StudyMed医師国家試験

膿は「詰める」のではなく「出す」―肝胆道疾患の治療を原理で見抜く

第104回医師国家試験 E問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第32問

疾患と治療の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.胃静脈瘤 ―― バルーン閉塞下経静脈的静脈瘤閉塞〈BRTO〉
  2. b.肝膿瘍 ―― 動脈塞栓術
  3. c.肝細胞癌 ―― ラジオ波焼灼術
  4. d.総胆管結石症 ―― 内視鏡的除石術
  5. e.硬化性胆管炎 ―― 内視鏡的ドレナージ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は肝臓・胆道・門脈系の病気と、その治療法の組合せから誤りを選ぶ問題だ。カテーテル治療や内視鏡治療といった低侵襲治療がずらりと並んでいるけれど、一つひとつ丸暗記するより、治療の「原理」から考えると見通しがよくなる。治療は大きく、血管を詰める、腫瘍を焼く、たまったものを取り除く・流す、の3つに分けられるよ。
医学生医学生
詰める・焼く・出す、ですね。それぞれどんな病気に向いているか考えればいいということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。まず詰める治療。血管を塞いで血流を断つから、出血源になる静脈瘤や、動脈血で栄養される腫瘍が対象になる。胃静脈瘤とBRTOの組合せはどうかな。
医学生医学生
BRTOは名前が長くて覚えにくいんですが、バルーンで血流を止めて静脈瘤を固める治療でしたよね。食道静脈瘤ならEVLのイメージがあります。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。胃穹窿部の孤立性静脈瘤は、多くが胃腎シャントという左腎静脈への抜け道をもっている。BRTOでは大腿静脈から左腎静脈を経てこのシャントにカテーテルを進め、バルーンで流れを止めた状態で硬化剤を注入して静脈瘤を血栓化させる。胃静脈瘤は太くて血流が多いからEVLでは治療しにくく、BRTOや組織接着剤を使った内視鏡治療がよい適応なんだ。
医学生医学生
なるほど、正しい組合せですね。肝細胞癌とラジオ波焼灼術も、焼く治療として合っていると思います。
ドクタードクター
そうだね。超音波で見ながら腫瘍に電極針を刺し、高周波電流の熱で凝固壊死させる。肝予備能が保たれていて、腫瘍が3cm以下・3個以下なら、肝切除と並ぶ選択肢とされる。ちなみに肝細胞癌は主に肝動脈から栄養されるから、詰める治療である肝動脈化学塞栓療法も重要な治療法だよ。
医学生医学生
だとすると、肝膿瘍に動脈塞栓術というのは……肝臓の病気だから使えそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。肝膿瘍は何の病気だったかな。
医学生医学生
肝臓に膿がたまる感染症です。あ、感染巣なら血流を断っても意味がない、ということですか。
ドクタードクター
まさに。治療の基本は原因菌に対する抗菌薬と、超音波やCTで位置を確認しながら針やチューブを刺して膿を排出する経皮的ドレナージだ。血流を断てば抗菌薬も届かなくなり、周囲組織の壊死や感染の悪化を招きかねない。動脈塞栓術は肝細胞癌や、腫瘍破裂・外傷による肝出血に使う治療で、膿瘍の治療にはならない。だからこれが誤りの組合せだ。
医学生医学生
感染症内科の講義で「膿があったらドレナージ」と繰り返し言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
感染症診療の大原則だね。ちなみに原因菌は大腸菌やクレブシエラが多く、胆管炎からの上行性感染がよくある経路だ。アメーバ性肝膿瘍ならメトロニダゾールが第一選択で、渡航歴や性的接触歴が手がかりになる。では、出す治療の残り2つを確認しよう。総胆管結石症はどうかな。
医学生医学生
消化器内科の実習でERCPを見学しました。乳頭を切開してバスケットで石をかき出していました。
ドクタードクター
それが内視鏡的乳頭括約筋切開術、ESTだね。バルーンで乳頭を広げるEPBDもある。結石を十二指腸へ取り出すのが現在の第一選択で、大きな石は砕いてから取り出す。胆嚢結石を伴えば、その後に胆嚢摘出術も検討する。
医学生医学生
硬化性胆管炎は胆管が狭くなる病気なので、狭いところを広げて胆汁を流すという意味でドレナージですね。
ドクタードクター
正解。原発性硬化性胆管炎は胆管に原因不明の炎症と線維化が起こって数珠状に狭窄・拡張を繰り返す病気で、潰瘍性大腸炎を合併しやすい。根本的な治療薬はなく、強い狭窄で黄疸や胆管炎が起きたら内視鏡的なバルーン拡張やステント留置を行う。進行して肝不全に至れば、肝移植が唯一の根治的治療だ。
医学生医学生
IgG4関連硬化性胆管炎とはどう違うんでしたっけ。CBTで紛らわしかった記憶があります。
ドクタードクター
IgG4関連のほうはステロイドがよく効くのが大きな違いだ。ただし閉塞性黄疸があれば、やはり内視鏡的ドレナージを行う。臨床では両者を区別することが治療方針に直結するから、血清IgG4や他臓器病変の有無を必ず確認しよう。
医学生医学生
治療の名前を覚えるだけでなく、何を詰めて、何を焼いて、何を出すのかを考えれば、迷わずに済みそうです。
ドクタードクター
その感覚が大事。BRTOはシャントを閉じる分、術後に門脈圧が上がって食道静脈瘤が悪化することもある。どの治療にも目的と副作用があることを意識しておくと、臨床でも応用が利くよ。

まとめ

肝胆道領域の低侵襲治療は、血管を詰める(塞栓術・BRTO)、腫瘍を焼く(ラジオ波焼灼術)、たまったものを取り除く・流す(除石術・ドレナージ)という原理で整理すると理解しやすくなります。肝膿瘍は感染症であり、治療の基本は抗菌薬と経皮的ドレナージで、動脈塞栓術は肝細胞癌や肝出血に用いる治療のため組合せとして誤りです。胃腎シャントを伴う胃静脈瘤にはBRTO、肝細胞癌にはラジオ波焼灼術や肝動脈化学塞栓療法、総胆管結石にはERCP下のEST・EPBDと内視鏡的除石、硬化性胆管炎の狭窄には内視鏡的ドレナージが行われます。アメーバ性肝膿瘍ではメトロニダゾール、IgG4関連硬化性胆管炎ではステロイドが有効という点も併せて押さえておきましょう。治療の原理と病態を結びつける考え方は、初見の治療法の適否を判断する臨床力の土台になります。

解答・解説

正解はbです

肝臓・胆道・門脈系の代表的疾患と、その治療法(特にカテーテル治療や内視鏡治療などの低侵襲治療)の対応を問う問題である。「誤っているのはどれか」と問われているので、疾患に対して通常行わない治療が組み合わされたものを選ぶ。

考え方

治療法の目的と原理から判断するとよい。 ・閉塞させる治療(塞栓術・硬化療法):血管を詰めて血流を断つ。出血源となる静脈瘤や、動脈血で栄養される腫瘍(肝細胞癌)が対象となる。 ・焼灼する治療(ラジオ波焼灼術など):腫瘍を熱で壊死させる。 ・取り除く・流す治療(除石術・ドレナージ):胆管内の結石や、たまった胆汁・膿を体外や消化管へ排出する。 肝膿瘍は肝臓内に膿がたまった感染症であり、治療の基本は抗菌薬と膿の排出(ドレナージ)である。血流を断つ動脈塞栓術は感染巣の治療にならず、むしろ周囲組織の壊死や感染の悪化を招きうるため、組合せとして誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  胃静脈瘤 ―― バルーン閉塞下経静脈的静脈瘤閉塞〈BRTO〉

    正しい組合せである。胃穹窿部(胃の上部)の孤立性静脈瘤は、多くの場合、胃腎シャント(胃静脈瘤から左腎静脈へ流れ出る側副路)を排血路としてもつ。BRTOは大腿静脈などからカテーテルを入れ、左腎静脈を経て胃腎シャントに進め、バルーンで血流を止めた状態で硬化剤(オレイン酸エタノールアミンなど)を静脈瘤内に注入して血栓化させる治療である。胃静脈瘤は血流が多く太いため、食道静脈瘤で用いる内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)では治療しにくく、BRTOや組織接着剤(シアノアクリレート)を用いた内視鏡的硬化療法がよい適応となる。

  2. ○b.  肝膿瘍 ―― 動脈塞栓術

    誤った組合せであり、これが正解である。肝膿瘍の治療は、原因菌(細菌性では大腸菌、クレブシエラなど)に対する抗菌薬投与と、超音波やCTで位置を確認しながら膿瘍に針やチューブを刺して膿を排出する経皮的ドレナージ(穿刺吸引またはカテーテル留置)が基本である。アメーバ性肝膿瘍ではメトロニダゾールが第一選択となる。胆道系の病変が原因であれば、胆道ドレナージも併せて行う。動脈塞栓術は肝動脈を詰めて血流を断つ治療で、主に肝細胞癌や、腫瘍破裂・外傷による肝出血に対して用いる。感染巣である膿瘍に対して行う意義はない。

  3. ×c.  肝細胞癌 ―― ラジオ波焼灼術

    正しい組合せである。ラジオ波焼灼術(RFA)は、超音波で確認しながら腫瘍に電極針を刺し、高周波電流で発生する熱によって腫瘍を凝固壊死させる治療である。肝細胞癌の治療法には肝切除、RFAなどの穿刺局所療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、薬物療法(分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬)、肝移植があり、肝予備能と腫瘍の数・大きさで選ぶ。RFAは一般に、肝予備能が保たれた腫瘍径3cm以下・3個以下の症例で肝切除と並ぶ選択肢とされる。

  4. ×d.  総胆管結石症 ―― 内視鏡的除石術

    正しい組合せである。総胆管結石症では、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)の手技を用いて、十二指腸乳頭を切開する内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)や、バルーンで乳頭を広げる内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)を行い、バスケットカテーテルやバルーンカテーテルで結石を十二指腸へかき出す。現在の第一選択の治療であり、大きな結石では機械的砕石具などで砕いてから取り出す。内視鏡治療が難しい場合は外科的に切石することもある。胆嚢結石を伴う場合は、その後に胆嚢摘出術を検討する。

  5. ×e.  硬化性胆管炎 ―― 内視鏡的ドレナージ

    正しい組合せである。原発性硬化性胆管炎(PSC)は、肝内・肝外の胆管に原因不明の慢性炎症と線維化が起こり、胆管が狭窄と拡張を繰り返す(数珠状になる)疾患で、潰瘍性大腸炎を合併しやすい。根本的な治療薬はなく、ウルソデオキシコール酸が用いられるが予後の改善は証明されていない。胆管の強い狭窄(dominant stricture)による黄疸や胆管炎には、内視鏡的なバルーン拡張やステント留置によるドレナージを行う。肝硬変や肝不全に進行した場合は肝移植が唯一の根治的治療である。なお、IgG4関連硬化性胆管炎はステロイドがよく効く点でPSCと異なるが、閉塞性黄疸を伴えばやはり内視鏡的ドレナージを行う。

肝膿瘍

・細菌性肝膿瘍:胆道感染(胆管炎など)からの上行性感染、門脈経由(虫垂炎・憩室炎など)、肝動脈経由の血行性感染などで起こる。原因菌は大腸菌、クレブシエラ、嫌気性菌など。高熱、右季肋部痛、肝腫大を呈し、CTでは辺縁が造影される低吸収域として描出される。治療は抗菌薬と経皮的ドレナージ。 ・アメーバ性肝膿瘍:赤痢アメーバの経口感染による。男性同性間性交渉や流行地への渡航歴が手がかりとなる。治療はメトロニダゾールで、膿瘍が大きく破裂のおそれがある場合などはドレナージを加える。

肝胆膵領域の主なIVR(画像下治療)

・肝動脈化学塞栓療法(TACE):肝細胞癌は主に肝動脈から栄養されることを利用し、抗癌剤とリピオドールを注入したのち塞栓物質で動脈を詰める。 ・BRTO:胃腎シャントを伴う胃静脈瘤。肝性脳症の原因となるシャントも閉鎖できるが、術後に門脈圧が上がり食道静脈瘤が悪化することがある。 ・経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)、経皮的膿瘍ドレナージなど。

静脈瘤治療の使い分け

・食道静脈瘤:内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)、内視鏡的硬化療法(EIS) ・胃静脈瘤:BRTO、組織接着剤(シアノアクリレート)を用いた内視鏡治療 ・難治例:経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)など

POINT

・肝膿瘍の治療は抗菌薬と経皮的ドレナージ。動脈塞栓術は行わない。 ・動脈塞栓術(TACE)は肝細胞癌や肝出血に行う。 ・胃静脈瘤(胃腎シャントを伴う)にはBRTO。 ・肝細胞癌の穿刺局所療法としてラジオ波焼灼術(RFA)がある。 ・総胆管結石はERCP下の乳頭処置(EST/EPBD)と内視鏡的除石が第一選択。 ・PSCの胆管狭窄には内視鏡的ドレナージ、進行例には肝移植。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。