その喉の痛みに抗菌薬は要る?―Centor基準で見抜く溶連菌性扁桃炎
第103回医師国家試験 H問題 第24問
国試問題にチャレンジ
32歳の女性。咽頭痛と発熱とを主訴に来院した。2日前から咽頭痛が出現し,本日朝には発熱も加わった。 抗菌薬投与を考えるのはどれか。 咳 鼻汁 体温(℃) 扁桃肥大/ 白苔 リンパ節腫脹 a - - 38.6 + / - +(全身) b - - 38.6 + / + +(頸部) c + + 37.4 - / - +(頸部) d + + 38.6 - / - - e + - 37.4 - / - -
- a.- - 38.6 +/- +(全身)
- b.- - 38.6 +/+ +(頸部)
- c.+ + 37.4 -/- +(頸部)
- d.+ + 38.6 -/- -
- e.+ - 37.4 -/- -
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
急性咽頭炎の大半はウイルス性であり、抗菌薬の適応は主にA群β溶血性レンサ球菌による咽頭・扁桃炎に限られます。38℃を超える発熱、咳がない、圧痛のある前頸部リンパ節腫脹、扁桃の腫大・白苔の4項目からなるCentor基準(年齢補正を加えたMcIsaacスコア)で溶連菌の可能性を評価し、高得点なら迅速抗原検査などで確認してペニシリン系抗菌薬を考慮します。咳・鼻汁などのカタル症状はウイルス性を、全身性リンパ節腫脹は伝染性単核球症や急性HIV感染症を示唆し、伝染性単核球症へのアミノペニシリン投与は皮疹を招くため注意が必要です。溶連菌治療はリウマチ熱や化膿性合併症の予防に役立ちますが、糸球体腎炎の予防効果は明らかではありません。所見を組み合わせて抗菌薬の適応を見極める姿勢は、日常診療と薬剤耐性対策の両方に欠かせない基本です。
解答・解説
正解はbです
問われていること
急性咽頭炎(咽頭痛+発熱)の大部分はウイルス性であり、抗菌薬は効かない。抗菌薬が必要になる代表は A群β溶血性レンサ球菌(GAS、いわゆる溶連菌)による咽頭・扁桃炎である。本問は、症状と所見の組み合わせから「細菌性(特に溶連菌性)の可能性が高いもの」を選ぶ問題である。
細菌性とウイルス性を見分ける視点
1)咳・鼻汁の有無:咳や鼻汁など気道の広い範囲に及ぶ症状(カタル症状)は、ウイルスが上気道全体に感染していることを示す。溶連菌咽頭炎では咳・鼻汁は目立たないのが特徴である。 2)発熱の程度:38℃を超える発熱は細菌感染をより示唆する。 3)扁桃所見:扁桃の腫大に加えて白苔(膿性滲出物)がみられれば化膿性扁桃炎を疑う。 4)リンパ節腫脹の分布:前頸部に限局し圧痛を伴うリンパ節腫脹は、咽頭・扁桃の局所の細菌感染の所属リンパ節反応として説明できる。一方、全身性のリンパ節腫脹は全身性のウイルス感染症(伝染性単核球症、急性HIV感染症など)を考える。
臨床予測スコア
これらを点数化したのがCentor基準である:①38℃を超える発熱、②咳がない、③圧痛のある前頸部リンパ節腫脹、④扁桃の腫大または白苔(滲出物)、の各1点。年齢補正を加えたMcIsaacスコア(3~14歳は+1点、15~44歳は0点、45歳以上は-1点)もよく用いられる。点数が高いほど溶連菌感染の可能性が高く、高得点では迅速抗原検査を行ったうえで(あるいは所見に応じて)抗菌薬を考慮し、低得点では検査も抗菌薬も不要とする考え方が一般的である。 本例は32歳であり年齢補正は0点である。各選択肢をこの基準に当てはめると、4項目すべてを満たすのはbのみであり、抗菌薬投与を考える状況となる。
選択肢考察
- ×a. - - 38.6 +/- +(全身)
咳・鼻汁がなく高熱と扁桃腫大がある点は細菌性とも矛盾しないが、リンパ節腫脹が全身性に分布していることが決め手となる。全身性のリンパ節腫脹と扁桃腫大・発熱の組み合わせは、EBウイルスによる伝染性単核球症や急性HIV感染症などの全身性ウイルス感染症を疑わせる。伝染性単核球症ではアンピシリンなどのアミノペニシリン系薬で高率に皮疹が出現するため、安易な抗菌薬投与はむしろ避けるべきである。異型リンパ球の有無、肝脾腫、肝機能などの確認が優先される。
- ○b. - - 38.6 +/+ +(頸部)
咳・鼻汁といったカタル症状がなく、38.6℃の高熱、扁桃の腫大と白苔、頸部に限局したリンパ節腫脹がそろっている。Centor基準の4項目をすべて満たし(年齢補正0点で計4点)、溶連菌による化膿性扁桃炎の可能性が高い。迅速抗原検査や咽頭培養で確認しつつ、ペニシリン系(アモキシシリンなど、通常10日間)を中心とした抗菌薬投与を考える。溶連菌感染は治療により症状期間が短縮するほか、扁桃周囲膿瘍などの化膿性合併症やリウマチ熱の予防につながる。
- ×c. + + 37.4 -/- +(頸部)
咳と鼻汁があり、体温は37.4℃の微熱にとどまり、扁桃の腫大も白苔もない。頸部リンパ節腫脹は認めるが、それを説明できる扁桃所見に乏しく、上気道全体に及ぶウイルス感染(かぜ症候群、ウイルス性咽頭炎)に伴う反応性腫脹と考えるのが妥当である。Centor基準では1点にとどまり、抗菌薬の適応はない。
- ×d. + + 38.6 -/- -
38.6℃の高熱はあるが、咳・鼻汁を伴い、扁桃所見もリンパ節腫脹もない。インフルエンザなどのウイルス性上気道炎がまず考えられ、Centor基準では1点である。抗菌薬で改善は期待できない。ただし膿性鼻汁が長引く場合の細菌性副鼻腔炎や、呼吸器所見を伴う肺炎の合併などは経過を見て評価する必要がある。
- ×e. + - 37.4 -/- -
咳があり、微熱のみで扁桃所見・リンパ節腫脹ともにみられない。Centor基準は0点で、溶連菌感染の可能性は極めて低い。ウイルス性の咽頭炎・気管支炎として対症療法で経過をみるのが適切であり、抗菌薬は不要である。
急性咽頭炎・扁桃炎の原因
・ウイルス性(大部分):ライノウイルス、アデノウイルス(咽頭結膜熱)、インフルエンザウイルス、コクサッキーウイルス(ヘルパンギーナ、手足口病)、EBウイルス(伝染性単核球症)、HIV(急性HIV感染症)など ・細菌性:A群β溶血性レンサ球菌が代表(成人の咽頭炎の5~15%程度、小児ではより多い)。そのほかC・G群レンサ球菌、Fusobacterium necrophorum(Lemierre症候群の原因)、淋菌、ジフテリア菌などがまれにある。
溶連菌咽頭炎
好発は学童期だが成人にもみられる。突然の咽頭痛・発熱で始まり、扁桃の発赤腫脹・白苔、軟口蓋の点状出血、前頸部リンパ節の圧痛を伴う腫脹、苺舌、猩紅熱様発疹などを呈する。診断は迅速抗原検査または咽頭培養で行う。治療はペニシリン系(アモキシシリン)10日間が基本で、ペニシリンアレルギーではセファロスポリン系やマクロライド系などを用いる。 合併症:化膿性合併症(扁桃周囲膿瘍、中耳炎、副鼻腔炎、頸部リンパ節炎)と非化膿性合併症(リウマチ熱、溶連菌感染後糸球体腎炎)がある。抗菌薬治療によりリウマチ熱の予防効果が示されているが、糸球体腎炎の予防効果は明らかではない。
伝染性単核球症との鑑別
EBウイルス感染でも扁桃に白苔がつくことがあり、溶連菌性との鑑別が問題になる。後頸部を含む広範なリンパ節腫脹、肝脾腫、異型リンパ球増多、肝酵素上昇などが伝染性単核球症を示唆する。アミノペニシリン投与で皮疹が高率に出現することが知られている。
POINT
・咽頭炎の大半はウイルス性であり、抗菌薬の適応は主に溶連菌性に限られる ・Centor基準:38℃超の発熱、咳なし、前頸部の有痛性リンパ節腫脹、扁桃の腫大・白苔(各1点) ・咳・鼻汁などのカタル症状はウイルス性を示唆する ・全身性リンパ節腫脹は伝染性単核球症や急性HIV感染症などの全身性ウイルス感染を考える ・伝染性単核球症にアミノペニシリンを使うと皮疹が出やすい
