腫瘍マーカーは「どこまで」を語らない―肺癌の病期を決める検査の選び方
第105回医師国家試験 A問題 第10問
国試問題にチャレンジ
肺癌の臨床病期の決定に関係しない検査はどれか。
- a.FDG-PET
- b.腫瘍マーカー
- c.気管支鏡検査
- d.頭部造影MRI
- e.胸腹部造影CT
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
肺癌の臨床病期はTNM分類、すなわち原発腫瘍の広がり、所属リンパ節転移、遠隔転移によって決まるため、病変の位置と範囲を示せる検査が病期診断に用いられます。胸腹部造影CTはT・N・Mすべて、FDG-PETは全身のリンパ節や遠隔転移、頭部造影MRIはFDG-PETが苦手な脳転移、気管支鏡検査やEBUS-TBNAは中枢側への進展とリンパ節転移の病理学的確認を担います。一方、腫瘍マーカー(CEA、SCC、CYFRA、ProGRP、NSEなど)は解剖学的な広がりを示さずTNMの判定項目にも含まれないため、病期決定には用いず、組織型推定の補助や治療効果判定、再発監視に用います。各検査がTNMのどの因子を評価しているかを対応づけて理解しておくと、病期診断だけでなく実際の検査計画の立案にも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
肺癌の臨床病期は、TNM分類によって決まる。T(原発腫瘍の大きさや周囲への浸潤)、N(所属リンパ節転移の有無と範囲)、M(遠隔転移の有無)の3つの因子を組み合わせ、Ⅰ〜Ⅳ期に分類する。したがって病期の決定に関係するのは、腫瘍の大きさ・位置・浸潤範囲、リンパ節転移、遠隔転移のいずれかを形態的または機能的に評価できる検査である。 肺癌の遠隔転移は、脳、骨、肝、副腎、対側肺・胸膜などに起こりやすい。このため病期診断では、胸腹部造影CTで原発巣・リンパ節・腹部臓器を、頭部造影MRIで脳を、FDG-PETで全身のリンパ節や遠隔転移を評価する。さらに気管支鏡検査で気管支内の進展範囲の確認や組織採取を行い、これらを組み合わせてT・N・Mを判定する。 一方、腫瘍マーカーの値は、腫瘍量や病勢とある程度は相関する。しかし、どこに、どの程度の範囲で病変があるかという解剖学的な情報は与えず、TNM分類の判定項目にも含まれない。したがって病期の決定には用いない。
選択肢考察
- ×a. FDG-PET
FDG-PET(18F-フルオロデオキシグルコースを用いた陽電子放射断層撮影)は、ブドウ糖類似物質であるFDGが糖代謝の亢進した癌細胞に多く取り込まれる性質を利用して病変を画像化する。原発巣に加え、CTでは大きさだけでは判断しにくい縦隔・肺門リンパ節転移(N因子)や、骨・副腎などの全身の遠隔転移(M因子)の検出に優れ、病期診断に用いられる。ただし脳は正常でも糖代謝が高く、転移巣が埋もれやすいため、脳転移の評価には向かない(頭部MRIで補う)。また炎症巣でも集積する(偽陽性)ことに注意が必要である。
- ○b. 腫瘍マーカー
腫瘍マーカーは、癌細胞が産生する物質の血中濃度を測る検査である。肺癌では、腺癌でCEA(癌胎児性抗原)やSLX(シアリルLeX-i抗原)、扁平上皮癌でSCC(扁平上皮癌関連抗原)やCYFRA(サイトケラチン19フラグメント)、小細胞癌でProGRP(ガストリン放出ペプチド前駆体)やNSE(神経特異エノラーゼ)が用いられる。組織型の推定の補助、治療効果の判定、再発の監視には役立つが、偽陽性・偽陰性が多い。さらに腫瘍の大きさ、リンパ節転移、遠隔転移の部位といった解剖学的な広がりを示すことはできず、TNM分類の判定根拠にならない。したがって臨床病期の決定に関係しない検査である。
- ×c. 気管支鏡検査
気管支鏡検査では、気管・気管支内腔に腫瘍がどこまで進展しているかを直接観察できる。主気管支への浸潤、気管分岐部(カリナ)や気管への浸潤はT因子を左右するため、特に中枢型の肺癌で重要である。さらに生検や細胞診で組織型を確定できる。超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA)を用いれば、縦隔・肺門リンパ節から組織を採取して転移の有無(N因子)を病理学的に確認することもできる。このように病期決定に直接関わる。
- ×d. 頭部造影MRI
肺癌は脳転移をきたしやすく、症状がなくても転移が見つかることがある。頭部造影MRIは小さな脳転移の検出感度が造影CTより高く、脳転移の有無、すなわちM因子の評価に用いられる。脳転移があれば遠隔転移(M1)となり、Ⅳ期と判定されるため、治療方針に大きく影響する。
- ×e. 胸腹部造影CT
胸部造影CTでは、原発巣の大きさや胸壁・縦隔などの周囲臓器への浸潤、同じ肺葉や別の肺葉の副腫瘍結節(T因子)を評価できる。縦隔・肺門リンパ節の腫大(N因子)や、胸水・胸膜播種・対側肺転移(M因子)も確認できる。腹部まで撮影範囲を広げることで、肝や副腎への転移(M因子)も評価できる。T・N・Mのすべてに関わる、病期診断の基本となる検査である。
肺癌TNM分類の概要
T因子:原発腫瘍の大きさ(充実成分の最大径)、主気管支・臓側胸膜・胸壁・縦隔・横隔膜などへの浸潤、副腫瘍結節の有無と位置で分類する。 N因子:N0(転移なし)、N1(同側の肺門・肺内リンパ節)、N2(同側の縦隔・気管分岐下リンパ節)、N3(対側の縦隔・肺門リンパ節、鎖骨上窩リンパ節)。 M因子:M0(遠隔転移なし)、M1a(対側肺の腫瘍結節、胸膜播種、悪性胸水・心嚢水)、M1b(単一臓器への単発の遠隔転移)、M1c(多発の遠隔転移)。M1であればⅣ期となる。
病期診断に用いる主な検査
・胸腹部造影CT:T、N、M(肝・副腎など) ・FDG-PET/CT:N、M(全身。脳は苦手) ・頭部造影MRI:M(脳転移) ・骨シンチグラフィ:M(骨転移。FDG-PETで代用されることも多い) ・気管支鏡検査・EBUS-TBNA:T(中枢側への進展)、N(リンパ節の病理学的確認) ・胸水細胞診:M1a(悪性胸水)の確認
肺癌の主な腫瘍マーカー
・腺癌:CEA、SLX ・扁平上皮癌:SCC、CYFRA ・小細胞癌:ProGRP、NSE いずれも補助診断・経過観察の指標にとどまる。
POINT
・肺癌の臨床病期はTNM分類(腫瘍の広がり・リンパ節転移・遠隔転移)で決める。 ・病期診断には画像検査(CT、MRI、FDG-PET、骨シンチグラフィ)と気管支鏡(EBUS-TBNA)を用いる。 ・腫瘍マーカーは病変の解剖学的な広がりを示さないため、病期決定には用いない。治療効果判定や再発の監視に用いる。 ・脳転移の評価にはFDG-PETではなく頭部造影MRIを用いる。
