歯ぐきから血が出る理由はコラーゲンにあり―「働き」から導く栄養素欠乏症の対応表
第105回医師国家試験 G問題 第8問
国試問題にチャレンジ
栄養素とその欠乏によって起こる病態との組合せで正しいのはどれか。
- a.マグネシウム ―― 味覚障害
- b.ビタミンA ―― ペラグラ
- c.ビタミンC ―― 出血傾向
- d.カルシウム ―― 貧血
- e.亜鉛 ―― 夜盲
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ビタミンCはコラーゲンの水酸化に必要な補因子であり、欠乏すると血管壁や結合組織が脆くなって歯肉出血や皮下出血などの出血傾向を示す壊血病となります。ペラグラはナイアシン欠乏、夜盲はビタミンA欠乏、味覚障害は亜鉛欠乏、貧血は鉄・ビタミンB12・葉酸欠乏が代表で、カルシウム欠乏は骨量減少やテタニーに関わります。出血傾向をきたすビタミンにはCとKがあり、Cは血管壁、Kは凝固因子の問題で、ビタミンK欠乏ではPTが延長する点が鑑別に役立ちます。栄養素の「働き」から欠乏症を導く考え方を身につけておけば、組合せ問題の入れ替えに惑わされず、高齢者や長期静脈栄養の患者で栄養障害を見抜く臨床の力にもつながります。
解答・解説
正解はcです
栄養素と、その欠乏で起こる代表的な病態の対応を問う一般問題である。 この種の問題は、各栄養素が体内でどんな働きをしているかを思い浮かべると、欠乏時の症状が自然に導ける。 ・ビタミンC:コラーゲン合成に不可欠 → 欠乏すると血管壁が脆くなり出血する(壊血病) ・ビタミンA:網膜の視物質ロドプシンの材料 → 欠乏すると暗い所で見えにくくなる(夜盲) ・ナイアシン:エネルギー代謝の補酵素 NAD・NADP の材料 → 欠乏するとペラグラ ・亜鉛:多くの酵素の構成成分で、味蕾など入れ替わりの速い細胞の維持に必要 → 欠乏すると味覚障害 ・鉄:ヘモグロビンの構成成分 → 欠乏すると貧血 ・カルシウム:骨の主成分 → 欠乏すると骨量が減る 選択肢のうち、栄養素と病態の対応が正しいのはビタミンCと出血傾向の組合せのみである。誤りの選択肢は、ペラグラ・夜盲・味覚障害・貧血という病態を、本来の原因とは別の栄養素に入れ替えて作られている。それぞれの病態の本当の原因を答えられるようにしておくとよい。
選択肢考察
- ×a. マグネシウム ―― 味覚障害
誤りである。味覚障害の代表的な原因は亜鉛欠乏である(鉄欠乏、薬剤、全身疾患なども原因になる)。マグネシウムは多くの酵素反応や神経・筋の興奮性の調節に関わるミネラルで、欠乏すると筋のけいれん・テタニー、振戦、不整脈(QT延長、torsades de pointes など)がみられる。さらに低マグネシウム血症は副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌と作用を妨げるため低カルシウム血症を、腎からのカリウム喪失を促すため低カリウム血症を伴いやすい。長期的には骨の健康にも影響する。一方、サプリメントや下剤(酸化マグネシウム)などで過剰に摂ると下痢を起こし、腎機能が低下している人では高マグネシウム血症となることがある。
- ×b. ビタミンA ―― ペラグラ
誤りである。ペラグラはナイアシン(ニコチン酸、ビタミンB3)の欠乏症で、皮膚炎(日光の当たる部位の対称性の皮疹)、下痢、認知症(精神神経症状)の「3つのD」が特徴である。ナイアシンは必須アミノ酸のトリプトファンからも体内で合成されるため、トウモロコシを主食とする食生活、アルコール依存症、カルチノイド症候群(トリプトファンがセロトニン合成に消費される)、Hartnup病(トリプトファンの吸収障害)などで起こる。ビタミンAの欠乏では、夜盲、眼球乾燥症(角膜・結膜の乾燥、Bitot斑、進行すると角膜軟化症)、毛孔性角化症などの皮膚・粘膜の角化、感染への抵抗力低下がみられる。なおビタミンAは脂溶性で体内に蓄積するため、過剰症(頭蓋内圧亢進による頭痛・嘔吐、骨・関節の痛み、肝障害、妊娠初期の催奇形性)にも注意が必要である。
- ○c. ビタミンC ―― 出血傾向
正しい組合せである。ビタミンC(アスコルビン酸)は、コラーゲン分子のプロリン・リシン残基を水酸化する酵素の補因子であり、安定した3重らせん構造のコラーゲンを作るのに欠かせない。欠乏するとコラーゲンが不安定となり、血管壁や結合組織が脆くなる。その結果、歯肉の腫脹・出血、皮下出血や毛包周囲の点状出血、関節内・骨膜下出血などの出血傾向が現れる。これが壊血病であり、ほかに創傷治癒の遅延、倦怠感、易感染性などもみられる。ビタミンCは鉄の吸収を助けるため、欠乏に出血が加わって貧血を伴うこともある。乳児ではMöller-Barlow病として骨膜下出血や骨の変化がみられる。なお、凝固因子の不足による出血傾向を起こすビタミンKの欠乏とは、出血の機序が異なる(ビタミンCは血管壁、ビタミンKは凝固系)。
- ×d. カルシウム ―― 貧血
誤りである。貧血の原因となる代表的な栄養素欠乏は、鉄欠乏(小球性貧血)と、ビタミンB12・葉酸の欠乏(巨赤芽球性貧血)である。カルシウムは骨や歯の主成分であり、筋収縮、神経の興奮伝達、血液凝固にも関わる。慢性的な摂取不足は骨量の減少を招き、骨粗鬆症の危険因子となる。血中カルシウム濃度が低下した状態(低カルシウム血症)では、テタニー、しびれ、Chvostek徴候・Trousseau徴候などがみられる。逆に、サプリメントなどによる過剰摂取では高カルシウム血症や尿路結石、ミルク・アルカリ症候群による腎障害を起こしうる。
- ×e. 亜鉛 ―― 夜盲
誤りである。夜盲はビタミンA欠乏の代表的症状である。ビタミンAは網膜の杆体細胞にある視物質ロドプシンの構成成分(レチナール)となるため、欠乏すると暗所での視力が低下する。亜鉛の欠乏では、味覚障害(嗅覚障害を伴うこともある)、口や肛門の周囲・四肢末端の皮膚炎、脱毛、創傷治癒の遅延、小児の成長障害、免疫能の低下、性腺機能低下などがみられる。先天的な亜鉛吸収障害は腸性肢端皮膚炎と呼ばれる。なお、亜鉛はビタミンAの輸送に関わるタンパク質の合成にも必要であり、重い亜鉛欠乏がビタミンAの利用を妨げることはあるが、夜盲を亜鉛欠乏の代表的病態とする組合せは正しくない。
主な栄養素と欠乏症の整理
〈脂溶性ビタミン〉 ・ビタミンA:夜盲、眼球乾燥症、毛孔性角化症 ・ビタミンD:くる病(小児)、骨軟化症(成人) ・ビタミンE:溶血性貧血(未熟児)、神経障害(脊髄小脳失調、末梢神経障害) ・ビタミンK:凝固因子(II・VII・IX・X)の低下による出血傾向、新生児メレナ(新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症) 〈水溶性ビタミン〉 ・ビタミンB1(チアミン):脚気(末梢神経障害、心不全)、Wernicke脳症 ・ビタミンB2(リボフラビン):口角炎、口唇炎、舌炎、脂漏性皮膚炎 ・ナイアシン:ペラグラ(皮膚炎、下痢、認知症) ・ビタミンB6:皮膚炎、口内炎、末梢神経障害、小球性貧血、けいれん ・ビタミンB12:巨赤芽球性貧血、亜急性連合性脊髄変性症 ・葉酸:巨赤芽球性貧血、胎児の神経管閉鎖障害 ・ビオチン:皮膚炎、脱毛、神経症状 ・パントテン酸:食欲不振、成長障害、精神神経症状(通常の食事では欠乏はまれ) ・ビタミンC:壊血病(出血傾向、歯肉出血、創傷治癒遅延) 〈ミネラル〉 ・鉄:鉄欠乏性貧血、スプーン状爪、舌炎・口角炎、異食症 ・亜鉛:味覚障害、皮膚炎、脱毛、成長障害、創傷治癒遅延 ・銅:貧血、好中球減少、神経障害(先天性の銅吸収障害がMenkes病) ・セレン:心筋症(克山病)、筋障害 ・ヨウ素:甲状腺腫、甲状腺機能低下症 ・カルシウム:骨粗鬆症、低カルシウム血症によるテタニー ・マグネシウム:筋けいれん、不整脈、低カルシウム血症・低カリウム血症の合併
「出血傾向」をきたす2つのビタミン
・ビタミンC欠乏:コラーゲン合成障害 → 血管壁が脆くなる。凝固検査(PT・APTT)は正常。 ・ビタミンK欠乏:肝臓での凝固因子の活性化障害 → PT延長(APTTも延長しうる)。
長期の中心静脈栄養で注意する欠乏
微量元素(亜鉛、銅、セレンなど)やビタミン(特にビタミンB1)の補給が不十分だと欠乏症を起こす。ビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシスやWernicke脳症は重篤である。
POINT
・ビタミンC欠乏 → 壊血病(コラーゲン合成障害による出血傾向、歯肉出血、創傷治癒遅延)。 ・ペラグラはナイアシン欠乏(皮膚炎・下痢・認知症の3D)。 ・夜盲はビタミンA欠乏。 ・味覚障害は亜鉛欠乏。 ・貧血は鉄、ビタミンB12、葉酸の欠乏が代表。カルシウム欠乏は骨粗鬆症に関連する。 ・出血傾向をきたすビタミンはCとK(機序は血管壁か凝固系かで異なる)。
