痛みが引いてからが本番―ステロイド内服中の圧迫骨折で「次の骨折」を防ぐ一手
第105回医師国家試験 G問題 第49問
国試問題にチャレンジ
60歳の女性。今朝,突然激しい腰背部痛が出現し,歩けなくなったため搬入された。1年前から側頭動脈炎の治療のためプレドニゾロンを内服している。胸腰椎エックス線写真で腰椎圧迫骨折を認める。 急性疼痛が消失した後の対応として適切なのはどれか。
- a.牽引療法を開始する。
- b.免疫抑制薬を投与する。
- c.プレドニゾロンを増量する。
- d.ビスホスホネートを投与する。
- e.非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉を投与する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
長期にステロイドを内服している患者に外傷なく生じた椎体圧迫骨折は、ステロイド性骨粗鬆症による脆弱性骨折と考えます。ステロイドは骨形成を強く抑えて骨質も劣化させるため、骨密度が比較的保たれていても骨折しやすく、投与開始後早期から骨量が減少します。急性期は安静・鎮痛・コルセットで対応し、疼痛消失後は再骨折予防のためビスホスホネート(アレンドロネート、リセドロネート)を第一選択として開始します。牽引や長期臥床、ステロイド増量は骨をさらに弱め、NSAIDsや免疫抑制薬には骨折予防効果がありません。原疾患のためステロイドを中止できない場面こそ骨を守る治療を並行するという考え方は、ステロイドを扱うあらゆる診療科で欠かせない視点です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・60歳の女性(閉経後と考えられる年齢)。 ・今朝、特に大きな外傷なく突然激しい腰背部痛が出現し、歩行不能となった。 ・1年前から側頭動脈炎(現在は巨細胞性動脈炎と呼ばれる)の治療でプレドニゾロン(副腎皮質ステロイド)を長期内服している。 ・胸腰椎エックス線写真で腰椎圧迫骨折を認める。
診断へのプロセス
強い外力がないのに椎体が潰れて圧迫骨折を起こしているため、骨が弱くなって生じた脆弱性骨折と考えられる。閉経後の女性であることに加え、1年にわたるステロイドの内服歴があることから、ステロイド性骨粗鬆症(グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症)が強く関与した椎体骨折と判断できる。 ステロイドは骨芽細胞の分化・機能を抑えて骨形成を低下させ、骨細胞のアポトーシスを促し、さらに腸管からのカルシウム吸収低下や性ホルモン分泌の抑制などを介して骨吸収も高める。このため骨量が減るだけでなく骨質も劣化し、骨密度が比較的保たれていても骨折しやすいのが特徴である。骨量減少は投与開始後の数か月以内から急速に進み、特に椎体のような海綿骨の多い部位で骨折が起こりやすい。
設問の考え方
問われているのは「急性疼痛が消失した後」、すなわち急性期を過ぎた後の対応である。急性期には安静、鎮痛薬、コルセットなどで痛みを和らげるが、痛みが落ち着いた後に最も重要なのは、次の骨折を防ぐことである。いったん椎体骨折を起こすと、その後の新たな椎体骨折の危険性は大きく高まる(骨折の連鎖)。一方、巨細胞性動脈炎は失明などの重篤な合併症を防ぐため、ステロイドをすぐには中止できない。したがって、ステロイドを必要最小量で継続しつつ、骨粗鬆症に対して骨吸収抑制薬であるビスホスホネートを投与するのが適切である。
選択肢考察
- ×a. 牽引療法を開始する。
牽引療法は、骨折のずれの整復や整復位の保持、脱臼の整復、頸椎・腰椎の疾患での除圧などを目的として行われる。骨粗鬆症性の椎体圧迫骨折の多くは安定型であり、保存療法は安静・鎮痛とコルセットなどの外固定が中心で、牽引は通常行わない。骨が脆弱な状態で牽引を行うと骨や周囲組織を損傷するおそれがあるうえ、長期の臥床は筋力低下や骨量減少をさらに進め、高齢者では廃用症候群につながる。疼痛消失後は、むしろ早期の離床・歩行を促すべきである。
- ×b. 免疫抑制薬を投与する。
巨細胞性動脈炎は自己免疫的機序による血管炎であり、ステロイドの減量が難しい場合には、ステロイドの使用量を減らす目的で免疫抑制薬(メトトレキサートなど)や生物学的製剤(IL-6受容体に対する抗体であるトシリズマブ)を併用することがある。しかし本例で問われているのは、圧迫骨折を起こした後の対応であり、免疫抑制薬そのものには骨量を増やしたり骨折を予防したりする作用はない。血管炎の活動性が高いという情報もなく、ここで優先すべき対応ではない。
- ×c. プレドニゾロンを増量する。
ステロイドの骨への悪影響は投与量が多いほど強く、増量すれば骨量減少と骨質劣化がさらに進み、新たな骨折の危険性が高まる。また、今回の腰背部痛は血管炎の再燃ではなく圧迫骨折によるものであり、ステロイドを増やす理由はない。ステロイドは原疾患の活動性をみながら可能な限り必要最小量にとどめるべきである。
- ○d. ビスホスホネートを投与する。
ビスホスホネートは骨の表面(ハイドロキシアパタイト)に強く結合し、骨を吸収する破骨細胞に取り込まれてその働きを抑える骨吸収抑制薬である。アレンドロネートやリセドロネートは骨密度を増やし、椎体骨折を減らす効果が示されており、ステロイド性骨粗鬆症の治療・予防の第一選択薬とされる。本例は既存の椎体骨折があり、プレドニゾロンを長期に内服し、閉経後の年齢でもあることから、ステロイド性骨粗鬆症の管理指針に照らしても薬物治療の対象となる。急性期を過ぎたら速やかに開始し、次の骨折を予防する。なお、服用は起床時空腹時に多めの水で行い、服用後30分は横にならず飲食を避ける(食道障害の予防と吸収の確保のため)。
- ×e. 非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉を投与する。
NSAIDsは圧迫骨折直後の急性疼痛に対する鎮痛薬としては用いられるが、設問は急性疼痛が消失した後の対応を問うており、継続投与の必要性は乏しい。NSAIDsには骨折の再発予防効果はない。さらに、ステロイドとの併用は消化性潰瘍の危険性を高め、高齢者では腎機能障害も起こしやすいため、漫然と投与すべきではない。
ステロイド性骨粗鬆症(グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症)
続発性骨粗鬆症の中で最も頻度が高い。 ・機序:骨芽細胞の分化抑制・アポトーシス促進による骨形成低下が中心で、骨細胞のアポトーシス、骨吸収の亢進、腸管でのカルシウム吸収低下と腎でのカルシウム排泄増加、性腺機能の抑制なども関与する。 ・特徴:骨量減少は投与開始後3〜6か月で急速に進む。骨質の劣化を伴うため、原発性骨粗鬆症より高い骨密度でも骨折が起こりやすい。椎体骨折が多い。骨折リスクは投与量に依存し、プレドニゾロン換算で少量(2.5〜7.5 mg/日程度)でも上昇する。 ・日本の管理と治療のガイドライン(日本骨代謝学会、2014年改訂):3か月以上ステロイドを使用中または使用予定の患者を対象に、既存骨折(あれば7点)、年齢(65歳以上で4点、50〜65歳未満で2点)、ステロイド投与量(プレドニゾロン換算7.5 mg/日以上で4点、5 mg/日以上7.5 mg/日未満で1点)、腰椎骨密度(%YAM 70未満で4点、70以上80未満で2点)をスコア化し、合計3点以上で薬物治療を行う。本例は既存の椎体骨折だけで基準を満たす。 ・薬物療法:第一選択はアレンドロネート、リセドロネートなどの経口ビスホスホネートである。ほかに遺伝子組換えテリパラチド(副甲状腺ホルモン製剤、骨形成促進薬)、デノスマブ(RANKLに対する抗体、骨吸収抑制薬)、活性型ビタミンD3製剤などが代替薬として用いられる。
骨粗鬆症性椎体圧迫骨折の管理
・急性期:安静、鎮痛薬(アセトアミノフェン、NSAIDsなど)、コルセットなどの外固定。長期臥床は避け、痛みに応じて早期に離床する。 ・急性期以降:骨粗鬆症の薬物治療(再骨折予防)、運動療法、転倒予防。 ・偽関節や遅発性の神経麻痺を来した場合は、椎体形成術(BKP:経皮的椎体形成術)や脊椎固定術などの手術が検討される。
巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)
50歳以上に発症する大型〜中型動脈の肉芽腫性血管炎で、頭痛、側頭動脈の圧痛・怒張、顎跛行(咀嚼時の顎の痛み)、視力障害などを呈し、リウマチ性多発筋痛症を合併しやすい。赤沈・CRPが高値となる。失明を防ぐため速やかにステロイドを開始し、長期にわたり漸減していく。ステロイド減量が難しい場合はトシリズマブなどを併用する。長期のステロイド治療となるため、骨粗鬆症への対策が不可欠である。
ビスホスホネートの主な注意点
・服用方法:起床時空腹時に180 mL程度の水で服用し、服用後30分は臥位を避け、飲食・他の薬の服用をしない。 ・副作用:食道炎・食道潰瘍、顎骨壊死(歯科処置時に注意)、非定型大腿骨骨折(長期使用時)、低カルシウム血症など。
POINT
・長期ステロイド内服中の患者に外傷のない椎体圧迫骨折 → ステロイド性骨粗鬆症による脆弱性骨折。 ・急性期は安静・鎮痛・外固定、疼痛消失後は再骨折予防のため骨粗鬆症治療を開始する。 ・ステロイド性骨粗鬆症の第一選択薬はビスホスホネート(アレンドロネート、リセドロネート)。 ・ステロイドは骨形成を強く抑制し、骨密度が比較的保たれていても骨折しやすい。 ・既存の脆弱性骨折があれば、それだけでステロイド性骨粗鬆症の薬物治療の対象となる。 ・ステロイドの増量や長期臥床は骨粗鬆症を悪化させる。
