StudyMed医師国家試験

涙と味覚が教えてくれる―顔面神経の「どこ」が壊れたかを突き止める部位診断

第104回医師国家試験 E問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第104回 E問題 第31問

顔面神経麻痺の障害部位診断に有用なのはどれか。2つ選べ。

  1. a.温度眼振検査
  2. b.電気味覚検査
  3. c.涙液分泌検査
  4. d.ティンパノメトリ
  5. e.オルファクトメトリ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は顔面神経麻痺の「障害部位診断」がテーマだ。麻痺の検査には、どれくらい重いか・治りそうかをみるものと、神経のどこで障害されているかをみるものがある。問われているのは後者。カギは、顔面神経が側頭骨の中を走りながら出していく枝にあるよ。
医学生医学生
顔面神経って表情筋を動かす神経というイメージしかなくて、枝と言われてもすぐには浮かびません。
ドクタードクター
多くの人がそうだね。でも顔面神経は運動だけでなく、涙や唾液の分泌、味覚、それに耳の中の筋肉まで担当している混合神経なんだ。脳幹の橋を出て内耳道に入り、側頭骨内の顔面神経管を通って茎乳突孔から頭蓋外に出る。その途中、中枢側から順に3本の枝を出す。
医学生医学生
解剖の講義でやった気がします。大錐体神経、アブミ骨筋神経、鼓索神経でしたっけ。
ドクタードクター
その通り。膝神経節から出る大錐体神経は涙腺の分泌、アブミ骨筋神経は大きな音から内耳を守るアブミ骨筋の収縮、鼓索神経は舌の前3分の2の味覚と顎下腺・舌下腺の分泌を担う。ここで考えてほしい。ある枝の機能が落ちていたら、障害部位についてどんなことが言える?
医学生医学生
その枝が分かれるところか、それより中枢側で障害されている、ということでしょうか。逆に保たれていれば、それより末梢側の障害ですね。
ドクタードクター
完璧。だから各枝の機能を個別に調べる検査が部位診断に使えるわけだ。では選択肢を見ていこう。電気味覚検査はどうかな。
医学生医学生
舌に弱い電流を流して金属のような味を感じる閾値を測る検査ですよね。舌の前方なら鼓索神経の機能がわかるので、使えると思います。
ドクタードクター
正解。患側で閾値が上がっていれば、鼓索神経の分岐部かそれより中枢の障害と考えられる。正常なら茎乳突孔付近から耳下腺内など、より末梢の障害を疑う。次に涙液分泌検査は?
医学生医学生
シルマー試験ですね。眼科の実習で、下まぶたに濾紙を挟んで5分待つのを見学しました。涙腺は大錐体神経なので、これも部位診断になります。
ドクタードクター
そうだね。大錐体神経は最も中枢側の枝だから、涙が減っていれば膝神経節かそれより中枢、つまり内耳道や小脳橋角部まで視野に入れることになる。では残りの3つ。温度眼振検査はどうだろう。
医学生医学生
耳に冷水を入れて眼振を見るカロリックテストですよね。耳の検査だから顔面神経とも関係がありそうで、少し迷いました。
ドクタードクター
耳の検査という共通点で引っかけてくるんだ。温度眼振検査は外側半規管を刺激して、主に上前庭神経の機能を見るもの。前庭神経炎やメニエール病などめまいの評価に使う検査で、顔面神経の枝の機能はわからない。
医学生医学生
ティンパノメトリはどうですか。アブミ骨筋反射と同じ機械を使うと聞いたことがあります。
ドクタードクター
鋭いね。インピーダンスオージオメータという同じ装置を使うけれど、ティンパノメトリ自体は外耳道の圧を変えて鼓膜や中耳の動きやすさを測る検査で、滲出性中耳炎や耳管機能障害の評価に使う。部位診断に使えるのはアブミ骨筋反射検査のほうで、ティンパノメトリとは別物だと区別しておこう。オルファクトメトリは嗅覚検査で、嗅神経の評価だから顔面神経とは無関係だ。
医学生医学生
つまり、顔面神経の枝が担う「涙」「アブミ骨筋」「味覚」を調べる検査が部位診断になる、ということですね。
ドクタードクター
その理解でばっちり。臨床ではこれを症状と組み合わせて考える。膝神経節より中枢なら表情筋麻痺に加えて涙液分泌低下、聴覚過敏、味覚障害がそろう。鼓索神経の分岐と茎乳突孔の間なら表情筋麻痺と味覚障害、茎乳突孔より末梢なら表情筋麻痺だけ、というようにね。
医学生医学生
聴覚過敏はアブミ骨筋が働かなくなって、音が響きすぎるからですね。
ドクタードクター
そう。それから、部位診断とは別に程度や予後をみる検査として、柳原法(40点法)による表情筋の評価や、誘発筋電図検査(ENoG)がある。ベル麻痺やラムゼイ・ハント症候群の予後推定に使うから、こちらもセットで覚えておこう。なお、障害部位が側頭骨より中枢にありそうなら、聴神経腫瘍などの小脳橋角部病変も念頭に画像検査を考えることになる。
医学生医学生
検査の目的が「どこ」なのか「どれくらい」なのかを分けて整理しておきます。

まとめ

顔面神経は側頭骨内で中枢側から大錐体神経(涙腺分泌)、アブミ骨筋神経(アブミ骨筋反射)、鼓索神経(舌前3分の2の味覚、顎下腺・舌下腺分泌)を出すため、各枝の機能を調べることで障害部位を推定できます。具体的には涙液分泌検査(シルマー試験)、アブミ骨筋反射検査、電気味覚検査や顎下腺唾液分泌検査が部位診断に用いられ、機能が落ちた枝の分岐部またはそれより中枢に病変があると考えます。温度眼振検査は前庭神経、ティンパノメトリは中耳、オルファクトメトリは嗅覚の検査で、顔面神経の部位診断には役立ちません。程度や予後をみる柳原法やENoGとは目的が異なる点も区別しておきましょう。神経の走行と枝の機能を結びつけて理解することは、顔面神経麻痺の診断だけでなく、脳神経全般の病変部位を推定する臨床的思考の基礎になります。

解答・解説

正解はb, cです

顔面神経麻痺の検査は、大きく「麻痺の程度や予後をみる検査」と「どこで神経が障害されているかをみる検査(部位診断)」に分けられる。本問は後者を問うている。

部位診断の原理

顔面神経は脳幹(橋)を出たのち、内耳道から側頭骨内の顔面神経管に入り、茎乳突孔から頭蓋外へ出て表情筋に分布する。側頭骨内を走る途中で、中枢側から順に次の3本の枝を出す。 1. 膝神経節から出る大錐体神経:涙腺の分泌(副交感神経)を担う。 2. アブミ骨筋神経:アブミ骨筋を収縮させ、大きな音から内耳を守る(アブミ骨筋反射)。 3. 鼓索神経:舌の前3分の2の味覚と、顎下腺・舌下腺の分泌を担う。 ある枝の機能が障害されていれば、障害部位はその枝の分岐部またはそれより中枢側にあり、保たれていればそれより末梢側にあると推定できる。したがって、各枝の機能を個別に調べる検査が部位診断に役立つ。 大錐体神経の機能は涙液分泌検査(シルマー試験)で、アブミ骨筋神経の機能はアブミ骨筋反射検査で、鼓索神経の機能は電気味覚検査や顎下腺の唾液分泌検査で評価する。選択肢のうち、これに該当するのは電気味覚検査と涙液分泌検査である。

選択肢考察

  1. ×a.  温度眼振検査

    温度眼振検査(カロリックテスト)は、外耳道に冷水や温水(または冷風・温風)を入れて外側半規管を刺激し、誘発される眼振を観察する検査である。外側半規管を支配する上前庭神経の機能を評価するもので、前庭神経炎やメニエール病などのめまい疾患で用いる。顔面神経の枝の機能は調べられないため、部位診断には役立たない。

  2. ○b.  電気味覚検査

    電気味覚検査は、舌に微弱な直流電流を流したときに感じる金属のような味の閾値を測る検査である。舌の前3分の2の味覚は鼓索神経(顔面神経の枝)が伝えるため、この部位の閾値を測ると鼓索神経の機能がわかる。患側で閾値が上昇している、または左右差があれば、障害部位は鼓索神経の分岐部またはそれより中枢側にあると推定できる。逆に正常であれば、鼓索神経より末梢(茎乳突孔付近から耳下腺内など)の障害を考える。

  3. ○c.  涙液分泌検査

    涙液分泌検査(シルマー試験)は、下眼瞼に濾紙を挟み、一定時間(通常5分間)で濡れた長さを測る検査である。涙腺の分泌を促す副交感神経線維は、顔面神経の膝神経節から出る大錐体神経を経て涙腺に至る。患側で涙液分泌が低下していれば、障害は膝神経節またはそれより中枢側(内耳道や小脳橋角部など)にあると推定できる。顔面神経の最も中枢側の枝の機能を反映するため、部位診断に有用である。

  4. ×d.  ティンパノメトリ

    ティンパノメトリは、外耳道の圧を変化させながら鼓膜と中耳の動きやすさ(コンプライアンス)を測る検査で、滲出性中耳炎や耳管機能障害、耳小骨の異常などの評価に用いる。顔面神経の機能は反映しない。なお、同じインピーダンスオージオメータを使うアブミ骨筋反射検査は顔面神経の部位診断に用いられるが、ティンパノメトリそのものとは別の検査である。

  5. ×e.  オルファクトメトリ

    オルファクトメトリは嗅覚検査(基準嗅力検査など)のことで、においの感覚を伝える嗅神経(第I脳神経)の経路を評価する。顔面神経とは関係がなく、部位診断には役立たない。

顔面神経の走行と枝(中枢から末梢へ)

脳幹(橋)→ 小脳橋角部 → 内耳道 → 顔面神経管(迷路部 → 膝神経節 → 鼓室部 → 乳突部)→ 茎乳突孔 → 耳下腺内で分岐し表情筋へ。 ・膝神経節:大錐体神経(涙腺・鼻腺の分泌) ・鼓室部から乳突部:アブミ骨筋神経(アブミ骨筋) ・乳突部:鼓索神経(舌前3分の2の味覚、顎下腺・舌下腺の分泌) ・茎乳突孔より末梢:表情筋の運動

障害部位と症状の対応

・膝神経節より中枢:表情筋麻痺+涙液分泌低下+聴覚過敏(アブミ骨筋反射消失)+味覚障害 ・アブミ骨筋神経分岐部と鼓索神経分岐部の間:表情筋麻痺+聴覚過敏+味覚障害(涙液分泌は保たれる) ・鼓索神経分岐部と茎乳突孔の間:表情筋麻痺+味覚障害 ・茎乳突孔より末梢:表情筋麻痺のみ

部位診断のための検査

・涙液分泌検査(シルマー試験):大錐体神経 ・アブミ骨筋反射検査:アブミ骨筋神経 ・電気味覚検査、濾紙ディスク法による味覚検査、顎下腺唾液分泌検査:鼓索神経

程度・予後をみる検査

・柳原法(40点法)などによる表情筋運動の評価 ・誘発筋電図検査(ENoG:エレクトロニューログラフィ) ・神経興奮性検査(NET) ベル麻痺(原因不明の末梢性顔面神経麻痺)やラムゼイ・ハント症候群(水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化による顔面神経麻痺)の予後推定に用いられる。

POINT

・顔面神経の部位診断では、側頭骨内で分かれる3本の枝の機能を調べる。 ・大錐体神経 → 涙液分泌検査(シルマー試験) ・アブミ骨筋神経 → アブミ骨筋反射検査 ・鼓索神経 → 電気味覚検査、顎下腺唾液分泌検査 ・温度眼振検査は前庭神経、ティンパノメトリは中耳、オルファクトメトリは嗅覚の検査で、顔面神経とは無関係。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。