StudyMed医師国家試験

「のぼせ」と「汗」はエストロゲンの悲鳴―更年期症状の“本命”を見抜く

第105回医師国家試験 A問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第105回 A問題 第12問

エストロゲンの欠乏が原因でみられる症状はどれか。2つ選べ。

  1. a.便秘
  2. b.多汗
  3. c.めまい
  4. d.のぼせ
  5. e.性器出血

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、エストロゲンが減ったときに何が起こるかを問う問題だ。更年期の女性はいろいろな不調を訴えるけれど、その中で「エストロゲン欠乏が直接の原因」と言える症状はどれか、を見極めるのがポイントになる。まずエストロゲンはどこで作られるホルモンだったかな。
医学生医学生
卵巣の発育卵胞ですよね。一番活性が強いのがエストラジオールだと生理学で習いました。
ドクタードクター
その通り。閉経が近づくと卵胞が枯渇してエストロゲンが急に下がる。すると下垂体への負のフィードバックが外れるから、FSHやLHはどうなる?
医学生医学生
抑えが外れるので上がります。更年期の採血でFSHが高いのはそのためですね。
ドクタードクター
正解。特にFSHが早い時期から目立って上がる。この閉経前後のおよそ10年間に出てくる、器質的な病気では説明できない症状を更年期症状、日常生活に支障が出るものを更年期障害と呼ぶ。その中で最も典型的なのが血管運動神経症状なんだ。
医学生医学生
ホットフラッシュのことですか?婦人科の実習で、外来の患者さんが「急に顔がカーッと熱くなる」と話していました。
ドクタードクター
まさにそれ。エストロゲンが下がると、視床下部の体温調節中枢で熱を逃がす反応が起こる体温の幅、いわゆる温熱中性域が狭くなる。だから深部体温がわずかに上がっただけで皮膚の血管が開き、顔から上半身にかけてのぼせ・ほてりが起こる。そして続いて何が起こるかな。
医学生医学生
熱を逃がすために汗をかく…だから多汗もセットなんですね。
ドクタードクター
そう。のぼせて大汗をかき、そのあと寒気がくる、という流れが典型的で、夜に起これば寝汗になって不眠の原因にもなる。のぼせと多汗の2つが正解だ。どちらもエストロゲンを補充すると速やかに良くなることから、欠乏との因果関係がはっきりしている。
医学生医学生
のぼせはLHの上昇が原因だと覚えていたんですが、違うんでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だね。確かにホットフラッシュはLHの拍動性分泌と時間的に一致するので、昔はそう説明されることがあった。でも現在は、視床下部のKNDyニューロンと呼ばれる神経細胞群の過活動が中心的な機序と考えられていて、LHは同じ変化を反映した随伴現象という見方が有力なんだ。
医学生医学生
なるほど。では便秘はどうですか。高齢の女性に多い印象がありますが。
ドクタードクター
多いのは事実だけれど、原因は加齢による腸管運動の低下、運動量や食物繊維・水分の不足、腹筋力の低下、薬の副作用などさまざまだ。エストロゲン欠乏だけで便秘が起こるという直接の関係は確立していないから、欠乏症状には含めない。
医学生医学生
めまいは簡易更年期指数の項目にも入っていたので、迷いました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。めまいは更年期女性がよく訴える不定愁訴ではあるけれど、良性発作性頭位めまい症やMénière病のような耳の病気、循環器や中枢神経の病気、心理的な要因など原因が非常に多い非特異的な症状だ。エストロゲン欠乏が直接の原因とは言えないし、更年期だからと決めつけず器質的疾患を除外する姿勢が大切になる。
医学生医学生
性器出血は、エストロゲンが減って腟が萎縮すれば出血しそうにも思えますが…。
ドクタードクター
萎縮性腟炎で点状の出血をみることはありうる。でも頻度はのぼせや多汗よりずっと低いし、閉経後の性器出血でまず考えるべきは子宮体癌や子宮頸癌などの悪性腫瘍だ。むしろエストロゲンが過剰に作用し続ける状態、たとえば黄体ホルモンを併用しないエストロゲン単独投与では、子宮内膜増殖症や体癌による不正出血が問題になる。
医学生医学生
閉経後の出血はまず癌を否定する、とCBTの勉強でも繰り返し出てきました。典型症状と警告サインは分けて考えるんですね。
ドクタードクター
その整理が大事だ。最後に、エストロゲン欠乏の影響を時間軸で押さえておこう。閉経前後はのぼせ・発汗・動悸といった血管運動神経症状や、不眠・抑うつ・いらいらなどの精神神経症状。閉経後数年たつと腟の乾燥感や性交痛、頻尿や尿路感染の反復といった閉経関連泌尿生殖器症候群。さらに長期では骨吸収が進んで骨粗鬆症、LDLコレステロール上昇から動脈硬化が問題になる。
医学生医学生
治療はホルモン補充療法ですか?
ドクタードクター
血管運動神経症状にはホルモン補充療法が最も有効だ。ただし子宮がある人には、子宮内膜増殖症や体癌の予防のため黄体ホルモンを必ず併用する。ほかに漢方薬や、精神症状に対してSSRIを使うこともある。症状の背景にある時間経過とリスクを意識して治療を選ぶのが臨床のコツだよ。

まとめ

閉経に伴うエストロゲン欠乏で最も典型的に現れるのは、のぼせ・ほてり(ホットフラッシュ)と多汗・寝汗という血管運動神経症状です。エストロゲン低下により視床下部の温熱中性域が狭まり、わずかな体温上昇で皮膚血管拡張と発汗が起こると考えられ、ホルモン補充で速やかに改善します。便秘やめまいは更年期女性に多いものの原因が多様で非特異的であり、閉経後の性器出血はまず子宮体癌などの悪性腫瘍を除外すべき症状です。長期的には閉経関連泌尿生殖器症候群、骨粗鬆症、脂質異常症・動脈硬化へとつながるため、症状を時間軸で整理し、ホルモン補充療法では子宮のある女性に黄体ホルモンを併用することまで押さえておくと、更年期診療の全体像が見えてきます。

解答・解説

正解はb, dです

エストロゲン(卵胞ホルモン)は主に卵巣の発育卵胞で産生される。生物活性が最も高いのは17β-エストラジオール(E2)である。閉経が近づくと卵胞が枯渇してエストロゲン分泌が急に低下し、負のフィードバックが外れるため、下垂体からのFSH(卵胞刺激ホルモン)・LH(黄体形成ホルモン)は上昇する。この時期(閉経前後の約10年間)に現れる多彩な症状のうち、器質的な病気では説明できないものを更年期症状とよぶ。日常生活に支障をきたすものを更年期障害という。 エストロゲン欠乏によって最も典型的に起こるのは血管運動神経症状である。エストロゲンが低下すると、視床下部の体温調節中枢の働きが不安定になり、わずかな深部体温の変化でも熱放散の反応(皮膚血管の拡張と発汗)が起こりやすくなる。その結果、突然の顔のほてり・のぼせ(ホットフラッシュ)と、それに続く発汗(多汗・寝汗)が生じる。これらはエストロゲン補充で速やかに改善することからも、エストロゲン欠乏との直接的な因果関係が明らかである。 一方、便秘やめまいは更年期女性にしばしばみられるものの、原因は多様であり、エストロゲン欠乏そのものが直接の原因とはいえない。性器出血は、閉経後であればまず悪性腫瘍などの器質的疾患を疑うべき症状であり、エストロゲン欠乏の典型的症状として挙げるものではない。以上から、エストロゲン欠乏による症状として最も適切なのは多汗とのぼせの2つである。

選択肢考察

  1. ×a.  便秘

    便秘は閉経後の高齢女性に多い症状である。しかし、原因には加齢による腸管運動の低下、運動量・食物繊維・水分摂取の不足、腹筋力の低下、薬剤の副作用などが重なっており、エストロゲン欠乏だけで便秘が起こるという直接的な因果関係は確立していない。エストロゲン欠乏症状には含めない。

  2. ○b.  多汗

    多汗(発汗の増加、寝汗)は、のぼせと並ぶ血管運動神経症状の代表である。エストロゲンが欠乏すると視床下部の体温調節が不安定になり、熱を逃がすための皮膚血管の拡張と発汗が発作的に起こる。のぼせの後に大量の汗をかき、その後に寒気を感じるという経過が典型的である。夜間に起これば寝汗として睡眠障害の原因にもなる。更年期症状の評価に用いる簡易更年期指数(SMI)にも「汗をかきやすい」という項目があり、エストロゲン補充で改善するエストロゲン欠乏症状である。

  3. ×c.  めまい

    めまいは簡易更年期指数の項目(頭痛・めまい・吐き気)にも含まれ、更年期女性がよく訴える不定愁訴の一つである。しかしめまいは、自律神経の失調、心理的要因、耳鼻科的疾患(良性発作性頭位めまい症、Ménière病など)、循環器・中枢神経疾患など多くの原因で起こる非特異的な症状である。エストロゲン欠乏が直接の原因とはいえない。更年期女性のめまいでも、これらの器質的疾患を除外する必要がある。

  4. ○d.  のぼせ

    のぼせ・ほてり(ホットフラッシュ)は、エストロゲン欠乏による最も代表的な症状である。突然顔面から上半身にかけて熱感と紅潮が起こり、数分程度で治まって発汗を伴うことが多い。エストロゲンが低下すると、視床下部の体温調節中枢で熱放散反応が起こる体温の幅(温熱中性域)が狭くなり、わずかな体温上昇でも皮膚血管拡張が誘発されると考えられている。この過程には、視床下部のキスペプチン/ニューロキニンB/ダイノルフィン(KNDy)ニューロンの過活動が関与する。ホットフラッシュはLHの拍動性分泌と時間的に一致することから、かつてはLH上昇が原因と説明されることもあった。しかし現在では、LHは同じ視床下部の変化を反映した随伴現象と考えられている。エストロゲン補充療法がよく効く。

  5. ×e.  性器出血

    閉経後にエストロゲンが欠乏すると腟粘膜が菲薄化して萎縮性腟炎を起こし、性交時などに点状の出血をみることはありうる。しかしその頻度は、多汗やのぼせのような血管運動神経症状よりはるかに低い。また、閉経後の性器出血はまず子宮体癌・子宮頸癌などの悪性腫瘍を除外すべき重要な症状である。エストロゲン欠乏の典型的症状としては扱わない。むしろ、エストロゲンが過剰に作用し続ける状態(エストロゲン産生腫瘍、黄体ホルモンを併用しないエストロゲン単独投与など)では、子宮内膜増殖症や子宮体癌による不正出血が問題となる。

エストロゲン欠乏による症状・疾患(時間経過による整理)

・閉経前後(更年期):血管運動神経症状(のぼせ・ほてり、発汗、寝汗、動悸)、精神神経症状(不眠、抑うつ、不安、いらいら、集中力低下、もの忘れ)、易疲労感、肩こり、頭痛など ・閉経後数年以降:腟・外陰の萎縮(腟乾燥感、性交痛、萎縮性腟炎)、下部尿路症状(頻尿、尿失禁、尿路感染症の反復)。これらは閉経関連泌尿生殖器症候群(GSM)としてまとめられる。 ・閉経後長期:骨量減少・骨粗鬆症(破骨細胞による骨吸収の亢進)、脂質異常症(LDLコレステロールの上昇)、動脈硬化の進行

更年期のホルモン変化

エストロゲン(E2)は低下し、フィードバックが外れてFSH・LHは上昇する。特にFSHの上昇が早期から顕著である。

簡易更年期指数(SMI)

顔のほてり、汗をかきやすい、腰や手足の冷え、息切れ・動悸、寝つきの悪さ・眠りの浅さ、怒りやすさ・いらいら、くよくよ・憂うつ、頭痛・めまい・吐き気、疲れやすさ、肩こり・腰痛・手足の痛みの10項目を患者が自己評価し、合計点(最大100点)で更年期症状の程度と治療の必要性をみる。血管運動神経症状(ほてり・発汗)の配点が大きく設定されている。

治療

ホルモン補充療法(HRT)が血管運動神経症状に最も有効である。子宮がある女性では、子宮内膜増殖症・子宮体癌の予防のために黄体ホルモンを併用する。ほかに漢方薬や、精神症状に対する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などを用いる。

POINT

・エストロゲン欠乏の代表的症状は血管運動神経症状(のぼせ・ほてり、多汗・寝汗)である。 ・更年期ではエストロゲンが低下し、FSH・LHは上昇する。 ・長期的には萎縮性腟炎・尿路症状、骨粗鬆症、脂質異常症・動脈硬化が問題になる。 ・便秘やめまいは非特異的で、エストロゲン欠乏の直接の結果とはいえない。 ・閉経後の性器出血は、まず子宮体癌などの悪性腫瘍を除外する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。