8か月、まだ首がすわらない―早産児の脳性麻痺に「まず」何をするか
第104回医師国家試験 G問題 第40問
国試問題にチャレンジ
8か月の乳児。首がすわらないことを主訴に来院した。在胎30週,体重1,200 g,Apgarスコア3点(1分),5点(5分)で出生した。新生児期に無呼吸と哺乳障害とがあった。両下肢は硬く,伸展し内転している。両下肢の腱反射は亢進している。 まず行う治療はどれか。
- a.装具装着
- b.作業療法
- c.理学療法
- d.排尿訓練
- e.言語聴覚療法
対話形式の解説
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ドクターまとめ
早産・極低出生体重・新生児仮死という周産期リスクをもつ乳児に、定頸の遅れと両下肢の痙縮(伸展・内転、腱反射亢進)がみられる場合は、脳室周囲白質軟化症(PVL)による痙直型両麻痺の脳性麻痺を考えます。PVLでは側脳室周囲を下行する下肢の運動線維が障害されやすく、下肢優位の麻痺となります。脳病変は非進行性で治りませんが、乳児期の脳の可塑性を生かした早期介入が重要で、まず行うのは粗大運動の発達を促し拘縮・変形を防ぐ理学療法(Vojta法、Bobath法など)です。作業療法・言語聴覚療法・装具は幼児期以降に発達段階に応じて加え、排尿訓練は2〜3歳以降の課題です。発達の順序に沿って介入を組み立てる視点は、脳性麻痺に限らず小児リハビリテーション全般の基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・8か月で首がすわらない:定頸(首のすわり)は通常生後3〜4か月で完成する。修正月齢(早産児では出生予定日を起点に数えた月齢)で考えても約5か月半にあたり、明らかな運動発達の遅れである。 ・在胎30週、出生体重1,200 g:早産児であり、極低出生体重児(1,500 g未満)に該当する。 ・Apgarスコア1分値3点、5分値5点:出生時に重症の新生児仮死があり、5分後も回復が不十分だった。 ・新生児期の無呼吸と哺乳障害:未熟性に加え、中枢神経系の障害を示唆する。 ・両下肢が硬く、伸展・内転し、腱反射が亢進:痙縮(筋肉のつっぱり)と錐体路徴候を示し、上位運動ニューロン障害である。両下肢の伸展・内転(はさみ脚肢位の素地)は痙直型脳性麻痺に典型的な姿勢である。
診断
早産・極低出生体重・新生児仮死という周産期の危険因子があり、下肢優位の痙性麻痺と運動発達遅滞を認める。一方、いったん獲得した機能が失われる退行はなく、進行性の神経変性疾患や先天代謝異常は考えにくい。以上から、周産期の低酸素性虚血性脳障害、特に早産児に多い脳室周囲白質軟化症〈PVL〉を原因とする脳性麻痺(痙直型両麻痺)と考えられる。PVLでは側脳室周囲を下行する下肢の運動線維が障害されやすく、下肢優位の麻痺となる。
治療の考え方
脳性麻痺の脳病変そのものは治らないが、乳児期の脳は可塑性が大きい。早期に診断し早期にリハビリテーションを始めることで、運動発達を促し、異常な姿勢や筋緊張の固定化、関節拘縮・変形を予防できる。本児のように8か月で定頸が未獲得の乳児では、姿勢の保持や寝返り・座位などの粗大運動の発達を促す理学療法を、まず開始すべきである。作業療法、言語聴覚療法、装具療法などは、発達段階や必要性に応じて後から組み合わせていく。
選択肢考察
- ×a. 装具装着
装具(下肢装具など)や座位保持装置、車椅子などは、関節の変形予防や姿勢保持、立位・歩行の補助のために用いられる。脳性麻痺の治療で重要な手段だが、座位や立位の獲得を目指す時期以降に、理学療法の効果を補う形で導入するのが一般的である。定頸すら未獲得の8か月児に、まず行う治療ではない。
- ×b. 作業療法
作業療法は、上肢の巧緻動作(手先の細かい動き)、食事・更衣などの日常生活動作、遊びを通じた認知機能の発達を支援するものである。通常は幼児期(早くても1歳前後)から、理学療法と並行して本格的に行う。本児ではまず粗大運動の発達を促すことが優先され、最初に行う治療としては適切でない。
- ○c. 理学療法
脳性麻痺では、早期発見と早期介入が予後を左右する。理学療法では、正常な姿勢反応や運動パターンを引き出し、原始反射の残存などの病的な姿勢反射活動を抑える。そのうえで、定頸・寝返り・座位・立位といった運動発達を段階的に促し、痙縮による関節拘縮や変形を予防する。代表的な手技として、Vojta法(反射性の移動運動を誘発する方法)とBobath法(神経発達学的治療法。異常な筋緊張を抑えつつ正常な運動を促す)がある。本児のように定頸が遅れ、下肢の痙縮がみられる乳児にまず行うべき治療である。
- ×d. 排尿訓練
排尿の自立(トイレットトレーニング)は、健常児でも2〜3歳頃に完成する。膀胱機能が成熟し、尿意を伝えられるようになる幼児期以降に行うものであり、8か月の乳児に行う治療ではない。
- ×e. 言語聴覚療法
言語聴覚療法は、言語発達の遅れや構音障害、摂食・嚥下障害に対して行う。脳性麻痺では口腔運動の障害や知的障害・難聴の合併により必要となることが多いが、本格的な言語訓練は幼児期以降に行うのが一般的である。本児の主な問題は粗大運動の遅れと下肢の痙縮であり、まず行う治療ではない(ただし哺乳障害が続く場合は、摂食指導を早くから行うことがある)。
脳性麻痺の定義
受胎から生後4週(新生児期)までの間に生じた脳の非進行性の病変による、永続的だが変化しうる運動と姿勢の異常である。一過性の運動障害、進行性疾患、将来正常化するとみられる運動発達遅滞は除外する。
主な原因
・早産児:脳室周囲白質軟化症〈PVL〉、脳室内出血 ・正期産児:新生児仮死による低酸素性虚血性脳症、脳奇形、核黄疸(高ビリルビン血症によるもの。アテトーゼ型の原因となる)
病型
・痙直型:最も多い。錐体路障害により痙縮・腱反射亢進・Babinski反射陽性を示す。麻痺の分布により、両麻痺(下肢優位で早産児のPVLに多い)、片麻痺、四肢麻痺に分けられる。 ・アテトーゼ型(ジスキネジア型):錐体外路障害により不随意運動がみられ、筋緊張が変動する。 ・失調型、混合型など
早産児の脳室周囲白質軟化症〈PVL〉
早産児の脳室周囲の白質は血管支配の境界領域にあたり、未熟で虚血に弱い。そのため脳血流の低下などにより、両側対称性の白質壊死が生じる。側脳室の近くを下肢への運動線維が通るため、痙直型両麻痺となりやすい。診断には頭部MRIや超音波検査が有用である。
脳性麻痺のリハビリテーションと治療
・乳児期:理学療法を中心に運動発達を促す ・幼児期以降:作業療法・言語聴覚療法を加え、装具・座位保持装置・車椅子などの補装具を導入する ・痙縮の治療:ボツリヌス毒素の局所注射、経口の抗痙縮薬、バクロフェン髄腔内投与、選択的後根切断術、腱延長術などの整形外科手術 ・合併症の管理:てんかん、知的障害、視覚・聴覚障害、摂食嚥下障害、側弯症・股関節脱臼など
POINT
・定頸は3〜4か月で完成する。8か月で未獲得なら運動発達遅滞である ・早産・極低出生体重・新生児仮死があり、両下肢の痙性(伸展・内転、腱反射亢進)を示す場合は、PVLによる痙直型両麻痺(脳性麻痺)を考える ・脳性麻痺は非進行性の脳病変による運動・姿勢の異常であり、早期発見・早期介入が重要である ・乳児期にまず行うのは理学療法(Vojta法、Bobath法) ・作業療法、言語聴覚療法、装具、排尿訓練は幼児期以降に発達段階に応じて導入する
