「どこで、誰が、どうやって」で菌が決まる―肺炎の起炎菌を場面から読む
第105回医師国家試験 A問題 第5問
国試問題にチャレンジ
呼吸器感染症と原因菌の組合せで誤っているのはどれか。
- a.肺膿瘍 ―― 黄色ブドウ球菌
- b.院内肺炎 ―― マイコプラズマ
- c.誤嚥性肺炎〉 ―― 嫌気性菌
- d.重症市中肺炎 ―― レジオネラ菌
- e.人工呼吸器関連肺炎 ―― 緑膿菌
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
肺炎の起炎菌は、市中か院内かという発症の場、年齢・基礎疾患・嚥下機能などの患者背景、誤嚥や人工呼吸器といった感染経路から推定します。マイコプラズマは若年者に多い市中肺炎(非定型肺炎)の代表で、院内肺炎の原因菌ではなく、細胞壁がないためβ-ラクタム系が無効です。院内肺炎や人工呼吸器関連肺炎では緑膿菌やMRSAなど耐性化しやすい菌が中心となり、誤嚥性肺炎や肺膿瘍では口腔内嫌気性菌が重要で、黄色ブドウ球菌や肺炎桿菌も膿瘍を形成しやすい菌です。レジオネラは水環境から感染して重症市中肺炎を起こし、尿中抗原で診断してキノロン系やマクロライド系で治療します。場面から菌を想定する考え方は、培養結果を待たずに適切な抗菌薬を選ぶエンピリック治療の基本です。
解答・解説
正解はbです
肺炎をはじめとする呼吸器感染症は、「どこで・どのような患者に・どのような経路で」発症したかによって原因微生物の傾向が大きく異なる。このため、原因菌が判明する前に開始する経験的治療(エンピリック治療)では、発症の場(市中か院内か)、患者背景(年齢、基礎疾患、免疫状態、嚥下機能)、感染経路(誤嚥、人工呼吸器、環境水への曝露など)から起炎菌を推定して抗菌薬を選ぶことになる。 本問は「誤っている組合せ」を選ぶ問題である。考え方の軸は次のとおりである。 ・市中肺炎(病院外で日常生活を送る人に発症する肺炎):肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマ、クラミジア(クラミドフィラ)、レジオネラなど。若年者ではマイコプラズマが多い。 ・院内肺炎(入院後48時間以降に新たに発症する肺炎):緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、腸内細菌科細菌(クレブシエラ、大腸菌など)、アシネトバクターなど、耐性化しやすいグラム陰性桿菌や黄色ブドウ球菌が中心となる。 ・誤嚥が関与する肺炎や肺膿瘍:口腔内常在菌、特に嫌気性菌が重要である。 マイコプラズマは健常な若年者に多い市中肺炎の代表的な起炎微生物であり、院内肺炎の典型的な原因菌ではない。この点に気づけば誤っている組合せを選ぶことができる。
選択肢考察
- ×a. 肺膿瘍 ―― 黄色ブドウ球菌
組合せとして正しい。肺膿瘍は肺実質が壊死・融解して膿の貯留した空洞を形成する病態である。原因としては誤嚥による口腔内嫌気性菌(ペプトストレプトコッカス、プレボテラ、フソバクテリウムなど)が最も多いが、黄色ブドウ球菌も重要な原因菌である。黄色ブドウ球菌はコアグラーゼや種々の毒素(白血球を破壊するパントン・バレンタイン型ロイコシジンなど)を産生して強い組織破壊を起こすため、膿瘍形成や膿胸を合併しやすい。インフルエンザ後の二次性細菌性肺炎や、感染性心内膜炎・静注薬物使用に伴う敗血症性肺塞栓(両肺に多発する空洞性結節)の原因としても知られる。肺炎桿菌(クレブシエラ)も膿瘍を形成しやすい菌である。
- ○b. 院内肺炎 ―― マイコプラズマ
組合せとして誤っているので、これが正解である。マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は細胞壁をもたない微生物で、主に学童期から若年成人の市中肺炎を起こす。いわゆる非定型肺炎の代表で、頑固な乾性咳嗽があるわりに聴診所見が乏しい、白血球数があまり増えないといった特徴をもつ。飛沫を介して家庭や学校など地域社会で広がるものであり、入院患者に発症する院内肺炎の典型的な原因菌ではない。院内肺炎では緑膿菌、MRSA、腸内細菌科細菌、アシネトバクターなど、耐性菌を含むグラム陰性桿菌や黄色ブドウ球菌が主な原因となる。なお、マイコプラズマは細胞壁がないためβ-ラクタム系抗菌薬が無効であり、マクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系が用いられる(近年はマクロライド耐性株の増加が問題となっている)。
- ×c. 誤嚥性肺炎〉 ―― 嫌気性菌
組合せとして正しい。嚥下性肺炎(誤嚥性肺炎)は、口腔・咽頭の分泌物や胃内容物が気道に流れ込むことで生じる肺炎である。脳血管障害後、認知症、パーキンソン病、意識障害などで嚥下機能や咳反射が低下した高齢者に多く、就寝中などに気づかれないうちに少量ずつ誤嚥する不顕性誤嚥が重要である。原因となるのは口腔内常在菌であり、歯周病などで口腔衛生が悪いと菌量が増える。嫌気性菌(ペプトストレプトコッカス、プレボテラ、フソバクテリウムなど)が代表的で、口腔レンサ球菌や、入院・施設入所患者ではグラム陰性桿菌も関与する。誤嚥は重力の影響を受けるため、臥位では下葉の背側(S6など)、立位では右下葉に病変が生じやすい(右主気管支は左より太く、分岐角度が急峻なため)。
- ×d. 重症市中肺炎 ―― レジオネラ菌
組合せとして正しい。レジオネラ(Legionella pneumophila など)は細胞内寄生性のグラム陰性桿菌で、循環式浴槽・温泉、冷却塔(空調設備)、給湯設備など人工的な水環境で増殖し、汚染されたエアロゾルの吸入によって感染する。ヒトからヒトへはうつらない。市中肺炎のなかでは頻度は高くないが、急速に進行して呼吸不全やショックに至りやすく、重症市中肺炎の原因として必ず考慮すべき菌である。高熱、比較的徐脈、意識障害などの神経症状、下痢、低ナトリウム血症、肝機能障害、CK上昇、横紋筋融解などの肺外症状を伴いやすい。診断には尿中抗原検査(主に血清群1を検出)が有用で、特殊培地(BCYEα培地)による培養も行われる。細胞内寄生菌であるためβ-ラクタム系は無効であり、キノロン系やマクロライド系を用いる。
- ×e. 人工呼吸器関連肺炎 ―― 緑膿菌
組合せとして正しい。人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)は、気管挿管による人工呼吸開始後48時間以降に発症する肺炎で、院内肺炎の一型である。気管チューブのカフ周囲から声門下に貯留した分泌物が垂れ込むことや、チューブ内面に形成されるバイオフィルムが主な発症機序である。原因菌としては緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が最も重要で、MRSA、アシネトバクター、腸内細菌科細菌なども多い。緑膿菌は湿潤環境を好み、多くの抗菌薬に自然耐性をもつうえ、多剤耐性化しやすいため、経験的治療ではタゾバクタム・ピペラシリン、セフェピム、カルバペネム系など抗緑膿菌活性をもつ薬剤を選択する。予防には頭部挙上(30~45度)、声門下吸引、鎮静の毎日の中断と早期抜管の検討などが推奨される。
肺炎の分類と主な原因微生物
・市中肺炎(community-acquired pneumonia:CAP):肺炎球菌が最多で、ほかにインフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス、マイコプラズマ、クラミジア(クラミドフィラ)・ニューモニエ、レジオネラ、肺炎桿菌などがある。 ・院内肺炎(hospital-acquired pneumonia:HAP):入院後48時間以降に発症するもの。緑膿菌、MRSA、腸内細菌科細菌、アシネトバクターなど。基礎疾患や治療により免疫能が低下していることが多く、耐性菌の関与を考慮して広域抗菌薬を選ぶ。 ・人工呼吸器関連肺炎(VAP):気管挿管・人工呼吸開始後48時間以降に発症するもの。原因菌は院内肺炎と同様で、特に緑膿菌が重要である。 ・医療・介護関連肺炎(NHCAP):介護施設入所者、90日以内の入院歴、透析や外来での点滴治療を受けている人などに発症するもの。日本独自の概念で、誤嚥性肺炎や耐性菌の関与が多い。
定型肺炎と非定型肺炎
・定型肺炎(細菌性肺炎)は肺炎球菌やインフルエンザ菌などによるもので、膿性痰、明らかな聴診所見、白血球増多を示し、β-ラクタム系抗菌薬が有効である。 ・非定型肺炎はマイコプラズマ、クラミジア、レジオネラなどによるもので、β-ラクタム系が無効(マイコプラズマは細胞壁をもたず、クラミジアやレジオネラは細胞内で増殖するため)であり、マクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系を用いる。 ・日本呼吸器学会のガイドラインでは、細菌性肺炎と非定型肺炎を鑑別する項目として、年齢60歳未満、基礎疾患がないか軽微、頑固な咳がある、胸部聴診上所見が乏しい、痰がないか迅速診断法で原因菌が証明されない、末梢血白血球数が10,000/μL未満、の6項目が挙げられている。なお、レジオネラは重症化しやすいため、この鑑別の対象外として別に考える。
膿瘍を形成しやすい菌
嫌気性菌、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌(クレブシエラ)、緑膿菌などは組織破壊性が強く、肺膿瘍や膿胸を合併しやすい。
POINT
・マイコプラズマは若年者の市中肺炎(非定型肺炎)の代表であり、院内肺炎の原因菌ではない。 ・院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎では緑膿菌、MRSA、腸内細菌科細菌などの耐性化しやすい菌が中心となる。 ・誤嚥性肺炎と肺膿瘍では口腔内嫌気性菌が重要である。黄色ブドウ球菌も組織破壊性が強く膿瘍を形成しやすい。 ・レジオネラは循環式浴槽・冷却塔などの水環境から感染し、重症市中肺炎の原因となる。尿中抗原で診断し、β-ラクタム系は無効である。
