StudyMed医師国家試験

「少しずつ弱る」を食い止める―介護保険と予防重視型システムの考え方

第104回医師国家試験 B問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第16問

介護保険制度について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.近年要介護度の低い要支援や要介護1の者の増加が著しい。
  2. b.要介護になる原因として悪性新生物,心疾患が上位を占める。
  3. c.要介護のリスクの高い虚弱高齢者の介護予防は対象ではない。
  4. d.介護老人福祉施設,介護老人保健施設への入所は医療保険を用いる。
  5. e.運動器機能,栄養,口腔機能,閉じこもり,認知症,うつを対象とする。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は介護保険制度の現状と、介護予防の考え方を問う問題だ。押さえるべきは「どんな人が増えているのか」「なぜ要介護になるのか」「介護予防は誰を対象に何をするのか」「施設はどの保険で使うのか」の4点。まず制度の骨格から確認しよう。介護保険の保険者はどこかな。
医学生医学生
市町村ですね。被保険者は65歳以上が第1号、40〜64歳の医療保険加入者が第2号だったと思います。
ドクタードクター
正解。第2号被保険者は、末期がんやパーキンソン病関連疾患など、加齢に関係する16の特定疾病が原因の場合だけ給付を受けられる。利用には要介護認定が必要で、区分は要支援1・2と要介護1〜5の7段階だ。では、認定者数は制度開始からどう推移してきたと思う?
医学生医学生
高齢化が進んでいるので、重い要介護度の人が増えているのかなと思いました。
ドクタードクター
そこがよくある誤解なんだ。認定者数は制度開始時の約218万人から増え続けて今は約700万人に達しているけれど、特に伸びが大きかったのは要支援や要介護1といった軽度者なんだよ。だから軽度者の増加が著しいという記述は正しい。
医学生医学生
軽度の人が増えると、なぜ問題になるんですか。
ドクタードクター
軽度者の多くは、脳卒中のように突然倒れるのではなく、関節疾患や転倒、加齢による衰弱で生活機能が少しずつ落ちていく、いわゆる廃用症候群型なんだ。こうした状態は早めに介入すれば改善や予防の余地が大きい。そこで2005年の法改正、2006年施行で「予防重視型システム」へ転換し、地域支援事業として介護予防事業がつくられた。
医学生医学生
ということは、要介護になりそうな虚弱高齢者は、まさに介護予防の対象ですよね。
ドクタードクター
その通り。虚弱高齢者こそ重点対象で、当初は特定高齢者、のちに二次予防事業対象者と呼ばれて早期支援が行われた。今は介護予防・日常生活支援総合事業に再編されているけれど、この考え方は制度の柱のままだ。だから虚弱高齢者は対象ではないという記述は誤り。
医学生医学生
では、介護予防では具体的に何を見るんですか。
ドクタードクター
基本チェックリストという25項目の質問票を使って、運動器の機能、栄養、口腔機能、閉じこもり、認知機能、うつの各領域を評価する。それぞれに運動器の機能向上や栄養改善、口腔機能の向上といったプログラムが用意されている。つまりこの6領域を対象とするという記述も正しい。
医学生医学生
地域医療の実習で保健師さんと訪問したとき、噛む力や外出の頻度を聞いていたのはそれだったんですね。
ドクタードクター
まさにそれだね。次に要介護になる原因について。悪性新生物と心疾患が上位という記述はどうかな。
医学生医学生
がんと心疾患は死因の1位と2位なので、正しい気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけだ。死因と要介護原因はまったく別物なんだ。要介護の原因上位は、脳血管疾患、認知症、高齢による衰弱、骨折・転倒、関節疾患。出題当時は脳血管疾患が1位で、近年は認知症が1位になっている。がんや心疾患は上位ではないよ。
医学生医学生
死因の順位と混同しないように気をつけます。最後の施設の入所はどうですか。
ドクタードクター
介護老人福祉施設、つまり特別養護老人ホームは常時介護が必要な人の生活の場。介護老人保健施設は在宅復帰を目指してリハビリを行う中間施設だ。どちらも介護保険法に基づく介護保険施設で、入所は介護保険の施設サービスになる。医療保険ではないから誤りだね。
医学生医学生
特養と老健は名前が似ていて混乱しますが、生活の場か在宅復帰の場か、で区別すればいいんですね。
ドクタードクター
いい整理だね。補足すると、特養への新規入所は原則要介護3以上に限られている。また2018年には、長期療養が必要な人に医療と生活の場を一体で提供する介護医療院ができた。財源は公費と保険料が半分ずつ、利用者負担は原則1割で所得に応じて2割・3割になる。臨床では主治医意見書を書く機会があるけれど、それが介護認定審査会での二次判定に使われることも覚えておこう。
医学生医学生
医師の書く意見書が、患者さんの受けられるサービスに直結するんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。生活機能の低下に早く気づいて介護予防につなげることも、医師の大切な役割だよ。

まとめ

介護保険制度は市町村を保険者とする社会保険で、認定者数は制度開始以来増え続け、特に要支援・要介護1といった軽度者の増加が著しくなりました。軽度者の多くは関節疾患や転倒、衰弱によって生活機能が徐々に低下する廃用症候群型であり、これを受けて2006年に予防重視型システムへ転換し、虚弱高齢者を重点対象とする介護予防事業が始まりました。介護予防では基本チェックリストを用いて運動器機能、栄養、口腔機能、閉じこもり、認知機能、うつの各領域を評価・支援します。要介護の原因上位は脳血管疾患・認知症・衰弱・骨折転倒・関節疾患で、死因上位の悪性新生物や心疾患とは異なる点に注意が必要です。特養や老健への入所は介護保険の施設サービスであり、主治医意見書を通じて医師も制度に深く関わるため、仕組みの理解は日常診療にも直結します。

解答・解説

正解はa, eです

介護保険制度の現状と、介護予防の考え方を問う問題である。 介護保険制度は2000年に施行された社会保険制度で、保険者は市町村(特別区を含む)である。被保険者は65歳以上の第1号被保険者と、40〜64歳の医療保険加入者である第2号被保険者に分かれる。サービスを利用するには市町村に申請して要介護認定を受ける必要があり、判定区分は要支援1・2と要介護1〜5の計7段階である。第2号被保険者は、加齢に伴う特定疾病(16疾病)が原因の場合に限って給付を受けられる。 制度開始以降、認定者数は一貫して増加し、特に要支援や要介護1といった軽度者の伸びが大きかった。軽度者の多くは、脳卒中のような急激な発症ではなく、関節疾患・骨折・転倒・高齢による衰弱などを背景に生活機能が少しずつ低下して要介護状態に至る(廃用症候群型)。このような状態は早い段階の働きかけで改善・予防できる余地が大きいことから、2005年の法改正(2006年施行)で「予防重視型システム」への転換が図られ、要支援者向けの予防給付の見直しと、要支援・要介護になるおそれの高い高齢者を含めた地域支援事業(介護予防事業)が創設された。 介護予防では、生活機能の低下を早期に見つけるために基本チェックリストが用いられ、運動器の機能、栄養、口腔機能、閉じこもり、認知機能(認知症)、うつといった領域が評価・支援の対象となる。 これらの流れを押さえておけば、軽度者の増加(a)と介護予防の対象領域(e)が正しいと判断でき、介護予防の対象から虚弱高齢者を外す記述(c)や、介護施設への入所を医療保険とする記述(d)が誤りとわかる。

選択肢考察

  1. ○a.  近年要介護度の低い要支援や要介護1の者の増加が著しい。

    要介護(要支援)認定者数は制度開始時の約218万人から増え続け、現在は約700万人に達している。とくに要支援1・2や要介護1といった軽度の認定者の増加が著しく、制度開始当初から大きく伸びた。この軽度者の急増が、予防重視型システムへの転換(2006年施行の制度改正)を促す大きな理由となった。

  2. ×b.  要介護になる原因として悪性新生物,心疾患が上位を占める。

    悪性新生物と心疾患は日本人の死因の上位であるが、介護が必要となった原因の上位ではない。国民生活基礎調査によれば、要支援・要介護となった主な原因の上位は脳血管疾患(脳卒中)、認知症、高齢による衰弱、骨折・転倒、関節疾患である。本問出題当時(2010年調査)は脳血管疾患が第1位で、認知症、高齢による衰弱が続いていた。近年の調査では認知症が第1位となり、脳血管疾患、骨折・転倒が続いている。死因の順位と要介護原因の順位を混同しないことが大切である。

  3. ×c.  要介護のリスクの高い虚弱高齢者の介護予防は対象ではない。

    要介護状態になるおそれの高い虚弱高齢者こそ、介護予防の重点的な対象である。2006年に創設された地域支援事業の介護予防事業では、元気な高齢者全体を対象とする一次予防事業に対し、生活機能が低下しつつある虚弱高齢者(当初は特定高齢者、のちに二次予防事業対象者と呼ばれた)を把握して早期に支援する二次予防事業が行われた。現在は介護予防・日常生活支援総合事業として再編されているが、基本チェックリストで把握した虚弱高齢者(事業対象者)へのサービス提供は引き続き制度の柱である。

  4. ×d.  介護老人福祉施設,介護老人保健施設への入所は医療保険を用いる。

    介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム:常時介護が必要で在宅生活が困難な人の生活の場)と介護老人保健施設(老健:病状が安定した人が在宅復帰を目指してリハビリテーションなどを受ける施設)は、いずれも介護保険法に基づく介護保険施設であり、入所は介護保険の施設サービスとして給付される。医療保険ではない。なお介護老人福祉施設への新規入所は原則として要介護3以上に限られる。

  5. ○e.  運動器機能,栄養,口腔機能,閉じこもり,認知症,うつを対象とする。

    介護予防では、生活機能低下の早期発見のために基本チェックリスト(25項目)を用い、日常生活関連動作に加えて、運動器の機能、栄養状態、口腔機能、閉じこもり、認知機能(認知症)、うつの各領域を評価する。これらの領域ごとに介護予防のマニュアルが整備され、運動器の機能向上、栄養改善、口腔機能の向上などのプログラムや、閉じこもり・認知症・うつの予防支援が提供される。

介護保険制度の骨格

・保険者:市町村・特別区 ・第1号被保険者:65歳以上。原因を問わず要介護・要支援状態であれば給付対象。 ・第2号被保険者:40〜64歳の医療保険加入者。末期がん、関節リウマチ、脳血管疾患、初老期における認知症、パーキンソン病関連疾患などの特定疾病(16疾病)による場合のみ給付対象。 ・財源:公費(税)50%と保険料50%。 ・利用者負担:原則1割(所得に応じて2割・3割)。 ・要介護認定:コンピュータによる一次判定と、主治医意見書などをもとにした介護認定審査会での二次判定を経て市町村が認定する。

介護保険施設

・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム):生活の場。新規入所は原則要介護3以上。 ・介護老人保健施設:在宅復帰を目指すリハビリテーション中心の中間施設。 ・介護医療院:2018年創設。長期療養が必要な人に医療と生活の場を一体的に提供する。 ・介護療養型医療施設:2024年3月末で廃止され、介護医療院などへ移行した。

介護予防の考え方

・2005年の法改正(2006年施行)で予防重視型システムへ転換し、地域包括支援センターと地域支援事業が創設された。 ・当初は一次予防事業(全高齢者対象)と二次予防事業(虚弱高齢者対象)に分けて実施された。 ・2014年の法改正以降は介護予防・日常生活支援総合事業に再編され、要支援者の訪問介護・通所介護の一部も市町村の事業へ移行した。

要介護となる主な原因

脳血管疾患、認知症、高齢による衰弱、骨折・転倒、関節疾患が上位を占める。要支援者では関節疾患や高齢による衰弱、要介護者では認知症や脳血管疾患が多いという違いがある。

POINT

・介護保険認定者は増加しており、とくに要支援・要介護1の軽度者が大きく増えた。 ・要介護の原因上位は脳血管疾患・認知症・衰弱・骨折転倒・関節疾患(悪性新生物や心疾患ではない)。 ・虚弱高齢者は介護予防の重点対象。 ・特養・老健・介護医療院への入所は介護保険による。 ・介護予防の対象領域:運動器、栄養、口腔、閉じこもり、認知機能、うつ(基本チェックリスト)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。