StudyMed医師国家試験

54歳のほてりと動悸―「卵巣が黙ると下垂体が叫ぶ」更年期のホルモン動態

第115回医師国家試験 B問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第115回 B問題 第25問

繰り返す突然の発汗,日中の疲労感と動悸を主訴にした54歳の女性において,上昇していると考えられるホルモンはどれか。

  1. a.GH
  2. b.FSH
  3. c.オキシトシン
  4. d.プロラクチン
  5. e.プロゲステロン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は中年女性の発汗・動悸・疲労感から病態を推定し、そのときにどのホルモンが上昇しているかを考える問題だ。ポイントは年齢と症状の組み合わせ、そしてホルモン同士のフィードバックの関係。まず、この年齢と症状から何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
突然の発汗と動悸なので、最初は甲状腺機能亢進症や褐色細胞腫が浮かびました。
ドクタードクター
その発想は大事だよ。実臨床ではそうした疾患をきちんと除外する必要がある。ただ、日本人女性の平均閉経年齢は約50歳で、閉経をはさむ前後約10年が更年期だ。54歳はまさにその時期にあたる。突然起こるほてり・のぼせ・発汗・動悸はホットフラッシュと呼ばれる血管運動神経症状で、更年期障害の代表的な症状なんだ。
医学生医学生
疲労感も更年期の症状に入るんですか。
ドクタードクター
入るよ。倦怠感、いらいら、不眠、抑うつ気分といった精神神経症状もよくみられる。不定愁訴として多彩に現れるのが特徴で、心理的・社会的な要因も影響する。では、更年期に体の中で何が起きているかを考えよう。
医学生医学生
卵巣の機能が落ちて、エストロゲンが減るんですよね。でも、この問題は「上昇しているホルモン」を聞いています。
ドクタードクター
そこが問題の仕掛けだ。エストロゲンは視床下部と下垂体に負のフィードバックをかけている。卵胞が枯渇してエストロゲンが減ると、このブレーキが外れて、下垂体前葉からゴナドトロピンが盛んに分泌されるようになるんだ。
医学生医学生
生理学の講義で習った負のフィードバックですね。つまりFSHとLHが上がるから、答えはFSHでしょうか。
ドクタードクター
正解。「低エストロゲン・高ゴナドトロピン」が更年期の内分泌学的な特徴だ。中でもFSHはLHより早く、大きく上昇する。卵胞から分泌されるインヒビンがFSHを選択的に抑えているので、卵胞が減ってインヒビンが低下するとFSHが真っ先に上がるんだ。だからFSH高値とエストラジオール低値が閉経の目安として使われる。
医学生医学生
プロゲステロンも女性ホルモンなので、エストロゲンが下がる代わりに上がる、ということはないですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。プロゲステロンは排卵後にできる黄体から分泌されるホルモンだ。更年期には排卵が起こらなくなって黄体ができないから、むしろ低下する。卵巣由来のホルモンは基本的に下がる、と押さえておこう。
医学生医学生
プロラクチンはどうでしょう。産婦人科の講義で、高プロラクチン血症が無月経の原因になると習ったので、月経が止まる時期と結びつけてしまいそうです。
ドクタードクター
混同しやすいところだね。高プロラクチン血症は性成熟期の女性で乳汁漏出や無月経・排卵障害を起こすけれど、それは月経を止める原因としての話だ。エストロゲンはプロラクチン分泌を促す方向に働くので、閉経でエストロゲンが下がってもプロラクチンが上がることはない。
医学生医学生
GHは加齢とともにむしろ下がっていくんでしたよね。オキシトシンは分娩と射乳のホルモンなので、更年期とは関係なさそうです。
ドクタードクター
その通り。GHはIGF-Iを介して成長や代謝を調節し、分泌は年齢とともに低下する傾向がある。過剰なら先端巨大症で、今回の症状とは合わない。オキシトシンは下垂体後葉から放出され、分娩時の子宮収縮や射乳を担うから、卵巣機能の低下とは関係がないんだ。
医学生医学生
卵巣が働かなくなって、下垂体が一生懸命刺激しようとしている状態だと考えればいいんですね。
ドクタードクター
いいイメージだ。性腺そのものの機能低下でゴナドトロピンが上がる、という構図は早発卵巣不全やTurner症候群でも同じだから応用が利くよ。治療についても触れておこう。中心はエストロゲンを補うホルモン補充療法だけど、子宮のある女性ではエストロゲン単独だと子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクがあるので、黄体ホルモンを併用する。乳癌や子宮体癌、血栓症の既往がある人には使えない。
医学生医学生
ホルモン補充療法が使えない人には、どんな治療があるんですか。
ドクタードクター
当帰芍薬散や加味逍遙散、桂枝茯苓丸といった漢方薬、SSRIやSNRIなどの向精神薬、心理療法が選択肢になる。それから長い目で見ると、低エストロゲン状態が続くことで骨粗鬆症や脂質異常症、萎縮性腟炎のリスクが高まる。更年期の診療は、今の症状を和らげるだけでなく、その後の健康管理への入り口でもあるんだ。

まとめ

閉経前後の女性に起こる突然の発汗・ほてり・動悸はホットフラッシュと呼ばれ、更年期障害の代表的な症状です。更年期には卵胞の枯渇によりエストロゲンとインヒビンが低下し、視床下部・下垂体への負のフィードバックが外れるため、FSHとLHが上昇します。特にFSHはLHより早く顕著に上昇し、エストラジオール低値とともに閉経の指標となります。排卵がなくなるためプロゲステロンは低下し、プロラクチン・GH・オキシトシンは更年期に上昇するホルモンではありません。診断では甲状腺機能亢進症など症状の似た疾患を除外し、治療ではホルモン補充療法を中心に、骨粗鬆症や脂質異常症など閉経後の長期的リスクにも目を向けることが大切です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

54歳の女性で、繰り返す突然の発汗、日中の疲労感、動悸を訴えている。日本人女性の平均閉経年齢は約50歳であり、54歳は閉経前後の約10年間にあたる「更年期」に含まれる。突然起こる発汗・ほてり・のぼせ・動悸はホットフラッシュ(血管運動神経症状)と呼ばれ、更年期障害の代表的症状である。疲労感も更年期にしばしばみられる不定愁訴の一つである。

診断の考え方

以上から更年期障害が最も考えられる。ただし発汗・動悸・疲労感は甲状腺機能亢進症や褐色細胞腫、うつ病などでも生じるため、実臨床ではこれらを除外したうえで診断する。

ホルモン動態

更年期には卵巣の卵胞が枯渇して卵巣機能が低下し、卵巣から分泌されるエストロゲン(主にエストラジオール)が減少する。エストロゲンは視床下部・下垂体に対して負のフィードバック(ネガティブフィードバック)をかけているため、その低下によってフィードバックが外れ、下垂体前葉からのゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)であるFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)の分泌が増加する。特にFSHの上昇が早期から顕著であり、閉経の指標として用いられる。つまり「低エストロゲン・高ゴナドトロピン」が本病態の内分泌学的特徴であり、設問ではこれに該当するホルモンを選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  GH

    GH(成長ホルモン)は下垂体前葉から分泌され、主に肝臓でのIGF-I(インスリン様成長因子-I)産生を介して成長や代謝を調節する。分泌は加齢とともにむしろ低下していく傾向があり、閉経に伴うエストロゲン低下でGHが上昇するという関係はない。GHが過剰になる疾患は先端巨大症であり、本症例の症状とは合致しない。

  2. ○b.  FSH

    更年期には卵巣機能が低下してエストロゲン(およびインヒビン)の分泌が減少する。これにより視床下部・下垂体への負のフィードバックが弱まり、下垂体前葉からのFSH分泌が増加する。インヒビンはFSHを選択的に抑制するホルモンであるため、その低下を反映してFSHはLHよりも早く大きく上昇する。閉経の目安としてFSH高値(おおむね40 mIU/mL以上)とエストラジオール低値が用いられる。

  3. ×c.  オキシトシン

    オキシトシンは視床下部で産生され下垂体後葉から放出されるホルモンで、分娩時の子宮収縮や、授乳時の乳腺の筋上皮細胞収縮による射乳(乳汁の排出)を担う。閉経に伴う卵巣機能低下とは関係がなく、更年期障害で上昇するホルモンではない。

  4. ×d.  プロラクチン

    プロラクチンは下垂体前葉から分泌され、乳汁の産生を促す。過剰分泌(高プロラクチン血症)は性成熟期の女性で乳汁漏出や無月経・排卵障害の原因となる。エストロゲンはプロラクチン分泌を促す方向に働くため、閉経後のエストロゲン低下でプロラクチンが上昇することはなく、更年期障害に特徴的な変化ではない。

  5. ×e.  プロゲステロン

    プロゲステロン(黄体ホルモン)は排卵後に形成される黄体から分泌され、子宮内膜を分泌期に変化させて妊娠の成立・維持に備える。更年期には排卵が起こらなくなり黄体が形成されないため、プロゲステロンはむしろ低下する。

更年期と更年期障害

閉経は卵巣機能の消失による永久的な月経の停止で、12か月以上無月経が続いた時点で1年前を振り返って閉経と判定する。日本人の平均閉経年齢は約50歳である。閉経をはさんだ前後5年ずつ、計約10年間を更年期という。更年期に現れる多彩な症状のうち、器質的な疾患によらないものを更年期症状、日常生活に支障をきたすほど重いものを更年期障害と呼ぶ。

主な症状

・血管運動神経症状: ほてり、のぼせ、発汗(ホットフラッシュ)、動悸 ・精神神経症状: いらいら、抑うつ気分、不安、不眠、倦怠感、集中力低下 ・その他: 肩こり、頭痛、めまい、関節痛など 症状には低エストロゲンという身体的要因に加え、心理的・社会的要因(家庭や職場の環境変化など)も影響する。

内分泌所見

エストラジオール低値、FSH・LH高値(FSHの上昇がより顕著)。インヒビンの低下もFSH上昇に寄与する。

治療

・ホルモン補充療法(HRT): エストロゲンを補充する。子宮のある女性では子宮内膜増殖症・子宮体癌の予防のため黄体ホルモンを併用する。乳癌・子宮体癌、血栓症の既往などは禁忌となる。 ・漢方療法(当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸など) ・向精神薬(SSRI・SNRIなど)、心理療法

閉経後の長期的変化

低エストロゲン状態が続くと骨粗鬆症、脂質異常症(LDLコレステロール上昇)、萎縮性腟炎(閉経関連尿路生殖器症候群)などのリスクが高まる。

POINT

・更年期障害の内分泌所見は「低エストロゲン・高ゴナドトロピン(FSH・LH高値)」。 ・FSHの上昇はLHより早く顕著で、閉経の指標となる。 ・ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ・発汗・動悸)は更年期障害の代表的症状。 ・排卵がなくなるためプロゲステロンは低下する。 ・甲状腺機能亢進症など症状の似た疾患の除外を忘れない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。