StudyMed医師国家試験

膿はどこから流れ出す?―前鼻鏡で読み解く中鼻道と上顎洞の関係

第105回医師国家試験 F問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第105回 F問題 第8問

前鼻鏡検査でみられる鼻腔の模式図を示す。  急性上顎洞炎で膿性鼻漏が流出する部位はどれか。

第105回 F問題 第8問の問題画像
  1. a.
  2. b.
  3. c.
  4. d.
  5. e.

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は前鼻鏡で見える鼻腔の模式図から、急性上顎洞炎の膿が出てくる場所を答える問題だ。ポイントは二つ。図のどの部分がどの構造なのかを読み取ることと、各副鼻腔が鼻腔のどこに開口しているかを知っていること。まず、前鼻鏡で見える鼻腔の基本構造を確認しよう。
医学生医学生
鼻中隔を挟んで左右の鼻腔があって、外側壁から鼻甲介が張り出しているんですよね。
ドクタードクター
そう。外側壁からは上から上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介が出ていて、それぞれの下にある空間が上鼻道、中鼻道、下鼻道だ。ただし前鼻鏡で通常見えるのは下鼻甲介・下鼻道・中鼻甲介・中鼻道と、上内側の嗅裂まで。上鼻甲介や上鼻道は奥にあって、ふつうは直接見えないんだ。
医学生医学生
耳鼻科の臨床実習で前鼻鏡を使ったとき、下鼻甲介ばかりが目立って、奥はなかなか見えませんでした。
ドクタードクター
初めはみんなそうだよ。では図を読もう。この模式図では、上方の突出が中鼻甲介、その下で外側に入り込んだ空間が中鼻道、下鼻甲介の下で外側に入り込んだ空間が下鼻道だ。中鼻甲介と鼻中隔の間を上へ延びる細い隙間が嗅裂、鼻甲介と鼻中隔の間を上下に走る通路が総鼻道になる。
医学生医学生
上顎洞は一番大きな副鼻腔で、鼻腔の真横にあるから、一番下の下鼻道に開いているんじゃないでしょうか。
ドクタードクター
そこが典型的な落とし穴だね。上顎洞の自然口は、中鼻道の半月裂孔、つまり篩骨漏斗に開いている。だから急性上顎洞炎の膿は中鼻道から流れ出てくる。中鼻甲介の下で外側に入り込んだ空間が正解だ。
医学生医学生
下鼻道には何が開いているんでしたっけ。
ドクタードクター
鼻涙管だ。涙は下鼻道の前方から鼻腔へ流れる。副鼻腔の開口はないから、上顎洞炎の膿がここから出ることはない。ただ、下鼻道の側壁は上顎洞との隔壁が薄いので、かつては上顎洞穿刺・洗浄の刺入部位として使われていたんだよ。
医学生医学生
解剖実習で上顎洞を開けたとき、自然口がずいぶん高いところにあって驚いた記憶があります。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。上顎洞の自然口は内側壁の上方、洞底よりかなり高い位置にある。重力では膿が出にくく、炎症で粘膜が腫れて自然口が塞がると膿がたまりやすい。上顎洞炎が起こりやすい理由の一つだ。
医学生医学生
上の嗅裂のあたりはどうですか。
ドクタードクター
嗅裂の奥には上鼻甲介と上鼻道があって、上鼻道には後部篩骨洞が、その後上方の蝶篩陥凹には蝶形骨洞が開口する。だからこの付近に膿があれば、後部副鼻腔群の病変を考える。嗅裂の天井には嗅上皮があって、ここが塞がると呼吸性嗅覚障害の原因にもなるよ。
医学生医学生
中鼻甲介そのものや総鼻道は、膿の流出部位にはならないんですね。
ドクタードクター
その通り。鼻甲介は鼻道をつくる突起で、開口部はない。総鼻道は各鼻道につながる共通の通路で、中鼻道から出た膿が伝って流れ落ちることはあっても、上顎洞炎を示す流出部位は中鼻道なんだ。
医学生医学生
整理すると、中鼻道に上顎洞・前頭洞・前部篩骨洞、上鼻道に後部篩骨洞、蝶篩陥凹に蝶形骨洞、下鼻道に鼻涙管、ですね。
ドクタードクター
完璧。中鼻道に開く三つを前部副鼻腔群、後部篩骨洞と蝶形骨洞を後部副鼻腔群と呼ぶ。後部群の膿は後鼻漏として咽頭に流れやすいから、後鼻鏡や内視鏡で確認するんだ。発展としてOMCも押さえておこう。中鼻道の前方には前部群の排泄路が集まる狭い領域があって、ここが閉塞すると複数の洞が同時に障害される。内視鏡下鼻副鼻腔手術ではこの部位の開放が基本になる。
医学生医学生
急性副鼻腔炎は風邪の後に起こることが多いと習いました。
ドクタードクター
そうだね。ウイルス性上気道炎に続発し、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスなどの細菌感染が加わることが多い。膿性鼻漏、鼻閉、後鼻漏、頬部痛などが出て、上歯の痛みを訴えることもある。逆に上顎洞底は臼歯の歯根に近いから、歯が原因の歯性上顎洞炎もあることを覚えておこう。

まとめ

前鼻鏡では中鼻甲介と下鼻甲介、その下の中鼻道・下鼻道、上内側の嗅裂を観察でき、上鼻道は通常直接見えません。上顎洞の自然口は中鼻道の半月裂孔に開口するため、急性上顎洞炎の膿性鼻漏は中鼻道から流出し、前頭洞・前部篩骨洞とともに前部副鼻腔群を形成します。一方、後部篩骨洞は上鼻道、蝶形骨洞は蝶篩陥凹に開口し、下鼻道には鼻涙管が開くのみで副鼻腔の開口はありません。上顎洞の自然口は洞底より高い位置にあって排膿に不利であり、前部群の排泄路が集まるOMCの閉塞が副鼻腔炎の病態の要となります。膿の出どころから病変洞を推定する考え方は、鼻内所見の解釈や内視鏡手術の理解の土台になります。

解答・解説

正解はcです

図の読み取り

前鼻鏡検査(鼻鏡を外鼻孔に入れ、前方から鼻腔を観察する検査)で見える鼻腔の前額断に近い模式図である。左右の鼻腔が鼻中隔を挟んで並び、各鼻腔の外側壁からは上から順に中鼻甲介(上方の突出)と下鼻甲介(下方の突出)が内側へ張り出している。前鼻鏡で通常観察できるのは下鼻甲介・下鼻道・中鼻甲介・中鼻道と、その上内側に位置する嗅裂までであり、上鼻甲介・上鼻道は奥にあってふつうは直接見えない。 図の左側の鼻腔では、a は中鼻甲介と鼻中隔の間を上方に延びる細い隙間(嗅裂)、b は上方の突出である中鼻甲介、c は中鼻甲介の下で外側に入り込んだ空間(中鼻道)、d は下鼻甲介の下で外側に入り込んだ空間(下鼻道)、e は鼻甲介と鼻中隔の間を上下に走る共通の通路(総鼻道)の下部を指している。

考え方

副鼻腔の排泄路は、各洞が鼻腔のどこに開口しているかで決まる。上顎洞の自然口は中鼻道の半月裂孔(篩骨漏斗)に開いており、急性上顎洞炎で生じた膿は中鼻道から流出する。したがって前鼻鏡で中鼻道に膿性鼻漏を認めれば、上顎洞・前頭洞・前部篩骨洞のいずれか(前部副鼻腔群)の炎症を疑う。なお上顎洞の自然口は洞の内側壁の上方にあり、洞底よりかなり高い位置にあるため、重力による排膿が不利で、炎症による粘膜腫脹で自然口が閉塞すると膿が貯留しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  

    中鼻甲介と鼻中隔の間を上方へ延びる狭い間隙で、嗅裂にあたる。嗅裂の天井部には嗅上皮があり、ここが閉塞すると嗅覚障害(呼吸性嗅覚障害)の原因となる。嗅裂の奥には上鼻甲介と上鼻道があり、上鼻道には後部篩骨洞が、上鼻甲介の後上方の蝶篩陥凹には蝶形骨洞が開口する。したがってこの付近に膿がみられる場合は後部副鼻腔群(後部篩骨洞・蝶形骨洞)の病変を考え、上顎洞炎の排膿部位ではない。

  2. ×b.  

    外側壁から内側へ張り出す上方の突出で、中鼻甲介である。鼻甲介は鼻道を形成する突起そのものであり、副鼻腔の開口は存在しない。膿は鼻甲介の下にある鼻道から流出する。

  3. ○c.  

    中鼻甲介の下方で外側に入り込んだ空間で、中鼻道にあたる。中鼻道の外側壁には半月裂孔(篩骨漏斗)があり、上顎洞の自然口が開口している。前頭洞(前頭鼻管を経由)と前部篩骨洞も中鼻道に開口する。急性上顎洞炎では上顎洞内の膿が自然口を通って中鼻道へ排出されるため、前鼻鏡で中鼻道に膿性鼻漏を認める。これが本問の正解である。

  4. ×d.  

    下鼻甲介の下方で外側に入り込んだ空間で、下鼻道にあたる。下鼻道の前方には鼻涙管が開口しており、涙液はここから鼻腔へ流れる。副鼻腔の開口は存在しないため、上顎洞炎の膿がここから流出することはない。なお下鼻道側壁は上顎洞との隔壁が薄く、かつては上顎洞穿刺・洗浄の刺入部位として用いられた。

  5. ×e.  

    鼻甲介と鼻中隔の間を上下に連なる共通の通路で、総鼻道(その下部)にあたる。各鼻道とつながる空間ではあるが、副鼻腔の開口部そのものはない。副鼻腔炎では中鼻道から出た膿が総鼻道を伝って鼻腔底へ流れ落ちることはあるが、膿の「流出部位」として上顎洞炎を示すのは中鼻道である。

鼻腔と副鼻腔の開口部の整理

・上鼻道:後部篩骨洞 ・蝶篩陥凹(上鼻甲介の後上方):蝶形骨洞 ・中鼻道:上顎洞(半月裂孔)、前頭洞(前頭鼻管)、前部篩骨洞(中部の篩骨蜂巣を含む) ・下鼻道:鼻涙管(副鼻腔の開口はない)

前部副鼻腔群と後部副鼻腔群

中鼻道に開く上顎洞・前頭洞・前部篩骨洞をまとめて前部副鼻腔群、上鼻道・蝶篩陥凹に開く後部篩骨洞・蝶形骨洞を後部副鼻腔群と呼ぶ。膿が中鼻道から出れば前部群、嗅裂から上咽頭方向に流れれば後部群の病変を考える。後部群の膿は後鼻漏として咽頭へ流れやすく、後鼻鏡や内視鏡で確認する。

OMC(ostiomeatal complex、中鼻道自然口ルート)

中鼻道の前方には上顎洞・前頭洞・前部篩骨洞の排泄路が集まる狭い領域があり、OMCと呼ばれる。ここが粘膜腫脹で閉塞すると複数の洞の換気・排泄が障害されるため、副鼻腔炎の病態の要であり、内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)ではこの部位の開放が基本となる。

急性副鼻腔炎の概要

多くはウイルス性上気道炎に続発し、細菌感染(肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス)が加わる。症状は膿性鼻漏、鼻閉、後鼻漏、頬部痛・顔面痛、頭痛などで、上顎洞炎では頬部痛や上歯の痛みを訴えることがある。上顎洞底は上顎臼歯の歯根に近接しており、歯性上顎洞炎の原因にもなる。

POINT

・上顎洞・前頭洞・前部篩骨洞は中鼻道に開口する(上顎洞は半月裂孔) ・後部篩骨洞は上鼻道、蝶形骨洞は蝶篩陥凹に開口する ・下鼻道には鼻涙管が開口し、副鼻腔の開口はない ・前鼻鏡で中鼻道に膿を認めれば前部副鼻腔群の炎症を考える ・前鼻鏡の模式図では、中鼻甲介の下の外側の窪みが中鼻道、中鼻甲介と鼻中隔の間の上方の隙間が嗅裂

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。