「もうだめなんでしょうか」―答えを探す前に、気持ちを受け止める一言を
第104回医師国家試験 F問題 第2問
国試問題にチャレンジ
既に告知済みの終末期のがん患者から「先生,もうだめなんでしょうか」と尋ねられた。 対応として適切なのはどれか。
- a.「今忙しいので後にして下さい」
- b.「そう考えるのはよしましょう」
- c.「そう思えてきてしまうのですよね」
- d.「がんばらないとだめですよ」
- e.「大丈夫,よくなりますよ」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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医学生
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ドクターまとめ
告知済みの終末期がん患者が「もうだめなんでしょうか」と問うとき、そこには病状の確認だけでなく、死への不安や恐怖、孤独感の打ち明けが込められています。適切な対応は、患者の感情を否定せずにそのまま言葉にして返す共感的(理解的)な応答であり、「そう思えてきてしまうのですよね」がこれにあたります。話を後回しにする回避、考えを否定する評価的態度、叱咤激励、根拠のない保証は、いずれも患者の気持ちを受け止めずに会話を打ち切り、孤立感や不信感を強めてしまいます。共感の一言に続けて開かれた質問で気がかりを尋ね、全人的苦痛の視点から緩和ケアにつなげていくことが大切です。ポーターの分類やキューブラー・ロスの5段階とあわせて理解しておくと、医療面接全般でのコミュニケーションの質を高める土台になります。
解答・解説
正解はcです
がんの告知を受けた終末期の患者が「もうだめなんでしょうか」と医師に問いかける場面で、どう応じるのが適切かを問う問題である。 この言葉は、病状についての情報を求めているだけではない。死が近いことへの不安、恐怖、悲しみ、孤独感といった感情を医師に打ち明けているものと受け止めるべきである。このような問いには、一つの正しい答えを示すことよりも、患者の気持ちをまず受け止めることが重要となる。 医療面接でのコミュニケーションでは、患者の感情をそのまま言葉にして返し、「あなたの気持ちを理解しようとしている」と伝える共感的(理解的)な態度が基本とされる。これにより患者は、自分の不安を否定されずに話してよいのだと感じ、さらに思いを語ることができる。そのうえで、何が一番気がかりなのかを尋ね(開かれた質問)、苦痛の緩和や残された時間の過ごし方について一緒に考えていく。 反対に、話を後回しにする(回避)、考えを否定する、叱咤激励する、根拠のない楽観的な保証を与える、といった応答は、患者の感情を受け止めずに会話を打ち切ってしまい、「この医師には本当の気持ちを話せない」という孤立感を強める。 選択肢のうち、患者の感情を否定せずに受け止め、言葉にして返しているのは「そう思えてきてしまうのですよね」である。
選択肢考察
- ×a. 「今忙しいので後にして下さい」
患者が勇気を出して打ち明けた切実な問いから逃げる回避的な態度であり、不適切である。患者は拒絶されたと感じ、以後、不安を口にしなくなるおそれがある。本当に時間がとれない場面であっても、まず問いかけを受け止め、改めて時間をとる約束を具体的に伝えるべきである。
- ×b. 「そう考えるのはよしましょう」
患者の考えや感情を医師の価値判断で否定し、改めさせようとする評価的な態度である。死への不安は、やめようと言われてやめられるものではない。気持ちを否定されることで、患者は不安を抱えたまま話題を封じられてしまう。
- ○c. 「そう思えてきてしまうのですよね」
患者の言葉の背後にある不安や弱気な気持ちをそのまま受け止め、言葉にして返す共感的(理解的)な応答である。否定も安易な保証もしないため、患者は「気持ちをわかってもらえた」と感じ、さらに本心を語りやすくなる。この後に「どんなときにそう感じますか」「一番心配なことは何ですか」などと続けることで、患者の苦痛や希望を具体的に把握し、緩和ケアにつなげることができる。
- ×d. 「がんばらないとだめですよ」
叱咤激励は、すでに心身ともに消耗している患者にとって、さらなる負担や自責感につながる。終末期のがん患者では、うつ病や適応障害を併発していることが少なくなく、安易な励ましは避けるべきである。患者の気持ちを受け止めることなく会話を打ち切ってしまう点でも不適切である。
- ×e. 「大丈夫,よくなりますよ」
病状が告知されている終末期のがん患者に対して、根拠のない保証を与えるのは事実に反し、不誠実である。患者は自分の状態をある程度理解しているため、かえって医師への信頼を損ない、本当の気持ちを話せなくなる。一時的な安心感を与えようとする態度であっても、患者の感情を受け止めたことにはならない。
患者の訴えに対する応答態度の分類(ポーターの分類)
・評価的態度:患者の考えや行動の善悪・適否を医師の価値観で判断し、忠告する(例:「そう考えるのはよしましょう」)。 ・解釈的態度:医師の視点で患者の気持ちや行動の理由を説明し、教える。 ・調査的態度:医師が知りたいことを中心に質問を重ねる。 ・支持的態度:安心させたり励ましたりする。適切な支持は有用だが、根拠のない保証(「大丈夫ですよ」)は不誠実になる。 ・理解的(共感的)態度:患者の気持ちや考えを理解しようとし、それを言葉にして返す(例:「そう思えてきてしまうのですよね」)。医療面接の基本とされる。
共感的な応答の技法
・感情の反映:患者の感情を言葉にして返す(「不安なのですね」)。 ・繰り返し・言い換え:患者の言葉をそのまま、あるいは要約して返す。 ・沈黙の活用:患者が感情を整理し言葉にする時間を尊重する。 ・開かれた質問:「どのようなことが心配ですか」など、自由に答えられる質問で話を引き出す。
終末期の患者の心理
キューブラー・ロスは、死にゆく患者の心理過程として、否認→怒り→取引→抑うつ→受容の5段階を示した。すべての患者が順番どおりに経過するわけではなく、段階を行き来することも多い。医療者はどの段階であっても患者の感情を否定せず受け止めることが求められる。また、終末期のがん患者ではうつ病・適応障害・せん妄の合併が多く、精神症状の評価と、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛(全人的苦痛)への対応が緩和ケアの基本となる。
POINT
・終末期患者の不安の訴えには、否定・回避・叱咤激励・安易な保証をせず、共感的(理解的)態度で気持ちを受け止める。 ・共感的な応答では、患者の感情をそのまま言葉にして返す。 ・告知済みの患者に「よくなりますよ」と言うのは事実に反し、信頼を損なう。 ・終末期がん患者はうつ病を合併しやすく、安易な励ましは避ける。
