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閉経でエストロゲンが減ると何が上がる?―コレステロールと女性ホルモンの意外な関係

第106回医師国家試験 A問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第6問

健常の若年成人女性に比較し,閉経後の女性で高値を示すことが多いのはどれか。

  1. a.糸球体濾過量
  2. b.末梢血白血球数
  3. c.血中アンモニア
  4. d.血清総ビリルビン
  5. e.血清総コレステロール

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、閉経という体の変化が一般的な検査値にどう表れるかを問う問題だ。着眼点はひとつだけ。「閉経で何が減り、それが全身にどんな影響を与えるか」を考えると、答えは自然に見えてくるよ。まず、閉経で起こるホルモンの変化を整理してみようか。
医学生医学生
卵巣機能が落ちてエストロゲンとプロゲステロンが減る、ですよね。生殖内分泌の講義でやりました。
ドクタードクター
その通り。そして視床下部・下垂体へのネガティブフィードバックが外れるから、FSHとLHは逆に大きく上がる。特にFSHの上昇は閉経の指標になる。ただ、選択肢にゴナドトロピンはない。だからエストロゲンが生殖以外でどんな仕事をしているかを思い出す必要があるんだ。
医学生医学生
生殖以外だと……骨ですか?閉経後に骨粗鬆症が増えると習いました。
ドクタードクター
いいね、骨は代表例だ。エストロゲンは破骨細胞による骨吸収を抑えているから、閉経後は骨量が急に減る。でも骨密度は下がる方向の変化だね。今回は「高値を示す」ものを探している。もうひとつの重要な作用を考えてみよう。
医学生医学生
脂質代謝でしょうか。でも、エストロゲンがコレステロールに関わる仕組みはあまりイメージできていません。
ドクタードクター
ポイントは肝臓のLDL受容体だ。エストロゲンは肝細胞のLDL受容体を増やして、血中のLDLコレステロールを肝臓に取り込んで処理するのを助けている。HDLを上げる方向にも働く。閉経でこの作用がなくなると、LDLが血中から除かれにくくなり、総コレステロールが上がるんだ。
医学生医学生
なるほど。性ホルモンの原料のコレステロールが使われなくなって余る、という理屈かと思っていました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、主な機序はLDL受容体を介した処理の低下と理解しておくのがいい。実際、日本人女性のコレステロール値は40歳代後半から急に上がり、50歳代以降は同年代の男性を上回ることが知られている。だから正解は血清総コレステロールだ。ほかの選択肢も確認しよう。糸球体濾過量はどうかな。
医学生医学生
腎機能の指標なので、年齢とともに下がるはずです。上がることはなさそうですね。
ドクタードクター
その通り。GFRは加齢で徐々に低下するから、閉経後の女性では若い女性よりむしろ低いのが普通だ。では末梢血白血球数は?
医学生医学生
感染や白血病、ステロイド、喫煙で増えるイメージです。閉経とは関係なさそうに思います。
ドクタードクター
正解。妊娠では増えることがあるけれど、閉経そのもので増えることはない。血中アンモニアと血清総ビリルビンも同じように考えよう。
医学生医学生
アンモニアは肝硬変や門脈大循環短絡、尿素回路異常で、ビリルビンは溶血や肝障害、胆道閉塞、体質性黄疸で上がるんでしたね。どちらもエストロゲンとは結び付きません。
ドクタードクター
完璧だ。どれも閉経によって上昇する性質のものではない。この問題は「エストロゲン低下と直接つながる検査値はどれか」という視点で解けば迷わないよ。
医学生医学生
ホルモンの作用から逆算して検査値の変化を予測する、という考え方ですね。
ドクタードクター
そう。ここから臨床の話をしよう。閉経前の女性は同年代の男性より冠動脈疾患が少ないけれど、閉経後はLDL上昇などを背景にその差が縮まっていく。だから更年期以降の女性の健診では、脂質の推移をきちんと追うことが大切なんだ。
医学生医学生
産婦人科の実習で、更年期外来の患者さんがホットフラッシュだけでなく脂質や骨密度もチェックされていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれ。エストロゲン欠乏は、ほてりや発汗などの更年期症状、脂質異常症と動脈硬化、骨粗鬆症、腟や尿路の萎縮症状まで、全身に影響する。総コレステロールが上がる病態としては、ほかに甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、閉塞性黄疸、妊娠なども一緒に覚えておくといい。
医学生医学生
逆に甲状腺機能亢進症や肝硬変、低栄養では下がるんでしたね。セットで整理しておきます。

まとめ

閉経では卵巣からのエストロゲンが急減し、ネガティブフィードバックが外れてFSH・LHが上昇します。エストロゲンには肝臓のLDL受容体を増やしてLDLコレステロールの処理を促す作用があるため、閉経後はLDLコレステロールと血清総コレステロールが上昇しやすく、50歳代以降の女性では同年代の男性を上回ることが知られています。一方、GFRは加齢で低下し、白血球数・アンモニア・ビリルビンは閉経とは直接関係しません。エストロゲン欠乏は脂質異常症や動脈硬化、骨粗鬆症、更年期症状など全身に影響するため、ホルモンの作用から検査値の変化を予測する考え方は、更年期以降の女性の健康管理を理解する土台になります。

解答・解説

正解はeです

閉経による体の変化

閉経とは卵巣機能が衰えて月経が永久に停止することで、日本人女性では平均50歳前後に起こる。閉経に伴い、卵巣から分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が急激に減少する。一方、下垂体からのゴナドトロピン(FSH:卵胞刺激ホルモン、LH:黄体形成ホルモン)はエストロゲンによるネガティブフィードバックが外れるため著明に上昇する。 エストロゲンは生殖機能以外にも全身で多くの作用をもつ。代表的なのが脂質代謝と骨代謝に対する作用である。 ・脂質代謝:エストロゲンは肝細胞のLDL受容体を増やし、血中のLDL(低比重リポ蛋白)コレステロールの取り込み・処理を促進する。またHDL(高比重リポ蛋白)コレステロールを上昇させる方向に働く。閉経でこの作用が失われると、LDLコレステロールが増加し、血清総コレステロールが上昇する。 ・骨代謝:エストロゲンは破骨細胞による骨吸収を抑えている。閉経後はこの抑制が外れて骨量が急速に減少し、骨粗鬆症が起こりやすくなる。

考え方

選択肢の中で、閉経という「女性ホルモンの低下」と直接結び付く検査値を探す。糸球体濾過量、白血球数、血中アンモニア、ビリルビンはいずれもエストロゲンの減少によって上昇する性質のものではない。閉経後に高値を示しやすいのは血清総コレステロールである。実際、日本人女性の血清コレステロール値は40歳代後半から急に上昇し、50歳代以降では同年代の男性を上回ることが知られている。

選択肢考察

  1. ×a.  糸球体濾過量

    糸球体濾過量(GFR:glomerular filtration rate)は、腎臓の糸球体で単位時間あたりに濾過される血漿量で、腎機能を最もよく表す指標である。理想的な測定物質はイヌリンで、そのクリアランスがGFRに等しい。臨床では血清クレアチニン値と年齢・性別から推算したeGFRが広く使われる。GFRは加齢とともに徐々に低下するため、閉経後の女性では若年女性より低くなるのが一般的であり、高値になることはない。GFRが著しく低下すると老廃物を十分に排泄できなくなり、腎不全・尿毒症に至る。

  2. ×b.  末梢血白血球数

    末梢血白血球数は、細菌感染などの炎症性疾患、白血病などの造血器腫瘍、ステロイド投与、喫煙、妊娠などで増加する。閉経そのものによって白血球数が増えることはない。

  3. ×c.  血中アンモニア

    アンモニアはアミノ酸の脱アミノ反応で生じるほか、その多くは腸管(腸内細菌による蛋白分解や小腸粘膜)で産生され、門脈を通って肝臓に運ばれる。肝臓では尿素回路によって毒性の低い尿素に変えられ、腎臓から排泄される。血中アンモニアが上昇するのは、肝硬変・劇症肝炎などによる肝での処理能力低下、門脈-大循環短絡(側副血行路)による肝を通らない門脈血の流入、先天性の尿素回路酵素欠損症、腸管内でのアンモニア産生増加(高蛋白食、消化管出血、便秘)などの場合である。閉経によって上昇することはない。

  4. ×d.  血清総ビリルビン

    ビリルビンは、主に老廃した赤血球のヘモグロビンに含まれるヘムが、脾臓などの網内系(細網内皮系)で分解されてできる黄色の色素である。生じた間接(非抱合型)ビリルビンはアルブミンと結合して肝臓に運ばれ、グルクロン酸抱合を受けて直接(抱合型)ビリルビンとなり胆汁中に排泄される。総ビリルビンが上昇するのは、溶血性貧血などの産生過剰、急性・慢性肝炎や肝硬変などの肝障害、胆石・腫瘍による閉塞性黄疸、Gilbert症候群・Crigler-Najjar症候群・Dubin-Johnson症候群・Rotor症候群などの体質性黄疸、新生児黄疸などである。閉経によって上昇することはない。

  5. ○e.  血清総コレステロール

    エストロゲンには肝細胞のLDL受容体の発現を高め、血中LDLコレステロールを肝に取り込んで処理する働きがある。閉経によりエストロゲンが急減するとこの作用が失われ、LDLコレステロールの血中からの除去が遅れて増加し、血清総コレステロールが上昇する。そのため閉経後の女性は若年女性に比べて総コレステロール値が高いことが多く、脂質異常症の頻度も増える。閉経後に女性の動脈硬化性疾患(冠動脈疾患など)が増加する背景の一つと考えられている。

閉経前後で変化する主な検査値

・上昇するもの:FSH、LH(特にFSHの上昇が顕著で、閉経の指標となる)、LDLコレステロール・総コレステロール、骨吸収マーカー。 ・低下するもの:エストラジオール、プロゲステロン、骨密度。

エストロゲン欠乏がもたらす主な変化

・更年期障害:ほてり(ホットフラッシュ)、発汗、動悸、不眠、抑うつなど。 ・脂質異常症と動脈硬化の進行:LDLコレステロールの上昇。閉経前の女性は同年代の男性より冠動脈疾患が少ないが、閉経後はその差が縮まる。 ・骨粗鬆症:骨吸収の亢進により骨量が減少し、椎体骨折や大腿骨近位部骨折のリスクが高まる。 ・萎縮性腟炎・泌尿生殖器の萎縮による症状(性交痛、頻尿など)。

血清総コレステロールが変動する主な病態

・上昇:家族性高コレステロール血症、家族性複合型高脂血症、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、閉塞性黄疸、糖尿病、肥満、Cushing症候群、閉経、妊娠など。 ・低下:甲状腺機能亢進症、肝硬変などの重症肝障害、低栄養・悪液質、吸収不良症候群、無βリポ蛋白血症・低βリポ蛋白血症、Tangier病、LCAT欠損症、Addison病など。

コレステロールの基礎

コレステロールは細胞膜の構成成分であり、ステロイドホルモン、胆汁酸、ビタミンDの原料となる。主に肝臓で合成され、VLDL(超低比重リポ蛋白)として分泌された後、代謝されてLDLとなり末梢組織に運ばれる。末梢の余剰コレステロールはHDLによって肝臓へ戻される(コレステロール逆転送)。血清コレステロール値は、食事からの吸収、体内での合成、胆汁酸などとしての排泄のバランスで決まる。

POINT

・閉経によりエストロゲンが急減し、FSH・LHは上昇する。 ・エストロゲンには肝LDL受容体を増やしLDLコレステロールを下げる作用があるため、閉経後は総コレステロール・LDLコレステロールが上昇する。 ・閉経後は骨吸収が亢進し骨粗鬆症になりやすい。 ・GFRは加齢で低下し、白血球数・アンモニア・ビリルビンは閉経とは無関係である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。