StudyMed医師国家試験

β-ラクタムが効かない肺炎―細胞壁のない菌、マイコプラズマを狙い撃つ

第104回医師国家試験 D問題 第48問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第48問

24歳の男性。3日前からの発熱と咳とを主訴に来院した。咳は乾性で頑固である。同様の症状を訴えている会社の同僚がいる。体温38.7℃。呼吸数20/分。脈拍96/分,整。呼吸音に異常を認めない。白血球6,800(桿状核好中球9%,分葉核好中球55%,好酸球2%,単球6%,リンパ球28%)。CRP 7.8 mg/dL。胸部エックス線写真で左下肺野にすりガラス陰影を認める。誘発喀痰検査で起炎菌の同定はできなかった。  抗菌薬として適切なのはどれか。2つ選べ。

  1. a.ペニシリン系
  2. b.カルバペネム系
  3. c.アミノグリコシド系
  4. d.マクロライド系
  5. e.テトラサイクリン系

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は市中肺炎の抗菌薬選択の問題だ。ポイントは「細菌性肺炎か、非定型肺炎か」を見極めること。そして、想定した病原体の構造と抗菌薬の作用点を結びつけられるかどうかだ。まず、この症例の全体像からどんな肺炎を考えるかな。
医学生医学生
発熱とCRP上昇があるので、まず肺炎球菌などの細菌性肺炎を考えました。ペニシリン系でいいのかなと。
ドクタードクター
肺炎球菌は市中肺炎の原因として最も重要だから、最初に思い浮かべるのは自然だね。ただ、この症例には細菌性肺炎らしくない点がいくつもある。若いこと、咳が乾いていてしつこいこと、聴診で異常がないのにX線では陰影があること、白血球が増えていないこと、喀痰から菌が見つからないこと。どれも「非定型肺炎」を示すサインなんだ。
医学生医学生
呼吸器内科の講義で、非定型肺炎を見分ける項目があると習いました。
ドクタードクター
日本呼吸器学会の成人市中肺炎診療ガイドラインにある6項目だね。60歳未満、基礎疾患がないか軽い、頑固な咳、聴診所見が乏しい、痰がないか迅速診断で菌が証明されない、末梢血白血球数が10,000/μL未満。このうち4項目以上で非定型肺炎を疑う。今回は6項目すべてに当てはまる。
医学生医学生
全部当てはまるんですね。さらに同僚にも同じ症状があるということは、人から人へうつるタイプでしょうか。
ドクタードクター
その通り。若年成人で、職場や学校、家庭内で集団発生しやすい非定型肺炎といえば、マイコプラズマ肺炎が最も考えやすい。クラミジア肺炎は高齢者や慢性呼吸器疾患のある人に多く、レジオネラ肺炎は循環式浴槽などの水が感染源で、重症化しやすく低ナトリウム血症や肝機能障害を伴いやすい点が違うね。
医学生医学生
微生物学の実習で、マイコプラズマは細胞壁がない細菌だと習いました。それが治療にどう関わるんですか。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。ペニシリン系やカルバペネム系といったβ-ラクタム系は、細胞壁のペプチドグリカンを作る酵素、ペニシリン結合タンパクを阻害して効く薬だ。標的となる細胞壁がそもそもなければ、どんなに広域な薬でも効かない。
医学生医学生
カルバペネムは「最強の抗菌薬」というイメージだったので、効かないのは意外です。
ドクタードクター
広域というのは、あくまで細胞壁を持つ菌の中で守備範囲が広いという意味なんだ。しかも軽症〜中等症の市中肺炎に最初からカルバペネムを使うと、耐性菌を増やすおそれがある。二重の意味で不適切だね。では、細胞壁に頼らない薬は何だろう。
医学生医学生
リボソームに作用してタンパク合成を止める薬ですね。マクロライド系とテトラサイクリン系、それにアミノグリコシド系も30Sに結合するはずですが……。
ドクタードクター
よく作用機序を覚えているね。マクロライド系は50Sサブユニットに、テトラサイクリン系は30Sサブユニットに結合してタンパク合成を阻害し、どちらもマイコプラズマに有効だ。組織移行も良好で、マクロライドが第一選択、テトラサイクリン系も適切な選択肢になる。一方、アミノグリコシド系は同じ30Sに作用するけれど、主に緑膿菌などの好気性グラム陰性桿菌に使う注射薬で、気道粘膜や細胞内への移行が悪く、腎障害や第8脳神経障害もある。マイコプラズマ肺炎の治療には使わないんだ。
医学生医学生
作用点が同じでも、臨床で使えるかは移行性や対象菌で決まるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。ここから臨床での注意点だ。日本ではマクロライド耐性マイコプラズマが特に小児で多い。マクロライドを始めて48〜72時間たっても熱が下がらなければ耐性を疑い、テトラサイクリン系やレスピラトリーキノロンに切り替える。
医学生医学生
小児科実習で、子どもにはミノサイクリンを使いにくいと聞きました。
ドクタードクター
テトラサイクリン系は歯の着色やエナメル質形成不全を起こすので、8歳未満の小児と妊婦には原則使わない。耐性が疑われる場合、8歳未満ではトスフロキサシンを検討する。今回は成人なので、テトラサイクリン系も問題なく選べるね。
医学生医学生
肺以外の合併症も気をつけた方がいいですか。
ドクタードクター
大事な視点だ。マイコプラズマは中耳炎、多形紅斑やStevens-Johnson症候群、寒冷凝集素による自己免疫性溶血性貧血、脳炎、Guillain-Barré症候群、心筋炎など多彩な肺外病変を起こしうる。診断は咽頭ぬぐい液の抗原迅速検査やLAMP法などの核酸増幅検査、ペア血清で確かめる。「肺炎の顔をした全身疾患」として捉えておくといいよ。

まとめ

若年者の頑固な乾性咳嗽、聴診所見に乏しいのに画像で陰影がある、白血球数が増えない、喀痰で菌が同定されないといった特徴は非定型肺炎を示し、日本呼吸器学会の6項目のうち4項目以上で非定型肺炎を疑います。職場や家庭での集団発生を伴う若年成人では、マイコプラズマ肺炎が最も考えやすい病原体です。マイコプラズマは細胞壁を持たないため、ペニシリン系やカルバペネム系などのβ-ラクタム系は無効で、リボソームに作用するマクロライド系(第一選択)やテトラサイクリン系、キノロン系を用います。マクロライド耐性株が多く、48〜72時間で解熱しなければ薬剤変更を考え、テトラサイクリン系は8歳未満と妊婦には原則避けます。病原体の構造と抗菌薬の作用点を結びつけて考える習慣は、あらゆる感染症の薬剤選択の基礎になります。

解答・解説

正解はd, eです

所見の整理

・24歳男性。3日前から発熱と咳がある。咳は痰の少ない乾いた咳(乾性咳嗽)で、しつこく続いている。 ・会社の同僚にも同じ症状の人がいる。人から人へうつる病原体が職場で広がっていることを示す。 ・体温38.7℃、呼吸数20/分、脈拍96/分で、全身状態は保たれている。 ・呼吸音に異常がない。胸部X線写真で左下肺野に肺炎の陰影(すりガラス陰影)があるのに、聴診ではほとんど所見がない。 ・白血球数6,800/μLで増えておらず、好中球の割合の増加や強い左方移動(未熟な好中球の増加)もない。CRPは7.8 mg/dLと中等度に上がっている。 ・誘発喀痰検査(高張食塩水を吸入させて痰を出させる検査)でも原因菌は見つからなかった。Gram染色や一般的な培養で見つかりにくい病原体が考えられる。

診断へのプロセス

市中肺炎(病院の外でかかった肺炎)で、細菌性肺炎か非定型肺炎かを見分けることが治療薬を選ぶうえで大切である。日本呼吸器学会の成人市中肺炎診療ガイドラインでは、次の6項目のうち4項目以上にあてはまれば非定型肺炎を疑うとしている。 1. 年齢60歳未満 2. 基礎疾患がない、または軽い 3. 頑固な咳がある 4. 胸部の聴診所見が乏しい 5. 痰がない、または迅速診断法で原因菌が証明されない 6. 末梢血白血球数が10,000/μL未満 本例は6項目すべてにあてはまり、非定型肺炎と考えられる。非定型肺炎の中では、若年成人に多いこと、家族内や職場、学校などで集団発生しやすいことから、マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)肺炎が最も考えやすい。クラミジア(Chlamydia pneumoniae)肺炎は高齢者や慢性呼吸器疾患のある人に多い傾向がある。レジオネラ肺炎は重症化しやすく、低ナトリウム血症や肝機能障害を伴うことが多く、循環式浴槽や空調の冷却塔などの水が感染源になる点で本例とは異なる。

設問の考え方

マイコプラズマは細胞壁(ペプチドグリカン層)を持たない、最も小さい部類の細菌である。そのため、細胞壁の合成を妨げるβ-ラクタム系抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)はまったく効かない。治療には、細菌のリボソームに作用してタンパク質の合成を妨げるマクロライド系とテトラサイクリン系を使う。キノロン系も効果がある。

選択肢考察

  1. ×a.  ペニシリン系

    ペニシリン系はβ-ラクタム系の抗菌薬で、細菌の細胞壁のペプチドグリカンを作る酵素(ペニシリン結合タンパク)を妨げて殺菌的に働く。肺炎球菌やレンサ球菌などには第一選択となる薬であり、β-ラクタマーゼ(β-ラクタム系を分解する酵素)阻害薬を加えた合剤や、緑膿菌に効くものもある。しかし、細胞壁を持たないマイコプラズマには作用する標的がないため、まったく効かない。

  2. ×b.  カルバペネム系

    カルバペネム系はGram陽性菌、Gram陰性菌、嫌気性菌まで幅広く効く、最も広域のβ-ラクタム系抗菌薬である。しかし、ペニシリン系と同じく細胞壁の合成を妨げる薬のため、細胞壁のないマイコプラズマには効かない。さらに、軽症〜中等症の市中肺炎に最初から使うと、耐性菌を増やすおそれがあるため適切ではない。

  3. ×c.  アミノグリコシド系

    アミノグリコシド系(ゲンタマイシン、アミカシンなど)は、リボソームの30Sサブユニットに結合してタンパク質の合成を妨げる殺菌性の薬である。主に緑膿菌などの好気性Gram陰性桿菌に使う。点滴や注射で使い、腎障害と第8脳神経障害(難聴やめまい)の副作用があるうえ、細胞の中や気道の粘膜への移行が悪い。そのため、マイコプラズマ肺炎の治療には使わない。

  4. ○d.  マクロライド系

    マクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)は、細菌のリボソームの50Sサブユニットに結合してタンパク質の合成を妨げる。細胞壁に作用する薬ではないため、マイコプラズマにも効く。組織や細胞の中によく移行し、マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラ、百日咳菌などにも効果があるため、マイコプラズマ肺炎の第一選択となる。ただし、日本では23S rRNA遺伝子の変異によるマクロライド耐性マイコプラズマが、特に小児で多くみられる。投与後48〜72時間たっても熱が下がらない場合は耐性を疑い、テトラサイクリン系やキノロン系に切り替える。

  5. ○e.  テトラサイクリン系

    テトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリンなど)は、リボソームの30Sサブユニットに結合してタンパク質の合成を妨げる。マイコプラズマ、クラミジアに効き、マクロライド耐性のマイコプラズマにも効果がある。また、リケッチア症(つつが虫病など)、ブルセラ症、Lyme病などの人獣共通感染症にも効くという特徴がある。成人の本例では適切な選択肢である。ただし、歯の着色やエナメル質の形成不全を起こすため、8歳未満の小児と妊婦には原則として使わない。

マイコプラズマ肺炎の概要

・病原体:Mycoplasma pneumoniae。細胞壁を持たない細菌で、気道の上皮細胞の表面にくっついて増える。 ・疫学:学童から若年成人に多く、潜伏期は2〜3週間と長い。飛沫感染と接触感染で広がり、家族や学校、職場で集団発生しやすい。 ・症状:発熱、全身のだるさ、頭痛に続き、痰の少ない頑固な咳が長く続く。全身状態は比較的保たれることが多い。 ・所見:聴診所見が乏しいわりに、胸部X線写真ではすりガラス陰影や気管支の壁の肥厚などの異常がはっきりしている。白血球数は正常なことが多い。 ・診断:咽頭ぬぐい液を使った抗原迅速検査や核酸増幅検査(LAMP法、PCR法)、ペア血清での抗体価の上昇などで確かめる。寒冷凝集素(低温で赤血球を凝集させる抗体)が上がることがある。 ・肺以外の合併症:中耳炎、多形紅斑やStevens-Johnson症候群、自己免疫性溶血性貧血(寒冷凝集素症)、脳炎、Guillain-Barré症候群、心筋炎、肝機能障害など。

抗菌薬の作用部位と非定型病原体への効き方

・細胞壁の合成を妨げる:β-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)、グリコペプチド系(バンコマイシン)。マイコプラズマには効かない。 ・リボソーム30Sサブユニット:アミノグリコシド系、テトラサイクリン系。 ・リボソーム50Sサブユニット:マクロライド系、リンコマイシン系、クロラムフェニコール。 ・DNAの複製を妨げる(DNAジャイレース、トポイソメラーゼIVを阻害する):キノロン系。 ・非定型肺炎(マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラ)に使う薬:マクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系。

治療薬の選び方の要点

・成人:第一選択はマクロライド系である。効かない場合や耐性が疑われる場合は、テトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリン)やレスピラトリーキノロン(呼吸器感染症の原因菌に強い効果をもつキノロン系で、レボフロキサシンなど)を使う。 ・小児:第一選択はマクロライド系である。耐性が疑われる場合、8歳以上ではミノサイクリン、8歳未満ではトスフロキサシンを検討する。

POINT

・若年者、頑固な乾いた咳、職場や家族内での流行、聴診所見が乏しい、白血球数が正常、喀痰検査で菌が見つからない → マイコプラズマ肺炎を考える。 ・非定型肺炎を見分けるときは、日本呼吸器学会の6項目(4項目以上で非定型肺炎を疑う)を使う。 ・マイコプラズマは細胞壁がないため、β-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)は効かない。 ・治療にはマクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系を使う。 ・マクロライド耐性株が多く、48〜72時間で熱が下がらない場合は耐性を疑う。 ・テトラサイクリン系は8歳未満の小児と妊婦には原則として使わない(歯の着色やエナメル質の形成不全のため)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。