立ち止まるか、しゃがみ込むか―休み方で見分ける2つの間欠性跛行
第104回医師国家試験 F問題 第8問
国試問題にチャレンジ
血管性と神経性の間欠性跛行の鑑別に有用なのはどれか。
- a.過去の転倒回数
- b.連続歩行可能な距離
- c.朝のこわばりの有無
- d.階段昇降時の手すりの要否
- e.症状を解消するための休息姿勢
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
間欠性跛行の主な原因には、筋の虚血による血管性(閉塞性動脈硬化症などの末梢動脈疾患)と、腰椎伸展で神経が圧迫される神経性(腰部脊柱管狭窄症)があります。血管性は立ち止まるだけで姿勢に関係なく改善し、神経性はしゃがみ込みや前かがみ、座位など腰椎を前屈させる姿勢で改善するため、症状を解消するための休息姿勢を尋ねることが鑑別に最も有用です。連続歩行可能な距離はどちらでも短くなるため重症度の指標にとどまり、転倒歴や手すりの要否、朝のこわばりは鑑別の手がかりになりません。自転車こぎや坂道での症状の違い、下肢動脈の拍動やABI(0.90以下で末梢動脈疾患を疑う)も鑑別に役立ちます。両者は高齢者で合併することも多く、病態の違いを理解したうえで問診と身体所見を組み合わせる姿勢が、見逃しのない診療につながります。
解答・解説
正解はeです
【テーマ】間欠性跛行の原因としての血管性(末梢動脈疾患)と神経性(腰部脊柱管狭窄症)を、問診で鑑別するポイントを問う問題である。
間欠性跛行とは
一定の距離を歩くと下肢に痛み・しびれ・だるさなどが出現して歩行を続けられなくなり、しばらく休むと再び歩けるようになる症状である。主な原因は次の2つである。 ・血管性:閉塞性動脈硬化症などの末梢動脈疾患(PAD)。下肢動脈の狭窄・閉塞により、歩行で増えた筋の酸素需要に血流が追いつかず、筋の虚血による痛み(主にふくらはぎ)が生じる。 ・神経性:腰部脊柱管狭窄症。腰椎を伸展させた立位・歩行で脊柱管がさらに狭くなり、馬尾や神経根が圧迫・循環障害を受けて、下肢のしびれや痛みが生じる。
鑑別の考え方
血管性では、症状の原因は筋の需要と血流供給の不均衡であるため、「歩くのをやめる(筋を休ませる)」だけで症状は改善し、姿勢は関係しない。立ったまま休んでも回復する。 神経性では、症状の原因は腰椎の伸展による神経の圧迫であるため、立ち止まるだけでは改善しにくく、しゃがむ・座る・前かがみになるなど腰椎を前屈させる姿勢をとると脊柱管が広がって症状が軽快する。 したがって、症状を解消するためにどのような姿勢で休むかを尋ねることが、両者の鑑別に最も有用である。
選択肢考察
- ×a. 過去の転倒回数
鑑別には有用でない。転倒は加齢に伴う筋力・バランス機能の低下、視力障害、薬剤、認知機能低下などさまざまな要因で起こるものであり、間欠性跛行の原因が血管性か神経性かを区別する手がかりにはならない。
- ×b. 連続歩行可能な距離
鑑別には有用でない。連続して歩ける距離(跛行距離)は、血管性・神経性のどちらでも短くなり、症状の重症度や治療効果を評価する指標として用いられる。血管性ではFontaine分類のII度に相当し、跛行距離によって重症度が評価される。しかし、距離そのものから原因を区別することはできない。
- ×c. 朝のこわばりの有無
鑑別には有用でない。朝のこわばりは関節リウマチなどの炎症性関節疾患で特徴的な症状であり(関節リウマチでは1時間以上続くことが多い)、間欠性跛行の原因の鑑別とは関係しない。
- ×d. 階段昇降時の手すりの要否
鑑別には有用でない。階段昇降時に手すりが必要かどうかは、下肢筋力の低下、膝関節症などの関節疾患、バランス障害など多くの要因に左右される日常生活動作の指標であり、血管性と神経性の間欠性跛行を区別する所見ではない。
- ○e. 症状を解消するための休息姿勢
鑑別に有用であり、これが正解である。血管性(末梢動脈疾患)では、歩行を中止すれば立ったままでも筋虚血が解消されて数分以内に症状が改善し、姿勢は関係しない。一方、神経性(腰部脊柱管狭窄症)では、立ち止まるだけでは改善しにくく、しゃがみ込む、腰掛ける、前かがみになるなど腰椎を前屈させることで脊柱管が広がり、神経の圧迫が軽減して症状が改善する。このため、休むときの姿勢を問診することで両者を区別できる。
血管性と神経性の間欠性跛行の比較
・原因疾患:血管性は閉塞性動脈硬化症などの末梢動脈疾患、神経性は腰部脊柱管狭窄症 ・症状の部位:血管性は狭窄部位より末梢の筋(ふくらはぎに多い。腸骨動脈病変では殿部・大腿にも)、神経性は神経支配に沿った下肢のしびれ・痛み(両側性や殿部から下肢への放散も多い) ・改善する休息姿勢:血管性は立ち止まるだけで改善(姿勢に無関係)、神経性は前屈位・座位・しゃがみ込みで改善 ・姿勢による誘発:神経性では長時間の立位(腰椎伸展)だけでも症状が出ることがある。血管性では立位のみでは出現しない。 ・自転車こぎ:神経性では前かがみの姿勢となるため症状が出にくいが、血管性では筋活動で症状が出る。 ・坂道:神経性では前かがみになる上り坂が楽で、腰椎が伸展する下り坂でつらいことが多い。 ・身体所見:血管性では足背動脈・後脛骨動脈などの拍動減弱・消失、足関節上腕血圧比(ABI)の低下(0.90以下で末梢動脈疾患を疑う)、下肢の冷感・皮膚色調の変化がみられる。神経性では下肢の拍動は保たれ、腰椎後屈で症状が誘発されることがあり、MRIで脊柱管狭窄を確認する。
両者の合併
どちらも高齢者に多く、両者を合併する例も少なくない。問診での休息姿勢に加え、下肢動脈の触診やABI測定などで血流を評価することが重要である。
Fontaine分類(末梢動脈疾患の重症度)
I度:冷感・しびれ、II度:間欠性跛行、III度:安静時疼痛、IV度:潰瘍・壊死
POINT
・血管性間欠性跛行:立ち止まるだけで改善(姿勢に無関係)。脈拍減弱、ABI低下(0.90以下)。 ・神経性間欠性跛行(腰部脊柱管狭窄症):前屈位・座位・しゃがみ込みで改善。自転車こぎでは症状が出にくい。 ・鑑別の問診のポイントは「症状が治まるときの休息姿勢」。跛行距離は重症度の指標であり鑑別には使えない。
