輸血は「ゼロリスク」ではない―製剤の目的と安全対策を総整理
第104回医師国家試験 F問題 第11問
国試問題にチャレンジ
輸血で正しいのはどれか。
- a.口頭での同意が必要である。
- b.新鮮凍結血漿の適応は凝固因子の補充である。
- c.白血球除去フィルターは輸血後GVHDを予防できる。
- d.血小板数5万以下の場合は濃厚血小板輸血の適応である。
- e.PCR法検査の導入以降,輸血後HIV感染症は認められていない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
輸血は感染症や免疫学的副作用のリスクを伴うため、必要性・リスク・代替手段などを説明したうえで文書による同意を得ることが原則です。製剤ごとの目的を押さえることが重要で、新鮮凍結血漿は複合的な凝固因子欠乏に対する凝固因子の補充に用い、循環血漿量の補充や栄養補給には使いません。輸血後GVHDは放射線照射で予防し、白血球除去は発熱反応・HLA抗体産生・CMV感染の予防が目的です。予防的血小板輸血の目安は1万〜2万/μL以下で、5万/μLという数値だけでは適応にならず、NAT導入後もウインドウ期のすり抜けによるHIV感染例があります。輸血は多重の安全対策を経ても「ゼロリスク」ではないと理解し、適応を厳密に判断する姿勢が、安全な輸血医療の基本となります。
解答・解説
正解はbです
輸血療法の基本事項(インフォームド・コンセント、各血液製剤の適応、輸血副作用の予防、輸血感染症対策)を横断的に問う問題である。
押さえるべき枠組み
・同意:輸血は感染症や免疫学的副作用のリスクを伴う医療行為であり、必要性・危険性・代替療法などを説明したうえで、文書による同意(輸血同意書)を得る。 ・製剤ごとの目的:赤血球製剤は酸素運搬能の改善、新鮮凍結血漿(FFP)は凝固因子の補充、濃厚血小板は血小板の補充による止血・出血予防が目的である。 ・輸血後GVHD(移植片対宿主病)の予防:製剤に含まれるリンパ球を不活化するための放射線照射が確実な方法である。 ・感染症対策:核酸増幅検査(NAT)により安全性は飛躍的に向上したが、検出限界以下のウイルス量のウインドウ期血液を完全には排除できず、リスクはゼロではない。 これらに照らすと、FFPの主目的を正しく述べた選択肢のみが正しい。
選択肢考察
- ×a. 口頭での同意が必要である。
誤り。厚生労働省の「輸血療法の実施に関する指針」では、輸血の必要性、使用する製剤の種類と量、副作用・感染症のリスク、自己血輸血などの代替手段、救済制度などについて説明し、文書で同意を得ることとされている。同意書は患者に交付するとともに診療録に保存する。口頭の同意だけでは不十分である(生命に関わる緊急時の対応は別途考慮される)。
- ○b. 新鮮凍結血漿の適応は凝固因子の補充である。
正しい。FFPは献血血液から分離した血漿を凍結保存したもので、凝固因子を含む。投与の目的は凝固因子の補充であり、複数の凝固因子が低下した病態(肝障害による凝固障害、播種性血管内凝固〈DIC〉、大量輸血に伴う希釈性凝固障害など)で、出血している場合や観血的処置を行う場合に適応となる。PT・APTTの延長やフィブリノゲン低値が投与判断の目安となる。一方、循環血漿量の補充や低アルブミン血症の是正、栄養補給を目的とした投与は不適切である。なお、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)に対する血漿交換の置換液としても用いられる。
- ×c. 白血球除去フィルターは輸血後GVHDを予防できる。
誤り。輸血後GVHDは、製剤中の供血者リンパ球が受血者の体内で排除されずに増殖し、受血者の組織を攻撃する病態で、発症するとほぼ致死的である。白血球除去フィルターでは白血球を完全には除去できないため、予防手段としては不十分である。確実な予防法は、赤血球製剤や血小板製剤に15〜50Gyの放射線を照射してリンパ球の増殖能を失わせることである。白血球除去の主な目的は、発熱性非溶血性輸血副作用、HLA抗体産生(血小板輸血不応の原因)、サイトメガロウイルス感染の予防である。
- ×d. 血小板数5万以下の場合は濃厚血小板輸血の適応である。
誤り。血小板輸血の適応は血小板数だけでなく、出血症状の有無、原因疾患、観血的処置の予定などから総合的に判断する。一般に血小板数が5万/μL程度あれば重篤な出血はまれで、活動性出血がなければ輸血は不要である。造血不全や化学療法後などで予防的に投与する目安は1万〜2万/μL以下とされる。5万/μL前後は、活動性出血を伴う場合や手術・侵襲的処置を行う場合に目標とされる値である。また、免疫性血小板減少症(ITP)やTTP、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)では、原則として予防的血小板輸血は行わない。
- ×e. PCR法検査の導入以降,輸血後HIV感染症は認められていない。
誤り。日本ではPCR法などを用いた核酸増幅検査(NAT)が1999年に導入され、ウインドウ期(感染後に抗体が陽性化するまでの期間)は大幅に短縮した。しかし感染直後でウイルス量が検出限界に達していない血液はNATをすり抜ける可能性があり、実際にNAT導入後も2003年と2013年に輸血によるHIV感染例が確認されている。その後、NATを個別検体で行う方式に変更されるなど感度向上が図られているが、輸血感染症のリスクは完全にはなくならない。
主な血液製剤と適応
・赤血球製剤:貧血による酸素運搬能低下の改善。慢性貧血ではHb 6〜7g/dL程度が輸血の目安とされるが、症状や背景疾患で判断する。 ・新鮮凍結血漿(FFP):凝固因子の補充(複合的な凝固因子欠乏)。単一凝固因子の欠乏(血友病など)には原則として該当する凝固因子製剤を用いる。 ・濃厚血小板:血小板減少や機能異常による出血の治療・予防。 ・アルブミン製剤:血漿分画製剤であり、低アルブミン血症に伴う病態や循環血漿量の是正などに用いる。
輸血の主な副作用
・急性溶血性輸血反応:ABO不適合輸血が代表で、最も重大。患者確認の徹底が予防の要である。 ・遅発性溶血性輸血反応:不規則抗体による。 ・発熱性非溶血性輸血反応:白血球由来のサイトカインや抗白血球抗体による。 ・アレルギー反応・アナフィラキシー:IgA欠損症患者での抗IgA抗体によるものなど。 ・輸血関連急性肺障害(TRALI):輸血後6時間以内の非心原性肺水腫。 ・輸血関連循環過負荷(TACO):容量負荷による心原性肺水腫。 ・輸血後GVHD:放射線照射で予防する。 ・輸血感染症:HBV、HCV、HIV、HTLV-1、細菌、ヒトパルボウイルスB19、E型肝炎ウイルスなど。
日本における輸血用血液の安全対策
献血者への問診(ハイリスク行動や海外渡航歴の確認)、血清学的検査(HBs抗原、HBc抗体、HCV抗体、HIV-1/2抗体、HTLV-1抗体、梅毒など)、HBV・HCV・HIV(現在はHEVも)の個別NAT、初流血除去(皮膚常在菌の混入防止)、保存前白血球除去、FFPの貯留保管(一定期間保管し、その間に献血者の後の検査で陽性が判明した場合に出庫を止める)、遡及調査、放射線照射などが行われている。現在、日本赤十字社から供給される輸血用血液製剤は保存前白血球除去製剤であり、ベッドサイドでの白血球除去フィルターは通常不要となっている。
POINT
・輸血は文書による同意(同意書)が必要である。 ・FFPの目的は凝固因子の補充であり、循環血漿量補充や栄養補給目的の投与は不適切である。 ・輸血後GVHDの予防は放射線照射(15〜50Gy)で行い、白血球除去フィルターでは不十分である。 ・予防的血小板輸血の目安は1万〜2万/μL以下で、5万/μLという数値だけでは適応とならない。 ・NAT導入後も、ウインドウ期のすり抜けによる輸血後HIV感染例がある。
