StudyMed医師国家試験

「そんな声は聞こえない」では届かない―統合失調症の患者さんに寄り添う心理・社会的ケア

第104回医師国家試験 F問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第104回 F問題 第7問

統合失調症の心理・社会的側面への配慮として適切なのはどれか。

  1. a.妄想は否定し根気強く説得する。
  2. b.患者にも家族にも病名は告知しない。
  3. c.幻覚については患者の体験を尊重する。
  4. d.幻覚妄想の治療として生活技能訓練を行う。
  5. e.薬物療法を終了してから心理・社会的治療を行う。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、統合失調症の治療のうち、薬以外の部分、つまり心理・社会的側面への配慮を問う問題だ。幻覚や妄想をもつ患者さんへの接し方、病名の伝え方、リハビリテーションの位置づけ。この3つの軸で考えてみよう。
医学生医学生
正直、妄想を話す患者さんに対しては「それは違いますよ」と正してあげたほうが親切な気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう感じる人は多いよ。でも、妄想の定義を思い出してみてほしい。根拠がないのに強く確信され、反証や説得によっても訂正できない考え、だったね。
医学生医学生
あ、そもそも説得で訂正できないものが妄想なんですね。だから根気強く説得しても意味がない、と。
ドクタードクター
その通り。それどころか、患者さんは「わかってもらえない」と感じて孤立し、治療者への不信が強まってしまう。かといって妄想の内容に同調して肯定するのも避けたい。内容の真偽には深入りせず、その考えによって生じている不安や苦痛に共感する、これが原則だ。
医学生医学生
幻覚も同じ考え方でしょうか。臨床実習で精神科を回ったとき、指導医の先生が幻聴を訴える患者さんに「それはつらいですね」と返していたのを覚えています。
ドクタードクター
まさにそれが、幻覚について患者の体験を尊重するという姿勢で、今回の正解だ。幻聴は周りの人には聞こえなくても、本人には実際に聞こえている。「そんな声は聞こえない」と否定しても苦痛が増すだけだ。体験していること自体と、それに伴う恐怖や不安を受け止めることで信頼関係ができ、治療への協力も得やすくなる。
医学生医学生
尊重するというのは、「本当に声がしますね」と認めることではないんですよね。
ドクタードクター
大事な確認だね。体験の存在と苦しみを受け止めるのであって、内容を事実として肯定するわけではない。否定も肯定もしない、と覚えておこう。次に病名告知はどうかな。
医学生医学生
昔は統合失調症の病名を伏せることが多かったと、精神医学の講義で聞いた気がします。患者さんにも家族にも告知しないというのは、今の考え方とは違いますよね。
ドクタードクター
そうだね。患者さんと家族が病気の性質や治療の必要性を理解することは、服薬の継続や再発予防、リハビリへの主体的な取り組みにつながる。状態や受け止め方に配慮しながら、時機を選んで病名や病気の情報を伝えていく。これを心理教育と呼ぶ。特に家族への心理教育は再発率を下げる効果が示されているんだ。
医学生医学生
生活技能訓練は幻覚妄想にも効きそうな印象がありましたが、違うんですか。
ドクタードクター
幻覚・妄想といった陽性症状の治療の中心は、あくまで抗精神病薬だ。生活技能訓練、いわゆるSSTは、あいさつや頼みごと・断り方、服薬や症状の自己管理といった生活に必要な技能をロールプレイで練習するもの。主に症状が落ち着いた回復期以降に、社会復帰を目指して行う。幻覚妄想そのものを消す治療ではないんだ。
医学生医学生
では、薬をやめてから心理・社会的治療を始める、というのは順番が逆ということですか。
ドクタードクター
順番というより、並行して行うのが原則なんだ。統合失調症は症状が改善した後も再発予防のために抗精神病薬を長く続けることが多いから、薬の終了を待っていたら心理・社会的治療を始める機会を失ってしまう。急性期から支持的な関わりや家族支援を行い、回復期以降に心理教育、SST、デイケア、就労支援を組み合わせていく。薬物療法と心理・社会的治療は車の両輪だね。
医学生医学生
薬は陽性症状、心理・社会的治療は生活や社会参加、そして両方を同時に回す、という整理ですね。
ドクタードクター
よくまとまった。発展として押さえておきたいのが、家族の感情表出、いわゆるEEだ。家族が批判的だったり敵意を向けたり、過度に巻き込まれたりする高EEの状態は、再発の危険因子とされている。だからこそ家族への心理教育や支援が意味をもつんだ。
医学生医学生
家族も患者さんへの接し方に悩んでいるはずなので、家族を支えることが患者さんを支えることにもなるんですね。
ドクタードクター
その視点はとても大切だ。もう一つ、薬物療法は陽性症状には比較的よく効くけれど、陰性症状や認知機能障害、社会生活技能の低下には効果が限られる。だから、生活の場で回復を支える心理・社会的治療の役割が大きい。薬で残る幻聴に伴う苦痛への対処には、認知行動療法が用いられることもあるよ。

まとめ

統合失調症の幻覚や妄想は患者本人にとって現実の体験であり、否定や説得で訂正することはできないため、否定も肯定もせず、その体験とそれに伴う不安や苦痛を受け止めて共感することが治療関係の基本となります。病名や病気の情報は、患者の状態に配慮しつつ患者と家族に適切な時期に伝え、心理教育を通じて服薬継続や再発予防につなげます。幻覚妄想の治療の中心は抗精神病薬であり、生活技能訓練(SST)は社会復帰のための技能を練習する心理・社会的治療として、主に回復期以降に用いられます。心理・社会的治療は薬物療法の終了を待たずに並行して行うのが原則で、家族の高い感情表出(high EE)が再発の危険因子とされることから、家族支援も重要です。薬と心理・社会的支援を車の両輪として組み合わせる考え方は、精神科に限らず慢性疾患を抱える患者を支えるうえでの基本となります。

解答・解説

正解はcです

【テーマ】統合失調症の治療において、薬物療法と並んで重要な心理・社会的側面への配慮(患者への接し方、病名告知、リハビリテーションの位置づけ)を問う問題である。

統合失調症の治療の基本構造

統合失調症の治療は、抗精神病薬による薬物療法と、心理・社会的治療(精神療法、心理教育、家族支援、生活技能訓練、デイケア、就労支援など)を組み合わせて行う。両者は車の両輪であり、どちらか一方だけでは十分な回復は得られない。 ・急性期:陽性症状(幻覚・妄想など)の鎮静を目的とした薬物療法が中心。ただしこの時期から、患者の不安に寄り添う支持的な関わりや家族への説明・支援が欠かせない。 ・回復期〜安定期:再発予防のための服薬継続とともに、心理教育、生活技能訓練、デイケア、職業リハビリテーションなどで社会機能の回復と社会参加を目指す。

考え方

幻覚や妄想は、患者本人にとっては紛れもない現実の体験である。それを頭ごなしに否定したり論理で説得しようとしたりしても訂正されることはなく、かえって治療者への不信を招く。患者がそのような体験をして苦しんでいるという事実を受け止め、尊重する姿勢が、治療関係を築くうえでの基本となる。

選択肢考察

  1. ×a.  妄想は否定し根気強く説得する。

    不適切である。妄想とは、根拠がないにもかかわらず強く確信され、反証や説得によって訂正できない誤った考えであると定義される。したがって、否定や説得によって妄想を修正することはできず、むしろ患者は「わかってもらえない」と感じて孤立し、治療関係が損なわれる。一方で妄想の内容に同調して肯定することも避けるべきであり、内容の真偽には深入りせず、その考えによって生じている不安や苦痛に共感的に対応するのが原則である。

  2. ×b.  患者にも家族にも病名は告知しない。

    不適切である。患者本人と家族が病気の性質や治療の必要性を理解することは、服薬の継続(アドヒアランス)や再発予防、リハビリテーションへの主体的な取り組みにつながる重要な治療要素である。患者の状態や受け止め方に配慮しつつ、時機を選んで病名と病気についての情報を適切に伝えていく(心理教育)ことが現在の基本的な姿勢である。特に家族に対する心理教育は、再発率を下げる効果が示されている。

  3. ○c.  幻覚については患者の体験を尊重する。

    適切であり、これが正解である。幻聴などの幻覚は、周囲の人には存在しなくても、患者にとっては実際に聞こえ、見えている体験である。「そんなものは聞こえない」と否定しても意味はなく、患者の苦痛を増すだけである。患者がそのような体験をしていること自体を受け止め、それに伴う恐怖や不安に共感を示すことで信頼関係が築かれ、治療への協力も得やすくなる。なお、尊重するとは体験の存在とそれによる苦しみを受け止めることであり、幻覚の内容を事実として肯定し同調することではない点に注意する。

  4. ×d.  幻覚妄想の治療として生活技能訓練を行う。

    不適切である。幻覚・妄想といった陽性症状に対する治療の中心は、抗精神病薬による薬物療法である。生活技能訓練(SST:social skills training)は、対人関係や日常生活に必要な技能(あいさつ、頼みごと・断り方、服薬や症状の自己管理など)をロールプレイなどで練習し、社会生活への適応を高めることを目的とした心理・社会的治療であり、主に症状が落ち着いた回復期以降に社会復帰に向けて行われる。幻覚妄想そのものを消失させる治療法として位置づけられるものではない。

  5. ×e.  薬物療法を終了してから心理・社会的治療を行う。

    不適切である。統合失調症では、症状が改善した後も再発予防のために抗精神病薬の維持療法を長期にわたって続けることが多く、薬物療法の終了を待っていては心理・社会的治療を始める時期を失ってしまう。心理・社会的治療は薬物療法と並行して行うのが原則であり、急性期から支持的な関わりや家族支援を行い、回復期・安定期には心理教育、生活技能訓練、デイケア、就労支援などを組み合わせていく。

統合失調症の主な症状

・陽性症状:幻覚(特に幻聴)、妄想(被害妄想・関係妄想など)、自我障害(させられ体験・思考伝播など)、解体した思考・行動 ・陰性症状:感情の平板化、意欲低下、思考の貧困、社会的引きこもり ・認知機能障害:注意・記憶・遂行機能の低下。社会生活上の困難に大きく影響する。 薬物療法は陽性症状には比較的よく効くが、陰性症状や認知機能障害、社会生活技能の低下には効果が限られるため、心理・社会的治療の役割が大きい。

主な心理・社会的治療

・支持的精神療法:受容・共感を基本に、不安を和らげ治療関係を築く。 ・心理教育:患者・家族に病気の特徴、治療、再発のサイン、対処法などを伝え、主体的な治療参加を促す。 ・家族支援(家族心理教育):家族の批判的・敵意的・過度に巻き込まれた態度(高い感情表出:high EE)は再発の危険因子とされ、家族への介入によって再発率が低下することが知られている。 ・生活技能訓練(SST):対人技能や日常生活技能をロールプレイなどで練習する。 ・デイケア、作業療法、職業リハビリテーション(就労支援):生活リズムの確立、社会参加、就労を支援する。 ・認知行動療法:薬物療法で残存する幻覚・妄想に伴う苦痛への対処を助ける目的で用いられることもある。

幻覚・妄想をもつ患者への接し方

・否定も肯定もしない(議論・説得をしない、同調もしない)。 ・体験に伴う不安や恐怖に共感し、安心感を与える。 ・現実的な話題や生活上の課題に焦点を当てる。

POINT

・幻覚・妄想は否定も説得もせず、患者の体験として尊重し、伴う苦痛に共感する。 ・病名や病気の情報は、患者・家族に適切な時期に伝える(心理教育)。 ・幻覚妄想の治療の中心は抗精神病薬。生活技能訓練(SST)は社会復帰のための心理・社会的治療。 ・心理・社会的治療は薬物療法と並行して行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。