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血清鉄では見分けられない―「貯蔵鉄」が暴く鉄欠乏性貧血と二次性貧血の違い

第105回医師国家試験 F問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第105回 F問題 第10問

鉄欠乏性貧血と二次性貧血との鑑別に有用なのはどれか。

  1. a.血清鉄
  2. b.網赤血球数
  3. c.血清フェリチン
  4. d.血清トランスフェリン
  5. e.平均赤血球容積〈MCV〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、鉄欠乏性貧血と二次性貧血をどの検査で見分けるかという問題だ。ここでいう二次性貧血は、慢性感染症や関節リウマチなどの膠原病、悪性腫瘍に伴う貧血、いわゆる慢性疾患に伴う貧血のこと。ポイントは「鉄が本当に足りないのか、あるのに使えないのか」だよ。
医学生医学生
どちらも鉄が低い貧血というイメージなので、血清鉄では駄目なんでしょうか。
ドクタードクター
まさにそこが落とし穴。血清鉄はどちらでも低下するんだ。鉄欠乏性貧血は体内の鉄そのものが不足しているから低い。一方、慢性疾患に伴う貧血は、鉄が体内にあるのに血液中に出てこないから低い。理由は違っても結果は同じ「低値」だから、鑑別には使えない。しかも血清鉄は日内変動や食事の影響も受けやすいんだ。
医学生医学生
鉄があるのに出てこない、というのはどういう仕組みですか。
ドクタードクター
カギはヘプシジンというホルモンだ。炎症でIL-6が増えると、肝臓でヘプシジンの産生が高まる。ヘプシジンは細胞から鉄を外へ出す出口であるフェロポーチンを分解してしまう。その結果、十二指腸からの鉄吸収が抑えられ、さらに老廃赤血球を処理したマクロファージが鉄を放出できなくなる。これを網内系ブロックと呼ぶ。
医学生医学生
生化学の講義でヘプシジンが鉄代謝の司令塔だと習ったのを思い出しました。倉庫に鉄は山積みなのに、出荷が止まっている状態ですね。
ドクタードクター
うまい例えだね。だから両者を見分けるには、血液中を流れる鉄ではなく、倉庫にどれだけ鉄があるか、つまり貯蔵鉄量を見ればいい。それを最もよく反映する血液検査が何か、もうわかるかな。
医学生医学生
血清フェリチンですね。鉄欠乏性貧血では倉庫が空なので低くて、慢性疾患に伴う貧血では倉庫が満杯なので正常から高値になる。
ドクタードクター
その通り、それが正解だ。フェリチンは細胞内で鉄を貯蔵するタンパクで、血中の量は貯蔵鉄をよく反映する。鉄欠乏では貧血が出る前から下がる最も鋭敏な指標で、一般に12 ng/mL未満が目安だ。しかもフェリチンは急性期反応物質でもあるから、炎症のある慢性疾患に伴う貧血ではその面からも上がる。逆向きに動くから鑑別に最も役立つんだ。
医学生医学生
血清トランスフェリンも鉄の検査ですよね。CBTの過去問でTIBCの動きが逆になると覚えた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。トランスフェリンは血中で鉄を運ぶタンパクで、その鉄結合能の総和がTIBCだ。鉄欠乏では肝臓での産生が増えてTIBCは上がり、慢性疾患に伴う貧血では炎症で産生が抑えられて正常から低めになる。だから鑑別の補助にはなる。ただ値が重なる例も多く、貯蔵鉄を直接映すフェリチンには及ばない。最も有用なものを選ぶならフェリチンだ。
医学生医学生
MCVはどうでしょう。鉄欠乏性貧血は小球性の代表なので、使えそうな気がします。
ドクタードクター
鉄欠乏性貧血は確かに典型的な小球性だけど、慢性疾患に伴う貧血も正球性から軽度の小球性を示す。小球性貧血の鑑別に鉄欠乏性貧血、慢性疾患に伴う貧血、サラセミア、鉄芽球性貧血が並ぶように、MCVだけでは区別できない。MCVは貧血を小球性・正球性・大球性に分ける入口の指標だと考えよう。
医学生医学生
網赤血球数は骨髄の産生能を見る検査なので、どちらも産生低下型なら差が出なさそうですね。
ドクタードクター
その推論で合っている。どちらも赤芽球に使える鉄が足りず、網赤血球数は正常から低値にとどまる。網赤血球は溶血や出血後のように増える貧血と、産生低下型の貧血を分けるのに使うものだ。ちなみに鉄欠乏性貧血に鉄剤を投与すると、網赤血球が一過性に増えるのは治療反応の確認に役立つよ。
医学生医学生
整理すると、血清鉄は両方低い、フェリチンは逆向き、TIBCは補助的、MCVと網赤血球は区別に向かない、ということですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。最後に臨床での注意点を。フェリチンは炎症だけでなく肝障害や悪性腫瘍でも上がる。だから、例えば関節リウマチの患者さんが消化管出血で鉄欠乏を合併すると、炎症のせいでフェリチンが見かけ上正常に見えることがある。
医学生医学生
内科の実習で、リウマチの患者さんに鎮痛薬による胃潰瘍があった症例を見ました。そういう時は判断が難しそうです。
ドクタードクター
そういう場面では、炎症があるのにフェリチンが低め、目安として100 ng/mL未満なら鉄欠乏の合併を疑い、トランスフェリン飽和度なども併せて判断する。数値をひとつだけで読まず、背景の炎症も含めて解釈するのが大切だよ。

まとめ

鉄欠乏性貧血と慢性疾患に伴う二次性貧血は、いずれも血清鉄が低く小球性〜正球性を示すため混同されやすいですが、前者は体内の鉄そのものが不足し、後者は炎症でヘプシジンが増加して鉄が網内系に閉じ込められる「あるのに使えない」貧血です。鑑別には貯蔵鉄量を反映する血清フェリチンが最も有用で、鉄欠乏性貧血では低値、二次性貧血では正常〜高値と逆方向に動きます。TIBCは鉄欠乏で上昇、二次性貧血で正常〜低下と補助的に役立ちますが、血清鉄・MCV・網赤血球数は両者で同様の傾向を示すため鑑別には向きません。フェリチンは炎症でも上昇するため、炎症性疾患に鉄欠乏が合併した場合は値を慎重に解釈する必要があり、鉄代謝の病態理解は日常診療での貧血評価の基盤となります。

解答・解説

正解はcです

テーマ

本問でいう二次性貧血とは、慢性感染症・膠原病(関節リウマチなど)・悪性腫瘍などの慢性炎症性疾患に伴って生じる貧血、すなわち慢性疾患に伴う貧血(anemia of chronic disease:ACD、炎症性貧血とも呼ぶ)を指す。鉄欠乏性貧血とACDはいずれも血清鉄が低く、小球性〜正球性の貧血を示すため混同されやすいが、体内の鉄の「量」がまったく異なる。

病態の違い

・鉄欠乏性貧血:出血や鉄摂取不足・需要増大により、体内の鉄そのものが不足する。まず貯蔵鉄が枯渇し、次に血清鉄が低下し、最後にヘモグロビン合成が障害されて貧血となる。 ・ACD:炎症で増えたサイトカイン(特にインターロイキン6:IL-6)が肝臓でのヘプシジン産生を促す。ヘプシジンは鉄の細胞外排出を担うフェロポーチンを分解し、①十二指腸からの鉄吸収を抑え、②マクロファージ(網内系)に取り込まれた鉄の放出を妨げる。その結果、鉄は網内系に閉じ込められ(網内系ブロック)、貯蔵鉄は十分〜過剰にあるのに、骨髄の赤芽球には鉄が届かない。さらに炎症によるエリスロポエチン産生低下や赤芽球の反応性低下、赤血球寿命の短縮も加わる。

考え方

両者を鑑別するには、「血液中を流れる鉄(血清鉄)」ではなく「貯蔵されている鉄の量」を見ればよい。貯蔵鉄量を最もよく反映する血液検査が血清フェリチンであり、鉄欠乏性貧血では低値、ACDでは正常〜高値となる。

選択肢考察

  1. ×a.  血清鉄

    鉄欠乏性貧血では鉄そのものが不足するため、ACDでは網内系から鉄が放出されないため、いずれも血清鉄は低下する。低値という点で共通しているので、両者の鑑別には役立たない。なお血清鉄は日内変動(朝高く夕方低い)や食事の影響も受けやすく、単独での評価には限界がある。

  2. ×b.  網赤血球数

    網赤血球は骨髄から出たばかりの若い赤血球で、その数は骨髄の赤血球産生能を反映する。鉄欠乏性貧血もACDも、骨髄の赤芽球に利用できる鉄が不足して産生が低下する貧血であり、網赤血球数は正常〜低値にとどまることが多い。両者で同じ傾向を示すため鑑別には有用でない。網赤血球数は、溶血性貧血や出血後(増加)と、産生低下型の貧血(正常〜減少)を分けるのに用いる。

  3. ○c.  血清フェリチン

    フェリチンは細胞内で鉄を貯蔵するタンパクで、血中に出てくる量は体内の貯蔵鉄量をよく反映する。鉄欠乏性貧血では貯蔵鉄が枯渇しているため著明に低下し(一般に12 ng/mL未満が鉄欠乏の目安)、しかも貧血が出現する前から低下する最も鋭敏な指標である。一方ACDでは、鉄が網内系に閉じ込められて貯蔵鉄が保たれている(むしろ増えている)ため、フェリチンは正常〜高値を示す。加えてフェリチンは炎症で上昇する急性期反応物質でもあり、ACDではこの面からも高くなる。このように両者で逆方向の値を示すので、鑑別に最も有用である。

  4. ×d.  血清トランスフェリン

    トランスフェリンは血中で鉄を運搬するタンパクで、その鉄結合能の総量が総鉄結合能(TIBC)にあたる。鉄欠乏性貧血では肝臓での産生が増えてTIBCは上昇し、ACDでは炎症で産生が抑えられて(負の急性期反応物質)正常〜低値となる。したがって鑑別の補助にはなるが、値が重なる例も多く、貯蔵鉄を直接反映する血清フェリチンに比べて鑑別能は劣る。本問では最も有用なものとして血清フェリチンを選ぶ。

  5. ×e.  平均赤血球容積〈MCV〉

    MCVはヘモグロビン合成が障害されると低下する。鉄欠乏性貧血は典型的な小球性(MCV < 80 fL)であり、ACDも正球性〜軽度の小球性を示す。小球性貧血の鑑別疾患として鉄欠乏性貧血、ACD、サラセミア、鉄芽球性貧血がいずれも挙がるように、MCVだけでは両者を区別できない。MCVは貧血の分類(小球性・正球性・大球性)の入口として用いる指標である。

鉄欠乏性貧血とACD(二次性貧血)の検査所見の比較

・血清鉄:鉄欠乏性貧血 低下 / ACD 低下 ・TIBC(トランスフェリン):鉄欠乏性貧血 上昇 / ACD 正常〜低下 ・トランスフェリン飽和度(血清鉄÷TIBC):鉄欠乏性貧血 著明低下 / ACD 低下〜正常下限 ・血清フェリチン:鉄欠乏性貧血 低下 / ACD 正常〜上昇 ・骨髄の貯蔵鉄(鉄染色):鉄欠乏性貧血 消失 / ACD 網内系に増加 ・MCV:鉄欠乏性貧血 低下(小球性) / ACD 正常〜軽度低下 ・網赤血球:いずれも正常〜低値(鉄剤投与後、鉄欠乏性貧血では網赤血球が一過性に増加する)

鉄代謝の基本

成人の体内総鉄量は約3〜4 gで、その約3分の2がヘモグロビン鉄、残りの多くがフェリチンやヘモジデリンとして肝臓・脾臓・骨髄の網内系に貯蔵される。食事から吸収される鉄は1日1 mg程度と少なく、大部分は老廃赤血球をマクロファージが処理して回収した鉄の再利用でまかなわれる。この回収・再利用の出口を調節しているのがヘプシジン-フェロポーチン系であり、炎症でヘプシジンが増えるとこの循環が止まることがACDの本質である。

注意点

フェリチンは炎症・肝障害・悪性腫瘍でも上昇するため、炎症を伴う鉄欠乏(例:関節リウマチ患者の消化管出血)ではフェリチンが見かけ上正常となりうる。このような場合、炎症があってもフェリチンが低め(目安として100 ng/mL未満など)であれば鉄欠乏の合併を疑い、トランスフェリン飽和度なども併せて判断する。

POINT

・二次性貧血(慢性疾患に伴う貧血)は、ヘプシジン増加による網内系ブロックで鉄が利用できない貧血 ・血清鉄は両者で低下するため鑑別できない ・血清フェリチン:鉄欠乏性貧血で低値、二次性貧血で正常〜高値 → 鑑別に最も有用 ・TIBC:鉄欠乏性貧血で上昇、二次性貧血で正常〜低下(補助的) ・フェリチンは貯蔵鉄量を反映し、鉄欠乏の最も早期から低下する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。