尿は「流れていてこそ」守られる―尿路感染症の危険因子は閉塞と異物で考える
第104回医師国家試験 F問題 第12問
国試問題にチャレンジ
尿路感染症の危険因子はどれか。
- a.腎動脈瘤
- b.腎嚢胞
- c.精巣水瘤〈陰嚢水腫〉
- d.尿路結石
- e.慢性腎炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
尿路感染症の多くは腸内細菌が尿道から上行して起こり、健常な尿路では尿の一方向の流れと定期的な排出による洗い流し効果が感染を防いでいます。このため最も重要な危険因子は尿流の停滞(閉塞・残尿)と異物であり、両方を生じる尿路結石が代表例です。腎動脈瘤、単純性腎嚢胞、精巣水瘤は尿路の内腔と交通せず、慢性糸球体腎炎は細菌感染とは異なる免疫学的疾患であるため、危険因子とはされません。前立腺肥大症、神経因性膀胱、膀胱尿管逆流、カテーテル留置、糖尿病などは複雑性尿路感染症の背景となり、特に結石による閉塞性腎盂腎炎は敗血症化しやすく緊急ドレナージが必要です。反復・難治の尿路感染では背景因子を探して解除するという視点が、治療方針を決めるうえで欠かせません。
解答・解説
正解はdです
尿路感染症を起こしやすくする背景因子を問う問題である。
尿路感染症の成り立ち
尿路感染症の大部分は、腸内細菌(大腸菌が最多)が会陰部から尿道を逆行性に上行して起こる。健常な尿路では、尿が一方向に流れて定期的に排出されること(洗い流し効果)、尿路上皮の防御機構などにより細菌の定着・増殖が抑えられている。したがって、この防御機構を破綻させる因子、特に「尿流の停滞(尿路閉塞・残尿)」と「異物の存在」が最も重要な危険因子となる。
単純性と複雑性
基礎疾患のない尿路に起こるものを単純性尿路感染症(性的活動期の女性の膀胱炎が典型)、尿路の器質的・機能的異常や全身的な易感染状態を背景に起こるものを複雑性尿路感染症と呼ぶ。複雑性尿路感染症の背景には、尿路結石、前立腺肥大症、膀胱癌などの尿路腫瘍、尿道狭窄、神経因性膀胱、膀胱尿管逆流、尿道カテーテル留置、糖尿病などがある。
考え方
選択肢のうち尿路に直接関与し、尿流の停滞と異物としての作用の両方を生じるのは尿路結石である。他の選択肢は尿路の内腔とは交通がないか、尿流停滞を来す病態ではない。
選択肢考察
- ×a. 腎動脈瘤
腎動脈瘤は腎動脈に生じる血管の病変で、多くは無症状であり、他の目的で行ったCTなどで偶然に見つかることが多い。尿路の内腔とは関係がなく尿流を障害しないため、尿路感染症の危険因子ではない。臨床上問題となるのは破裂のリスク(特に妊娠中)や腎血管性高血圧である。
- ×b. 腎嚢胞
単純性腎嚢胞は腎実質内に生じる液体貯留で、加齢とともに頻度が増し、通常は無症状である。尿路とは交通がなく、尿流を妨げることもほとんどないため、一般には尿路感染症の危険因子とはされない。なお、常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎では嚢胞感染を起こすことがあるが、単純性腎嚢胞とは別の病態である。
- ×c. 精巣水瘤〈陰嚢水腫〉
精巣水瘤(陰嚢水腫)は精巣固有鞘膜腔に液体が貯留した状態で、無痛性の陰嚢腫大を示し、透光性が陽性となる。貯留腔は尿路とは交通しておらず、尿流にも影響しないため、尿路感染症の危険因子とはならない。
- ○d. 尿路結石
尿路結石は尿路感染症の代表的な危険因子である。結石が尿管などを閉塞すると上部の尿流がうっ滞し、細菌が排出されずに増殖しやすくなる。また結石自体が異物として細菌の足場となり、結石内に取り込まれた細菌には抗菌薬が届きにくいため、感染が遷延・再発しやすい。閉塞を伴う腎盂腎炎(閉塞性腎盂腎炎)は急速に敗血症・敗血症性ショックへ進行しうる泌尿器科的救急疾患であり、抗菌薬に加えて尿管ステント留置や腎瘻造設による速やかなドレナージが必要となる。逆に、ウレアーゼ産生菌(Proteus属など)の感染は尿をアルカリ化し、リン酸マグネシウムアンモニウム(ストルバイト)結石を形成するという双方向の関係もある。
- ×e. 慢性腎炎
慢性腎炎(慢性糸球体腎炎)は、IgA腎症などの糸球体の免疫学的・炎症性疾患で、蛋白尿・血尿を呈し、腎機能が徐々に低下する。細菌感染による疾患ではなく、尿路の閉塞や尿流停滞も来さないため、尿路感染症の危険因子とはされない。なお、細菌感染による腎実質の炎症である慢性腎盂腎炎とは別の疾患であり、名称を混同しないよう注意する。
尿路感染症の主な危険因子
・尿流の停滞・閉塞:尿路結石、前立腺肥大症、尿道狭窄、膀胱癌・尿管癌などの尿路腫瘍、腎盂尿管移行部狭窄、神経因性膀胱(残尿)、妊娠(子宮による尿管圧迫とプロゲステロンによる尿管の弛緩) ・尿の逆流:膀胱尿管逆流(小児の反復性腎盂腎炎の重要な原因) ・異物:尿道カテーテル・尿管ステント・腎瘻カテーテルの留置、結石 ・解剖学的要因:女性(尿道が短く、外尿道口が肛門に近い) ・その他:性交、閉経(エストロゲン低下による腟内乳酸桿菌の減少)、糖尿病、免疫抑制状態、高齢
尿路感染症の分類
・単純性:基礎疾患のない尿路の感染。起炎菌は大部分が大腸菌で、抗菌薬への反応がよい。 ・複雑性:尿路の基礎疾患を有するもの。大腸菌以外に腸球菌、緑膿菌、クレブシエラ、プロテウスなど多彩な菌が原因となり、薬剤耐性菌も多く、再発しやすい。治療には抗菌薬とともに基礎疾患(閉塞など)の解除が重要である。
閉塞性腎盂腎炎
結石などによる尿路閉塞に感染が加わったもので、発熱、患側の肋骨脊柱角叩打痛に加え、画像検査で水腎症を認める。抗菌薬のみでは改善しにくく、敗血症性ショックやDICに陥りやすいため、緊急ドレナージ(尿管ステント留置または経皮的腎瘻造設)を行う。
POINT
・尿路感染症の最大の危険因子は尿流の停滞(閉塞・残尿)と異物である。 ・尿路結石、前立腺肥大症、尿路腫瘍、尿道狭窄、神経因性膀胱、膀胱尿管逆流、カテーテル留置などが複雑性尿路感染症の背景となる。 ・結石による閉塞性腎盂腎炎は敗血症化しやすく、緊急ドレナージの適応である。 ・腎動脈瘤、単純性腎嚢胞、精巣水瘤、慢性糸球体腎炎は尿流停滞を来さず、尿路感染症の危険因子ではない。
