抗酸菌塗抹陽性、その菌は本当に結核か―届出より先にやるべき一手
第103回医師国家試験 I問題 第49問
国試問題にチャレンジ
69歳の女性。肺炎の疑いで紹介され来院した。3週前から咳と痰,全身倦怠感,食思不振および37℃台の微熱が出現し,市販薬で改善しないため他院を受診した。胸部エックス線写真で右下肺野に陰影を認め,肺炎が疑われた。喀痰の抗酸菌塗抹検査が陽性であったため患者を個室に入院させた。 まず行うのはどれか。
- a.保健所に届け出る。
- b.抗結核薬を投与する。
- c.結核菌のPCR検査を行う。
- d.ツベルクリン反応検査を行う。
- e.患者にN 95マスクを着用させる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
亜急性の咳・痰と微熱が続く患者で喀痰の抗酸菌塗抹検査が陽性でも、塗抹検査だけでは結核菌と非結核性抗酸菌(MACなど)を区別できません。結核なら二類感染症としての届出・空気感染隔離・4剤併用療法が必要ですが、NTM症は届出も隔離も不要で治療薬も異なるため、まず結核菌のPCRなどの核酸増幅検査で菌種を迅速に確定することが最優先です。培養と薬剤感受性検査は同時に提出しますが結果に数週間かかり、ツベルクリン反応は活動性結核の判定や菌種の同定に役立ちません。また、N95マスクは医療従事者が着用し、患者にはサージカルマスクを着用させる点も重要です。検査結果が示すことと示さないことを見極め、正しい順序で初動対応を組み立てる考え方は、感染症診療全般の基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・69歳女性。3週間続く咳・痰、全身倦怠感、食欲低下、37℃台の微熱。市販薬で改善しない。 ・胸部エックス線写真で右下肺野に陰影。 ・喀痰の抗酸菌塗抹検査が陽性。すでに個室へ入院させている。
診断の考え方
2週間以上続く咳・痰に微熱や倦怠感、食欲低下といった全身症状を伴う亜急性の経過は、一般細菌による肺炎よりも肺結核を強く疑わせる。そこに喀痰の抗酸菌塗抹陽性という結果が加わっているので、肺抗酸菌症であることはほぼ確実である。 ただし、塗抹検査(Ziehl-Neelsen染色や蛍光染色で菌体を観察する検査)は「抗酸性を示す菌がいる」ことしか示さず、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)と非結核性抗酸菌(NTM:Mycobacterium avium complexなど)を形態から区別することはできない。日本では高齢女性を中心にNTM症が増えており、塗抹陽性例の中にNTMが相当数含まれる。
設問の考え方
結核とNTM症では、その後の対応がまったく違う。 ・結核:ヒトからヒトへ空気感染するため、感染症法の二類感染症として保健所へ直ちに届け出る。空気感染隔離(陰圧個室)、接触者健診、標準的な多剤併用療法を行う。 ・NTM症:ヒト-ヒト感染は基本的に起こらないとされ、届出も隔離も不要。治療薬の組合せや開始の判断も結核とは異なる。 したがって、塗抹陽性が判明し、とりあえず個室に収容して感染拡大を防いだ次の段階で最優先すべきは、「その抗酸菌が結核菌かどうか」を速やかに確定することである。核酸増幅検査(PCR法など)は喀痰から直接、数時間から1日程度で結核菌群の遺伝子を検出でき、この目的に最も適している。培養検査(液体培地でも数週間)と薬剤感受性検査も同時に提出するが、結果を待つのに時間がかかるため、初動の判断にはPCRを用いる。
選択肢考察
- ×a. 保健所に届け出る。
結核は感染症法で二類感染症に指定され、診断した医師は直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事へ届け出る義務がある。しかし現時点では抗酸菌塗抹陽性という情報しかなく、NTM症の可能性が残っている。NTM症は届出の対象ではない。まず結核菌であることを確認してから届け出るのが正しい順序であり、「まず行う」ことではない。
- ×b. 抗結核薬を投与する。
結核の標準治療はイソニアジド(INH)・リファンピシン(RFP)・ピラジナミド(PZA)・エタンブトール(EB)の4剤併用で始めるが、NTM症(特にMAC症)ではクラリスロマイシンなどのマクロライドを軸にRFP・EBを組み合わせるなど、菌種によって薬剤の組合せが異なる。NTM症では画像や複数回の培養結果から治療開始そのものを慎重に判断する。菌種が確定しないまま結核の治療を始めると、不適切な治療となるうえ、培養の検出率が下がり診断をかえって難しくする。まず菌種を確定させることを優先する。
- ○c. 結核菌のPCR検査を行う。
PCR法などの核酸増幅検査は、喀痰中の結核菌群に特異的な遺伝子を短時間で検出する検査である。塗抹陽性の検体であれば感度も高く、陽性なら結核、陰性ならNTMの可能性が高いと当日から翌日には判断できる。結核かどうかで届出、隔離の要否、治療内容がすべて変わるため、次の行動を決める最初の一手として最も合理的である。MAC(Mycobacterium avium complex)のPCRを同時に行えば、NTM症の診断にも役立つ。
- ×d. ツベルクリン反応検査を行う。
ツベルクリン反応は結核菌の抗原に対する遅延型過敏反応(Ⅳ型アレルギー)をみる皮内反応で、過去の結核感染の有無を推定する検査である。BCG接種歴や一部のNTM感染でも陽性となり、また現在活動性の結核かどうかは判断できない。高齢者や免疫低下者では偽陰性にもなりうる。すでに塗抹陽性の菌が検出されている患者で菌種を決める目的には役立たない。
- ×e. 患者にN 95マスクを着用させる。
N95マスクは、空気中を漂う飛沫核(直径5μm以下)を吸い込まないようにするための呼吸器防護具で、結核(疑い)患者に接する医療従事者が装着するものである。患者側は、咳やくしゃみで飛沫が飛び散るのを抑えればよいため、サージカルマスク(外科用マスク)で十分である。N95マスクは密着性が高く呼吸抵抗が大きいため、呼吸器症状のある患者に長時間つけさせるのは苦痛で適さない。また、すでに個室に隔離している状況で「まず」行うことでもない。
抗酸菌の検査
・塗抹検査:Ziehl-Neelsen染色や蛍光染色で抗酸菌を直接観察する。迅速だが結核菌とNTMの区別はできない。菌量はガフキー号数に代わり、現在は「-、±、1+、2+、3+」で記載する。塗抹陽性は排菌量が多く、感染性が高いことを意味する。 ・核酸増幅検査(PCR法、LAMP法など):結核菌群・MACなどを数時間~1日で同定できる。死菌も検出しうるため、治療効果の判定には使わない。 ・培養検査:確定診断の基本であり、薬剤感受性検査にも必要。液体培地でも数週間、小川培地では最大8週程度を要する。 ・インターフェロンγ遊離試験(IGRA:QFT、T-SPOT):結核菌特異抗原を用いるため、BCG接種の影響を受けにくい。ただし既感染と活動性結核の区別はできない。
結核と判明した場合の対応
・感染症法に基づき、診断した医師は直ちに保健所へ届け出る(二類感染症)。 ・喀痰塗抹陽性の肺結核は、結核病床(陰圧の個室など)への入院勧告の対象となる。 ・医療従事者はN95マスク、患者はサージカルマスクを着用する。 ・保健所が中心となり、家族や職場などの接触者健診を行う。 ・治療はINH+RFP+PZA+EBの4剤で2か月、その後INH+RFPで4か月(計6か月)が標準である。服薬確認にはDOTS(直接服薬確認療法)を用いる。
非結核性抗酸菌症(NTM症)
・日本ではMAC(M. avium、M. intracellulare)が最も多く、次いでM. kansasiiなど。中高年のやせ型女性に中葉・舌区の結節・気管支拡張型病変としてみられることが多い。 ・ヒトからヒトへの感染は基本的にないとされ、届出・隔離は不要である。 ・MAC症の治療はクラリスロマイシン(またはアジスロマイシン)+RFP+EBの併用が基本である。
POINT
・抗酸菌塗抹陽性だけでは、結核とNTM症を区別できない。 ・結核かどうかで届出・隔離・治療がすべて変わるため、まずPCRなどの核酸増幅検査で菌種を迅速に確定する。培養・薬剤感受性検査も並行して提出する。 ・保健所への届出(二類感染症、直ちに)は結核と診断してから行う。 ・ツベルクリン反応やIGRAは活動性結核の診断には使えない。 ・N95マスクは医療従事者が着用し、患者にはサージカルマスクを着用させる。
