テレビの音が大きい5歳児―平坦なティンパノグラムが語る滲出性中耳炎
第105回医師国家試験 G問題 第48問
国試問題にチャレンジ
5歳の女児。耳が聴こえにくいことを心配した母親に伴われて来院した。3か月前に感冒に罹患した。数週前からテレビの音を大きくし,呼びかけに応答しないことがしばしばあった。鼓膜写真を別に示す。 この患者のインピーダンスオージオメトリの型はどれか。

- a.
- b.
- c.
- d.
- e.
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
幼児が感冒の後に痛みや発熱なく難聴を来し、鼓膜の奥に黄色〜琥珀色の液体が透見される場合は、滲出性中耳炎を考えます。小児は耳管が短く太く水平で、アデノイドも大きいため耳管機能が障害されやすく、鼓室が陰圧となって滲出液が貯留します。ティンパノグラムはピーク位置が鼓室内圧、ピークの高さが鼓膜・耳小骨の可動性を反映し、鼓室が液体で満たされると鼓膜が動かずピークのない平坦なB型となります(初期・回復期にはC型のこともあります)。A型は正常、As型は耳硬化症など、Ad型は耳小骨連鎖離断、C型は耳管狭窄症と対応づけて整理しておくと、聴覚検査の解釈全般に役立ちます。小児では経過観察を基本としつつ、遷延例では鼓膜切開や換気チューブ留置を検討し、成人の片側例では上咽頭癌の除外が欠かせません。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・5歳の女児。3か月前に感冒(上気道炎)に罹患している。 ・数週前からテレビの音量を上げる、呼びかけに応じないなど、難聴を思わせる行動がみられる。耳痛や発熱の訴えはない。 ・鼓膜写真では、鼓膜は黄色〜琥珀色に透見され、鼓膜の奥(鼓室内)に液体が貯留している様子がうかがえる。発赤や膨隆といった急性炎症の所見は目立たない。
診断へのプロセス
幼児が上気道炎の後に、痛みや発熱を伴わず、徐々に「聞こえが悪い」状態になり、鼓膜の奥に滲出液が透見される。これは滲出性中耳炎の典型像である。幼児の耳管は成人に比べて短く、太く、水平に近いうえ、アデノイド(咽頭扁桃)の増殖や上気道炎の影響で耳管機能が障害されやすい。耳管から鼓室へ空気が補給されないと鼓室内は陰圧となり、粘膜から滲出液がしみ出して鼓室にたまる。子どもは難聴を自覚して訴えないことが多く、本例のように家族が行動の変化から気付くことが多い。
設問の考え方
インピーダンスオージオメトリ(ティンパノメトリ)は、外耳道の圧を変化させながら鼓膜の動きやすさ(コンプライアンス)を測定し、その変化を曲線(ティンパノグラム)として表す検査である。鼓膜の両側の圧が等しくなったとき鼓膜は最も動きやすくなるため、ピークの位置は鼓室内圧を、ピークの高さは鼓膜・耳小骨の可動性を反映する。 滲出性中耳炎では鼓室が液体で満たされるため、外耳道圧をどう変えても鼓膜はほとんど動かず、明らかなピークを持たない平坦な曲線となる。これがB型であり、選択肢eの波形が該当する。 なお、選択肢の波形の横軸(外耳道圧)はmmH2Oで表示されているが、現在はdaPa(デカパスカル)で表すのが一般的である(1 daPa ≒ 1.02 mmH2Oで、ほぼ同じ値となる)。
選択肢考察
- ×a.
外耳道圧0付近(大気圧)に鋭いピークがあり、ピークの高さ(コンプライアンス)も約0.5と正常範囲にある。A型であり、鼓室内圧が大気圧と等しく、鼓膜・耳小骨の可動性も正常であることを示す。正常耳のほか、耳硬化症などでも中耳の圧が正常であればピーク位置は0付近となる。鼓室に液体が貯留している本例には当てはまらない。
- ×b.
ピークは外耳道圧0付近にあるが、コンプライアンスが非常に大きく、グラフの上限を振り切っている。Ad型であり、鼓膜や耳小骨の可動性が異常に大きいことを示す。耳小骨連鎖離断(外傷などでキヌタ骨・アブミ骨の連結が外れる)や、菲薄化・萎縮した鼓膜でみられる。滲出液で鼓膜の動きが制限される本例とは逆の所見である。
- ×c.
正常な高さのピークが陽圧側(+100 mmH2O付近)にずれている。鼓室内圧が大気圧より高いことを示す波形である。急性中耳炎の初期に鼓室内で炎症性産物が生じたときや、泣いた直後・鼻をかんだ直後などに一時的にみられることがあるが、日常診療で目にする機会は少ない。滲出性中耳炎で典型的にみられる型ではない。
- ×d.
ピークが陰圧側(-200 mmH2O付近)にずれている。C型であり、鼓室内が陰圧になっていることを示す。耳管の換気機能が低下した耳管狭窄症(耳管機能不全)でみられ、滲出性中耳炎の発症初期や回復期など、滲出液が少ない段階でもこの型を示すことがある。しかし本例は数週間続く難聴があり、鼓膜の奥に滲出液が明らかに透見されるため、鼓膜の動きがほとんどなくなったB型がより合致する。
- ○e.
外耳道圧を変えてもコンプライアンスはほとんど変化せず、ピークのない平坦な曲線である。B型に相当する。鼓室が滲出液で満たされていると、鼓膜の両側の圧をそろえても鼓膜は動けないため、このような波形になる。滲出性中耳炎の代表的な所見であり、ほかに鼓膜の癒着(癒着性中耳炎)や鼓室内の腫瘤などでもみられる。なお、鼓膜穿孔や耳垢塞栓でも平坦な曲線となるが、その場合は外耳道の容積(等価容積)の値で区別できる。
ティンパノグラムの分類(Jergerの分類)
・A型:ピークが0 daPa付近、高さ正常。正常耳。 ・As型:ピークは0 daPa付近だがピークが低い。鼓膜・耳小骨の可動性低下(耳硬化症、鼓膜の肥厚・瘢痕など)。 ・Ad型:ピークは0 daPa付近だがピークが非常に高い。耳小骨連鎖離断、鼓膜の菲薄化・萎縮。 ・B型:ピークがなく平坦。滲出性中耳炎、癒着性中耳炎。鼓膜穿孔や耳垢塞栓でも平坦となる(外耳道容積の値で区別)。 ・C型:ピークが陰圧側(おおむね-100 daPaより陰圧)にずれる。耳管狭窄症、滲出性中耳炎の初期・回復期。
滲出性中耳炎の概要
・定義:鼓膜に穿孔がなく、鼓室に液体が貯留し、耳痛や発熱などの急性炎症症状を伴わない中耳炎。 ・好発:幼児期(特に就学前)と高齢者に多い。小児の難聴の原因として頻度が高い。 ・原因:耳管機能障害(上気道炎、アデノイド増殖症、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、口蓋裂など)や急性中耳炎後の滲出液の残存。成人・高齢者で片側性に生じた場合は、上咽頭癌による耳管閉塞を除外する必要がある。 ・症状:軽度から中等度の伝音難聴、耳閉感。小児では自覚症状が乏しく、テレビの音を大きくする、呼びかけに反応しないなどで気付かれる。 ・鼓膜所見:黄色〜琥珀色の透見、液面線や気泡の透見、鼓膜の陥凹(ツチ骨柄が短縮・水平化して見える)。 ・検査:純音聴力検査で気導閾値のみ上昇(気骨導差あり)、ティンパノメトリでB型またはC型。 ・治療:小児では自然治癒が多いため、まず3か月程度の経過観察が基本である。鼻副鼻腔炎などの周辺器官の病変に対する治療(薬物療法、鼻処置)を並行する。遷延する場合や難聴が明らかな場合は鼓膜切開、さらに再発・遷延例では鼓膜換気チューブ留置術を行う。アデノイド増殖症を伴い再発を繰り返す場合はアデノイド切除術も考慮する。 ・合併症:長期化すると癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎に進展することがあり、言語発達への影響にも注意が必要である。
小児で耳管機能障害が起こりやすい理由
小児の耳管は成人に比べ短く、太く、水平に近い走行をとる。また、上咽頭のアデノイドが大きく、耳管咽頭口を圧迫しやすい。
POINT
・幼児、感冒後、痛みのない難聴、鼓膜の奥の黄色〜琥珀色の液体 → 滲出性中耳炎。 ・滲出性中耳炎のティンパノグラムはB型(平坦でピークなし)。初期・回復期にはC型のこともある。 ・A型:正常、As型:耳硬化症など、Ad型:耳小骨連鎖離断、C型:耳管狭窄症。 ・ティンパノグラムのピーク位置は鼓室内圧、高さは鼓膜・耳小骨の可動性を反映する。 ・成人の片側性滲出性中耳炎では上咽頭癌を除外する。
