かぜのあとに頰が痛む―膿性鼻汁が教える上顎洞のSOS
第118回医師国家試験 D問題 第23問
国試問題にチャレンジ
25歳の男性。左頰部の痛みと鼻汁を主訴に来院した。5日前から感冒症状があった。3日前に左頰部の痛みを自覚し左鼻腔から膿性鼻汁が出現した。左頰部の痛みが増強したため来院した。体温37.2℃。頰部の皮膚に発赤および腫脹を認めない。鼻鏡検査で左鼻腔内に膿性鼻汁を認めた。 診断はどれか。
- a.鼻せつ
- b.三叉神経痛
- c.急性副鼻腔炎
- d.頰部蜂窩織炎
- e.アレルギー性鼻炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
かぜに続いて片側の頰部痛と膿性鼻汁が出現した場合は、急性副鼻腔炎、特に上顎洞炎を考えます。ウイルス性上気道炎で副鼻腔の自然口がふさがり、肺炎球菌やインフルエンザ菌などが二次感染するのが典型的な発症様式です。頰部痛という点で重なる蜂窩織炎や鼻せつは皮膚所見の有無で、三叉神経痛は発作性の電撃痛で感染徴候がない点で、アレルギー性鼻炎は両側性の水様性鼻汁とくしゃみが主体である点で区別できます。痛みの部位から罹患洞を推定し、軽症は対症療法、中等症以上はペニシリン系抗菌薬で治療しますが、眼瞼腫脹や視力低下、意識障害は眼窩・頭蓋内合併症のサインとして見逃せません。日常診療で頻繁に出会う疾患だからこそ、陰性所見を含めて鑑別を組み立てる姿勢が身につく題材です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
25歳の男性。5日前に感冒(かぜ)症状が始まり、その2日後から左頰部の痛みと左側の膿性鼻汁が出現し、頰部痛は次第に強くなっている。体温37.2℃と微熱がある。頰部の皮膚には発赤・腫脹がなく、鼻鏡検査では左鼻腔内に膿性鼻汁が確認された。
診断に至る考え方
・経過:ウイルス性の上気道炎に引き続いて、片側の顔面痛と膿性鼻汁が出現するのは、急性副鼻腔炎の典型的な発症様式である。上気道炎で鼻粘膜が腫れると副鼻腔の自然口(鼻腔への開口部)がふさがり、副鼻腔内に分泌物がたまって二次的な細菌感染を起こしやすくなる。 ・痛みの部位:頰部は上顎洞の位置に相当し、上顎洞の炎症で頰部痛・圧痛が生じる。頰部の感覚は三叉神経第2枝(上顎神経)が支配するため、上顎洞の炎症は頰部や上歯の痛みとして感じられる。 ・局所所見:膿性鼻汁は細菌感染を示唆し、副鼻腔から排出された膿が鼻腔に流れ出ていると考えられる。 ・除外すべき疾患:頰部の痛みを起こす疾患として、皮膚・皮下組織の感染症(蜂窩織炎)や神経痛も鑑別に挙がるが、皮膚に発赤・腫脹がないこと、発熱や膿性鼻汁といった感染徴候を伴うことから、これらは否定的である。 以上から、感冒に続発した左上顎洞を主体とする急性副鼻腔炎と診断する。
選択肢考察
- ×a. 鼻せつ
鼻せつ(鼻癤)は、鼻の入り口である鼻前庭の皮膚にある毛包に黄色ブドウ球菌などが感染して生じる化膿性炎症である。鼻をいじる、鼻毛を抜くといった刺激が誘因となる。痛み・発赤・腫脹は鼻前庭から鼻尖・鼻翼にかけて限局し、頰部まで痛みが広がることはまれである。また、皮膚の感染症であり、鼻腔の奥からの膿性鼻汁は生じない。本例とは合わない。
- ×b. 三叉神経痛
三叉神経痛は、多くは血管による三叉神経根の圧迫が原因で、顔面の三叉神経支配領域(第2枝・第3枝に多い)に、洗顔・歯みがき・会話などをきっかけとして数秒~2分程度の電撃的な激痛が発作的に起こる疾患である。第2枝領域では頰部痛となるため部位は本例と重なるが、発熱や膿性鼻汁などの感染症状を伴わず、鼻内所見も正常である。持続的に増強する痛みという経過も合わない。
- ○c. 急性副鼻腔炎
感冒症状に続いて片側の頰部痛と膿性鼻汁が出現し、鼻鏡で膿性鼻汁を確認でき、さらに微熱を伴うという所見は急性副鼻腔炎に合致する。頰部痛は上顎洞の炎症を示唆する。ウイルス性上気道炎で副鼻腔の自然口が閉塞し、そこに肺炎球菌やインフルエンザ菌などの細菌が二次感染して発症することが多い。皮膚所見がないため皮膚・皮下の感染症は否定的であり、本例の診断として最も適切である。
- ×d. 頰部蜂窩織炎
蜂窩織炎は真皮深層から皮下組織に広がる細菌感染症で、頰部に生じれば頰部痛と発熱を伴う点は本例と共通する。しかし、患部の皮膚に発赤・腫脹・熱感・圧痛が出現するのが特徴であり、本例ではこれらがみられない。また、蜂窩織炎そのものでは膿性鼻汁は生じない。なお、歯性感染や副鼻腔炎が周囲に波及して顔面の蜂窩織炎を合併することはあるが、本例ではその所見はない。
- ×e. アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎は、ダニ・花粉などの吸入抗原に対する鼻粘膜のⅠ型(即時型)アレルギー疾患で、くしゃみ、水様性鼻汁、鼻閉が三主徴である。通常は両側性で、膿性鼻汁、発熱、顔面痛などの感染徴候は示さない。鼻鏡では蒼白で浮腫状の下鼻甲介がみられることが多い。片側の膿性鼻汁と頰部痛を示す本例とは合わない。
副鼻腔の構造と開口部
副鼻腔は上顎洞、篩骨洞(前部・後部)、前頭洞、蝶形骨洞の4種類からなり、いずれも細い開口部で鼻腔とつながっている。上顎洞・前頭洞・前部篩骨洞は中鼻道に、後部篩骨洞は上鼻道に、蝶形骨洞は蝶篩陥凹に開口する。このため、上顎洞炎・前頭洞炎・前部篩骨洞炎では中鼻道からの膿の流出が鼻鏡や内視鏡で確認できる。
罹患洞と痛みの部位
・上顎洞:頰部痛、上の歯の痛み ・前頭洞:前頭部(額)の痛み ・篩骨洞:眼の奥・内眼角付近の痛み ・蝶形骨洞:頭の深部、後頭部、頭頂部の痛み
急性副鼻腔炎の要点
・発症から4週以内の副鼻腔の急性炎症を指し、鼻腔の炎症を伴うことから急性鼻副鼻腔炎とも呼ばれる。 ・多くはウイルス性上気道炎に続発する。主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスである。 ・症状は膿性(粘膿性)鼻汁、後鼻漏、鼻閉、顔面痛・頭痛、嗅覚低下など。 ・診断は症状と鼻内所見(膿性鼻汁)が中心で、必要に応じて単純X線(Waters法)やCTで副鼻腔の液体貯留・粘膜肥厚を確認する。 ・治療は軽症なら鼻処置や対症療法で経過をみ、中等症以上や改善しない場合は抗菌薬(第一選択はアモキシシリンなどのペニシリン系)を用いる。 ・まれに眼窩内(眼窩蜂窩織炎・眼窩骨膜下膿瘍)や頭蓋内(髄膜炎・脳膿瘍)へ炎症が波及する。眼瞼腫脹、眼球運動障害、視力低下、意識障害などがあれば緊急の対応が必要である。
慢性副鼻腔炎との違い
症状が12週以上続くものを慢性副鼻腔炎という。近年は好酸球浸潤と鼻茸(鼻ポリープ)を特徴とし、気管支喘息を合併しやすい好酸球性副鼻腔炎が増えている。
POINT
・感冒に続く片側の顔面痛+膿性鼻汁は急性副鼻腔炎を考える。 ・頰部痛は上顎洞炎を示唆する(前頭部痛は前頭洞、眼の奥は篩骨洞、後頭部・頭部深部は蝶形骨洞)。 ・皮膚に発赤・腫脹がなければ蜂窩織炎は否定的である。 ・アレルギー性鼻炎は水様性鼻汁・くしゃみ・鼻閉が主体で、膿性鼻汁や発熱は示さない。 ・三叉神経痛は誘因のある発作性の電撃痛で、感染徴候や鼻内異常を伴わない。 ・急性副鼻腔炎の主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスである。
