寝汗と血痰、上葉の影―結核を「今日中に」つかまえる検査はどれか
第103回医師国家試験 I問題 第48問
国試問題にチャレンジ
50歳の男性。2か月前からの咳,体重減少および盗汗を主訴に来院した。2週前から血痰を認める。喫煙歴はない。胸部エックス線写真(A)と胸部単純CT(B)とを別に示す。 迅速な診断に有用な検査はどれか。

- a.喀痰細胞診
- b.喀痰細菌培養
- c.喀痰抗酸菌培養
- d.ツベルクリン反応
- e.喀痰Ziehl-Neelsen染色
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
慢性の咳に体重減少・盗汗・血痰を伴い、上葉の肺尖・後区域に浸潤影と小葉中心性粒状影(経気道散布像)を認める場合は、肺結核をまず疑います。結核は空気感染するため排菌の有無を速やかに知る必要があり、数時間で結果が得られる喀痰のZiehl-Neelsen染色(抗酸菌塗抹検査)が迅速診断に最も有用です。抗酸菌培養は確定診断と薬剤感受性検査に必須ですが数週間を要し、ツベルクリン反応やIGRAは活動性結核の診断には使えず、喀痰細胞診や一般細菌培養では抗酸菌を検出できません。塗抹陽性でも結核菌と非結核性抗酸菌は区別できないため、核酸増幅検査で菌種を確認するという流れまで押さえておくと、隔離・届出・治療といった実臨床の初動判断に直結します。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・50歳の男性。2か月前から咳、体重減少、盗汗(寝汗)が続き、2週前から血痰がみられる。喫煙歴はない。 ・胸部エックス線写真(A)では左上肺野に不整形の浸潤影を認める。 ・胸部単純CT(B)では、左上葉(S1+2を中心とする領域)に融合した浸潤影があり、その周囲に小葉中心性の粒状影(気道に沿って散らばる細かな粒状影)が広がっている。明らかな腫瘤影はみられない。
診断へのプロセス
数週〜数か月にわたる慢性の咳に、体重減少・盗汗といった全身の消耗症状と血痰が加わる経過は、慢性の感染症(とくに肺結核)や肺癌などの悪性腫瘍を考えさせる。喫煙歴がないこと、画像で腫瘤ではなく浸潤影と気道散布性の粒状影が主体であることから、悪性腫瘍より感染症が考えやすい。 肺結核は、酸素分圧が高く、リンパ流が乏しいために菌が排除されにくい上葉の肺尖・後区域(S1、S2、S1+2)や下葉の上-下葉区(S6)に好発する。病巣から排出された菌を含む物質が気管支を通って広がる(経気道散布)ため、CTでは小葉中心性の粒状影や分岐状影(tree-in-bud appearance)を伴うのが特徴であり、空洞を形成することも多い。本症例の病変の部位と性状はこれに合致し、肺結核が最も疑われる。非結核性抗酸菌症も類似の画像を示しうるため、鑑別に含める。
設問への考え方
肺結核は空気感染(飛沫核感染)する感染症であり、排菌の有無を速やかに確認して隔離の要否や治療開始を判断する必要がある。したがって「迅速な診断」には、喀痰中の抗酸菌をその日のうちに検出できる塗抹検査(抗酸菌染色)が最も有用である。塗抹検査では結核菌と非結核性抗酸菌を区別できないため、陽性の場合は結核菌の核酸増幅検査(PCR法など)で菌種を確認し、並行して抗酸菌培養による確定診断と薬剤感受性検査を行う。
選択肢考察
- ×a. 喀痰細胞診
喀痰細胞診は、喀痰中にはがれ落ちた細胞を観察して癌細胞の有無を調べる検査であり、主に肺癌(とくに中枢気道に発生する扁平上皮癌)の診断に用いる。本症例は画像所見と経過から感染症、とくに肺結核が疑われており、細胞診では抗酸菌を検出する目的を果たせない。
- ×b. 喀痰細菌培養
通常の喀痰細菌培養は、肺炎球菌やインフルエンザ菌など一般細菌を対象とした検査である。抗酸菌は発育が非常に遅く、一般細菌用の培地・培養期間では検出できない。また培養である以上、結果が出るまでに数日を要し、迅速検査ではない。なお一般細菌の迅速検査であるGram染色でも、細胞壁に脂質(ミコール酸)が多い抗酸菌はほとんど染まらない。
- ×c. 喀痰抗酸菌培養
抗酸菌培養は結核の確定診断、菌種の同定、薬剤感受性検査に不可欠であり、本症例でも必ず行うべき検査である。塗抹検査より感度も高い。しかし結核菌は分裂に十数時間以上を要するほど増殖が遅く、液体培地でも陽性となるまで通常1〜数週間、固形培地(小川培地)では3〜8週間程度を要する。したがって「迅速な」診断には適さない。
- ×d. ツベルクリン反応
ツベルクリン反応は、結核菌由来の精製蛋白(PPD)を皮内に注射し、48時間後の発赤・硬結の大きさをみる検査で、結核菌に対する細胞性免疫(遅延型過敏反応)の有無を反映する。過去の結核感染でも陽性となり、日本ではBCG接種によっても陽性となるため、現在活動性の結核であるかどうかは判断できない。判定に48時間かかる点でも迅速ではない。BCGの影響を受けないインターフェロンγ遊離試験(IGRA)も、感染の有無は示すが活動性結核と潜在性結核感染症を区別できない。
- ○e. 喀痰Ziehl-Neelsen染色
Ziehl-Neelsen染色は代表的な抗酸菌染色法である。石炭酸フクシンで加温染色した後に塩酸アルコールで脱色しても、細胞壁にミコール酸を豊富に含む抗酸菌は色が抜けず、赤く染まった桿菌として観察される(背景はメチレンブルーで青く染まる)。喀痰を塗抹して染色すれば数時間以内に結果が得られ、排菌の有無と量(感染性の目安)を速やかに判断できる。結核菌と非結核性抗酸菌の区別はできないため、陽性であれば核酸増幅検査で菌種を確認する。現在は感度に優れる蛍光染色法(オーラミンO染色など)も広く用いられている。
肺結核の臨床像
・症状:2週間以上続く咳・痰、微熱、盗汗、体重減少、全身倦怠感、血痰・喀血。高齢者では症状が乏しいこともある。 ・危険因子:高齢、糖尿病、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の使用、HIV感染、慢性腎不全・透析、胃切除後、悪性腫瘍、低栄養、塵肺など。 ・画像所見:上葉S1・S2・S1+2、下葉S6に好発。浸潤影・結節影・空洞、小葉中心性粒状影・分岐状影(tree-in-bud appearance)などの経気道散布像。
結核の検査と特徴
・塗抹検査(Ziehl-Neelsen染色、蛍光染色):数時間で結果が出る。菌種の区別は不可。喀痰は3日間連続で3回採取するのが原則。 ・核酸増幅検査(PCR法、LAMP法など):数時間〜1日程度で結核菌群か否かを判定できる。死菌でも陽性となりうる。 ・培養検査(液体培地・小川培地):確定診断と薬剤感受性検査に必須。結果判明まで数週間を要する。 ・ツベルクリン反応・IGRA:感染の有無の指標。活動性結核の診断には用いない。IGRAはBCG接種の影響を受けない。 ・喀痰が得られない場合:高張食塩水の吸入による誘発喀痰、胃液検査、気管支鏡検査(気管支洗浄液)などを行う。
治療と公衆衛生上の対応
・標準治療:イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール(またはストレプトマイシン)の4剤で2か月、その後イソニアジド、リファンピシンの2剤で4か月、計6か月が基本である。 ・結核は感染症法の二類感染症であり、診断した医師は直ちに保健所へ届け出る。喀痰塗抹陽性などで感染のおそれがある患者は、結核病床(陰圧個室など)への入院勧告の対象となる。 ・医療者は排菌が疑われる患者の診療時にN95マスクを着用し、患者にはサージカルマスクを着用させる。
POINT
・慢性の咳、体重減少、盗汗、血痰に、上葉(S1+2など)の浸潤影と小葉中心性粒状影があれば肺結核を疑う。 ・迅速診断は喀痰の抗酸菌塗抹検査(Ziehl-Neelsen染色)で、数時間で排菌の有無がわかる。 ・塗抹陽性だけでは結核菌と非結核性抗酸菌を区別できないため、核酸増幅検査(PCR)で菌種を確認する。 ・抗酸菌培養は確定診断・薬剤感受性検査に必須だが、結果に数週間かかる。 ・ツベルクリン反応はBCG接種で陽性となり、IGRAも含め活動性結核の診断には使えない。
