増えたのか、減ったのか―「粗」と「年齢調整」で読み解く日本の人口統計
第104回医師国家試験 E問題 第33問
国試問題にチャレンジ
我が国の人口統計の最近20年間の変化として正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.自然増加数は減少傾向にある。
- b.乳児死亡率は上昇傾向にある。
- c.老年人口指数は低下傾向にある。
- d.交通事故の死亡者数は減少傾向にある。
- e.悪性新生物の年齢調整死亡率は上昇傾向にある。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日本の人口統計は、出生数の減少と高齢化に伴う死亡数の増加によって自然増加数が縮小し、2007年以降は自然減が続いています。年齢構成では老年人口指数が上昇し年少人口指数が低下する一方、乳児死亡率は世界最低水準からさらに低下し、交通事故死亡者数も車両の安全性向上や飲酒運転の厳罰化、救急医療の整備などにより大きく減少しました。悪性新生物は高齢化により死亡数・粗死亡率が増えていますが、年齢構成を補正した年齢調整死亡率は1990年代後半から低下しており、両者を混同しないことが重要です。粗死亡率と年齢調整死亡率の違いを理解しておくことは、国家試験対策にとどまらず、疫学データや論文を正しく読み解くための基礎となります。
解答・解説
正解はa, dです
我が国の人口統計(人口静態統計と人口動態統計)の長期的な傾向を問う問題である。本問は2010年の出題で、「最近20年間」はおおむね1990年前後から2000年代後半を指すが、各指標の傾向はその後現在まで基本的に変わっていない。
押さえるべき大きな流れ
1. 少子高齢化と人口減少:出生数が減り続ける一方、高齢化で死亡数は増え続けている。その結果、出生数から死亡数を引いた自然増加数は縮小し、2005年に初めてマイナス(自然減)となり、2007年以降は毎年自然減が続き、その幅も広がっている。 2. 年齢構成の変化:年少人口(0〜14歳)と生産年齢人口(15〜64歳)が減り、老年人口(65歳以上)が増えている。このため、老年人口指数などの高齢化を表す指標は上昇している。 3. 保健水準を表す指標の改善:乳児死亡率は世界でも最も低い水準にあり、さらに低下を続けている。 4. 死因統計:高齢者が増えると、がんなど高齢者に多い病気の死亡数や粗死亡率は増える。しかし年齢構成の影響を除いた年齢調整死亡率で見ると、悪性新生物は1990年代後半から低下している。 5. 不慮の事故:交通事故の死亡者数は、車両の安全性の向上、シートベルト着用の義務化・普及、飲酒運転の厳罰化、救急医療の充実などにより大きく減少している。 粗死亡率(実数)と年齢調整死亡率の違いを区別できるかが、本問の重要なポイントである。
選択肢考察
- ○a. 自然増加数は減少傾向にある。
正しい。自然増加数は「出生数-死亡数」で表される。出生数の減少と、高齢化に伴う死亡数の増加が同時に進んでいるため、自然増加数は減り続けてきた。2005年に初めて死亡数が出生数を上回り、2007年以降は一貫して自然減となっている。現在では自然減の幅が年々拡大しており、総人口減少の主な原因となっている。
- ×b. 乳児死亡率は上昇傾向にある。
誤り。乳児死亡率は、生後1年未満の死亡数を出生1,000あたりで表した指標で、その地域の衛生状態や母子保健の水準を反映する。我が国では戦後急速に低下し、現在は出生千対でおよそ2前後と世界で最も低い水準にある。その後も緩やかな低下が続いており、上昇傾向にはない。
- ×c. 老年人口指数は低下傾向にある。
誤り。老年人口指数は「老年人口(65歳以上)÷生産年齢人口(15〜64歳)×100」で求め、働き手の世代が高齢者をどれだけ支えているかを示す。高齢者の増加と生産年齢人口の減少が同時に進んでいるため、分子が増え分母が減り、老年人口指数は一貫して上昇している。低下傾向にあるのは年少人口指数(年少人口÷生産年齢人口×100)である。
- ○d. 交通事故の死亡者数は減少傾向にある。
正しい。交通事故による死亡者数(事故後24時間以内の死者)は1970年に約1万6千人でピークとなり、いったん減少した後、1990年前後に再び1万人を超えた。しかしその後は減少を続け、2000年代後半には5千人を下回り、近年は3千人を下回る水準まで減っている。自動車の安全性能の向上(エアバッグ、衝突被害軽減ブレーキなど)、シートベルトやチャイルドシートの着用の普及、飲酒運転の厳罰化、救急医療体制の整備などが寄与したと考えられている。
- ×e. 悪性新生物の年齢調整死亡率は上昇傾向にある。
誤り。悪性新生物(がん)は1981年以降、死因の第1位であり、死亡数と粗死亡率は高齢化に伴って増加を続けている。しかし、年齢構成の違いを補正した年齢調整死亡率は、男女ともに1990年代後半から低下傾向にある。胃癌の減少(ヘリコバクター・ピロリ感染率の低下など)、肝癌の減少、喫煙率の低下、検診や治療の進歩などが背景にある。「粗死亡率の上昇」と「年齢調整死亡率の低下」を混同しないことが大切である。
年齢構造に関する指標
・年少人口指数=年少人口(0〜14歳)÷生産年齢人口(15〜64歳)×100:低下傾向 ・老年人口指数=老年人口(65歳以上)÷生産年齢人口×100:上昇傾向 ・従属人口指数=(年少人口+老年人口)÷生産年齢人口×100:老年人口の増加により上昇傾向 ・老年化指数=老年人口÷年少人口×100:上昇傾向 ・高齢化率(老年人口割合):総人口に占める65歳以上の割合。現在は約3割に達している。
人口動態の主な指標
・自然増加数=出生数-死亡数。2007年以降マイナスが続く。 ・乳児死亡率=乳児死亡数÷出生数×1,000 ・合計特殊出生率:一人の女性が生涯に産む子どもの数に相当する。人口を維持するのに必要な水準(人口置換水準)はおよそ2.1であり、我が国はこれを大きく下回っている。
粗死亡率と年齢調整死亡率
粗死亡率は、ある期間の死亡数を人口で割った値で、高齢者が多い集団ほど高くなる。年齢調整死亡率は、基準となる人口の年齢構成に合わせて補正した死亡率で、年齢構成の異なる年次や地域どうしの比較に用いる。高齢化が進む我が国では、多くの死因で粗死亡率は上がっているのに、年齢調整死亡率は下がっているという現象が見られる。
POINT
・自然増加数は減少し、2007年以降は自然減が続く。 ・乳児死亡率は世界最低水準で、さらに低下傾向。 ・老年人口指数は上昇、年少人口指数は低下。 ・交通事故死亡者数は減少傾向。 ・悪性新生物の粗死亡率は上昇しているが、年齢調整死亡率は低下傾向。
