「直ちに」か「7日以内」か―感染症法の分類で届出期限を見抜く
第104回医師国家試験 E問題 第20問
国試問題にチャレンジ
診断した場合,直ちに届け出なければならないのはどれか。
- a.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉感染症
- b.後天性免疫不全症候群〈AIDS〉
- c.腸管出血性大腸菌感染症
- d.無菌性髄膜炎
- e.破傷風
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
感染症法では、1〜4類感染症はすべての医師が診断後直ちに届け出る全数把握、5類全数把握は7日以内、5類定点把握は指定届出機関のみが週・月単位で届け出ると定められています。腸管出血性大腸菌感染症は3類感染症であり、無症状病原体保有者も含めて直ちに保健所長経由で都道府県知事に届け出る必要があり、就業制限の対象にもなります。HIV感染症と破傷風は5類全数把握、MRSA感染症と無菌性髄膜炎は5類定点把握であり、5類でも麻しん・風しん・侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに届け出る例外である点も重要です。届出期限は病気の重さだけでなく、まん延防止のために行政が迅速に動く必要性で決まると理解すると、分類を体系的に覚えられ、臨床現場での適切な届出にもつながります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に基づく医師の届出義務を問う問題である。感染症法は対象疾患を感染力や重篤性などに応じて1類〜5類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症に分類し、分類ごとに届出の方法と期限を定めている。
届出の原則
・1類〜4類感染症:すべての医師が、診断したら全例を直ちに届け出る(全数把握)。 ・5類感染症のうち全数把握対象の疾患:すべての医師が、原則として診断から7日以内に届け出る。ただし侵襲性髄膜炎菌感染症、麻しん、風しんは5類であっても直ちに届け出る。 ・5類感染症のうち定点把握対象の疾患:都道府県知事が指定した医療機関(指定届出機関、いわゆる定点医療機関)だけが、患者数などを週単位または月単位でまとめて届け出る。定点以外の医療機関には届出義務がない。 届出は、最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に対して行う。
解き方
各選択肢が何類感染症かを判断し、「直ちに」届け出る疾患を選ぶ。選択肢の中で1〜4類に当たるのは3類感染症の腸管出血性大腸菌感染症だけであり、他はすべて5類感染症(全数把握または定点把握)である。
選択肢考察
- ×a. メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉感染症
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染症は5類感染症の定点把握対象疾患である。300床以上の病院などから選ばれる基幹定点医療機関が、患者数を月単位でまとめて届け出る。定点以外の医療機関に届出義務はなく、「直ちに」届け出る疾患ではない。MRSAは健康な人の鼻腔などにも保菌されうるため、届出の対象は感染症を発症した患者であり、保菌者は含まない。
- ×b. 後天性免疫不全症候群〈AIDS〉
後天性免疫不全症候群(AIDS)は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症として5類感染症の全数把握対象疾患に含まれる。すべての医師が、診断から7日以内に届け出る。AIDSを発症していない無症候性キャリアもHIV感染者として届出の対象となる。届出は年齢・性別・感染経路などで行い、氏名や住所は届け出ない。
- ○c. 腸管出血性大腸菌感染症
腸管出血性大腸菌(EHEC:enterohemorrhagic Escherichia coli)感染症は3類感染症であり、診断した医師は直ちに保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければならない。O157などのベロ毒素(志賀毒素)産生性大腸菌による感染症で、少量の菌でも感染し食品を介して集団発生を起こしうるうえ、溶血性尿毒症症候群(HUS)などの重い合併症を起こすため、早い段階で行政が把握する必要がある。症状のない病原体保有者(無症状病原体保有者)も届出の対象で、飲食物を扱う業務などへの就業制限がかかりうる。
- ×d. 無菌性髄膜炎
無菌性髄膜炎は5類感染症の定点把握対象疾患で、基幹定点医療機関が週単位で届け出る。原因の多くはエンテロウイルスなどのウイルスで、流行状況を把握することが目的である。定点以外の医療機関に届出義務はない。なお、同じ髄膜炎でも侵襲性髄膜炎菌感染症は5類全数把握で直ちに届け出る疾患であり、区別して覚える。
- ×e. 破傷風
破傷風は5類感染症の全数把握対象疾患で、すべての医師が診断から7日以内に届け出る。破傷風菌の芽胞が創傷から入り、菌の産生する神経毒素(テタノスパスミン)によって開口障害や全身の筋硬直を起こすが、人から人へは感染しないため、直ちに届け出る必要のある類型には入っていない。
感染症法の分類と主な疾患
・1類感染症:エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱。原則として入院勧告の対象。 ・2類感染症:急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、SARS、MERS、鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)。入院勧告の対象。 ・3類感染症:コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス。入院ではなく、特定職種への就業制限の対象。 ・4類感染症:E型肝炎、A型肝炎、狂犬病、マラリア、デング熱、日本脳炎、レジオネラ症、つつが虫病など。主に動物・飲食物などを介して感染し、消毒などの対物措置の対象。 ・5類感染症:国が発生動向を調査して情報提供する疾患。全数把握(HIV感染症、梅毒、破傷風、麻しん、風しん、侵襲性髄膜炎菌感染症、百日咳、急性脳炎など)と、定点把握(インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、感染性胃腸炎、MRSA感染症、無菌性髄膜炎など)に分かれる。
届出期限のまとめ
・直ちに:1〜4類、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、および5類のうち侵襲性髄膜炎菌感染症・麻しん・風しん。 ・7日以内:上記以外の5類全数把握疾患。 ・定点把握:指定届出機関のみが週単位または月単位で届け出る。
定点の種類
・小児科定点・インフルエンザ定点・眼科定点・性感染症定点・基幹定点などがあり、疾患ごとに届け出る定点が決まっている。MRSA感染症や無菌性髄膜炎は、患者を300人以上収容する病院などから指定される基幹定点が届け出る。
POINT
・1〜4類感染症は全数把握で、診断したら直ちに届け出る。 ・5類全数把握は7日以内(例外:侵襲性髄膜炎菌感染症・麻しん・風しんは直ちに)。 ・5類定点把握(MRSA感染症、無菌性髄膜炎など)は指定届出機関のみが届け出る。 ・腸管出血性大腸菌感染症は3類で、無症状病原体保有者も届出対象、就業制限あり。 ・HIV感染症(AIDSを含む)と破傷風は5類全数把握。 ・届出先は保健所長経由で都道府県知事。
