痛くも見えにくくもない―原発開放隅角緑内障が最初に残す「小さな穴」
第105回医師国家試験 A問題 第6問
国試問題にチャレンジ
原発開放隅角緑内障で病初期からみられるのはどれか。
- a.眼痛
- b.視力低下
- c.角膜浮腫
- d.虹彩萎縮
- e.傍中心暗点
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
原発開放隅角緑内障は、隅角が開いたまま視神経線維が徐々に失われる慢性疾患で、眼痛や充血などの自覚症状に乏しいのが特徴です。視神経乳頭の上下極の線維が早期に障害されるため、初期には固視点周囲10~20度のブエルム領域に傍中心暗点や鼻側階段が現れ、進行すると弓状暗点、視野狭窄へと進みます。中心視野は末期まで保たれるため視力低下は末期の所見であり、眼痛や角膜浮腫は急性閉塞隅角緑内障発作の所見、虹彩萎縮は発作後やICE症候群でみられる所見です。日本では正常眼圧緑内障が多く未診断例も多いため、眼圧が正常でも眼底所見と視野検査で早期に拾い上げることが重要です。急性発作との対比で病態を理解しておくことは、試験だけでなく健診や救急の場での判断にも直結します。
解答・解説
正解はeです
緑内障は、網膜神経節細胞とその軸索(視神経線維)が徐々に失われ、視神経乳頭の陥凹拡大(視神経乳頭陥凹)とそれに対応する視野障害が進行する疾患群である。眼圧上昇は最大の危険因子であるが、眼圧が正常範囲(おおむね10~21mmHg)でも発症する正常眼圧緑内障があり、現在の定義では高眼圧は必須ではない。 原発開放隅角緑内障(primary open-angle glaucoma:POAG)は、隅角(角膜と虹彩の付け根がつくる房水の出口)が開いているにもかかわらず、線維柱帯からシュレム管へ至る房水流出路の抵抗が高まる、あるいは視神経が眼圧に対して脆弱であるために、ゆっくりと視神経障害が進む病型である。眼圧は急上昇せず、あっても軽度から中等度の上昇が長期間続くだけなので、痛みや充血などの自覚症状はほとんどない。さらに、視野障害は周辺寄りの領域から少しずつ始まり、両眼で見ていると健眼が欠損部を補ってしまうため、患者はかなり進行するまで気づかない。 したがって本問では、「急性の眼圧上昇による所見(眼痛、角膜浮腫など)」と「中心視野が侵される末期の所見(視力低下)」を除外し、病初期に他覚的に検出される変化、すなわち視野検査で見つかる初期の暗点を選べばよい。POAGの初期視野障害として典型的なのは、固視点の周囲10~20度付近(ブエルム領域)に生じる傍中心暗点と、鼻側の水平経線を境とする段差(鼻側階段)である。
選択肢考察
- ×a. 眼痛
誤り。眼痛は、原発閉塞隅角緑内障の急性発作(急性緑内障発作)のように、隅角が急に閉じて眼圧が短時間で50~60mmHg以上にまで上昇したときに生じる症状である。急性発作では眼痛に加えて頭痛、悪心・嘔吐、充血、霧視、虹視症(光の周りに虹の輪が見える)などを伴う。POAGでは眼圧上昇が緩徐で程度も軽いため、病期を通じて眼痛は通常みられない。自覚症状に乏しいことこそがPOAGの特徴であり、発見が遅れやすい理由である。
- ×b. 視力低下
誤り。視力は網膜の中心窩(黄斑部)の機能を反映する。POAGの視野障害は中心から離れた領域から始まり、中心の視野は末期まで保たれることが多い(中心部視野が最後に残る状態を中心視野の残存、あるいは末期には耳側に島状の視野のみが残る)。そのため、病初期には視力は良好であり、視力低下を自覚するのは末期になってからである。視力検査だけでは緑内障を早期発見できない点が重要である。
- ×c. 角膜浮腫
誤り。角膜浮腫は、眼圧が急激に高度に上昇して角膜内皮細胞のポンプ機能が追いつかなくなり、角膜実質や上皮に水分が貯留することで生じる。急性緑内障発作で典型的にみられ、角膜が混濁して霧視や虹視症の原因となる。POAGのように緩徐に進行し眼圧上昇も軽度な病型では、角膜浮腫は生じない。
- ×d. 虹彩萎縮
誤り。虹彩萎縮は、急性緑内障発作後に虹彩の虚血によって扇状(分節状)の萎縮が残る場合や、虹彩角膜内皮症候群(ICE症候群:角膜内皮の異常な細胞が隅角や虹彩表面に増殖し、虹彩萎縮と続発緑内障をきたす疾患)などでみられる所見である。POAGは虹彩に病変を起こす疾患ではなく、病初期の所見として虹彩萎縮はみられない。
- ○e. 傍中心暗点
正しい。視神経線維は網膜上で乳頭から弓状に走行しており、緑内障ではこの神経線維束が障害されるため、視野欠損も神経線維の走行に沿った形をとる。特に視神経乳頭の上下極(耳側上方・耳側下方)の神経線維が早期に障害されやすく、これに対応して固視点の周囲10~20度の弓状領域(ブエルム領域)に孤立した暗点が現れる。これが傍中心暗点であり、鼻側階段と並んでPOAGの初期視野変化として最も代表的なものである。進行すると暗点が弓状につながって弓状暗点となり、さらに視野狭窄が進む。初期の傍中心暗点は自覚されにくく、静的自動視野計(ハンフリー視野計など)による検査で発見される。
緑内障の主な分類
・原発緑内障:原発開放隅角緑内障(広義。眼圧が正常範囲の正常眼圧緑内障を含む)、原発閉塞隅角緑内障。 ・続発緑内障:ぶどう膜炎、ステロイド使用、落屑症候群、血管新生(糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症など)などが原因となるもの。 ・小児緑内障:先天的な隅角の発生異常などによるもの。
開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障(急性発作)の比較
・開放隅角緑内障:隅角は開放。眼圧は正常~軽度上昇で緩徐。自覚症状は乏しく、視野障害は周辺から徐々に進行する。慢性の経過をとる。 ・閉塞隅角緑内障の急性発作:虹彩が隅角をふさぎ、眼圧が急激に高度上昇する。眼痛、頭痛、悪心・嘔吐、結膜(毛様)充血、角膜浮腫、中等度散瞳・対光反射減弱、浅前房がみられる。短時間で失明に至りうる眼科救急疾患であり、縮瞳薬(ピロカルピン)、高浸透圧薬(D-マンニトール)、炭酸脱水酵素阻害薬で眼圧を下げたのちレーザー虹彩切開術や水晶体再建術を行う。内科症状が前景に立つと消化器疾患や脳疾患と誤られることがある。
日本における疫学
日本の大規模疫学調査(多治見スタディ)では、40歳以上の緑内障有病率は約5%であり、その多くは原発開放隅角緑内障で、そのうち大部分を正常眼圧緑内障が占める。また、緑内障患者の大多数は調査時点で未診断であった。緑内障は日本の中途失明原因の第1位であり、自覚症状がないうちに眼底検査(視神経乳頭陥凹拡大、網膜神経線維層欠損)や視野検査で早期発見することが重要である。
視野障害の進行
傍中心暗点・鼻側階段 → 弓状暗点 → 視野狭窄 → 末期には中心視野(あるいは耳側の島状視野)のみが残存し、最終的に視力低下・失明に至る。一度失われた視野は回復しないため、治療(点眼薬を中心とした眼圧下降、レーザー治療、手術)は進行を抑えることが目的となる。
POINT
・原発開放隅角緑内障は自覚症状に乏しく、慢性に進行する。 ・初期の視野変化は傍中心暗点(ブエルム領域)と鼻側階段である。 ・視力は中心視野が保たれるため末期まで保たれる。 ・眼痛、角膜浮腫、虹視症、充血、散瞳は急性閉塞隅角緑内障(急性発作)の所見である。 ・日本では正常眼圧緑内障が多く、眼圧が正常でも緑内障は否定できない。
