StudyMed医師国家試験

「M蛋白はあるのに何も起きていない」―MGUSと多発性骨髄腫を分ける境界線

第106回医師国家試験 A問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第7問

Monoclonal gammopathy of undetermined significance〈MGUS〉について正しいのはどれか。

  1. a.貧血をきたす。
  2. b.溶解性骨病変をきたす。
  3. c.多発性骨髄腫には移行しない。
  4. d.血清M蛋白量は3 g/dL以上である。
  5. e.M蛋白以外の免疫グロブリン量は正常である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はMGUS、つまり意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症の定義を問う問題だ。考え方のコツは、多発性骨髄腫と並べて「何があって、何がないのか」を整理すること。まず、MGUSがどんな状態か説明できるかな。
医学生医学生
形質細胞の一つのクローンが増えてM蛋白を作っているけれど、骨髄腫ほどではない状態、という理解です。
ドクタードクター
いいね。もう少し正確に言うと、M蛋白は出ているけれど、その量も骨髄の形質細胞の割合も少なく、臓器障害を伴わない状態だ。多発性骨髄腫の前がん状態と位置付けられていて、50歳以上の数%にみられる。健診で総蛋白が高かったり、蛋白分画でMピークが偶然見つかったりすることが多いんだ。
医学生医学生
臓器障害というと、CRABですね。CBTの勉強で語呂合わせとして覚えました。
ドクタードクター
そう、高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨病変の頭文字だ。MGUSの定義は、血清M蛋白3 g/dL未満、骨髄のクローナルな形質細胞10%未満、そしてCRABがないこと。ここまで押さえれば、選択肢の多くは整理できるよ。貧血と溶解性骨病変はどう判断する?
医学生医学生
どちらもCRABに含まれるので、MGUSではみられない、ということになりますね。
ドクタードクター
その通り。貧血は骨髄腫細胞が骨髄を占拠して造血を妨げたり、腎障害でエリスロポエチンが減ったりして起こる。溶解性骨病変は、骨髄腫細胞が破骨細胞を活性化し骨芽細胞を抑えることで生じ、頭蓋骨X線の打ち抜き像として有名だ。いずれも骨髄腫の臓器障害だから、MGUSの定義上は存在しない。
医学生医学生
血液内科の実習で、骨髄腫の患者さんの頭蓋骨X線に穴がいくつも開いていたのが印象的でした。
ドクタードクター
あれは一度見ると忘れないね。次に、M蛋白が3 g/dL以上という記述はどうだろう。
医学生医学生
3 g/dLが境界なのは覚えていますが、どちら向きだったか少し自信がないです。
ドクタードクター
MGUSは3 g/dL未満だ。3 g/dL以上、または骨髄形質細胞が10〜60%で臓器障害がなければ、くすぶり型骨髄腫に分類される。MGUS、くすぶり型、症候性骨髄腫というスペクトラムで考えると整理しやすいよ。
医学生医学生
では、多発性骨髄腫には移行しない、というのも誤りですね。前がん状態なら移行しうるはずです。
ドクタードクター
正解。MGUSは年に約1%の割合で多発性骨髄腫やALアミロイドーシス、Waldenströmマクログロブリン血症などに進展する。しかもこのリスクは長く経過しても消えない。だから治療はしないけれど、生涯にわたる経過観察が必要なんだ。
医学生医学生
そうなると、残ったM蛋白以外の免疫グロブリンは正常、が正解ですね。でも、なぜ正常に保たれるんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だ。多発性骨髄腫では腫瘍化した形質細胞が骨髄を占拠し、正常な形質細胞による多クローン性の免疫グロブリン産生が抑えられる。だからM蛋白以外の免疫グロブリンは低下し、液性免疫が落ちて肺炎球菌などの細菌感染を起こしやすくなる。一方MGUSでは異常クローンがごく小さいので、正常な形質細胞の働きは基本的に保たれるんだ。
医学生医学生
M蛋白以外は異常がない状態がMGUS、と覚えればいいわけですね。
ドクタードクター
その理解で十分だ。厳密には一部のMGUSで他の免疫グロブリンが軽く下がることもあり、進展リスクとの関連も報告されているけれど、骨髄腫との対比としては「保たれる」が基本と覚えよう。臨床で大事なのは経過観察の中身だ。定期的に血清・尿のM蛋白量、血算、カルシウム、腎機能を確認し、CRABの兆候が出てこないかを見ていく。
医学生医学生
進展しやすい人の特徴もあるんですか。
ドクタードクター
M蛋白量が多い、IgG以外の型、血清遊離軽鎖比の異常などが進展リスクを高める因子として知られている。それから、M蛋白は蛋白電気泳動で幅の狭い鋭いピークとして見つかり、免疫固定法で型を同定する。尿に軽鎖だけが出るのがBence Jones蛋白だね。M蛋白を見つけたら、貧血や腎機能、カルシウム、骨病変まで評価して、MGUSなのか骨髄腫なのかを見極める習慣をつけておこう。

まとめ

MGUSは、単クローン性の形質細胞がM蛋白を産生しているものの、血清M蛋白3 g/dL未満、骨髄クローナル形質細胞10%未満で、高カルシウム血症・腎障害・貧血・骨病変(CRAB)を伴わない状態です。異常クローンが小さいため正常な形質細胞の機能は基本的に保たれ、M蛋白以外の免疫グロブリンは正常であり、それらが低下して易感染性を示す多発性骨髄腫との重要な違いになります。M蛋白が3 g/dL以上で臓器障害がなければくすぶり型骨髄腫に分類され、MGUSも年約1%で多発性骨髄腫などへ進展するため、治療は行わず生涯にわたる経過観察が必要です。MGUS、くすぶり型、症候性骨髄腫というスペクトラムで理解しておくことは、健診で見つかるM蛋白への適切な対応につながります。

解答・解説

正解はeです

MGUSとは

MGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症)は、形質細胞のうち単一のクローン(同じ細胞に由来する集団)が増え、単一の種類の免疫グロブリン(M蛋白)を産生しているものの、その量や形質細胞の数が少なく、臓器障害を伴わない状態である。多発性骨髄腫の「前がん状態」と位置付けられ、高齢者に多い(50歳以上の数%にみられる)。健診などで血清総蛋白の高値や、血清蛋白分画でのMピークとして偶然見つかることが多い。

診断基準の要点(国際骨髄腫ワーキンググループ:IMWG)

・血清M蛋白量が3 g/dL未満 ・骨髄中のクローナルな形質細胞が10%未満 ・多発性骨髄腫に伴う臓器障害(CRAB:高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨病変)がない ・アミロイドーシスなど他のリンパ増殖性疾患によるものではない

考え方

MGUSは「M蛋白はあるが、それ以外は異常がない状態」と理解するとよい。多発性骨髄腫では腫瘍化した形質細胞が骨髄を占拠し、正常な形質細胞による免疫グロブリン産生が抑えられるため、M蛋白以外の正常な免疫グロブリンが低下する。MGUSではクローンの増殖がごく小さいため正常な形質細胞の働きは基本的に保たれ、M蛋白以外の免疫グロブリン量は正常である。また、CRABに相当する貧血や骨病変も認めない。一方で、MGUSは年に約1%の割合で多発性骨髄腫などに進展するため、「移行しない」は誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  貧血をきたす。

    貧血はCRABのA(Anemia)にあたり、腫瘍化した形質細胞が骨髄を占拠して正常な造血を妨げることや、腎障害によるエリスロポエチン産生低下などで生じる、多発性骨髄腫の臓器障害である。MGUSは骨髄中の形質細胞が10%未満で、このような臓器障害がないことが定義に含まれる。したがってMGUSで貧血をきたすことはない。M蛋白があって貧血がみられる場合は、多発性骨髄腫への進展や他の原因を検索する必要がある。

  2. ×b.  溶解性骨病変をきたす。

    溶解性骨病変(打ち抜き像、punched-out lesion)はCRABのB(Bone lesions)にあたる。骨髄腫細胞が破骨細胞を活性化させるサイトカインを分泌し、骨芽細胞の働きを抑えることで生じ、頭蓋骨X線での多発する打ち抜き像や病的骨折として現れる。これは多発性骨髄腫の所見であり、臓器障害を伴わないMGUSではみられない。

  3. ×c.  多発性骨髄腫には移行しない。

    MGUSは多発性骨髄腫の前段階であり、年間約1%の割合で多発性骨髄腫や原発性(ALアミロイドーシス)、Waldenströmマクログロブリン血症などに進展する。このリスクは長期間経過しても消えないため、長期経過例では決してまれではない。治療の適応はないが、生涯にわたって血清・尿中のM蛋白量、血算、カルシウム、腎機能などを定期的に確認する経過観察が必要である。

  4. ×d.  血清M蛋白量は3 g/dL以上である。

    MGUSの診断基準では血清M蛋白量は3 g/dL未満である。M蛋白量が3 g/dL以上(あるいは尿中M蛋白が500 mg/24時間以上)または骨髄のクローナルな形質細胞が10〜60%で、臓器障害などの骨髄腫を規定する事象がない場合はくすぶり型(無症候性)骨髄腫に分類される。M蛋白量はMGUSとくすぶり型骨髄腫を区別する重要な指標である。

  5. ○e.  M蛋白以外の免疫グロブリン量は正常である。

    MGUSでは異常クローンの形質細胞が少数にとどまるため、正常な形質細胞による多クローン性の免疫グロブリン産生は基本的に保たれ、M蛋白以外の免疫グロブリン量は正常である。これに対し多発性骨髄腫では、骨髄腫細胞の増殖により正常な形質細胞の機能が抑えられ、M蛋白以外の免疫グロブリンが低下する。その結果、液性免疫が低下して肺炎球菌などによる細菌感染を起こしやすくなる。この点は両者を区別する特徴の一つである。

形質細胞腫瘍のスペクトラム

MGUS → くすぶり型骨髄腫 → 症候性多発性骨髄腫という順に病態が進むと考えるとよい。 ・MGUS:血清M蛋白3 g/dL未満、骨髄クローナル形質細胞10%未満、臓器障害なし。治療せず経過観察。 ・くすぶり型骨髄腫:血清M蛋白(IgGまたはIgA)3 g/dL以上、または尿中M蛋白500 mg/24時間以上、かつ/または骨髄クローナル形質細胞10〜60%。骨髄腫を規定する事象はない。原則として経過観察(高リスク例では治療を検討することもある)。 ・多発性骨髄腫:骨髄クローナル形質細胞10%以上(または生検で証明された形質細胞腫)に加え、骨髄腫を規定する事象(CRAB、または骨髄形質細胞60%以上・血清遊離軽鎖比100以上・MRIで2か所以上の局所病変のいずれか)がある。治療の対象となる。

CRAB

・C(hyperCalcemia):高カルシウム血症 ・R(Renal insufficiency):腎障害(主に軽鎖による尿細管障害、骨髄腫腎) ・A(Anemia):貧血 ・B(Bone lesions):溶解性骨病変

MGUSからの進展リスクを高める因子

M蛋白量が多い(1.5 g/dL以上)、IgG以外の型(IgA、IgM)、血清遊離軽鎖比の異常などが知られており、該当する項目が多いほど進展しやすい。

M蛋白の検出

血清蛋白電気泳動でγ分画などに幅の狭い鋭いピーク(Mピーク)がみられ、免疫固定法でその免疫グロブリンの種類(重鎖と軽鎖の型)を同定する。尿中に軽鎖のみが排泄されるものがBence Jones蛋白である。

POINT

・MGUSは「M蛋白はあるが臓器障害はない」前がん状態である。 ・診断基準:血清M蛋白3 g/dL未満、骨髄クローナル形質細胞10%未満、CRAB(高カルシウム血症・腎障害・貧血・骨病変)なし。 ・M蛋白以外の免疫グロブリンは正常に保たれる(多発性骨髄腫では低下する)。 ・年約1%で多発性骨髄腫などへ進展するため、治療はせず生涯にわたり経過観察する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。