StudyMed医師国家試験

頬の白いレース模様と紫の丘疹―口と皮膚をつなぐ扁平苔癬

第105回医師国家試験 G問題 第51問

国試問題にチャレンジ

第105回 G問題 第51問

68歳の男性。口腔内病変と四肢の皮疹とを主訴に来院した。3年前から両側頬粘膜に粘膜疹がある。最近,四肢に皮疹が出現してきた。頬粘膜病変の写真(A)と皮膚病変の写真(B)とを別に示す。  最も考えられるのはどれか。

第105回 G問題 第51問の問題画像
  1. a.白板症
  2. b.扁平苔癬
  3. c.Behçet病
  4. d.尋常性天疱瘡
  5. e.多形滲出性紅斑

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、口の中の慢性病変と四肢の皮疹を組み合わせて診断する問題だ。カギは「口腔病変の形と分布」「どれくらい続いているか」「皮膚病変の性状」の3つ。まず頬粘膜の写真から見ていこう。両側の頬粘膜に、白い線がレース状、網目状に走っているのが分かるかな。
医学生医学生
口の中の白い病変と聞くと、真っ先に白板症が浮かびます。前癌病変として講義で強調されていました。
ドクタードクター
大事な疾患だから思い浮かべるのは正しい。ただ、白板症はこすっても取れない境界明瞭な板状・斑状の白斑で、限局性にできるのが基本だ。両側対称に網目状の線条をつくることはないし、皮膚病変も伴わない。今回は「網目状」「両側性」「皮疹あり」の3点が合わないんだ。
医学生医学生
網目状の白い線条というと、Wickham線条でしょうか。
ドクタードクター
その通り。レース状の白色線条が両側の頬粘膜にあるのは口腔扁平苔癬の典型像だ。では皮膚の写真を見よう。四肢に紫紅色で扁平に盛り上がった多角形の丘疹があり、表面に光沢がある。
医学生医学生
皮膚科の臨床実習で「紫色・扁平・多角形・光沢」と特徴を並べて覚えるよう教わりました。それに当てはまるので、扁平苔癬ですね。
ドクタードクター
正解。扁平苔癬は皮膚と口腔粘膜の両方に病変をつくりうる慢性炎症性疾患で、何年も続く口腔病変に後から皮疹が加わるという経過もよく説明できる。皮膚では手関節屈側や下腿に好発し、かゆみを伴うことが多い。ほかの選択肢も確認しておこう。口腔病変といえばBehçet病も有名だね。
医学生医学生
Behçet病の口腔病変はアフタでしたよね。白い感じもするので少し迷いました。
ドクタードクター
アフタは境界明瞭で痛みの強い円形の潰瘍が、出たり消えたりを繰り返すものだ。年単位で持続する網目状の白色線条とは性状がまったく違う。皮膚症状も結節性紅斑様皮疹や毛嚢炎様皮疹で、ぶどう膜炎や外陰部潰瘍といった他の主症状の情報もない。
医学生医学生
尋常性天疱瘡も口腔病変から始まることが多いと習いましたが、どう区別しますか。
ドクタードクター
天疱瘡はデスモグレイン3(粘膜皮膚型では1も)に対する自己抗体で表皮内水疱ができる病気だ。口腔では破れやすい水疱と治りにくい有痛性びらんが主体で、皮膚には弛緩性水疱とびらん、Nikolsky現象陽性が特徴。白いレース模様や紫紅色の丘疹とは見た目が違うね。
医学生医学生
多形滲出性紅斑は経過が合わない気がします。
ドクタードクター
鋭いね。多形紅斑は単純ヘルペスやマイコプラズマ、薬剤などを誘因に急性に起こる疾患で、四肢伸側の標的状(target)の浮腫性紅斑が特徴だ。重症では口腔びらんを伴い、Stevens-Johnson症候群との関係も問題になるけれど、3年も続く白色病変は説明できない。
医学生医学生
口の白い病変は「網目状か板状か」「両側か限局か」「皮膚病変があるか」で整理すればいいんですね。
ドクタードクター
その整理で十分戦える。発展知識も押さえておこう。扁平苔癬は表皮基底層を標的とするT細胞主体の炎症で、原因として降圧薬などの薬剤、歯科金属アレルギー、C型肝炎との関連が知られている。薬剤性のものは苔癬型薬疹と呼ぶ。
医学生医学生
病理実習で、真皮上層に帯状のリンパ球浸潤がある標本を見ました。
ドクタードクター
それが典型像だ。基底層の液状変性、Civatte小体、顆粒層の楔状肥厚、表皮突起の鋸歯状延長もセットで覚えよう。皮膚では搔いた部位に新しく皮疹が出るKoebner現象もみられる。
医学生医学生
治療はステロイド外用でしょうか。
ドクタードクター
基本はそう。口腔病変には口腔用のステロイド製剤を使い、原因薬剤の中止や歯科金属の除去も検討する。臨床で大切なのは、口腔扁平苔癬は長い経過で扁平上皮癌が生じることがあり、口腔潜在的悪性疾患として定期的な経過観察が必要な点だ。治りにくいびらんやしこりが出てきたら生検を考えよう。

まとめ

両側頬粘膜のレース状・網目状白色線条(Wickham線条)が年余にわたり続き、四肢に紫紅色で光沢のある扁平な多角形丘疹を伴えば、扁平苔癬と診断できます。白板症は限局性の板状白斑で皮膚病変を伴わず、Behçet病は再発性の有痛性アフタ、尋常性天疱瘡は水疱・びらん、多形紅斑は急性の標的状紅斑が特徴で、病変の性状と経過から区別します。扁平苔癬は基底層の液状変性と真皮上層の帯状リンパ球浸潤を示すT細胞主体の炎症で、薬剤(苔癬型薬疹)、歯科金属、C型肝炎との関連が知られています。治療はステロイド外用と原因除去が基本で、口腔病変は癌化することがあるため長期の経過観察が必要です。口腔の白色病変を「形・分布・皮膚病変の有無」で整理する考え方は、歯科口腔外科・皮膚科の境界領域の診療にも役立ちます。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

高齢男性で、3年前から両側の頬粘膜に慢性の粘膜病変が続き、最近になって四肢にも皮疹が加わったという経過である。頬粘膜の写真(A)では、両側性にレース状・網目状に走る白色の線条(Wickham線条に相当する所見)がみられ、びらんを一部に伴いうる。皮膚の写真(B)では、四肢に紫紅色〜紫褐色で扁平に隆起した多角形の丘疹が散在・融合し、表面に光沢を帯びている。

診断に至る考え方

口腔粘膜の白色病変の鑑別では、「網目状(レース状)か、境界明瞭な板状の白斑か」「両側対称か、片側・限局性か」「皮膚病変を伴うか」が要点となる。両側頬粘膜の網目状白色線条は口腔扁平苔癬の典型像であり、さらに四肢(特に手関節屈側や下腿)の紫紅色扁平丘疹を伴えば、皮膚と粘膜の両方に病変をもつ扁平苔癬と判断できる。 一方、水疱・びらんを主体とする疾患(天疱瘡、多形紅斑)や、有痛性の円形潰瘍を繰り返す疾患(Behçet病)は、慢性に持続する網目状の白色病変とは所見の性状が異なる。以上より、最も考えられるのは扁平苔癬である。

選択肢考察

  1. ×a.  白板症

    口腔白板症は、ほかの疾患に分類できない、こすっても取れない白色の板状・斑状病変で、前癌病変(口腔潜在的悪性疾患)として重要である。好発部位は頬粘膜、舌縁、歯肉などで、喫煙などの慢性刺激と関連する。病変は通常、境界明瞭な均一の白斑として限局性にみられ、両側対称の網目状線条を呈することはない。また皮膚病変は伴わないため、四肢の紫紅色丘疹を合わせて説明できない。

  2. ○b.  扁平苔癬

    両側頬粘膜のレース状・網目状白色線条は口腔扁平苔癬に典型的であり、四肢に出現した紫紅色で光沢のある扁平な多角形丘疹は皮膚扁平苔癬の特徴に一致する。扁平苔癬は口腔粘膜と皮膚の両方に病変を生じうる慢性炎症性疾患であり、長期の口腔病変に皮疹が加わった本症例の経過をよく説明できる。

  3. ×c.  Behçet病

    Behçet病の主症状は、再発性口腔内アフタ性潰瘍、皮膚症状(結節性紅斑様皮疹、皮下の血栓性静脈炎、毛嚢炎様皮疹)、眼症状(ぶどう膜炎)、外陰部潰瘍の4つである。口腔病変は境界明瞭で有痛性の円形潰瘍(アフタ)が出没を繰り返すもので、白色の網目状線条が年余にわたり持続する所見とは異なる。針反応陽性やHLA-B51との関連も特徴であるが、本症例にはこれらを示唆する情報がない。

  4. ×d.  尋常性天疱瘡

    尋常性天疱瘡は、表皮細胞同士をつなぐデスモソームの構成タンパクであるデスモグレイン3(粘膜皮膚型ではデスモグレイン1も)に対するIgG自己抗体によって表皮内水疱を生じる自己免疫性水疱症である。口腔粘膜の有痛性びらんで初発することが多いが、所見は破れやすい水疱と難治性のびらんであり、網目状の白色線条ではない。皮膚にも弛緩性水疱・びらんを生じ、Nikolsky現象が陽性となる点で、紫紅色の扁平丘疹とは異なる。

  5. ×e.  多形滲出性紅斑

    多形滲出性紅斑(多形紅斑)は、単純ヘルペスウイルス感染やマイコプラズマ感染、薬剤などを誘因として急性に生じる、標的状(target lesion)の浮腫性紅斑を特徴とする疾患で、四肢伸側に好発する。重症型では口唇・口腔粘膜のびらんを伴い、Stevens-Johnson症候群との関連が問題となる。いずれも急性の経過をとり、3年にわたり持続する口腔の網目状白色病変は説明できない。

扁平苔癬の概要

扁平苔癬は、表皮基底層を標的とするT細胞主体の慢性炎症性疾患で、中高年に多い。原因としては、薬剤(降圧薬、金製剤、抗結核薬など)、歯科金属アレルギー、C型肝炎ウイルス感染との関連が知られるが、特発性のものも多い。薬剤が原因のものは苔癬型薬疹と呼ばれる。

皮膚症状

紫紅色〜紫褐色で扁平に隆起し、光沢のある多角形の丘疹が特徴で、しばしば瘙痒を伴う。手関節屈側、前腕、下腿、腰部などに好発する。丘疹表面に白色の細かい網目状の線条(Wickham線条)がみられる。搔破などの刺激部位に新たな皮疹が生じるKoebner現象を認める。治癒後に色素沈着を残しやすい。

口腔症状

頬粘膜に両側性にみられることが多く、レース状・網目状の白色病変が典型的である。びらん型では接触痛・食事時の疼痛を生じる。口腔扁平苔癬は長期の経過で扁平上皮癌が生じることがあり、口腔潜在的悪性疾患として経過観察が必要とされる。

病理組織所見

表皮の過角化、顆粒層の楔状肥厚、表皮突起の鋸歯状延長、基底層の液状変性、真皮上層の帯状リンパ球浸潤、Civatte小体(変性した表皮細胞)が特徴である。

治療

原因薬剤の中止や歯科金属の除去、ステロイド外用が基本で、口腔病変にはステロイド軟膏や口腔用製剤を用いる。

口腔白色病変・粘膜病変の鑑別の整理

・網目状白色線条、両側頬粘膜、皮疹を伴う:扁平苔癬 ・境界明瞭な白色板状病変、限局性、前癌病変:白板症 ・再発性の有痛性円形潰瘍(アフタ):Behçet病など ・難治性のびらん、水疱:尋常性天疱瘡、粘膜類天疱瘡 ・急性発症の口唇・口腔びらん+標的状紅斑:多形紅斑、Stevens-Johnson症候群

POINT

・両側頬粘膜のレース状・網目状白色線条は口腔扁平苔癬の典型像である。 ・皮膚では紫紅色で光沢のある扁平な多角形丘疹、Wickham線条、Koebner現象が特徴である。 ・原因として薬剤(苔癬型薬疹)、歯科金属、C型肝炎との関連を押さえる。 ・病理では基底層の液状変性と真皮上層の帯状リンパ球浸潤が特徴である。 ・白板症は限局性の白斑で皮膚病変を伴わず、前癌病変として重要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。