タバコの煙は膀胱にも血管にも届く―膀胱癌と動脈硬化をつなぐ共通の危険因子
第104回医師国家試験 F問題 第9問
国試問題にチャレンジ
膀胱癌と動脈硬化に共通する危険因子はどれか。
- a.飲酒
- b.過食
- c.過労
- d.喫煙
- e.不眠
対話形式の解説
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ドクターまとめ
膀胱癌の最大の危険因子は喫煙で、タバコ煙に含まれる芳香族アミンなどが代謝後に尿中へ排泄され、膀胱に溜まった尿を介して尿路上皮に長時間作用することが発癌に関わると考えられています。喫煙は血管内皮障害やLDLの酸化、HDL低下、血小板凝集亢進などを通じて動脈硬化の主要な危険因子でもあり、両者に共通する危険因子となります。飲酒・過食・過労・不眠は動脈硬化との関連が指摘されるものの、膀胱癌の危険因子としては確立していません。膀胱癌ではほかに染料・ゴム工業での芳香族アミン曝露、シクロホスファミド、骨盤部放射線照射、ビルハルツ住血吸虫感染なども重要で、中高年の無症候性肉眼的血尿は膀胱癌を疑う契機になります。一つの危険因子が複数の疾患に共通することを理解しておくと、禁煙指導の意義を患者さんに具体的に伝えられるようになります。
解答・解説
正解はdです
膀胱癌の危険因子と動脈硬化の危険因子を並べ、両方に共通して確立しているものを選ぶ問題である。
膀胱癌の危険因子
膀胱癌(大部分は尿路上皮癌)の最大の危険因子は喫煙であり、膀胱癌の約半数(男性ではそれ以上)が喫煙に関連すると推計されている。喫煙者の膀胱癌リスクは非喫煙者の2〜4倍程度とされる。タバコ煙に含まれる芳香族アミン(4-アミノビフェニル、β-ナフチルアミンなど)が体内に吸収されて代謝され、尿中に排泄されて膀胱内に貯留する間、尿路上皮に長時間接触し、DNAを傷害することが発癌の機序と考えられている。このほか、職業性の芳香族アミン曝露(ベンジジン、β-ナフチルアミンを扱う染料・ゴム工業)、シクロホスファミドの使用(代謝産物アクロレインによる)、骨盤部への放射線照射、ビルハルツ住血吸虫症(扁平上皮癌の原因)などが知られる。
動脈硬化の危険因子
動脈硬化(特に粥状硬化)の主要な危険因子は、脂質異常症(高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症)、高血圧、糖尿病、喫煙、慢性腎臓病、加齢、男性、冠動脈疾患の家族歴などである。生活習慣としては過食・運動不足による肥満(特に内臓脂肪型肥満)、多量飲酒、精神的ストレスや睡眠不足も関与するとされる。
考え方
選択肢はいずれも動脈硬化とは何らかの関連が指摘されているが、膀胱癌の危険因子として確立しているのは喫煙のみである。したがって両者に共通する危険因子は喫煙となる。
選択肢考察
- ×a. 飲酒
多量飲酒は血圧上昇や高トリグリセライド血症を介して動脈硬化性疾患のリスクを高める(少量飲酒の影響については議論がある)。しかし、飲酒と膀胱癌との間に明確な因果関係は確立していない。飲酒がリスクを高める癌としては、口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸・乳房(女性)の癌が挙げられる。したがって共通の危険因子とはいえない。
- ×b. 過食
過食はエネルギー過剰による肥満、脂質異常症、耐糖能異常、高血圧を招き、動脈硬化の重要な背景因子となる。一方、過食や高脂肪食が膀胱癌の危険因子として確立しているわけではない。肥満はいくつかの癌(大腸癌、子宮体癌、閉経後乳癌、腎細胞癌など)との関連が示されているが、膀胱癌の主要な危険因子としては扱われていない。
- ×c. 過労
過労に伴う慢性的な精神的・身体的ストレスは交感神経を持続的に緊張させ、血圧上昇などを介して動脈硬化性疾患(脳・心臓疾患)の発症に関与すると考えられている。いわゆる過労死の多くは脳血管疾患・虚血性心疾患による。しかし過労が膀胱癌の発生に直接関与するという根拠は乏しい。
- ○d. 喫煙
喫煙は膀胱癌の最大の危険因子である。タバコ煙中の芳香族アミンなどの発癌物質が代謝後に尿中へ排泄され、膀胱に貯留した尿を介して尿路上皮に長時間作用する。同時に喫煙は、血管内皮障害、酸化ストレスの増大、LDLの酸化促進、HDLコレステロールの低下、血小板凝集の亢進などを通じて動脈硬化を促進し、冠動脈疾患・脳梗塞・末梢動脈疾患・腹部大動脈瘤のリスクを高める。両者に共通する確立した危険因子であり、正解である。
- ×e. 不眠
慢性的な睡眠不足や不眠は、高血圧・耐糖能異常・肥満との関連を介して心血管疾患のリスク上昇に関与すると報告されている。また睡眠時無呼吸症候群は動脈硬化性疾患の危険因子として知られる。しかし不眠と膀胱癌との因果関係は確立していない。
膀胱癌の概要
膀胱癌は男性に多く(男女比は約3〜4:1)、60歳以上の高齢者に好発する。組織型は約90%が尿路上皮癌である。典型的な初発症状は無症候性肉眼的血尿であり、中高年の無症候性肉眼的血尿をみたら膀胱癌を疑って膀胱鏡検査や尿細胞診を行う。尿路上皮癌は膀胱のみならず腎盂・尿管にも多発・再発しやすい(多中心性発生)。
膀胱癌の主な危険因子
・喫煙(最大の危険因子) ・職業性曝露:芳香族アミン(ベンジジン、β-ナフチルアミン、4-アミノビフェニル)を扱う染料・ゴム・化学工業など ・薬剤:シクロホスファミド(出血性膀胱炎の原因ともなる)、ピオグリタゾンとの関連も指摘されている ・骨盤部への放射線照射 ・ビルハルツ住血吸虫(Schistosoma haematobium)感染:慢性炎症を背景に扁平上皮癌が生じる ・慢性の膀胱刺激(長期留置カテーテル、膀胱結石など):扁平上皮癌の発生に関与
喫煙が危険因子となる主な疾患
癌:肺癌、口腔・咽頭・喉頭癌、食道癌、胃癌、膵癌、肝癌、腎盂・尿管・膀胱癌、子宮頸癌など 循環器疾患:虚血性心疾患、脳卒中、閉塞性動脈硬化症、腹部大動脈瘤 呼吸器疾患:慢性閉塞性肺疾患(COPD) その他:歯周病、2型糖尿病、骨粗鬆症、低出生体重児や早産など
飲酒が危険因子となる主な癌
口腔・咽頭・喉頭癌、食道癌、肝癌、大腸癌、女性の乳癌。膀胱癌は含まれない点で、喫煙との違いを押さえておく。
POINT
・膀胱癌の最大の危険因子は喫煙である(尿中に排泄された芳香族アミンなどが尿路上皮に作用する)。 ・職業性の芳香族アミン曝露(染料・ゴム工業)も膀胱癌の重要な危険因子である。 ・喫煙は動脈硬化の主要な危険因子の一つでもあり、両者に共通する危険因子である。 ・飲酒は口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸・乳房の癌の危険因子だが、膀胱癌の危険因子としては確立していない。
