UCで注腸造影、オピオイド、抗コリン薬、止痢薬は中毒性巨大結腸症の誘因となるため避ける。 ・NSAIDsはUCの増悪因子である。 ・アメーバ性大腸炎はUCの重要な鑑別疾患で、ステロイド投与前に除外する。治療は診断確定後に行う。 ・ステロイド抵抗例の治療選択肢:タクロリムス、シクロスポリン、抗TNF-α抗体など。無効例や巨大結腸症・穿孔・大量出血では大腸全摘術。
