異常値だらけの検査表から「今すぐ電話すべき1項目」を見抜く―パニック値の考え方
第103回医師国家試験 F問題 第18問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。意識障害のため搬入された。身長175cm,体重95kg。体温35.7℃。脈拍112/分,整。血圧110/70mmHg。尿所見:蛋白(±),糖(-)。血液所見:赤血球650万,Hb 17.5g/dL,Ht 56%,白血球13,000,血小板10万。血液生化学所見:血糖40mg/dL,HbA1c 10.0%,尿素窒素30mg/dL,クレアチニン1.1mg/dL,尿酸8.0mg/dL,総コレステロール250mg/dL,トリグリセリド300mg/dL,Na 145mEq/L,K 5.2mEq/L,Cl 105mEq/L。CRP 3.0mg/dL。動脈血ガス分析(自発呼吸,room air):pH 7.50,PaO2 106Torr,PaCO2 34Torr,HCO3-20mEq/L。 検査項目でパニック値はどれか。
- a.ヘモグロビン〈Hb〉
- b.血小板
- c.血糖
- d.カリウム
- e.pH
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
パニック値(緊急異常値)とは、生命が危険な状態を示し、直ちに治療すれば救命しうるが診察だけでは把握しにくい検査値のことで、検出されたら検査部門から主治医へ直接報告されます。本症例では糖尿病患者の意識障害に血糖40mg/dLが伴っており、治療薬による高度低血糖が疑われ、これがパニック値に該当します。一方、Hb 17.5g/dL、血小板10万、K 5.2mEq/L、pH 7.50はいずれも基準値から外れてはいるものの軽度で、命に直結する危険域ではありません。各項目の目安(K 6.0〜6.5以上や2.5未満、pH 7.2未満や7.6超、血小板3万未満など)を押さえ、「異常値」と「パニック値」を区別できることが重要です。意識障害の患者ではまず血糖を測るという救急の基本とあわせて、検査結果の緊急度を正しく判断する力は臨床現場で直接役立ちます。
解答・解説
正解はcです
パニック値とは
パニック値(critical value、緊急異常値)とは、生命が危険にさらされていることを示す高度の異常値で、直ちに治療を始めれば救命できる可能性があるが、診察所見だけでは把握しにくく検査で初めてわかるものをいう(Lundbergの定義)。パニック値が出た場合、検査部門は結果を通常の報告ルートに乗せるのではなく、すぐに主治医へ直接連絡しなければならない。具体的な値は施設ごとに定められているが、目安は概ね共通している。
所見の整理
・45歳男性、意識障害で搬入。体重95kg(BMI約31)の肥満、HbA1c 10.0%と血糖コントロール不良の糖尿病がある。 ・血糖40 mg/dL:著明な低血糖。糖尿病治療薬(スルホニル尿素薬やインスリンなど)による低血糖が意識障害の原因として最も考えやすい。低血糖はブドウ糖投与で速やかに改善し、放置すれば脳障害や死亡につながるため、まさにパニック値の典型である。 ・Hb 17.5 g/dL、Ht 56%、赤血球650万:赤血球系は高値だが、BUN 30とBUN/Cr比が高いことから脱水による血液濃縮の影響も考えられる。直ちに生命を脅かす値ではない。 ・血小板10万:軽度低下にとどまる。 ・K 5.2 mEq/L:基準値(概ね3.5〜5.0)をわずかに上回る程度。 ・動脈血ガス:pH 7.50、PaCO2 34 Torr、HCO3- 20 mEq/Lで、PaCO2低下による呼吸性アルカローシスが主体の軽度アルカレミアである。 ・そのほか白血球13,000、CRP 3.0、高尿酸血症、脂質異常症があるが、いずれもパニック値の水準ではない。
考え方
各項目について「その値が直ちに命に関わる危険域にあるか」を判断する。列挙された項目のうち、危険域にあるのは血糖40 mg/dLのみである。
選択肢考察
- ×a. ヘモグロビン〈Hb〉
Hb 17.5 g/dLは成人男性の基準値(概ね13.5〜17.5 g/dL)の上限付近で、Htも56%と高いが、脱水による血液濃縮も考えられ、直ちに治療を要する危険域ではない。Hbのパニック値は施設により異なるが、概ね5 g/dL未満(高値側は20 g/dL程度以上)が目安とされる。
- ×b. 血小板
血小板10万/μLは基準値(概ね15万〜35万/μL)より低いが軽度の減少である。出血の危険が高まるのは一般に5万未満、特に2万〜3万未満からで、パニック値も3万未満程度に設定されることが多い。本例は該当しない。
- ○c. 血糖
血糖40 mg/dLは高度の低血糖であり、パニック値に該当する(下限は施設により概ね40〜50 mg/dL未満に設定される)。本例は糖尿病(HbA1c 10.0%)の患者で、治療薬による低血糖が意識障害の原因と推定される。低血糖はブドウ糖の静注で速やかに回復するが、遷延すると不可逆的な脳障害や死亡に至るため、直ちに主治医へ報告し治療を開始する必要がある。
- ×d. カリウム
K 5.2 mEq/Lは基準値(概ね3.5〜5.0 mEq/L)をわずかに超える軽度の上昇にすぎない。致死的不整脈の危険が高まるのは高値側で概ね6.0〜6.5 mEq/L以上、低値側で2.5 mEq/L未満であり、これがパニック値の目安となる。
- ×e. pH
pH 7.50は軽度のアルカレミアで、PaCO2 34 Torrの低下を伴うことから呼吸性アルカローシスが主体である。pHのパニック値は概ね7.2未満または7.6を超える値が目安とされ、本例は該当しない。
主な検査項目のパニック値の目安(施設により異なる)
・血糖:50 mg/dL未満程度(低値)、350〜500 mg/dL以上程度(高値) ・K:2.5 mEq/L未満、6.0〜6.5 mEq/L以上 ・Na:120 mEq/L未満、160 mEq/L以上程度 ・Ca:6 mg/dL未満、12〜13 mg/dL以上程度 ・Hb:5 g/dL未満程度 ・血小板:3万/μL未満程度 ・白血球:1,500/μL未満程度 ・動脈血pH:7.2未満、7.6以上程度 いずれも目安であり、各医療機関が検査部門と臨床側で協議して設定・運用している。
パニック値の報告体制
パニック値が検出されたら、検査担当者は再検や検体の確認(溶血、採血ルートからの混入など)を速やかに行ったうえで、主治医・担当医へ電話などで直接伝える。報告日時・報告者・受領者を記録することが医療安全上求められる。
低血糖による意識障害
低血糖では、交感神経症状(発汗、動悸、振戦、空腹感など)に続いて中枢神経症状(意識障害、けいれん、異常行動など)が出現する。高齢者や自律神経障害のある糖尿病患者では前駆症状が乏しいこと(無自覚性低血糖)がある。意識障害の患者では、まず血糖を測定して低血糖を除外することが救急診療の基本である。治療は50%ブドウ糖液の静注で、スルホニル尿素薬による低血糖は遷延・再発しやすいため入院のうえ経過観察を要する。アルコール依存が疑われる場合にはウェルニッケ脳症の予防のためビタミンB1を併せて投与する。
POINT
・パニック値:直ちに治療すれば救命しうる、生命に関わる異常値。診察だけでは把握困難で、検査で初めて判明する。 ・パニック値が出たら、検査部門は直ちに主治医へ直接報告する。 ・血糖40 mg/dLは典型的なパニック値。意識障害では必ず血糖を確認する。 ・軽度の異常値(Hb 17.5、血小板10万、K 5.2、pH 7.50)はパニック値ではない。
