StudyMed医師国家試験

CO2が溜まるのは「換気が足りない」とき―肺塞栓症だけが仲間外れの理由

第105回医師国家試験 F問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第105回 F問題 第9問

二酸化炭素蓄積をきたさないのはどれか。

  1. a.肺塞栓症
  2. b.横隔膜麻痺
  3. c.急性睡眠薬中毒
  4. d.慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉の急性増悪
  5. e.重症筋無力症クリーゼ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は「どの病態で二酸化炭素が溜まるか」を問う問題だ。症例ではなく病態生理の理解がそのまま問われている。着眼点はひとつ、PaCO2は何で決まるか。ここを押さえれば一気に解けるよ。
医学生医学生
生理学の講義で、PaCO2は肺胞換気量に反比例すると習いました。
ドクタードクター
その通り。CO2の産生量が一定なら、PaCO2は肺胞換気量だけでほぼ決まる。だから「CO2が溜まる」とは「有効な肺胞換気が足りない」、つまり肺胞低換気と言い換えられるんだ。換気は呼吸中枢から神経、神経筋接合部、呼吸筋、胸郭、そして気道・肺胞という経路で成り立っている。どこが壊れても低換気になりうる。
医学生医学生
なるほど、経路で整理すると選択肢を当てはめやすそうです。睡眠薬中毒は一番上流の呼吸中枢ですよね。
ドクタードクター
そう。睡眠薬を大量に飲むと延髄の呼吸中枢が抑制され、呼吸数も一回換気量も減る。意識障害による舌根沈下や誤嚥も加わって換気はさらに悪化し、CO2が蓄積する。アルコールなど他の中枢抑制薬が重なると呼吸抑制は強まるから、救急では要注意だ。
医学生医学生
重症筋無力症クリーゼは神経筋接合部の障害で、呼吸筋が動かなくなるパターンですね。
ドクタードクター
正解。抗アセチルコリン受容体抗体などで神経伝達が障害され、感染や手術、アミノグリコシド系抗菌薬などを契機に呼吸筋や球筋の筋力低下が急速に進む。肺そのものは正常でも、ふいごが動かなければCO2は出ていかない。挿管・人工呼吸が必要になることも多い。
医学生医学生
横隔膜麻痺も同じ筋のレベルでしょうか。でも片側だけなら反対側が頑張れそうな気もします。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。片側だけなら代償されて症状が軽いこともあるけれど、横隔膜は安静吸気の大部分を担う最重要の吸気筋だから、両側の麻痺では明らかな肺胞低換気になる。臥位で内臓が横隔膜を押し上げて悪化するので起座呼吸が出やすく、吸気時にお腹がへこむ奇異性腹式呼吸も特徴だ。横隔神経はC3〜C5支配、という点も覚えておこう。
医学生医学生
COPDの急性増悪は、呼吸器内科の実習で高CO2の患者さんを見ました。気道・肺のレベルの障害ですね。
ドクタードクター
そう。進行したCOPDではもともとPaCO2が高いII型呼吸不全の人も多い。急性増悪では気道抵抗の増大、過膨張、呼吸筋疲労が重なって浅く速い呼吸になり、死腔換気の割合が増えて有効な肺胞換気が落ちる。結果としてCO2が溜まり、呼吸性アシドーシスになる。
医学生医学生
そうすると残るのは肺塞栓症ですが、肺の血管が詰まるなら、ガス交換が悪くなってCO2も溜まりそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけだね。肺塞栓症では、詰まった先の肺胞は換気されても血流がない死腔になり、残った血管に血流が集中して換気血流比の不均等が生じる。だから低酸素血症になる。でも低酸素や肺内の受容器刺激、胸痛や不安で患者さんは過換気になる。CO2は酸素より約20倍拡散しやすく、健常な肺胞から換気を増やせば効率よく吐き出せるので、PaCO2はむしろ下がるんだ。
医学生医学生
低酸素なのにCO2は低い、つまり呼吸性アルカローシスになるわけですね。だから肺塞栓症がCO2蓄積をきたさないものとして正解なんだ。
ドクタードクター
その通り。典型的な血液ガスはPaO2低下、PaCO2低下、A-aDO2開大、呼吸性アルカローシスだ。ただし極めて広範な塞栓でショックや心停止に至れば話は別、という例外は頭の片隅に置いておこう。
医学生医学生
I型とII型呼吸不全の分類とも繋がりますね。PaCO2が45 Torrを超えるかどうかで分けるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。室内気でPaO2が60 Torr以下を呼吸不全とし、PaCO2が45 Torr以下ならI型、45 Torrを超えればII型だ。I型は拡散障害、換気血流比不均等、シャントが機序で、肺塞栓症や間質性肺炎、ARDSなど。II型は肺胞低換気が主体で、今回の他の4つがそれにあたる。もう一歩進んで、A-aDO2を計算すると鑑別がさらに深まるよ。
医学生医学生
A-aDO2は肺胞気と動脈血の酸素分圧の差でしたね。純粋な低換気なら肺そのものは正常なので、開大しないということですか。
ドクタードクター
その理解で完璧。睡眠薬中毒や神経筋疾患による低換気では、誤嚥などの合併がなければA-aDO2は正常。一方、肺塞栓症やCOPDは開大する。そして臨床で特に注意したいのが、慢性的に高CO2のCOPD患者さんに高濃度酸素を漫然と投与すると、換気がさらに落ちてCO2ナルコーシスを招きうることだ。頭痛や発汗、意識障害が出てきたら疑って、血液ガスを確認しよう。
医学生医学生
酸素を上げる前に、その人がCO2を溜めるタイプかどうかを意識しないといけないんですね。
ドクタードクター
その通り。酸素化だけでなく換気も評価する、それが呼吸管理の基本だよ。

まとめ

PaCO2は肺胞換気量に反比例するため、CO2蓄積は「肺胞低換気」を意味し、呼吸中枢の抑制(睡眠薬中毒)、呼吸筋や神経筋接合部の障害(横隔膜麻痺、重症筋無力症クリーゼ)、気道・肺の障害(COPD急性増悪)でいずれも起こりえます。一方、肺塞栓症は換気血流比不均等により低酸素血症をきたしますが、過換気によってCO2はむしろ排出され、PaCO2低下・A-aDO2開大・呼吸性アルカローシスを示すため、CO2蓄積はきたさないのが典型です。呼吸不全はPaCO2 45 Torrを境にI型とII型に分けられ、A-aDO2を併せて評価すると、肺そのものの障害か純粋な低換気かを区別できます。慢性的に高CO2の患者への高濃度酸素投与はCO2ナルコーシスを誘発しうるため、換気の評価は臨床の呼吸管理に直結する重要な知識です。

解答・解説

正解はaです

テーマ

二酸化炭素(CO2)の蓄積、すなわち高二酸化炭素血症(PaCO2 > 45 Torr 程度)は、肺胞換気量の不足(肺胞低換気)によって起こる。動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)は、CO2産生量が一定なら肺胞換気量に反比例する(PaCO2 ∝ VCO2 / VA)。したがって「CO2が溜まるかどうか」は「有効な肺胞換気が保たれているかどうか」で考える。

肺胞低換気を起こす原因の整理

換気は、呼吸中枢 → 神経 → 神経筋接合部 → 呼吸筋 → 胸郭 → 気道・肺胞 という経路で成り立つ。このどこが障害されても肺胞低換気となりうる。 ・呼吸中枢の抑制:睡眠薬・麻薬などの中毒、脳幹障害 ・神経・神経筋接合部・筋の障害:横隔神経麻痺、重症筋無力症、Guillain-Barré症候群、筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィー ・胸郭の異常:高度の側弯症、胸郭形成術後 ・気道・肺の障害:COPDなど閉塞性障害の重症例・急性増悪

CO2が溜まりにくい低酸素血症

一方、拡散障害や軽〜中等度の換気血流比不均等、シャントなどによる低酸素血症では、低酸素や肺の受容器刺激によって換気が増えるため、PaCO2はむしろ低下することが多い(Ⅰ型呼吸不全)。CO2は酸素より約20倍拡散しやすく、また換気を増やせば健常な肺胞から効率よく排出できるためである。肺塞栓症はこの典型であり、低酸素血症と低二酸化炭素血症(呼吸性アルカローシス)の組み合わせを示す。 以上より、選択肢の中で肺胞低換気の機序をもたず、通常CO2蓄積をきたさないのは肺塞栓症である。

選択肢考察

  1. ○a.  肺塞栓症

    肺動脈が血栓などの塞栓子で閉塞し、閉塞部の肺胞は換気されても血流がない状態(死腔、換気血流比の上昇)となる。一方で血流は残った肺動脈に集中し、換気に比べて血流が過剰な領域(換気血流比の低下)が生じるため、低酸素血症をきたす。しかし低酸素や肺内受容器の刺激、不安・胸痛によって呼吸数と換気量が増える(過換気)ため、CO2は十分に排出され、PaCO2はむしろ低下する。典型的な血液ガス所見は「PaO2低下・PaCO2低下・A-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)開大・呼吸性アルカローシス」である。極めて広範な塞栓で死腔が著しく増えた場合やショック・心停止に至った場合を除けば、CO2蓄積は起こさない。したがってこれが本問の正解である。

  2. ×b.  横隔膜麻痺

    横隔膜は安静時の吸気の大部分を担う最も重要な吸気筋であり、横隔神経(C3〜C5)に支配される。両側の横隔膜麻痺では吸気が著しく障害されて肺胞低換気となり、CO2が蓄積する。特に臥位では腹部内臓が横隔膜を胸腔側へ押し上げるため換気がさらに低下し、起座呼吸や睡眠時の低換気が目立つ。吸気時に腹壁が内側に陥凹する奇異性腹式呼吸も特徴的な所見である。

  3. ×c.  急性睡眠薬中毒

    ベンゾジアゼピン系やバルビツール酸系などの睡眠薬を大量に服用すると、延髄の呼吸中枢が抑制されて呼吸数・一回換気量が減少し、中枢性の肺胞低換気をきたす。さらに意識障害に伴う舌根沈下による上気道閉塞や嘔吐物の誤嚥も換気を悪化させる。その結果CO2が蓄積し、高度になるとCO2ナルコーシス(高CO2血症による意識障害)を生じる。アルコールや他の中枢抑制薬との併用で呼吸抑制は増強する。

  4. ×d.  慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉の急性増悪

    COPDは気道の閉塞と肺胞壁の破壊(肺気腫)により、呼気の気流制限をきたす疾患である。進行例では換気血流比不均等と死腔換気の増加によって有効な肺胞換気が減り、慢性的にPaCO2が上昇しているⅡ型呼吸不全の患者も多い。気道感染などを契機に急性増悪すると、気道抵抗の増大・肺の過膨張(エアトラッピング)・呼吸筋疲労が重なって浅く速い呼吸となり、死腔換気の割合がさらに増えて肺胞換気量が低下するため、CO2が蓄積して呼吸性アシドーシスを示す。高濃度酸素を不用意に投与するとCO2ナルコーシスを誘発しうる点にも注意が必要である。

  5. ×e.  重症筋無力症クリーゼ

    重症筋無力症は神経筋接合部のアセチルコリン受容体(または MuSK など)に対する自己抗体により、筋の易疲労性と筋力低下をきたす自己免疫疾患である。感染、手術、ストレス、増悪を招く薬剤(アミノグリコシド系抗菌薬など)を契機に、呼吸筋や球筋(嚥下・構音に関わる筋)の筋力低下が急速に進んで呼吸不全に陥った状態をクリーゼと呼ぶ。呼吸筋の筋力低下により肺胞低換気となり、CO2が蓄積する。気管挿管・人工呼吸管理を要することが多い。

呼吸不全の分類

呼吸不全は室内気吸入時のPaO2が60 Torr以下となる状態で、PaCO2により2つに分けられる。 ・Ⅰ型呼吸不全:PaCO2 ≦ 45 Torr。低酸素血症のみ。拡散障害、換気血流比不均等、シャントが主な機序(例:肺塞栓症、間質性肺炎、肺炎、ARDS) ・Ⅱ型呼吸不全:PaCO2 > 45 Torr。肺胞低換気が主な機序(例:COPD重症例、神経筋疾患、呼吸中枢抑制、胸郭変形)

A-aDO2による鑑別

A-aDO2は、肺胞気の酸素分圧(PAO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の差であり、室内気での正常値はおおむね10 Torr前後(加齢でやや増大)である。PAO2 = 150 − PaCO2/0.8(室内気・海抜0 m)で求める。 ・純粋な肺胞低換気:PaCO2は上昇するがA-aDO2は正常(肺そのものは正常なため) ・拡散障害・換気血流比不均等・シャント:A-aDO2が開大する 本問の選択肢では、横隔膜麻痺・睡眠薬中毒・重症筋無力症クリーゼは肺そのものが正常な肺胞低換気(誤嚥などの合併がなければA-aDO2正常)、COPD急性増悪は換気血流比不均等と肺胞低換気の混合、肺塞栓症は換気血流比不均等による低酸素血症だがPaCO2は低下する、と整理できる。

CO2ナルコーシス

高度のCO2蓄積により、頭痛、発汗、意識障害、自発呼吸の減弱などを生じる状態である。慢性的な高CO2血症の患者では呼吸中枢のCO2に対する反応が鈍くなり、低酸素が換気刺激として重要になるため、高濃度酸素投与で換気がさらに低下して誘発されることがある(換気血流比不均等の悪化やHaldane効果も関与する)。

POINT

・PaCO2は肺胞換気量に反比例する。CO2蓄積=肺胞低換気を考える ・肺胞低換気の原因:呼吸中枢抑制(薬物中毒)、神経筋疾患(重症筋無力症クリーゼ、横隔膜麻痺)、胸郭異常、COPD重症例・急性増悪 ・肺塞栓症は低酸素血症+過換気による低CO2血症(呼吸性アルカローシス)、A-aDO2開大 ・Ⅰ型呼吸不全(PaCO2 ≦ 45 Torr)とⅡ型呼吸不全(PaCO2 > 45 Torr)の区別

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。