26歳の高血圧に潜む腹部の雑音―レニンとアルドステロンが示す高安動脈炎
第105回医師国家試験 D問題 第26問
国試問題にチャレンジ
26歳の女性。会社の定期健康診断で高血圧を指摘され来院した。脈拍72/分,整。血圧(右上肢)176/98 mmHg。心音に異常を認めない。上腹部に血管性雑音を聴取する。血液所見:赤血球450万,Hb 13.4 g/dL,Ht 42%,白血球4,200,血小板24万。血液生化学所見:尿素窒素16 mg/dL,クレアチニン1.0 mg/dL,総コレステロール160 mg/dL,Na 142 mEq/L,K 3.0 mEq/L,Cl 98 mEq/L,アルドステロン60 ng/dL(基準5~10),血漿レニン活性〈PRA〉16 ng/mL/時間(基準1.2~2.5)。CRP 3.8 mg/dL。 最も考えられるのはどれか。
- a.Liddle症候群
- b.Bartter症候群
- c.大動脈炎症候群
- d.甲状腺機能亢進症
- e.原発性アルドステロン症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年者の高度の高血圧では二次性高血圧を疑い、低カリウム血症を伴う場合はレニンとアルドステロンの組み合わせで鑑別します。レニン・アルドステロンがともに高値なら腎血管性高血圧などの続発性アルドステロン症を考え、上腹部の血管雑音は腎動脈狭窄を示唆し、若年女性でCRP上昇を伴えば高安動脈炎(大動脈炎症候群)が最も考えられます。原発性アルドステロン症はレニン低値、Liddle症候群はレニン・アルドステロンともに低値、Bartter症候群は高レニン・高アルドステロンでも血圧は正常から低めである点が鑑別の要です。高安動脈炎では上肢血圧の左右差や大動脈弁閉鎖不全症にも注意し、治療の第一選択は副腎皮質ステロイドです。検査値のパターンと身体所見・背景を組み合わせて病態を読み解く力は、内分泌・腎・膠原病にまたがる高血圧診療の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・26歳の若年女性で、健康診断で高血圧(右上肢176/98 mmHg)を指摘された。若年発症の高度高血圧であり、まず二次性高血圧を考える。 ・上腹部で血管性雑音が聴取される。腹部大動脈や腎動脈の狭窄で乱流が生じていることを示唆する、重要な身体所見である。 ・血液検査:K 3.0 mEq/Lと低カリウム血症がある。アルドステロン60 ng/dL、血漿レニン活性(PRA)16 ng/mL/時と、どちらも著明に高い(高レニン性高アルドステロン症=続発性アルドステロン症)。 ・CRP 3.8 mg/dLで、炎症反応が陽性である。 ・クレアチニン1.0 mg/dLで腎機能はおおむね保たれている。総コレステロール160 mg/dLは正常範囲、脈拍72/分で頻脈はない。
診断へのプロセス
① 高血圧に低カリウム血症を伴うときは、レニンとアルドステロンの組み合わせで鑑別する。 ・レニン低値・アルドステロン高値:原発性アルドステロン症。 ・レニン高値・アルドステロン高値:腎血管性高血圧、レニン産生腫瘍、悪性高血圧など。 ・レニン低値・アルドステロン低値:Liddle症候群、アルドステロン以外の鉱質コルチコイドの過剰(Cushing症候群、偽性アルドステロン症〈甘草〉など)。 ② 本例はレニン・アルドステロンがともに高く、上腹部に血管雑音があるので、腎動脈狭窄による腎血管性高血圧が考えられる。腎動脈が狭窄すると腎血流が減り、傍糸球体装置からレニンが過剰に分泌される。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化する結果、高血圧と低カリウム血症が生じる。 ③ 若年者の腎動脈狭窄の原因としては、線維筋性異形成と高安動脈炎が重要である(中高年では動脈硬化によるものが多い)。本例では若年女性であることに加えてCRPの上昇(全身性の炎症)があり、大型血管炎である高安動脈炎(大動脈炎症候群)が最も考えられる。 ④ 血圧が右上肢でのみ記載されている点も手がかりになる。高安動脈炎では鎖骨下動脈に狭窄が起こりやすく、血圧に左右差が出ることが多い。四肢の血圧を測定して比べることが診断に役立つ。
選択肢考察
- ×a. Liddle症候群
誤りである。Liddle症候群は常染色体顕性(優性)遺伝の疾患で、集合管の上皮型Naチャネル(ENaC)を活性化させる遺伝子変異をもつ。アルドステロンがなくてもNa再吸収とK排泄が亢進し、若年から高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシスを呈する。体液量が増えるため、レニンもアルドステロンもともに抑制されて低値になる。本例のようにレニン・アルドステロンがともに高値となることはない。治療にはENaC阻害薬(アミロライド、トリアムテレン)が有効で、スピロノラクトンは効かない。
- ×b. Bartter症候群
誤りである。Bartter症候群は、Henleループの太い上行脚でのNaCl再吸収が障害される遺伝性の尿細管機能異常症である(ループ利尿薬を常用しているのと同じ状態)。低カリウム血症・代謝性アルカローシス・高レニン・高アルドステロンを呈する点は本例と共通する。しかし、Na喪失で循環血液量が減るうえ、プロスタグランジン産生の亢進などで血管がアンジオテンシンIIに反応しにくいため、血圧は正常〜低めである。本例のような高度の高血圧はBartter症候群の特徴に反する。
- ○c. 大動脈炎症候群
正解である。大動脈炎症候群(高安動脈炎)は、大動脈とその主要な分枝に起こる大型血管炎で、若年女性に好発する。本例の所見は次のように整理できる。①若年女性である。②上腹部の血管雑音は、腹部大動脈・腎動脈の狭窄を示唆する。③レニン・アルドステロンがともに高く、低カリウム血症を伴う。これは腎動脈狭窄による腎血管性高血圧で、続発性アルドステロン症の状態である。④CRPが上昇しており、活動性の炎症がある。以上の組み合わせは本症に典型的である。
- ×d. 甲状腺機能亢進症
誤りである。甲状腺機能亢進症では、心拍出量が増えて末梢血管抵抗が下がるため、収縮期血圧が上がって脈圧が広がる。頻脈、体重減少、発汗過多、手指振戦などを伴い、LDLの異化が亢進するので総コレステロールは低下することが多い。本例は脈拍72/分で頻脈がなく、総コレステロールも正常で、拡張期血圧も上昇している。甲状腺中毒症状の記載もない。甲状腺機能亢進症では、レニン・アルドステロンの著明な上昇や上腹部の血管雑音も説明できない。
- ×e. 原発性アルドステロン症
誤りである。原発性アルドステロン症は、副腎の腺腫や過形成がアルドステロンを自律的に過剰分泌する疾患である。高血圧と低カリウム血症を呈する点は本例と一致する。しかし、アルドステロン過剰によって体液量が増えるため、負のフィードバックでレニンは強く抑制される(低レニン)。スクリーニングではアルドステロン/レニン比(ARR)が高値となる。本例はPRAが16 ng/mL/時と著明に高く、原発性ではなく、レニン上昇を起点とする続発性アルドステロン症と判断される。
高安動脈炎(大動脈炎症候群)の概要
・大動脈、その主要分枝(鎖骨下動脈、頸動脈、腎動脈など)、肺動脈、冠動脈に起こる肉芽腫性の大型血管炎である。狭窄・閉塞・拡張・動脈瘤をきたす。 ・日本では若年女性に多く、男女比は約1:8である。発症年齢のピークは20歳前後だが、中高年での発症もある。指定難病である。 ・HLA-B52との関連が知られ、潰瘍性大腸炎の合併が比較的多い。
症状・所見
・全身の炎症症状:発熱、全身倦怠感、体重減少。 ・頭部の虚血症状:めまい、失神、視力障害。 ・上肢の虚血症状:上肢のしびれ、易疲労感、脈の触れにくさ(脈なし病)、血圧の左右差(10 mmHg以上)。 ・血管雑音:頸部、鎖骨上窩、腹部で聴取する。 ・高血圧:腎動脈狭窄による腎血管性高血圧、大動脈縮窄に似た異型大動脈縮窄症による高血圧。 ・大動脈弁閉鎖不全症:上行大動脈の拡張による。予後に大きく関わる。 ・その他:虚血性心疾患、肺動脈病変。 ・検査:赤沈亢進、CRP上昇(疾患活動性の指標)。 ・画像:造影CT・MRアンギオグラフィで壁肥厚・狭窄・拡張をみる。頸動脈エコーでは総頸動脈壁がびまん性に肥厚する(マカロニサイン)。FDG-PETで血管壁の炎症を評価できる。
治療
・副腎皮質ステロイドが第一選択である。 ・再燃例や難治例では免疫抑制薬(メトトレキサートなど)や生物学的製剤(トシリズマブなど)を併用する。 ・高度の狭窄・弁膜症・動脈瘤には、炎症を抑えたうえで血行再建術や弁置換術を検討する。
腎血管性高血圧のポイント
・原因:中高年では粥状動脈硬化、若年では線維筋性異形成と高安動脈炎。 ・所見:腹部血管雑音、高レニン・高アルドステロン、低カリウム血症、腎サイズの左右差。 ・ACE阻害薬・ARBの使用で急激に腎機能が悪化することがある(特に両側性の狭窄)。
高血圧+低カリウム血症の鑑別(レニン/アルドステロン)
・レニン↓・アルドステロン↑:原発性アルドステロン症。 ・レニン↑・アルドステロン↑:腎血管性高血圧、レニン産生腫瘍、悪性高血圧。 ・レニン↓・アルドステロン↓:Liddle症候群、偽性アルドステロン症(甘草)、Cushing症候群、11β-水酸化酵素欠損症・17α-水酸化酵素欠損症。 ・参考(正常〜低血圧):Bartter症候群・Gitelman症候群はレニン↑・アルドステロン↑。
POINT
・若年女性の高血圧+腹部血管雑音+CRP上昇では、高安動脈炎による腎血管性高血圧を考える。 ・高血圧+低カリウム血症は、レニンとアルドステロンの組み合わせで鑑別する。ともに高値なら続発性(腎血管性など)、レニン低値・アルドステロン高値なら原発性アルドステロン症、ともに低値ならLiddle症候群・偽性アルドステロン症。 ・Bartter症候群は高レニン・高アルドステロンだが、血圧は正常である。 ・高安動脈炎では上肢血圧の左右差、脈拍の消失、大動脈弁閉鎖不全症に注意する。治療の第一選択は副腎皮質ステロイドである。
