繰り返す気胸は「嚢胞」のサイン―若い女性の肺に潜むリンパ脈管筋腫症
第105回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
気胸を合併しやすいのはどれか。
- a.肺分画症
- b.肺過誤腫
- c.過敏性肺炎
- d.肺カルチノイド
- e.肺リンパ脈管筋腫症
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
続発性気胸の多くは、肺内にできた嚢胞や脆弱化した組織が胸膜側へ破れることで生じるため、「肺に多発性の嚢胞をつくる疾患か」を考えると判断しやすくなります。肺リンパ脈管筋腫症(LAM)はほぼ妊娠可能年齢の女性に発症し、TSC1/TSC2異常によるmTOR経路の活性化を背景に両肺へ薄壁嚢胞が多発するため、反復性の気胸が特徴で、乳び胸水や腎血管筋脂肪腫を合併し、シロリムスで治療します。肺分画症(異常動脈と反復性肺炎)、肺過誤腫(ポップコーン様石灰化)、肺カルチノイド(中枢気管支閉塞)、過敏性肺炎(有機抗原によるアレルギー性間質性肺炎)は、いずれも気胸を合併しやすい疾患ではありません。COPD、Birt-Hogg-Dubé症候群、月経随伴性気胸などと合わせ、気胸の背景にある肺疾患を見逃さない視点は臨床で重要です。
解答・解説
正解はeです
【テーマ】気胸を起こしやすい基礎疾患。 気胸は胸膜腔に空気が入り、肺が虚脱した状態である。基礎疾患のない若年男性(やせ型・高身長)に多い原発性自然気胸は、肺尖部の小さなブラ・ブレブ(胸膜直下の気腫性嚢胞)の破裂による。一方、基礎となる肺疾患があって生じるものを続発性気胸と呼び、その多くは「肺内に嚢胞や組織の脆弱化が生じ、それが胸膜側へ破れる」という共通の機序をもつ。 したがって、ある疾患が気胸を合併しやすいかどうかは、その疾患で肺に多発性の嚢胞や気腔の破壊が生じるかを考えればよい。選択肢の中で、両肺にびまん性の薄壁嚢胞を多数形成するのは肺リンパ脈管筋腫症(LAM)であり、気胸を繰り返すことが特徴的である。肺分画症・肺過誤腫・肺カルチノイドは限局した病変(先天異常や腫瘍)であり、過敏性肺炎は炎症性の間質性肺炎で、いずれも気胸の合併は典型的ではない。
選択肢考察
- ×a. 肺分画症
肺分画症は、正常な気管支と交通をもたない肺組織が、大動脈(胸部・腹部大動脈)から分岐する異常動脈によって栄養される先天異常である。正常肺と同じ胸膜に包まれる肺葉内型(左下葉の後肺底区に多い)と、独立した胸膜に包まれる肺葉外型がある。肺葉内型では反復する肺炎・肺膿瘍を起こしやすく、造影CTやMRAで異常動脈を確認して診断し、切除で治療する。気胸の合併は特徴ではない。
- ×b. 肺過誤腫
肺過誤腫は、軟骨・脂肪・平滑筋・上皮などの肺を構成する組織が不規則に混在して増殖した良性腫瘍で、肺の良性腫瘍の中で最も頻度が高い。多くは無症状で、胸部X線やCTで境界明瞭な孤立性結節として偶然発見される。CTでのポップコーン様石灰化や脂肪濃度の存在が診断の手がかりとなる。気胸を合併しやすい疾患ではない。
- ×c. 過敏性肺炎
過敏性肺炎は、真菌(トリコスポロンなど)、鳥の羽毛・糞、農作業時の好熱性放線菌などの有機粉塵を反復吸入することで起こる、Ⅲ型およびⅣ型アレルギーを機序とする間質性肺炎である。抗原曝露後に発熱・咳・呼吸困難を繰り返し、CTでは両側びまん性のすりガラス影や小葉中心性粒状影を示す。抗原回避が治療の基本である。慢性化して線維化が進み蜂巣肺となった末期には気胸を起こすことがあるが、気胸を合併しやすい疾患として挙げられるものではない。
- ×d. 肺カルチノイド
肺カルチノイドは神経内分泌細胞由来の低悪性度腫瘍で、定型カルチノイドと非定型カルチノイドに分けられる。中枢の太い気管支に発生することが多く、気管支内腔に突出して閉塞性肺炎や無気肺、血痰を生じる。まれにカルチノイド症候群(顔面紅潮、下痢など)やCushing症候群を伴う。気管支閉塞による無気肺は起こしても、気胸の合併は特徴ではない。
- ○e. 肺リンパ脈管筋腫症
肺リンパ脈管筋腫症(LAM)は、平滑筋様の異常細胞(LAM細胞)が肺やリンパ系で増殖する、ほぼ妊娠可能年齢の女性に限って発症するまれな疾患である。TSC1/TSC2遺伝子の異常によりmTOR経路が活性化することが原因で、結節性硬化症に合併するものと孤発性のものがある。LAM細胞の増殖により両肺にびまん性の薄壁嚢胞が多数形成され、その破裂によって気胸を繰り返す(しばしば初発症状となる)。そのほか労作時呼吸困難、乳び胸水、腎血管筋脂肪腫の合併が特徴であり、治療にはmTOR阻害薬のシロリムスが用いられる。
気胸の分類
・自然気胸 原発性:基礎疾患なし。10〜20代のやせ型・高身長の男性に多く、肺尖部のブラ・ブレブの破裂による。喫煙が危険因子。 続発性:基礎肺疾患に伴う。 ・外傷性気胸:肋骨骨折、刺創など。 ・医原性気胸:中心静脈カテーテル挿入、経皮的肺生検、陽圧換気など。
続発性気胸をきたす主な疾患
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)・肺気腫:高齢男性の続発性気胸で最も多い。 ・嚢胞性肺疾患:肺リンパ脈管筋腫症(LAM)、Birt-Hogg-Dubé症候群(FLCN遺伝子異常、下肺野・縦隔側の嚢胞、腎腫瘍・皮膚病変)、肺Langerhans細胞組織球症(喫煙男性、上中肺野の嚢胞・結節)。 ・結合組織疾患:Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群。 ・感染症:ニューモシスチス肺炎(HIV感染者)、結核、壊死性肺炎。 ・悪性腫瘍:骨肉腫の肺転移、血管肉腫など。 ・月経随伴性気胸:胸腔内子宮内膜症による。月経開始前後に起こり、右側に多い。 ・間質性肺炎末期の蜂巣肺。
LAMの要点
・妊娠可能年齢の女性。エストロゲンが病態の進行に関与するとされ、妊娠で増悪しうる。 ・胸部CT:両肺びまん性の境界明瞭な薄壁嚢胞。 ・合併:気胸(反復性)、乳び胸水・乳び腹水、腎血管筋脂肪腫、結節性硬化症。 ・血清VEGF-D高値が診断の補助となる。 ・治療:シロリムス(mTOR阻害薬)。進行例では肺移植も選択肢となる。
POINT
・続発性気胸は「肺に嚢胞をつくる疾患」で起こりやすい。 ・若年女性の反復性気胸 → LAM(多発薄壁嚢胞、乳び胸水、腎血管筋脂肪腫、結節性硬化症、シロリムス)と月経随伴性気胸を想起する。 ・肺分画症は大動脈由来の異常動脈と反復性肺炎、肺過誤腫はポップコーン様石灰化、肺カルチノイドは中枢気管支の閉塞、過敏性肺炎は有機抗原吸入によるⅢ・Ⅳ型アレルギー。
