検査より先に空気を抜け―ショックへ向かう緊張性気胸の初期対応
第103回医師国家試験 I問題 第47問
国試問題にチャレンジ
72歳の男性。突然の胸痛と呼吸困難とを主訴に家族に伴われて来院した。2時間前に上記症状が出現し次第に増悪している。来院時,体温36.8℃,呼吸数32/分,脈拍104/分,整。血圧96/60mmHg。胸部エックス線撮影後,努力性呼吸となり意識がもうろうとしてきた。胸部エックス線写真を別に示す。 静脈路確保後にまず行うのはどれか。

- a.心電図
- b.胸部CT
- c.鎮痛薬投与
- d.胸腔ドレナージ
- e.人工呼吸器装着
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
胸部エックス線写真で患側肺の虚脱と縦隔の健側偏位があり、血圧低下・頻脈・意識障害などのショック徴候を伴えば緊張性気胸と判断します。チェックバルブ機構で上昇した胸腔内圧が静脈還流を妨げて閉塞性ショックを起こすため、静脈路確保後は検査や鎮痛より先に胸腔ドレナージで脱気し、準備に時間がかかる場合は緊急穿刺脱気を先行させます。脱気前の陽圧換気は病態を急激に悪化させるため避け、心電図や胸部CTによる精査は状態が安定してから行います。高齢者ではCOPDや肺癌を背景とする続発性気胸が多く、脱気後の再膨張性肺水腫にも注意が必要です。「診断がついたら原因の除去を最優先する」という判断は、救急初期対応の根幹となる考え方です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・72歳の男性。突然の胸痛と呼吸困難で発症し、2時間の経過で次第に増悪している。 ・来院時、呼吸数32/分(頻呼吸)、脈拍104/分(頻脈)、血圧96/60mmHg(血圧低下傾向)。発熱はない。 ・胸部エックス線撮影後に努力性呼吸となり、意識がもうろうとしてきた。呼吸不全と循環不全(ショック)が急速に進行している。 ・胸部エックス線写真では、左胸腔の透過性が亢進して肺血管影が消失し、虚脱した左肺の辺縁(臓側胸膜の線)が肺門側に認められる。縦隔(気管・心陰影)は右方へ偏位し、左横隔膜は押し下げられて平低化している。
診断へのプロセス
高齢者の突然の胸痛・呼吸困難では、急性心筋梗塞、急性大動脈解離、肺血栓塞栓症、特発性食道破裂、気胸など、致死的になりうる疾患を念頭に置く。本症例では胸部エックス線写真で左肺の虚脱と縦隔の健側(右側)への偏位がみられ、これに血圧低下・頻脈・意識障害といったショック徴候が加わっていることから、左緊張性気胸と診断できる。 緊張性気胸では、胸膜の損傷部が一方向弁(チェックバルブ)のように働き、吸気のたびに空気が胸腔内に流入するが呼気時に抜けない。このため患側の胸腔内圧が陽圧になるまで上昇し、縦隔を健側へ押しやる。その結果、上・下大静脈が圧迫・屈曲されて心臓への静脈還流が著しく減少し、心拍出量が低下して閉塞性ショックに陥る。放置すれば短時間で心停止に至る。 高齢者の気胸は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの基礎肺疾患に伴う続発性気胸であることが多く、肺の予備能が低いため重症化しやすい。背景に肺癌などが隠れていることもある。
設問への考え方
緊張性気胸は、原因(胸腔内に貯留して圧を高めている空気)を直ちに抜かなければ救命できない病態である。したがって、静脈路を確保した後は、他の検査や治療に先立って、胸腔内の空気を排出して胸腔内圧を下げる処置を最優先で行う。胸腔ドレーンの準備に時間がかかる場合は、太い留置針を胸壁から刺入して脱気する緊急穿刺脱気を先行させ、その後に胸腔ドレーンを留置する。
選択肢考察
- ×a. 心電図
心電図は胸痛の鑑別(急性心筋梗塞など)や不整脈の評価に有用であり、モニターとしての装着自体は望ましい。しかし本症例は胸部エックス線写真ですでに緊張性気胸と診断されており、ショックと意識障害が進行している。12誘導心電図の記録や評価のために脱気を遅らせてはならず、「まず行う」処置ではない。
- ×b. 胸部CT
胸部CTは、気胸の原因となる基礎疾患(ブラ、肺気腫、肺癌など)や少量の気胸の評価に有用である。しかし診断はすでについており、ショック状態の患者をCT室へ移動させること自体が危険である。原因検索は状態が安定してから行えばよく、現時点で優先すべき検査ではない。
- ×c. 鎮痛薬投与
胸痛に対する鎮痛は患者の苦痛を和らげるが、緊張性気胸という病態そのものは改善しない。むしろオピオイドなどの鎮痛薬は呼吸抑制や血圧低下を招き、呼吸不全とショックを悪化させるおそれがある。救命のための処置より先に行うものではない。
- ○d. 胸腔ドレナージ
緊張性気胸の根本的な治療は、胸腔内に貯留した空気を体外へ排出して胸腔内圧を下げることである。胸腔ドレーンを留置して持続的に脱気すると、虚脱した肺が再膨張し、縦隔の偏位が解除されて静脈還流が回復し、血圧と呼吸状態が改善する。ショックと意識障害が進行している本症例では、静脈路確保に続いて直ちに行うべき処置である。ドレーン挿入の準備が整うまでに時間を要する場合には、留置針による緊急穿刺脱気を先に行い、その後にドレーンを留置する。
- ×e. 人工呼吸器装着
人工呼吸器による陽圧換気は、損傷した胸膜の部位から胸腔内へさらに空気を押し込むことになり、胸腔内圧を一層上昇させて緊張性気胸とショックを急激に悪化させる。脱気されていない緊張性気胸に陽圧換気を先行してはならない。呼吸管理が必要な場合でも、胸腔ドレナージで脱気した後に行う。
気胸の分類
・自然気胸:原発性自然気胸(基礎疾患のない若年のやせ型男性に多く、肺尖部のブラ・ブレブの破裂による)と、続発性気胸(COPD、間質性肺炎、肺癌、肺結核、女性の月経随伴性気胸、リンパ脈管筋腫症など基礎疾患に伴う)に分けられる。 ・外傷性気胸:胸部外傷、肋骨骨折など。 ・医原性気胸:中心静脈カテーテル挿入、経皮肺生検、陽圧換気などに伴う。
緊張性気胸の徴候
・呼吸困難、頻呼吸、低酸素血症 ・頻脈、血圧低下(閉塞性ショック)、頸静脈怒張 ・患側の呼吸音減弱・消失、打診で鼓音、胸郭の膨隆・呼吸運動の低下 ・気管の健側への偏位 ・胸部エックス線写真:患側の透過性亢進と肺血管影の消失、肺の虚脱、縦隔の健側への偏位、患側横隔膜の低位・平低化、肋間腔の開大 緊張性気胸は臨床診断が原則であり、身体所見から強く疑われショックが進行している場合には、画像検査を待たずに脱気を行う。
緊急処置
・緊急穿刺脱気:太い留置針を、患側の第2肋間鎖骨中線、または第4〜5肋間の中腋窩線付近から刺入して胸腔内の空気を逃がす。一時的な減圧処置である。 ・胸腔ドレナージ:第4〜5肋間の中腋窩線付近(安全三角:大胸筋外縁・広背筋前縁・乳頭の高さの水平線で囲まれた領域)からドレーンを挿入し、水封式の排液装置に接続して持続的に脱気する。 ・再膨張性肺水腫:長時間虚脱していた肺を急速に再膨張させると、患側に肺水腫を生じることがあるため、処置後も呼吸状態を観察する。 ・根治治療:再発例や持続する空気漏れには、胸腔鏡下のブラ切除術や胸膜癒着術を検討する。
POINT
・胸部エックス線写真で患側肺の虚脱と縦隔の健側偏位があり、ショックを伴えば緊張性気胸である。 ・緊張性気胸は静脈還流障害による閉塞性ショックを起こし、急速に致死的となる。 ・治療は直ちに脱気すること(緊急穿刺脱気→胸腔ドレナージ)が最優先で、検査や鎮痛より先に行う。 ・脱気前の陽圧換気(人工呼吸器装着)は緊張性気胸を悪化させるため禁忌である。 ・高齢者の気胸はCOPDや肺癌などを背景とする続発性気胸が多い。
