「何を測るための検査か」で見抜く―統合失調症の評価にMMSEがそぐわない理由
第105回医師国家試験 B問題 第11問
国試問題にチャレンジ
統合失調症の心理・精神機能評価として適切でない検査はどれか。
- a.Rorschachテスト
- b.Minnesota多面人格検査〈MMPI〉
- c.Mini-Mental State Examination〈MMSE〉
- d.ウィスコンシンカードソーティングテスト〈WCST〉
- e.簡易精神症状評価尺度[Brief Psychiatric Rating Scale〈BPRS〉]
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
統合失調症の評価では、精神症状の重症度をBPRSやPANSSで、人格や思考の特徴を投影法のRorschachテストや質問紙法のMMPIで、前頭葉の遂行機能をWCSTなどの神経心理学的検査で評価します。一方、MMSEは見当識や記憶を大まかにみる認知症スクリーニング検査(30点満点、23点以下で認知症疑い)であり、見当識が保たれることの多い統合失調症では天井効果で異常が出にくく、評価には適しません。統合失調症の認知機能障害の中心は注意、作業記憶、遂行機能、処理速度などの障害で、社会生活や就労の予後に関わる重要な要素です。検査名を暗記するだけでなく「何を評価するために作られた検査か」を理解しておくと、精神科の検査選択や結果の解釈を臨床で適切に行えるようになります。
解答・解説
正解はcです
統合失調症の評価では、①幻覚・妄想・陰性症状などの精神症状がどの程度あるか、②人格傾向や思考の特徴がどうか、③遂行機能・注意・記憶などの認知機能がどの程度障害されているか、といった複数の側面をみる。それぞれに対応する検査として、症状評価尺度(BPRS、PANSSなど)、人格検査(投影法のRorschachテスト、質問紙法のMMPIなど)、神経心理学的検査(WCSTなど)が用いられる。 一方、統合失調症では意識や見当識、記銘力といった基本的な知的機能は比較的保たれることが多い。認知機能障害はあるものの、その中心は前頭葉が担う遂行機能・注意・作業記憶などの障害であり、認知症を拾い上げるために作られた簡便なスクリーニング検査では十分に捉えられない。 したがって、各検査が「何を評価するために作られたか」を押さえれば、統合失調症の評価として適切でないのは、認知症のスクリーニング検査であるMMSEだと判断できる。
選択肢考察
- ×a. Rorschachテスト
統合失調症の評価に用いられる検査であり、適切である。Rorschachテストは左右対称のインクのしみの図版10枚を見せ、何に見えるかを自由に答えさせる投影法の人格検査である。反応内容だけでなく、図版のどの部分に注目したか、形の捉え方が正確かなどを分析する。統合失調症では、形態の把握が不正確な反応や、奇妙で論理のまとまらない反応(思考障害を反映)がみられやすく、思考の特徴や現実検討能力を評価する手がかりとなる。
- ×b. Minnesota多面人格検査〈MMPI〉
統合失調症の評価に用いられる検査であり、適切である。MMPIは550項目の質問に「はい」「いいえ」などで答える質問紙法の人格検査である。心気症、抑うつ、ヒステリー、精神病質的偏倚、パラノイア、精神衰弱、統合失調症、軽躁病などの臨床尺度と、回答の信頼性をみる妥当性尺度から構成され、統合失調症尺度も含まれている。性格特性や精神病理の傾向を多面的に把握するのに用いられる。
- ○c. Mini-Mental State Examination〈MMSE〉
適切でない検査であり、これが正解である。MMSEは認知症のスクリーニングを目的とした簡便な認知機能検査で、見当識(時間・場所)、記銘、注意と計算(100から7を順に引く)、再生、物品呼称、復唱、口頭指示、読字、書字、図形模写の項目からなる。満点は30点で、23点以下で認知症が疑われる。見当識や記憶など基本的な能力を大まかにみる検査であるため、見当識や記銘力が保たれることの多い統合失調症では天井効果により異常が出にくく、統合失調症に特徴的な遂行機能障害や精神症状の評価には適さない。
- ×d. ウィスコンシンカードソーティングテスト〈WCST〉
統合失調症の評価に用いられる検査であり、適切である。WCSTは、色・形・数の異なる図形が描かれたカードを、検者が告げずに決めた分類規則に従って分類させる神経心理学的検査である。被検者は「正しい」「誤り」のフィードバックだけを手がかりに規則を推測し、途中で規則が変わると柔軟に切り替える必要がある。前頭葉(背外側前頭前野)が担う遂行機能、概念の形成や構えの転換を評価する。統合失調症では前頭葉機能の低下が知られ、達成できる分類カテゴリー数が少なく、前の規則に固執する保続的な誤りが多くなりやすい。
- ×e. 簡易精神症状評価尺度[Brief Psychiatric Rating Scale〈BPRS〉]
統合失調症の評価に用いられる検査であり、適切である。BPRSは面接と観察に基づいて評価者が精神症状の有無と重症度を評価する尺度である。心気的訴え、不安、感情的引きこもり、概念の統合障害、罪業感、緊張、衒奇的な行動や姿勢、誇大性、抑うつ気分、敵意、猜疑心、幻覚、運動減退、非協調性、不自然な思考内容、情動の平板化などの項目を、それぞれ段階的に評定する。統合失調症をはじめとする精神病性障害の症状評価や、薬物療法の効果判定に広く使われている。
主な心理・精神機能検査の分類
1. 人格検査 ・質問紙法:MMPI、YG(矢田部-Guilford)性格検査、TEG(東大式エゴグラム)など。実施・採点が容易だが、意図的に回答をゆがめることもできる。 ・投影法:Rorschachテスト、TAT(主題統覚検査)、P-Fスタディ(絵画欲求不満テスト)、SCT(文章完成法)、バウムテスト(樹木画)など。曖昧な刺激に対する反応から、本人が意識していない面も含めて人格を推定する。 ・作業検査法:内田-Kraepelin精神作業検査。 2. 知能検査 ・WAIS(成人)、WISC(児童)、田中-Binet式知能検査など。 3. 認知症のスクリーニング ・MMSE(30点満点、23点以下で認知症疑い) ・改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R、30点満点、20点以下で認知症疑い) 4. 神経心理学的検査(前頭葉機能など) ・WCST、Trail Making Test、ストループテスト、語流暢性課題、FAB(前頭葉機能検査)など。 5. 精神症状評価尺度 ・統合失調症:BPRS、PANSS(陽性・陰性症状評価尺度) ・うつ病:HAM-D(Hamiltonうつ病評価尺度)、MADRS、BDI、SDSなど。
統合失調症の認知機能障害
統合失調症では、注意、作業記憶、言語性記憶、遂行機能、処理速度などの障害が発症早期からみられ、社会生活や就労の予後に関わる。一方、意識は清明で見当識も通常保たれる。
POINT
・MMSEは認知症のスクリーニング検査(30点満点、23点以下で認知症疑い)であり、統合失調症の評価には適さない。 ・統合失調症の症状評価:BPRS、PANSS。 ・人格検査:投影法(Rorschachなど)と質問紙法(MMPIなど)。 ・WCSTは前頭葉の遂行機能(構えの転換)を評価し、統合失調症で成績低下がみられやすい。
