StudyMed医師国家試験

顔は同側、体は反対側―交叉の位置で解き明かすWallenberg症候群

第105回医師国家試験 A問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第105回 A問題 第9問

延髄背外側梗塞で病巣と反対側にみられるのはどれか。

  1. a.軟口蓋の麻痺
  2. b.Babinski徴候
  3. c.Horner症候群
  4. d.小脳性運動失調
  5. e.頸部以下の温痛覚障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は延髄背外側梗塞、いわゆるWallenberg症候群で、症状が病巣と同じ側に出るか反対側に出るかを問う問題だ。丸暗記に頼らず、「障害された経路が交叉する前か後か」という原則で考えると迷わなくなる。まず延髄の背外側部にどんな構造が集まっているか、思い出せるかな。
医学生医学生
解剖学の脳幹の講義で、三叉神経脊髄路核、疑核、前庭神経核、下小脳脚、それに脊髄視床路が通ると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。そこに交感神経の下行路も加えておこう。逆に、錐体路と内側毛帯は延髄の腹内側を通るから、背外側の梗塞では通常は障害されない。原因血管は椎骨動脈か後下小脳動脈、つまりPICAの閉塞が多い。
医学生医学生
同側か反対側かを決める原則というのは、どういうことですか。
ドクタードクター
脳神経核やそこから出る線維、下小脳脚、交感神経の下行路は、いずれも交叉せずに同じ側を支配している。だから壊れれば症状は病巣側に出る。一方、長い上行路や下行路は、どこで交叉するかによって左右が変わる。ここで外側脊髄視床路を考えよう。体の温痛覚を伝えるこの線維はどこで交叉する?
医学生医学生
脊髄に入ってすぐ、前交連で反対側に渡ります。だから延髄に来たときにはもう反対側の情報を運んでいる……ということは、頸部以下の温痛覚障害は病巣と反対側に出ますね。
ドクタードクター
正解だ。これが選択肢の中で唯一の反対側症状になる。一方で顔面の温痛覚は、まだ交叉していない三叉神経脊髄路と脊髄路核が壊れるから病巣側で低下する。顔と体で左右が逆になる、これが交叉性感覚障害だ。
医学生医学生
触覚や深部感覚はどうなりますか。
ドクタードクター
後索-内側毛帯系は腹内側を通るので保たれることが多い。温痛覚だけが落ちて触覚は残る、という解離性感覚障害の形をとるんだ。では残りの選択肢を確認していこう。軟口蓋の麻痺はどちら側だろう。
医学生医学生
疑核は舌咽神経と迷走神経の運動核なので、核そのものが壊れれば末梢性の麻痺と同じく同側ですね。
ドクタードクター
その通り。病巣側の軟口蓋が上がらず、発声時に口蓋垂が健側へ引かれるカーテン徴候がみられる。嚥下障害や声帯麻痺による嗄声も伴うから、急性期は誤嚥に要注意だ。Babinski徴候はどうかな。
医学生医学生
Babinski徴候は錐体路障害のサインなので、反対側に出そうな気がしたんですが……。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。延髄で錐体路が交叉前なのは確かで、もし障害されれば反対側に出る。でも錐体路は腹側の錐体を通るから、背外側梗塞ではそもそも障害されない。片麻痺もBabinski徴候も原則として出ないんだ。錐体路が侵されるのは前脊髄動脈領域の延髄内側症候群、Dejerine症候群のほうだよ。
医学生医学生
Dejerine症候群は、病巣側の舌下神経麻痺と反対側の片麻痺・深部感覚障害の組み合わせでしたね。
ドクタードクター
そう、内側と外側を対比して覚えると整理しやすい。次にHorner症候群はどうだろう。
医学生医学生
交感神経の下行路は交叉しないので、眼瞼下垂や縮瞳は病巣側ですか。
ドクタードクター
正解。視床下部から出た交感神経の一次ニューロンは脳幹外側部を同側のまま下行し、C8〜T2の毛様体脊髄中枢に至る。この経路のどこが傷ついても症状は同側の眼と顔に出る。最後に小脳性運動失調だ。
医学生医学生
小脳は同側の体を担当するので、下小脳脚が壊れれば病巣側の失調になりますね。臨床実習で脳神経内科を回ったとき、病巣側に倒れやすい患者さんを見ました。
ドクタードクター
いい経験だね。それが側方突進で、PICA閉塞で小脳下面まで梗塞になれば失調はさらに目立つ。ほかにも前庭神経核の障害でめまい、悪心・嘔吐、眼振がよくみられ、しゃっくりを伴うこともある。
医学生医学生
臨床で気をつけることはありますか。
ドクタードクター
めまいと嘔吐が前面に出るので、末梢性めまいと見誤られやすいことだ。顔面と体の温痛覚の左右差、嗄声や嚥下障害、Horner症候群を意識して診察すると拾える。また若年者では椎骨動脈解離が原因になることがあり、後頸部痛が手がかりになる。片麻痺がないから軽症と思わず、嚥下評価と誤嚥対策を早めに行うことも大切だよ。

まとめ

延髄背外側梗塞(Wallenberg症候群)は主に椎骨動脈や後下小脳動脈の閉塞で起こり、症状の左右は障害された経路が交叉の前か後かで決まります。脳神経核とその線維、下小脳脚、交感神経下行路は交叉しないため、顔面の温痛覚障害、軟口蓋・咽頭・喉頭の麻痺、Horner症候群、小脳性運動失調はいずれも病巣側に出ます。これに対して外側脊髄視床路は脊髄で既に交叉しているため、頸部以下の温痛覚障害は病巣と反対側に生じ、顔と体で左右が逆になる交叉性感覚障害が特徴となります。錐体路と内側毛帯は腹内側を通るため障害されず、片麻痺やBabinski徴候を示す延髄内側症候群との対比が鑑別の要点です。交叉の位置から症状の左右を導く考え方は、脳幹梗塞全般の局在診断に応用できる重要な基礎です。

解答・解説

正解はeです

延髄背外側梗塞は延髄背外側症候群(Wallenberg症候群)とよばれ、多くは椎骨動脈あるいは後下小脳動脈(PICA)の閉塞で起こる。延髄の背外側部には、三叉神経脊髄路とその核、疑核(舌咽神経・迷走神経の運動核)、前庭神経核、下小脳脚、交感神経の下行路、外側脊髄視床路が集まっている。一方、錐体路(延髄錐体)と内側毛帯は延髄の腹内側を通るため、この梗塞では通常障害されない。 症状が病巣と同側に出るか反対側に出るかは、「障害された構造が交叉の前か後か」で決まる。延髄の脳神経核や、そこから出る線維、下小脳脚、交感神経下行路はいずれも交叉せずに同側を支配しているため、症状は病巣と同じ側に出る。これに対して外側脊髄視床路は、脊髄に入った直後(1〜2髄節上行する間)に前交連で反対側へ交叉してから上行する。そのため延髄レベルで損傷されると、病巣と反対側の頸部以下(体幹・四肢)に温痛覚障害が生じる。 つまり本症候群では「顔面の温痛覚障害は病巣側、頸部以下の温痛覚障害は反対側」という交叉性(解離性)の感覚障害が特徴であり、病巣と反対側に出る主な症状はこの頸部以下の温痛覚障害である。

選択肢考察

  1. ×a.  軟口蓋の麻痺

    軟口蓋・咽頭・喉頭の筋は、延髄の疑核から出る舌咽神経・迷走神経の支配を受ける。延髄背外側梗塞ではこの疑核そのものが壊れる(核性の障害)。末梢神経の障害と同じく同側の筋が麻痺するため、症状は病巣側に出る。病巣側の軟口蓋が挙上せず、発声時に口蓋垂が健側へ引かれる(カーテン徴候)ほか、嚥下障害や嗄声(声帯麻痺による)を伴う。

  2. ×b.  Babinski徴候

    Babinski徴候は錐体路(皮質脊髄路)の障害を示す病的反射である。延髄では錐体路は腹側の錐体を通り、後下小脳動脈や椎骨動脈の外側枝が灌流する背外側部には含まれない。そのため延髄背外側梗塞では、錐体路徴候(片麻痺やBabinski徴候)は原則として出ない。錐体路と内側毛帯が障害されるのは、前脊髄動脈領域の延髄内側症候群(Dejerine症候群)である。この場合は反対側の片麻痺・深部感覚障害と、同側の舌下神経麻痺が組み合わさる。

  3. ×c.  Horner症候群

    Horner症候群は眼瞼下垂(瞼裂狭小)、縮瞳、顔面の発汗低下を3徴とする。視床下部から出た交感神経の一次ニューロンは、脳幹の外側部を交叉せずに下行し、C8〜T2レベルの毛様体脊髄中枢に至る。この経路はどこで障害されても同側の眼・顔面に症状が出るため、延髄背外側梗塞でもHorner症候群は病巣側にみられる。

  4. ×d.  小脳性運動失調

    延髄背外側部には下小脳脚(索状体)があり、後脊髄小脳路などの小脳への入力線維が通る。小脳半球は同側の体幹・四肢の協調運動を担うため、下小脳脚が障害されると病巣側の上下肢に運動失調(測定障害など)が起こる。後下小脳動脈の閉塞で小脳下面も梗塞に陥れば、同じく同側性の失調が加わる。歩行時に病巣側へ倒れやすい(側方突進)ことも知られている。

  5. ○e.  頸部以下の温痛覚障害

    体幹・四肢の温痛覚は外側脊髄視床路が伝える。この線維は後根から脊髄に入るとすぐに前交連で反対側へ交叉し、反対側の側索を上行して延髄の背外側部を通る。そのため延髄背外側梗塞でこの経路が損傷されると、病巣と反対側の頸部以下に温痛覚障害が生じる。延髄で交叉を終えている経路なので反対側に症状が出るという点で、選択肢中唯一の反対側症状である。一方、顔面の温痛覚は交叉前の三叉神経脊髄路・脊髄路核の障害で病巣側が低下するため、顔と体で左右が逆になる交叉性感覚障害となる。なお触覚・深部感覚を伝える後索-内側毛帯系は腹内側を通るため保たれることが多く、温痛覚だけが障害される解離性感覚障害の形をとる。

延髄背外側症候群(Wallenberg症候群)の症状と責任病巣

病巣側に出るもの ・顔面の温痛覚障害:三叉神経脊髄路・脊髄路核 ・軟口蓋・咽頭・喉頭の麻痺(嚥下障害、構音障害、嗄声):疑核(舌咽・迷走神経) ・Horner症候群:交感神経下行路 ・小脳性運動失調、病巣側への側方突進:下小脳脚、小脳 病巣側・反対側を問わないもの ・めまい、悪心・嘔吐、眼振:前庭神経核 ・吃逆(しゃっくり)を伴うこともある 病巣と反対側に出るもの ・頸部以下(体幹・四肢)の温痛覚障害:外側脊髄視床路 障害されないもの ・錐体路(片麻痺・Babinski徴候は出ない) ・内側毛帯(触覚・深部感覚は保たれる) ・舌下神経(舌の偏位は出ない)

原因血管

椎骨動脈または後下小脳動脈(PICA)の閉塞が多い。若年者では椎骨動脈解離が原因となることがあり、後頸部痛を伴うことが手がかりになる。

延髄内側症候群(Dejerine症候群)との対比

前脊髄動脈や椎骨動脈の傍正中枝の閉塞で起こる。病巣側の舌下神経麻痺(挺舌で舌が病巣側へ偏位)、反対側の片麻痺(錐体路)、反対側の深部感覚障害(内側毛帯)を呈する。

同側・反対側を判断する原則

脳神経核とその線維、小脳への入力、交感神経下行路の障害は同側に出る。長い上行路・下行路(脊髄視床路、錐体路、内側毛帯)は、交叉の後で障害されると反対側に症状が出る。

POINT

・延髄背外側症候群は椎骨動脈・後下小脳動脈の閉塞で起こる。 ・病巣と反対側に出るのは頸部以下の温痛覚障害だけ(外側脊髄視床路は脊髄で交叉済み)。 ・顔面の温痛覚障害、軟口蓋・咽頭麻痺、Horner症候群、小脳性運動失調は病巣側に出る。 ・錐体路は腹側にあるため、片麻痺やBabinski徴候は出ない。 ・顔と体で温痛覚障害の側が逆になる交叉性感覚障害が特徴である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。