顔は同側、体は反対側―交叉の位置で解き明かすWallenberg症候群
第105回医師国家試験 A問題 第9問
国試問題にチャレンジ
延髄背外側梗塞で病巣と反対側にみられるのはどれか。
- a.軟口蓋の麻痺
- b.Babinski徴候
- c.Horner症候群
- d.小脳性運動失調
- e.頸部以下の温痛覚障害
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
延髄背外側梗塞(Wallenberg症候群)は主に椎骨動脈や後下小脳動脈の閉塞で起こり、症状の左右は障害された経路が交叉の前か後かで決まります。脳神経核とその線維、下小脳脚、交感神経下行路は交叉しないため、顔面の温痛覚障害、軟口蓋・咽頭・喉頭の麻痺、Horner症候群、小脳性運動失調はいずれも病巣側に出ます。これに対して外側脊髄視床路は脊髄で既に交叉しているため、頸部以下の温痛覚障害は病巣と反対側に生じ、顔と体で左右が逆になる交叉性感覚障害が特徴となります。錐体路と内側毛帯は腹内側を通るため障害されず、片麻痺やBabinski徴候を示す延髄内側症候群との対比が鑑別の要点です。交叉の位置から症状の左右を導く考え方は、脳幹梗塞全般の局在診断に応用できる重要な基礎です。
解答・解説
正解はeです
延髄背外側梗塞は延髄背外側症候群(Wallenberg症候群)とよばれ、多くは椎骨動脈あるいは後下小脳動脈(PICA)の閉塞で起こる。延髄の背外側部には、三叉神経脊髄路とその核、疑核(舌咽神経・迷走神経の運動核)、前庭神経核、下小脳脚、交感神経の下行路、外側脊髄視床路が集まっている。一方、錐体路(延髄錐体)と内側毛帯は延髄の腹内側を通るため、この梗塞では通常障害されない。 症状が病巣と同側に出るか反対側に出るかは、「障害された構造が交叉の前か後か」で決まる。延髄の脳神経核や、そこから出る線維、下小脳脚、交感神経下行路はいずれも交叉せずに同側を支配しているため、症状は病巣と同じ側に出る。これに対して外側脊髄視床路は、脊髄に入った直後(1〜2髄節上行する間)に前交連で反対側へ交叉してから上行する。そのため延髄レベルで損傷されると、病巣と反対側の頸部以下(体幹・四肢)に温痛覚障害が生じる。 つまり本症候群では「顔面の温痛覚障害は病巣側、頸部以下の温痛覚障害は反対側」という交叉性(解離性)の感覚障害が特徴であり、病巣と反対側に出る主な症状はこの頸部以下の温痛覚障害である。
選択肢考察
- ×a. 軟口蓋の麻痺
軟口蓋・咽頭・喉頭の筋は、延髄の疑核から出る舌咽神経・迷走神経の支配を受ける。延髄背外側梗塞ではこの疑核そのものが壊れる(核性の障害)。末梢神経の障害と同じく同側の筋が麻痺するため、症状は病巣側に出る。病巣側の軟口蓋が挙上せず、発声時に口蓋垂が健側へ引かれる(カーテン徴候)ほか、嚥下障害や嗄声(声帯麻痺による)を伴う。
- ×b. Babinski徴候
Babinski徴候は錐体路(皮質脊髄路)の障害を示す病的反射である。延髄では錐体路は腹側の錐体を通り、後下小脳動脈や椎骨動脈の外側枝が灌流する背外側部には含まれない。そのため延髄背外側梗塞では、錐体路徴候(片麻痺やBabinski徴候)は原則として出ない。錐体路と内側毛帯が障害されるのは、前脊髄動脈領域の延髄内側症候群(Dejerine症候群)である。この場合は反対側の片麻痺・深部感覚障害と、同側の舌下神経麻痺が組み合わさる。
- ×c. Horner症候群
Horner症候群は眼瞼下垂(瞼裂狭小)、縮瞳、顔面の発汗低下を3徴とする。視床下部から出た交感神経の一次ニューロンは、脳幹の外側部を交叉せずに下行し、C8〜T2レベルの毛様体脊髄中枢に至る。この経路はどこで障害されても同側の眼・顔面に症状が出るため、延髄背外側梗塞でもHorner症候群は病巣側にみられる。
- ×d. 小脳性運動失調
延髄背外側部には下小脳脚(索状体)があり、後脊髄小脳路などの小脳への入力線維が通る。小脳半球は同側の体幹・四肢の協調運動を担うため、下小脳脚が障害されると病巣側の上下肢に運動失調(測定障害など)が起こる。後下小脳動脈の閉塞で小脳下面も梗塞に陥れば、同じく同側性の失調が加わる。歩行時に病巣側へ倒れやすい(側方突進)ことも知られている。
- ○e. 頸部以下の温痛覚障害
体幹・四肢の温痛覚は外側脊髄視床路が伝える。この線維は後根から脊髄に入るとすぐに前交連で反対側へ交叉し、反対側の側索を上行して延髄の背外側部を通る。そのため延髄背外側梗塞でこの経路が損傷されると、病巣と反対側の頸部以下に温痛覚障害が生じる。延髄で交叉を終えている経路なので反対側に症状が出るという点で、選択肢中唯一の反対側症状である。一方、顔面の温痛覚は交叉前の三叉神経脊髄路・脊髄路核の障害で病巣側が低下するため、顔と体で左右が逆になる交叉性感覚障害となる。なお触覚・深部感覚を伝える後索-内側毛帯系は腹内側を通るため保たれることが多く、温痛覚だけが障害される解離性感覚障害の形をとる。
延髄背外側症候群(Wallenberg症候群)の症状と責任病巣
病巣側に出るもの ・顔面の温痛覚障害:三叉神経脊髄路・脊髄路核 ・軟口蓋・咽頭・喉頭の麻痺(嚥下障害、構音障害、嗄声):疑核(舌咽・迷走神経) ・Horner症候群:交感神経下行路 ・小脳性運動失調、病巣側への側方突進:下小脳脚、小脳 病巣側・反対側を問わないもの ・めまい、悪心・嘔吐、眼振:前庭神経核 ・吃逆(しゃっくり)を伴うこともある 病巣と反対側に出るもの ・頸部以下(体幹・四肢)の温痛覚障害:外側脊髄視床路 障害されないもの ・錐体路(片麻痺・Babinski徴候は出ない) ・内側毛帯(触覚・深部感覚は保たれる) ・舌下神経(舌の偏位は出ない)
原因血管
椎骨動脈または後下小脳動脈(PICA)の閉塞が多い。若年者では椎骨動脈解離が原因となることがあり、後頸部痛を伴うことが手がかりになる。
延髄内側症候群(Dejerine症候群)との対比
前脊髄動脈や椎骨動脈の傍正中枝の閉塞で起こる。病巣側の舌下神経麻痺(挺舌で舌が病巣側へ偏位)、反対側の片麻痺(錐体路)、反対側の深部感覚障害(内側毛帯)を呈する。
同側・反対側を判断する原則
脳神経核とその線維、小脳への入力、交感神経下行路の障害は同側に出る。長い上行路・下行路(脊髄視床路、錐体路、内側毛帯)は、交叉の後で障害されると反対側に症状が出る。
POINT
・延髄背外側症候群は椎骨動脈・後下小脳動脈の閉塞で起こる。 ・病巣と反対側に出るのは頸部以下の温痛覚障害だけ(外側脊髄視床路は脊髄で交叉済み)。 ・顔面の温痛覚障害、軟口蓋・咽頭麻痺、Horner症候群、小脳性運動失調は病巣側に出る。 ・錐体路は腹側にあるため、片麻痺やBabinski徴候は出ない。 ・顔と体で温痛覚障害の側が逆になる交叉性感覚障害が特徴である。
