縦隔の「満員電車」で何が起こる?―リンパ節転移と上大静脈症候群
第105回医師国家試験 A問題 第11問
国試問題にチャレンジ
肺癌の縦隔リンパ節転移によって起こる症候はどれか。
- a.血胸
- b.頻脈
- c.散瞳
- d.胸やけ
- e.顔面浮腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
縦隔には大血管、気管・気管支、食道、反回神経・横隔神経・交感神経幹などが密集しており、肺癌の縦隔リンパ節転移による症候は、腫大したリンパ節がどの構造を圧迫・浸潤するかで理解できます。右上縦隔のリンパ節が腫大すると壁の薄い上大静脈が圧迫され、顔面・頸部・上肢の浮腫や頸静脈・前胸部皮静脈の怒張を呈する上大静脈症候群が起こり、これが代表的な症候です。そのほか左反回神経麻痺による嗄声、横隔神経麻痺による横隔膜挙上、食道圧迫による嚥下障害、気道圧迫による喘鳴も重要で、交感神経障害で起こるのは散瞳ではなく縮瞳(Horner症候群)である点に注意が必要です。解剖と症候を結びつけて覚えることで、身体所見から病変の広がりを推測する臨床的な力が養われます。
解答・解説
正解はeです
縦隔には、心臓・大血管(上大静脈、大動脈など)、気管・気管支、食道、神経(反回神経、横隔神経、交感神経幹など)が狭い空間に密集している。肺癌が縦隔リンパ節に転移してリンパ節が腫大すると、隣接するこれらの構造が圧迫されたり、癌が直接浸潤したりして、さまざまな症候が現れる。 代表的なものは、上大静脈の圧迫・閉塞による上大静脈症候群、反回神経麻痺による嗄声、横隔神経麻痺による横隔膜挙上、気管・気管支の圧迫による呼吸困難や喘鳴、食道の圧迫による嚥下障害である。上大静脈は縦隔の右前上方にあり、右側の上縦隔リンパ節(気管傍リンパ節など)と接しているため、このリンパ節が腫大すると圧迫を受けやすい。 設問では、選択肢の症候がどの構造の障害で生じるかを考え、縦隔リンパ節腫大の圧迫機序で説明できるものを選ぶ。上大静脈症候群による顔面浮腫がこれに当たる。
選択肢考察
- ×a. 血胸
肺癌で胸腔に液体が貯まるのは、主に癌が胸膜へ直接浸潤したり胸膜播種を起こしたりするためであり、このとき血性の胸水(癌性胸膜炎)になることが多い。しかし血性胸水は、胸腔内に血液そのものが貯まる血胸とは区別される。縦隔リンパ節転移が血管を破って血胸を起こすことはまれであり、縦隔リンパ節転移の典型的な症候とはいえない。血胸の主な原因は、外傷、大動脈解離・大動脈瘤の破裂、気胸に伴う血管の断裂などである。
- ×b. 頻脈
頻脈は、交感神経の緊張、発熱、脱水、貧血、甲状腺機能亢進症、不整脈などで起こる全身的な反応であり、縦隔リンパ節転移に特有の症候ではない。縦隔リンパ節が自律神経を圧迫しても、頻脈が起こる典型的な機序はない。腫瘍が交感神経を障害した場合は、むしろ交感神経の作用が落ちる方向に働く。
- ×c. 散瞳
散瞳は、交感神経支配の瞳孔散大筋が優位になるか、動眼神経(副交感神経)の障害で瞳孔括約筋が働かなくなったときに起こる。肺癌が交感神経幹や星状神経節を障害した場合は、交感神経が麻痺して縮瞳が起こり、眼瞼下垂や顔面の発汗低下を伴うHorner症候群となる。このHorner症候群は、肺尖部に発生して胸壁・腕神経叢へ浸潤するPancoast腫瘍(肺尖部胸壁浸潤癌)で特に有名である。散瞳は肺癌の縦隔進展の症候ではない。
- ×d. 胸やけ
胸やけは、胃酸が食道へ逆流して粘膜を刺激することで生じる。胃食道逆流症(GERD)や逆流性食道炎の代表的な症状であり、下部食道括約筋の機能低下や食道裂孔ヘルニアが関係する。腫大した縦隔リンパ節が食道を外から圧迫した場合に起こるのは、通過障害による嚥下障害(つかえ感)であり、胸やけではない。
- ○e. 顔面浮腫
上大静脈は、頭頸部と両上肢からの静脈血を右心房へ戻す太い静脈である。壁が薄く内圧が低いため、外からの圧迫で容易に狭くなる。右側の上縦隔リンパ節(右気管傍リンパ節など)に肺癌が転移して腫大すると、隣接する上大静脈が圧迫・閉塞され、上半身からの静脈還流が妨げられる(上大静脈症候群)。その結果、顔面・頸部・上肢の浮腫、頸静脈の怒張、前胸部の皮静脈の怒張(側副血行路の発達)、頭痛などが生じる。縦隔リンパ節転移の代表的な症候である。上大静脈症候群の原因としては肺癌が最多で、なかでも小細胞癌の頻度が高い。悪性リンパ腫などの縦隔腫瘍も原因となる。
肺癌の縦隔進展・リンパ節転移で起こる主な症候
・上大静脈症候群:上大静脈の圧迫・閉塞 → 顔面・頸部・上肢の浮腫、頸静脈・前胸部皮静脈の怒張、頭痛。臥位や前屈で増悪しやすい。 ・嗄声:反回神経麻痺。左反回神経は大動脈弓の下をくぐって反転するため、大動脈下や大動脈傍のリンパ節転移で障害されやすい(右は鎖骨下動脈で反転する)。 ・横隔膜挙上、呼吸困難:横隔神経麻痺 ・嚥下障害:食道の圧迫 ・呼吸困難、喘鳴:気管・主気管支の圧迫 ・Horner症候群(縮瞳、眼瞼下垂、顔面の発汗低下):交感神経幹・星状神経節の障害。Pancoast腫瘍で典型的にみられる。
肺癌の胸膜進展で起こるもの
・癌性胸膜炎による胸水(しばしば血性)
上大静脈症候群の診療
造影CTで閉塞部位と原因病変を確認する。原疾患に対して化学療法や放射線治療を行い、症状が強い場合は血管内ステント留置も選択される。
POINT
・縦隔リンパ節転移の症候は、周囲の構造(血管・神経・気道・食道)の圧迫で考える。 ・右上縦隔リンパ節の腫大 → 上大静脈症候群(顔面・頸部・上肢の浮腫、頸静脈怒張)。 ・左反回神経麻痺 → 嗄声、横隔神経麻痺 → 横隔膜挙上、食道の圧迫 → 嚥下障害。 ・交感神経の障害で起こるのは縮瞳(Horner症候群)であり、散瞳ではない。
