StudyMed医師国家試験

尿は「流れていてこそ」守られる―尿路感染症の危険因子は閉塞と異物で考える

第104回医師国家試験 F問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第104回 F問題 第12問

尿路感染症の危険因子はどれか。

  1. a.腎動脈瘤
  2. b.腎嚢胞
  3. c.精巣水瘤〈陰嚢水腫〉
  4. d.尿路結石
  5. e.慢性腎炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、尿路感染症を起こしやすくする背景因子を問う問題だ。選択肢はどれも腎・泌尿器に関係する病名だけれど、ポイントは「尿の通り道そのものに影響するかどうか」。まずは尿路感染症がどうやって起こるのか、そこから整理していこう。
医学生医学生
原因菌は大腸菌が一番多いと習いました。腸内細菌が尿道から上がってくるんですよね。
ドクタードクター
その通り。大部分は会陰部の腸内細菌が尿道を逆行性に上行して起こる。では、健康な人の膀胱にも細菌はときどき入り込むのに、なぜ毎回感染しないのだと思う?
医学生医学生
うーん、尿そのものに殺菌作用があるから、でしょうか。
ドクタードクター
それも一部はあるけれど、一番大きいのは「洗い流し効果」なんだ。尿が一方向に流れ、定期的にすべて排出されることで、入り込んだ細菌は増える前に外へ出される。加えて尿路上皮自体の防御機構もある。だから、尿の流れが滞ること、そして細菌の足場になる異物があることが、最も重要な危険因子になる。
医学生医学生
なるほど、流れが止まると細菌が居座って増えてしまうわけですね。それなら答えは尿路結石でしょうか。
ドクタードクター
正解。尿路結石は尿管などを閉塞して上流の尿をうっ滞させるうえ、結石そのものが異物として細菌の足場になる。結石の内部に取り込まれた細菌には抗菌薬が届きにくく、感染が長引いたり再発したりしやすいんだ。
医学生医学生
泌尿器科の臨床実習で、結石で詰まった腎盂腎炎の患者さんに緊急で尿管ステントを入れているのを見ました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。それが閉塞性腎盂腎炎で、泌尿器科の代表的な救急疾患だ。膿がたまった袋を抗菌薬だけで治そうとしても難しく、急速に敗血症性ショックやDICへ進むことがある。だから尿管ステント留置や経皮的腎瘻造設でドレナージするのが原則なんだ。では残りの選択肢を見ていこう。腎動脈瘤はどうかな。
医学生医学生
血管の病気なので、尿の流れには関係なさそうです。
ドクタードクター
そうだね。腎動脈瘤は多くが無症状で、ほかの目的のCTで偶然見つかることが多い。問題になるのは破裂、特に妊娠中の破裂や、腎血管性高血圧のほうで、尿路感染とは結びつかない。次に腎嚢胞は?
医学生医学生
腎臓の中に袋ができるので、少し感染と関係がありそうな気もしますが……。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。単純性腎嚢胞は加齢とともに増える腎実質内の液体貯留で、尿路とは交通がなく、通常は尿流も妨げない。だから一般に危険因子とはされない。ただし常染色体顕性多発性嚢胞腎では嚢胞感染が問題になることがあり、これは別の病態として区別しておこう。
医学生医学生
精巣水瘤は陰嚢が腫れる病気で、OSCEの練習で透光性を確認するって習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。精巣固有鞘膜腔に液体がたまる状態で、無痛性の陰嚢腫大と透光性陽性が特徴だ。貯留している腔は尿路とつながっていないから、尿路感染症の危険因子にはならない。最後に慢性腎炎だ。
医学生医学生
名前に「腎炎」と付いているので、感染とつながりそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけポイントだね。慢性腎炎は慢性糸球体腎炎、つまりIgA腎症などの免疫学的な糸球体疾患で、細菌感染とは別物だ。尿路の閉塞も来さない。細菌による腎実質の炎症である慢性腎盂腎炎と名前を混同しないよう注意しよう。
医学生医学生
整理すると、尿路の内腔に関わって、流れを止めたり異物になったりするものが危険因子、ということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。ここから発展させると、複雑性尿路感染症の背景疾患がまとめて覚えられる。前立腺肥大症、尿道狭窄、膀胱癌などの尿路腫瘍、神経因性膀胱による残尿、小児の膀胱尿管逆流、そして尿道カテーテルなどの留置物。妊娠も子宮による尿管圧迫とプロゲステロンによる尿管の弛緩でうっ滞を起こす。
医学生医学生
糖尿病も入りますか。
ドクタードクター
入るよ。尿路の異常ではないけれど、易感染状態として複雑性尿路感染症の背景になる。複雑性では大腸菌以外に腸球菌、緑膿菌、クレブシエラ、プロテウスなど多彩な菌が関わり、耐性菌も多い。治療では抗菌薬だけでなく、閉塞などの基礎疾患を解除することが欠かせない。さらに、プロテウスのようなウレアーゼ産生菌は尿をアルカリ化して、ストルバイト結石をつくる。結石と感染は互いを悪化させる関係にあるんだ。
医学生医学生
繰り返す尿路感染の患者さんを見たら、抗菌薬を替えるだけでなく、背景に閉塞や異物がないか探すことが大事なんですね。
ドクタードクター
まさにそれが臨床の要点だ。「なぜこの人は感染したのか」を考える習慣をつけよう。

まとめ

尿路感染症の多くは腸内細菌が尿道から上行して起こり、健常な尿路では尿の一方向の流れと定期的な排出による洗い流し効果が感染を防いでいます。このため最も重要な危険因子は尿流の停滞(閉塞・残尿)と異物であり、両方を生じる尿路結石が代表例です。腎動脈瘤、単純性腎嚢胞、精巣水瘤は尿路の内腔と交通せず、慢性糸球体腎炎は細菌感染とは異なる免疫学的疾患であるため、危険因子とはされません。前立腺肥大症、神経因性膀胱、膀胱尿管逆流、カテーテル留置、糖尿病などは複雑性尿路感染症の背景となり、特に結石による閉塞性腎盂腎炎は敗血症化しやすく緊急ドレナージが必要です。反復・難治の尿路感染では背景因子を探して解除するという視点が、治療方針を決めるうえで欠かせません。

解答・解説

正解はdです

尿路感染症を起こしやすくする背景因子を問う問題である。

尿路感染症の成り立ち

尿路感染症の大部分は、腸内細菌(大腸菌が最多)が会陰部から尿道を逆行性に上行して起こる。健常な尿路では、尿が一方向に流れて定期的に排出されること(洗い流し効果)、尿路上皮の防御機構などにより細菌の定着・増殖が抑えられている。したがって、この防御機構を破綻させる因子、特に「尿流の停滞(尿路閉塞・残尿)」と「異物の存在」が最も重要な危険因子となる。

単純性と複雑性

基礎疾患のない尿路に起こるものを単純性尿路感染症(性的活動期の女性の膀胱炎が典型)、尿路の器質的・機能的異常や全身的な易感染状態を背景に起こるものを複雑性尿路感染症と呼ぶ。複雑性尿路感染症の背景には、尿路結石、前立腺肥大症、膀胱癌などの尿路腫瘍、尿道狭窄、神経因性膀胱、膀胱尿管逆流、尿道カテーテル留置、糖尿病などがある。

考え方

選択肢のうち尿路に直接関与し、尿流の停滞と異物としての作用の両方を生じるのは尿路結石である。他の選択肢は尿路の内腔とは交通がないか、尿流停滞を来す病態ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  腎動脈瘤

    腎動脈瘤は腎動脈に生じる血管の病変で、多くは無症状であり、他の目的で行ったCTなどで偶然に見つかることが多い。尿路の内腔とは関係がなく尿流を障害しないため、尿路感染症の危険因子ではない。臨床上問題となるのは破裂のリスク(特に妊娠中)や腎血管性高血圧である。

  2. ×b.  腎嚢胞

    単純性腎嚢胞は腎実質内に生じる液体貯留で、加齢とともに頻度が増し、通常は無症状である。尿路とは交通がなく、尿流を妨げることもほとんどないため、一般には尿路感染症の危険因子とはされない。なお、常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎では嚢胞感染を起こすことがあるが、単純性腎嚢胞とは別の病態である。

  3. ×c.  精巣水瘤〈陰嚢水腫〉

    精巣水瘤(陰嚢水腫)は精巣固有鞘膜腔に液体が貯留した状態で、無痛性の陰嚢腫大を示し、透光性が陽性となる。貯留腔は尿路とは交通しておらず、尿流にも影響しないため、尿路感染症の危険因子とはならない。

  4. ○d.  尿路結石

    尿路結石は尿路感染症の代表的な危険因子である。結石が尿管などを閉塞すると上部の尿流がうっ滞し、細菌が排出されずに増殖しやすくなる。また結石自体が異物として細菌の足場となり、結石内に取り込まれた細菌には抗菌薬が届きにくいため、感染が遷延・再発しやすい。閉塞を伴う腎盂腎炎(閉塞性腎盂腎炎)は急速に敗血症・敗血症性ショックへ進行しうる泌尿器科的救急疾患であり、抗菌薬に加えて尿管ステント留置や腎瘻造設による速やかなドレナージが必要となる。逆に、ウレアーゼ産生菌(Proteus属など)の感染は尿をアルカリ化し、リン酸マグネシウムアンモニウム(ストルバイト)結石を形成するという双方向の関係もある。

  5. ×e.  慢性腎炎

    慢性腎炎(慢性糸球体腎炎)は、IgA腎症などの糸球体の免疫学的・炎症性疾患で、蛋白尿・血尿を呈し、腎機能が徐々に低下する。細菌感染による疾患ではなく、尿路の閉塞や尿流停滞も来さないため、尿路感染症の危険因子とはされない。なお、細菌感染による腎実質の炎症である慢性腎盂腎炎とは別の疾患であり、名称を混同しないよう注意する。

尿路感染症の主な危険因子

・尿流の停滞・閉塞:尿路結石、前立腺肥大症、尿道狭窄、膀胱癌・尿管癌などの尿路腫瘍、腎盂尿管移行部狭窄、神経因性膀胱(残尿)、妊娠(子宮による尿管圧迫とプロゲステロンによる尿管の弛緩) ・尿の逆流:膀胱尿管逆流(小児の反復性腎盂腎炎の重要な原因) ・異物:尿道カテーテル・尿管ステント・腎瘻カテーテルの留置、結石 ・解剖学的要因:女性(尿道が短く、外尿道口が肛門に近い) ・その他:性交、閉経(エストロゲン低下による腟内乳酸桿菌の減少)、糖尿病、免疫抑制状態、高齢

尿路感染症の分類

・単純性:基礎疾患のない尿路の感染。起炎菌は大部分が大腸菌で、抗菌薬への反応がよい。 ・複雑性:尿路の基礎疾患を有するもの。大腸菌以外に腸球菌、緑膿菌、クレブシエラ、プロテウスなど多彩な菌が原因となり、薬剤耐性菌も多く、再発しやすい。治療には抗菌薬とともに基礎疾患(閉塞など)の解除が重要である。

閉塞性腎盂腎炎

結石などによる尿路閉塞に感染が加わったもので、発熱、患側の肋骨脊柱角叩打痛に加え、画像検査で水腎症を認める。抗菌薬のみでは改善しにくく、敗血症性ショックやDICに陥りやすいため、緊急ドレナージ(尿管ステント留置または経皮的腎瘻造設)を行う。

POINT

・尿路感染症の最大の危険因子は尿流の停滞(閉塞・残尿)と異物である。 ・尿路結石、前立腺肥大症、尿路腫瘍、尿道狭窄、神経因性膀胱、膀胱尿管逆流、カテーテル留置などが複雑性尿路感染症の背景となる。 ・結石による閉塞性腎盂腎炎は敗血症化しやすく、緊急ドレナージの適応である。 ・腎動脈瘤、単純性腎嚢胞、精巣水瘤、慢性糸球体腎炎は尿流停滞を来さず、尿路感染症の危険因子ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。