「率」より「母数」―出生数が減り続ける本当の理由
第120回医師国家試験 C問題 第24問
国試問題にチャレンジ
我が国の出生数の低下に最も影響しているのはどれか。
- a.核家族の増加
- b.離婚率の増加
- c.平均寿命の延伸
- d.人工妊娠中絶件数の増加
- e.女性人口(15~49歳)の減少
対話形式の解説
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ドクターまとめ
出生数はおおまかに「再生産年齢(15〜49歳)の女性人口×出生率」で決まり、近年の我が国では団塊ジュニア世代が再生産年齢を過ぎたことによる女性人口の減少が、出生数減少に最も大きく寄与しています。合計特殊出生率も2024年に1.15と過去最低を更新しており、その背景には未婚化・晩婚化があります(婚外子は2〜3%と少ないため婚姻の減少が出生減に直結しやすい)。一方、離婚率は2002年、人工妊娠中絶件数は1950年代をピークに減少しており「増加」は誤りで、核家族化は近年頭打ち、平均寿命の延伸は高齢化の要因であって少子化の原因ではありません。「率」と「実数」を区別し、選択肢の前提が統計的事実と合っているかを確かめる姿勢は、公衆衛生の問題を解くうえでも人口動態を読み解くうえでも基本となります。
解答・解説
正解はeです
テーマ
我が国の出生数が減り続けている理由を、人口統計の構造から考える問題である。
出生数を分解して考える
ある年の出生数は、おおまかに「出産する年齢層の女性の数」と「その女性1人当たりが産む子どもの数(出生率)」の掛け算で決まる。 出生数 ≒ 再生産年齢(15〜49歳)の女性人口 × 年齢別出生率の合計 したがって出生数が減る原因は、(1)母数である女性人口の減少、(2)出生率そのものの低下、の2つに大別される。
近年の我が国の状況
合計特殊出生率(15〜49歳の女性の年齢別出生率を合計したもの。1人の女性が生涯に産む子どもの平均数に相当する)は、2005年に1.26まで下がった後いったん回復し、その後再び低下して2023年には1.20、2024年には1.15と過去最低を更新している。出生率の低下も確かに出生数減少の一因である。 しかし、それ以上に大きいのが母数の縮小である。1971〜1974年の第二次ベビーブームに生まれた団塊ジュニア世代はすでに50歳前後に達して再生産年齢を過ぎつつあり、その後の世代は出生数が少ないため、15〜49歳の女性人口は年々急速に減っている。仮に出生率が横ばいであっても、産む年齢層の女性が減れば出生数は必ず減る。少子化が少子化を呼ぶ「人口モメンタム(負の慣性)」と呼ばれる現象である。
解き方
各選択肢について「出生数を直接、かつ大きく減らす要因か」「その要因は実際に近年強まっているか」の2点を確認すると、出産可能年齢の女性人口の減少が最も大きな影響をもつと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 核家族の増加
核家族(夫婦のみ、夫婦と未婚の子、ひとり親と未婚の子からなる世帯)が増えると、祖父母から育児の手助けを受けにくくなるため、間接的に出産をためらわせる可能性はある。しかし核家族化は高度経済成長期の1950年代後半から進んだ変化で、1970年代半ば以降はその割合がほぼ頭打ちとなっており、近年はむしろ単独世帯の増加が目立つ。近年の急速な出生数減少を説明する主因とはいえない。また家族形態の変化は出生数を直接決める因子でもない。
- ×b. 離婚率の増加
我が国の離婚率(人口千対)は2002年の2.30をピークに低下傾向にあり、現在は1.5前後である。そもそも「増加」していないので前提が誤っている。なお、我が国では婚外子(嫡出でない子)の割合が出生全体の2〜3%程度と非常に低く、出産は事実上婚姻と強く結びついている。そのため出生率の低下に関わる婚姻関連の要因としては、離婚よりも未婚化・晩婚化(婚姻率の低下、初婚年齢の上昇)の影響のほうがはるかに大きい。
- ×c. 平均寿命の延伸
平均寿命は0歳時点の平均余命であり、生命表上で一定数(10万人)の出生を仮定し、年齢別死亡率に従って減っていく過程から算出される指標である。死亡の状況を表すもので、出生数とは関係しない。平均寿命の延伸は高齢化(老年人口割合の上昇)の要因にはなるが、少子化の原因ではない。少子化と高齢化は同時に進むが、原因は別々である点を区別する。
- ×d. 人工妊娠中絶件数の増加
人工妊娠中絶が増えれば理論上は出生数が減るが、我が国の中絶件数は1950年代半ばの年間100万件超をピークに長期的に減少し、近年は年間12万件台程度まで減っている。「増加」という前提が事実と異なり、近年の出生数減少の原因とはいえない。
- ○e. 女性人口(15~49歳)の減少
15〜49歳は出生統計で再生産年齢とされる年齢層で、出生数はこの年齢層の女性人口と出生率の積でほぼ決まる。第二次ベビーブーム世代(団塊ジュニア、1971〜1974年生まれ)が再生産年齢を過ぎつつあり、それ以降に生まれた世代は人数が少ないため、この年齢層の女性人口は急速に縮小している。出生率の低下も加わってはいるが、母数の減少が出生数減少への寄与として最も大きく、出生率が多少回復しても出生数の減少はしばらく止まらないと考えられている。
我が国の出生の動向
・出生数は第一次ベビーブーム(1947〜1949年)に年間約270万人、第二次ベビーブーム(1971〜1974年)に約200万人の山があり、その後は減少傾向が続いている。2016年に100万人を下回り、2023年は約73万人、2024年は約69万人と過去最少を更新した。 ・合計特殊出生率は1989年に1.57(いわゆる「1.57ショック」)となり少子化が社会問題化した。2005年に1.26まで低下、その後やや持ち直したが再び低下し、2024年は1.15である。人口を維持するのに必要な水準(人口置換水準)は約2.07であり、これを大きく下回っている。
出生率低下の背景
・未婚化・晩婚化:生涯未婚率の上昇、平均初婚年齢の上昇(夫31歳前後、妻29〜30歳前後)。 ・晩産化:第1子出生時の母の平均年齢は30歳を超えている。 ・婚外子が少ないため、婚姻の減少がそのまま出生の減少につながりやすい。 ・経済的負担、仕事と子育ての両立の難しさなどが指摘されている。
関連指標の整理
・合計特殊出生率:15〜49歳の女性の年齢別出生率の合計。女性人口の年齢構成の影響を除いた「1人当たり」の指標である。 ・総再生産率:合計特殊出生率のうち女児のみについて計算したもの。 ・純再生産率:総再生産率に母親世代の死亡を考慮したもの。1を下回ると将来人口は減少する。 ・出生数は「率」ではなく「実数」なので、出生率が同じでも母数(再生産年齢女性人口)が減れば減少する。
POINT
・出生数 ≒ 再生産年齢(15〜49歳)女性人口 × 出生率。 ・近年の出生数減少への寄与が最も大きいのは、団塊ジュニア世代が再生産年齢を過ぎたことによる15〜49歳女性人口の減少である。 ・出生率低下の主因は未婚化・晩婚化(婚外子は2〜3%と少ない)。 ・離婚率(2002年がピーク)と人工妊娠中絶件数(1950年代がピーク)はいずれも減少傾向であり、「増加」が誤り。 ・平均寿命の延伸は高齢化の要因で、出生数とは無関係。
