眠らなくても元気いっぱい―躁状態の「睡眠」と症候を整理する
第104回医師国家試験 F問題 第6問
国試問題にチャレンジ
躁状態でみられないのはどれか。
- a.過眠
- b.観念奔逸
- c.気分高揚
- d.誇大妄想
- e.談話心迫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
躁状態は気分・思考・意欲のすべてが亢進した状態であり、気分高揚(易怒性を伴うことも多い)、観念奔逸、誇大妄想、談話心迫・行為心迫などがみられます。睡眠については睡眠欲求が減少し、短時間睡眠でも疲労を感じず活動を続けるのが特徴で、過眠はみられません。過眠はむしろ非定型うつ病や季節性うつ病などでみられることがあります。観念奔逸と思考制止、誇大妄想と微小妄想というように、躁状態とうつ状態を対比させて覚えると整理しやすくなります。病識が乏しい躁状態では、睡眠時間の短縮や浪費などの行動変化を家族から聴取することが、早期発見と適切な対応につながります。
解答・解説
正解はaです
【テーマ】躁状態(躁病エピソード)でみられる精神症状を、精神科特有の用語とともに正しく理解しているかを問う問題である。
躁状態の全体像
躁状態は、気分・思考・意欲(行動)のすべてが亢進した状態としてとらえると整理しやすい。 ・気分の異常:気分高揚(爽快気分)、易怒性(些細なことで怒りっぽくなる) ・思考の異常:形式面では観念奔逸、内容面では誇大的な考えから誇大妄想 ・意欲・行動の異常:多弁・談話心迫、行為心迫(次々と行動を起こす)、活動性の増加、浪費や性的逸脱など快楽的行動 ・身体面:睡眠欲求の減少(短時間の睡眠でも疲れを感じず活動を続ける)、食事も忘れて活動することによる体重減少
考え方
躁状態は「エネルギーがあり余り、休む必要を感じない」状態であるため、睡眠はむしろ短くなる。したがって、睡眠が過剰になる「過眠」は躁状態の症状として当てはまらない。
選択肢考察
- ○a. 過眠
躁状態ではみられず、これが正解である。躁状態の特徴は睡眠欲求の減少であり、患者は数時間眠っただけで十分休めたと感じ、疲労感なく活動し続ける。患者自身は眠れないことを苦痛と感じていないことが多く、この点で不眠を苦痛として訴えるうつ状態とは異なる。過眠は、非定型の特徴を伴ううつ病や季節性(冬季)うつ病などでみられることがあり、躁状態の症状ではない。
- ×b. 観念奔逸
躁状態でみられる。観念奔逸とは、思考の進み方(思考形式)の異常で、考えが次々に湧き出して速く移り変わり、話題が連想や語呂合わせなどでつぎつぎと脇道にそれていくものである。全体としての目標に到達しにくいが、個々のつながりは一応たどることができる点で、統合失調症の連合弛緩(滅裂思考)とは区別される。うつ状態でみられる思考制止(考えが進まない)とは対照的な症状である。
- ×c. 気分高揚
躁状態でみられる。気分高揚は躁状態の中核症状であり、爽快で楽天的な気分が持続し、自信に満ちあふれた状態である。一方で、思いどおりにならないと急に怒り出す易怒性を伴うことも多く、気分高揚の代わりに易怒性が前景に立つ場合もある。
- ×d. 誇大妄想
躁状態でみられる。自尊心が肥大し、自分の能力・地位・財力・家柄などを実際よりはるかに大きく評価する考えが、訂正不能な確信にまで達したものが誇大妄想である(例:「自分は世紀の大発明をした」「自分は何でもできる」)。気分に一致した妄想であり、うつ状態でみられる微小妄想(罪業妄想・貧困妄想・心気妄想)と対になる概念である。
- ×e. 談話心迫
躁状態でみられる。談話心迫とは、話したいという内的な衝動が強く、黙っていることができずに絶え間なくしゃべり続ける状態である。他者が口をはさむ余地がないほど多弁となり、観念奔逸を伴って話題が次々に移り変わることが多い。行動面で同様の亢進が現れたものを行為心迫という。
躁病エピソードの主な症状(DSM-5の基準を参考に整理)
気分が異常に高揚・開放的・易怒的で、活動性や活力が亢進した期間が持続し、以下のような症状を伴う。 ・自尊心の肥大、誇大性 ・睡眠欲求の減少 ・多弁、しゃべり続けようとする切迫感(談話心迫) ・観念奔逸、考えが競い合っている主観的体験 ・注意散漫 ・目標指向性の活動の増加、精神運動焦燥 ・困った結果になる可能性の高い活動への熱中(浪費、無分別な投資、性的逸脱など) DSM-5では躁病エピソードは少なくとも1週間持続(入院が必要な場合は期間を問わない)、より軽い軽躁病エピソードは少なくとも4日間持続することが目安とされる。
躁状態とうつ状態の対比
・気分:高揚・易怒性 ⇔ 抑うつ気分 ・思考形式:観念奔逸 ⇔ 思考制止 ・思考内容:誇大妄想 ⇔ 微小妄想(罪業・貧困・心気妄想) ・意欲・行動:談話心迫・行為心迫、多動 ⇔ 精神運動制止、意欲低下 ・睡眠:睡眠欲求の減少(本人は苦痛を感じにくい)⇔ 不眠(早朝覚醒・中途覚醒が典型)を苦痛として訴える。ただし非定型うつ病などでは過眠を呈することがある。 ・病識:乏しいことが多い ⇔ 比較的保たれることが多い
POINT
・躁状態では睡眠欲求が減少し、短時間睡眠でも活動を続ける。過眠はみられない。 ・躁状態の症状:気分高揚(易怒性)、観念奔逸、誇大妄想、談話心迫・行為心迫、注意散漫、浪費など。 ・観念奔逸(躁)⇔思考制止(うつ)、誇大妄想(躁)⇔微小妄想(うつ)の対比で覚える。
