原因探しは後回し―けいれん重積の乳児に「まず」すべきこと
第104回医師国家試験 F問題 第13問
国試問題にチャレンジ
発熱と喘鳴とを伴い,けいれん重積状態の乳児が搬入された。 静脈路確保後にまず行うのはどれか。
- a.腰椎穿刺
- b.頭部単純CT
- c.抗菌薬投与
- d.ジアゼパム投与
- e.気管支拡張薬投与
対話形式の解説
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ドクターまとめ
けいれん重積状態は、発作が長引くほど神経細胞障害が進み抗けいれん薬も効きにくくなるため、現在は5分以上続く発作を治療開始の目安とし、原因検索より先に発作を止めることが最優先となります。救急ではABCの確保、静脈路確保と血糖測定に続いて、ジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬を静注し、呼吸抑制に備えて気道確保の準備を整えておきます。腰椎穿刺や頭部CT、抗菌薬投与は発熱から中枢神経感染症を考えれば重要ですが、発作が止まり全身状態が安定してから行い、喘鳴への対応でもけいれんを誘発しうるテオフィリンは避けます。ベンゾジアゼピン系で止まらなければホスフェニトインなどの第二段階、さらに難治例では集中治療へと段階的に進みます。症状が多い場面ほど「今まず何をすべきか」を見極める優先順位の判断は、救急医療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
発熱と喘鳴(ぜんめい:気道が狭くなったときに聞こえるゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音)を伴う乳児が、けいれん重積状態で救急搬入された場面である。静脈路はすでに確保されており、「次に最初に行うこと」が問われている。
けいれん重積状態とは
けいれん発作が一定時間以上持続する、または発作が反復してその間に意識が回復しない状態をいう。従来は「30分以上」と定義されていたが、現在は発作が5分以上続けば自然に止まりにくくなるため、5分を目安に治療を開始すべき状態(operational definition)とされている。発作が長引くほど脳の低酸素・代謝障害による神経細胞障害(後遺症)のリスクが高まり、また抗けいれん薬も効きにくくなる。したがって、けいれん重積は時間との勝負であり、原因検索より先に発作を止めることが最優先となる。
救急での優先順位
1. 気道確保・酸素投与・呼吸循環の評価(ABC)とモニター装着 2. 静脈路確保(同時に血糖測定、血液検査用の採血) 3. 抗けいれん薬の静脈内投与による発作の停止 4. 発作が止まり全身状態が安定してから、原因検索(頭部CT、腰椎穿刺など)と原因への治療 本問では静脈路確保まで済んでいるので、次は第一選択の抗けいれん薬であるベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパムなど)を静注して発作を止める段階である。発熱から中枢神経感染症、喘鳴から下気道疾患の合併などが気になるが、それらへの対応はけいれんを止めてから行う。
選択肢考察
- ×a. 腰椎穿刺
発熱を伴うけいれんでは細菌性髄膜炎・脳炎などの中枢神経感染症を鑑別する必要があり、髄液検査は重要な検査である。しかし、けいれん持続中に体動を抑えて穿刺するのは困難かつ危険であり、頭蓋内圧が亢進していれば脳ヘルニアを誘発するおそれもある。発作を止め、全身状態を安定させ、必要に応じて画像で禁忌がないことを確認してから行うべき検査であり、最初に行うことではない。
- ×b. 頭部単純CT
頭部CTは頭蓋内出血、脳浮腫、占拠性病変など、けいれんの原因となる器質的疾患の検索に有用である。しかし、けいれんが続いている状態で患児を撮影室に移動させるのは呼吸循環管理の面で危険であり、体動で画像も得にくい。原因検索は発作を止めて状態が安定してから行うため、まず行うものではない。
- ×c. 抗菌薬投与
発熱とけいれん重積の組み合わせからは細菌性髄膜炎を念頭に置く必要があり、疑いが強ければ髄液検査を待たずに抗菌薬を早期に開始することもある。しかし、抗菌薬では目の前のけいれんは止まらない。まず抗けいれん薬で発作を止めることが優先され、抗菌薬はその後(血液培養などの検体採取後)に速やかに投与する位置づけである。
- ○d. ジアゼパム投与
けいれん重積状態では、持続する発作そのものが脳障害を進行させるため、静脈路確保後ただちに抗けいれん薬を投与して発作を止めることが最優先である。第一選択はベンゾジアゼピン系薬で、ジアゼパム静注は即効性があり、古くから標準的に用いられてきた。ベンゾジアゼピン系薬はGABA-A受容体の作用を増強して神経細胞の過剰な興奮を抑える。主な副作用は呼吸抑制と血圧低下であり、特に本例のように喘鳴を伴う乳児では呼吸状態の悪化に注意し、バッグバルブマスクや気管挿管など気道確保の準備を整えたうえで投与する。
- ×e. 気管支拡張薬投与
喘鳴は気管支喘息や細気管支炎などによる気道狭窄を示唆し、気管支拡張薬はその治療として意味がある。しかし、けいれん重積が続いていること自体が生命と脳機能を脅かしているため、喘鳴への薬物治療よりもけいれんの停止が優先される。なお、テオフィリン(キサンチン系の気管支拡張薬)はけいれんを誘発・遷延させることがあり、けいれんのある小児では特に使用を避けるべき薬剤である。
小児けいれん重積の薬物治療の流れ
・第一段階(発作開始5分前後〜):ベンゾジアゼピン系薬の静注。ジアゼパムのほか、ミダゾラム、ロラゼパムの静注製剤も国内で使用可能となっている。静脈路が確保できない場合は、ミダゾラムの口腔粘膜投与(頬粘膜)・鼻腔内投与・筋注や、ジアゼパム注腸などで代用する。 ・第二段階(ベンゾジアゼピン系薬で止まらない場合):ホスフェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムなどの静注。 ・第三段階(難治性けいれん重積):集中治療下でミダゾラム持続静注やチオペンタールなどの麻酔薬による全身管理、脳波モニタリング。
ベンゾジアゼピン系薬の注意点
・呼吸抑制、血圧低下、舌根沈下による上気道閉塞が起こりうる。 ・効果が切れた後に発作が再発することがあるため、続けて長時間作用型の薬剤を投与することがある。
発熱を伴う小児のけいれんで考える疾患
・熱性けいれん(生後6か月〜5歳ころ、38℃以上の発熱に伴う。多くは単純型で短時間で止まる) ・細菌性髄膜炎、急性脳炎・脳症(インフルエンザ脳症など) ・電解質異常、低血糖(静脈路確保時に血糖を必ず確認する)
けいれん時の初期対応の基本
気道確保・酸素投与、バイタルサインの監視、静脈路確保と血糖測定を行い、抗けいれん薬で発作を止め、その後に原因検索と原因治療へ進む。
POINT
・けいれん重積状態では「まず発作を止める」ことが最優先。原因検索(CT、腰椎穿刺)や原因治療(抗菌薬など)は発作停止・全身状態安定の後に行う。 ・静脈路確保後の第一選択はベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパムなど)の静注。 ・ベンゾジアゼピン系薬の副作用は呼吸抑制。気道確保の準備をしてから投与する。 ・発作が5分以上続けば治療を開始すべきけいれん重積として扱う。 ・テオフィリンはけいれんを誘発しうるため、けいれんのある小児の喘鳴治療では注意。
