StudyMed医師国家試験

有病率が低いほど「陽性」は当てにならない―スクリーニング検査の指標を2×2表で読み解く

第104回医師国家試験 F問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第104回 F問題 第4問

スクリーニングについて誤っているのはどれか。

  1. a.偽陰性が少ないほど有用である。
  2. b.感度を高くすると特異度は低くなる。
  3. c.カットオフ値はROC曲線で決める。
  4. d.陽性尤度比が大きいことが望ましい。
  5. e.検査前確率が低いと偽陽性が少なくなる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、スクリーニング検査の評価指標についての知識を問う問題だ。感度・特異度、ROC曲線、尤度比、そして検査前確率。それぞれが「検査そのものの性能」を表すのか、「対象集団に左右される値」なのかを区別できるかが着眼点になる。「誤っているもの」を選ぶ問題だから、そこにも注意しよう。
医学生医学生
指標が多くて、公衆衛生の講義でも混乱しやすかったところです。まず何から整理すればいいですか。
ドクタードクター
すべての出発点は2×2表だ。疾患のあり・なしと、検査の陽性・陰性を組み合わせると、真陽性、偽陰性、偽陽性、真陰性の4つに分かれる。感度は「疾患のある人のうち陽性になる割合」、特異度は「疾患のない人のうち陰性になる割合」だ。
医学生医学生
偽陰性は、病気があるのに陰性と出てしまう見逃し例ですよね。だから偽陰性が少ないほど感度が高い、と。
ドクタードクター
その通り。スクリーニングの目的は、無症状の集団から病気の可能性がある人を拾い上げて精密検査につなげることだから、見逃しが少ない、つまり感度が高いことが特に重視される。「偽陰性が少ないほど有用」という記述は正しいね。
医学生医学生
感度を上げると特異度が下がる、というのも聞いたことがあります。でも、両方とも高い検査を作ればいいのでは、と思ってしまいます。
ドクタードクター
検査そのものを改良すれば両方上がることもあるけれど、ここで言っているのは同じ検査でカットオフ値を動かす場合の話だ。陽性と判定する範囲を広げれば見逃しは減って感度は上がるけれど、疾患のない人まで陽性と判定されやすくなり、特異度は下がる。逆も同じで、両者はトレードオフの関係にあるんだ。
医学生医学生
じゃあ、カットオフ値はどうやって決めるんですか。
ドクタードクター
そこで登場するのがROC曲線だ。カットオフ値を少しずつ変えながら、縦軸に感度、横軸に偽陽性率、つまり1-特異度をとってプロットする。感度と特異度をあわせて最も良くする点は、曲線上で左上隅に最も近い点で、一般にここをカットオフ値の目安にする。だから「ROC曲線で決める」も正しい。
医学生医学生
CBTの勉強で、曲線下面積が1に近いほどよい検査、と覚えました。
ドクタードクター
そう、AUCが1に近いほど識別能が高く、0.5だと偶然と同程度ということになる。次は陽性尤度比だ。これは感度を1-特異度で割った値で、疾患のある人が陽性になる確率が、疾患のない人が陽性になる確率の何倍かを示している。
医学生医学生
大きいほど、陽性と出たときに病気である可能性がぐっと高まる、ということでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。検査後オッズは検査前オッズに尤度比を掛けて求められるから、陽性尤度比が大きいほど陽性結果の診断的価値が高い。大きいことが望ましい、という記述も正しいね。では残りの「検査前確率が低いと偽陽性が少なくなる」はどうだろう。
医学生医学生
病気の人が少ないなら、陽性になる人も少なくなるので、偽陽性も減りそうな気がしますが……。
ドクタードクター
そこが典型的なひっかけだ。偽陽性は「疾患のない人」の中から、1-特異度の割合で生じる。検査前確率、つまり有病率が低いということは、集団のほとんどが疾患のない人だということ。分母になる健康な人が多いほど、偽陽性の数はむしろ増えるんだ。
医学生医学生
あ、偽陽性は病気のない人から出てくるんですね。病気の人の数とは関係なかった。
ドクタードクター
具体的に計算してみよう。感度・特異度がともに90%の検査を1,000人に行うとする。有病率1%なら疾患のある人は10人で、真陽性は9人。一方、疾患のない990人のうち10%、つまり99人が偽陽性になる。陽性者108人のうち本当に病気なのは9人だけで、陽性的中率は約8%しかない。
医学生医学生
陽性と言われても、9割以上は病気じゃないなんて驚きです。だからこの記述が誤り、つまり正解なんですね。
ドクタードクター
その通り。ここで押さえておきたいのは、感度・特異度は検査固有の性能で有病率には原則として左右されないけれど、陽性的中率や陰性的中率は有病率に大きく依存するということ。有病率が低いと陽性的中率は下がり、陰性的中率は上がる。
医学生医学生
臨床実習の外来で、専門外来に紹介されてきた患者さんだと同じ検査でも陽性の重みが違う、と指導医の先生がおっしゃっていたのはこのことですね。
ドクタードクター
まさにそうだ。有病率の高い集団では陽性的中率が上がる。だからスクリーニングは、見逃しを避けるために感度を重視してふるい分けを行い、陽性者には特異度の高い精密検査で確定する、という二段階で運用されるのが一般的なんだ。健診で「要精密検査」となった人の多くが、実際には異常なしになるのもこの構造による。
医学生医学生
受診者に説明するときも、「陽性=病気」ではないと伝えることが大事になりそうですね。
ドクタードクター
いい視点だね。不要な不安を与えないためにも大切だ。あわせて、スクリーニングの対象となる疾患には、ある程度の有病率があること、早期発見・早期治療で予後が改善すること、検査が安全で安価で受け入れられやすいことなどが求められる。Wilson-Jungnerの基準として整理されているから、セットで覚えておこう。

まとめ

スクリーニング検査の指標は、2×2表を出発点に整理すると理解しやすくなります。偽陰性が少ない(感度が高い)ことが重視され、同じ検査ではカットオフ値の設定によって感度と特異度はトレードオフの関係にあり、カットオフ値はROC曲線の左上隅に最も近い点を目安に決めます。陽性尤度比は感度/(1-特異度)で表され、大きいほど陽性結果の診断的価値が高くなります。一方、偽陽性は疾患のない人から一定割合で生じるため、検査前確率(有病率)が低い集団では偽陽性がむしろ増え、陽性的中率が大きく低下します。感度・特異度は有病率に依存しないが的中率は依存する、という区別は、健診結果の解釈や受診者への説明、検査計画の立案など臨床と公衆衛生の両面で欠かせない考え方です。

解答・解説

正解はeです

【テーマ】スクリーニング検査の評価指標(感度・特異度・ROC曲線・尤度比・検査前確率)の理解を問う問題である。

基本となる2×2表

検査結果と真の疾患の有無を組み合わせると、次の4群に分けられる。 ・真陽性(TP):疾患あり・検査陽性 ・偽陰性(FN):疾患あり・検査陰性(見逃し) ・偽陽性(FP):疾患なし・検査陽性(誤って陽性) ・真陰性(TN):疾患なし・検査陰性 ここから、感度=TP/(TP+FN)、特異度=TN/(TN+FP)、陽性的中率(PPV)=TP/(TP+FP)、陰性的中率(NPV)=TN/(TN+FN)が求められる。

考え方

感度・特異度は検査そのものの性能であり、対象集団の有病率(検査前確率)には原則として左右されない。一方、陽性者のうち本当に疾患をもつ人の割合(陽性的中率)や、偽陽性の数・割合は、検査を行う集団の有病率に大きく依存する。スクリーニングは一般に有病率の低い集団(健常者を多く含む集団)を対象とするため、この性質を正しく理解しておくことが重要である。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題であり、検査前確率と偽陽性の関係を逆に述べている選択肢が正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  偽陰性が少ないほど有用である。

    正しい記述である。偽陰性とは、疾患があるにもかかわらず検査で陰性と判定されてしまう見逃し例のことである。感度=TP/(TP+FN)であるから、偽陰性が少ないほど感度は高くなる。スクリーニングの目的は、無症状の集団から疾患をもつ可能性のある人を拾い上げ、精密検査へつなげることにあるため、見逃しが少ない(感度が高い)ことが特に重視される。

  2. ×b.  感度を高くすると特異度は低くなる。

    正しい記述である。同じ検査でカットオフ値(陽性・陰性を分ける境界値)を動かす場合、陽性と判定する範囲を広げれば見逃しが減って感度は上がるが、疾患のない人まで陽性と判定されやすくなり偽陽性が増えるため特異度は下がる。逆に陽性判定を厳しくすれば特異度は上がるが感度は下がる。このように感度と特異度はトレードオフの関係にある。

  3. ×c.  カットオフ値はROC曲線で決める。

    正しい記述である。ROC曲線(受信者動作特性曲線)は、カットオフ値を少しずつ変えたときの感度を縦軸、偽陽性率(1-特異度)を横軸にとってプロットした曲線である。感度と特異度を同時に最も良くする点は、曲線上で左上隅(感度1、偽陽性率0)に最も近い点であり、一般にここをカットオフ値として採用する。なお、曲線下面積(AUC)が1に近いほど検査の識別能が高く、0.5では偶然と同程度の識別能しかない。

  4. ×d.  陽性尤度比が大きいことが望ましい。

    正しい記述である。陽性尤度比=感度/(1-特異度)であり、疾患のある人が陽性になる確率が、疾患のない人が陽性になる確率の何倍かを表す。検査後オッズ=検査前オッズ×陽性尤度比の関係があり、陽性尤度比が大きいほど、陽性結果が出たときに疾患の可能性が大きく高まる。感度・特異度がともに高い優れた検査ほど陽性尤度比は大きくなるため、大きいことが望ましい。

  5. ○e.  検査前確率が低いと偽陽性が少なくなる。

    誤った記述であり、これが正解である。検査前確率(有病率)が低いということは、検査を受ける集団の大部分が疾患をもたない人であることを意味する。偽陽性は疾患のない人の中から一定の割合(1-特異度)で生じるため、疾患のない人が多いほど偽陽性の数は増え、陽性者に占める偽陽性の割合も大きくなる。その結果、陽性的中率は低下する。例えば感度・特異度がともに90%の検査を1,000人に行う場合、有病率1%では真陽性9人に対し偽陽性は99人となり、陽性的中率は約8%にすぎない。

有病率と的中率の関係

・感度・特異度:検査固有の性能で、有病率には原則として影響されない。 ・陽性的中率:有病率が高いほど上がり、低いほど下がる。 ・陰性的中率:有病率が低いほど上がり、高いほど下がる。 そのため、同じ検査でも一般住民を対象としたスクリーニング(有病率が低い)では陽性者の多くが偽陽性となり、専門外来など有病率の高い集団では陽性的中率が高くなる。

尤度比

・陽性尤度比(LR+)=感度/(1-特異度):大きいほど陽性結果が診断確定に役立つ(一般に10以上で有用性が高いとされる)。 ・陰性尤度比(LR-)=(1-感度)/特異度:小さいほど陰性結果が除外診断に役立つ(一般に0.1以下で有用性が高いとされる)。 ・オッズ=確率/(1-確率)。検査後オッズ=検査前オッズ×尤度比。

スクリーニングの考え方

スクリーニングは疾患を確定する検査ではなく、疾患の疑いのある人を選び出すふるい分けである。見逃しを避けるため感度を重視し、陽性者に対しては特異度の高い精密検査を行って確定する、という二段階で運用されるのが一般的である。また、スクリーニングの対象疾患には、有病率がある程度高いこと、早期発見・早期治療で予後が改善すること、検査が安全・安価で受け入れられやすいことなどが求められる(Wilson-Jungnerの基準)。

POINT

・感度と特異度はカットオフ値の設定によりトレードオフの関係にある。 ・カットオフ値はROC曲線で左上隅に最も近い点を目安に決める。 ・陽性尤度比=感度/(1-特異度)。大きいほど良い検査。 ・有病率(検査前確率)が低い集団では偽陽性が多くなり、陽性的中率が下がる。 ・感度・特異度は有病率に依存しないが、的中率は有病率に依存する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。