StudyMed医師国家試験

表の数字をそのまま割るな―検査前確率20%から読み解く陽性的中率

第103回医師国家試験 F問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第103回 F問題 第17問

ある腫瘍マーカーを肺癌患者100人と非肺癌患者1,000人とで測定したところ,次の結果が得られた。 腫瘍マーカー値(ng/ml) 肺癌患者(人) 非肺癌患者(人) 1.5以上 60 50 1.5未満 40 950 合計 100 1,000 この測定値が2.0ng/mLのとき,肺癌である検査後確率はどれか。  ただし,肺癌の検査前確率を20%と仮定する。

  1. a.20%
  2. b.25%
  3. c.50%
  4. d.75%
  5. e.80%

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腫瘍マーカーの成績表から「この患者さんが本当に肺癌である確率」を求める問題だ。ポイントは2つ。測定値2.0がこの表で何を意味するのか、そして表の人数比と検査前確率20%の関係をどう扱うか。まずは測定値の位置づけから考えてみよう。
医学生医学生
表は1.5以上か未満かで分かれているので、2.0は「1.5以上」の側、つまり陽性ということですね。
ドクタードクター
その通り。この表はカットオフ1.5で陽性・陰性を判定した結果なんだ。だから問われているのは「陽性だった人が本当に肺癌である確率」、つまり陽性的中率であり、それがこの患者さんの検査後確率になる。
医学生医学生
だったら簡単そうです。陽性の人は肺癌60人と非肺癌50人の合計110人なので、60÷110で約55%……あれ、選択肢にありません。
ドクタードクター
そこが最大の落とし穴だね。この表は肺癌患者100人と非肺癌患者1,000人を「研究のために集めた」データで、その比率は実際の有病率ではない。だから表から直接的中率を出しても、目の前の患者さんには当てはまらないんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「感度・特異度は有病率に左右されないけど、的中率は有病率で変わる」と習ったのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の核心だ。表から取り出してよいのは、検査そのものの性能である感度と特異度だけ。計算してみよう。
医学生医学生
感度は肺癌100人中陽性60人で60%、特異度は非肺癌1,000人中陰性950人で95%です。
ドクタードクター
正解。次に、検査前確率20%の仮想集団を100人つくって四分割表を作り直す。肺癌の人は何人で、そのうち陽性は何人になるかな。
医学生医学生
肺癌が20人で、感度60%なので陽性は12人。肺癌でない人が80人で、特異度95%なので陰性が76人、偽陽性が4人です。
ドクタードクター
完璧だ。陽性者は12+4で16人、そのうち本当に肺癌なのが12人。だから検査後確率は12÷16で75%になる。
医学生医学生
なるほど、条件に合わせて表を組み直すのが大事なんですね。ほかの選択肢はどういう間違いから出てくるんでしょう。
ドクタードクター
20%は検査前確率そのもので、陽性という情報を全く反映していない。80%は1から20%を引いただけで、肺癌でない人の割合にすぎない。25%は少し巧妙で、検査前確率20%をオッズに直した0.20÷0.80と同じ値なんだ。
医学生医学生
オッズというと、尤度比を使う方法ですか。CBTの勉強で式だけ覚えて、正直あやふやです。
ドクタードクター
いい機会だから整理しよう。陽性尤度比は感度÷(1-特異度)で、ここでは0.60÷0.05で12。検査後オッズは検査前オッズ×尤度比だから、0.25×12で3。オッズを確率に戻すには、オッズ÷(1+オッズ)で3÷4、やはり75%になる。
医学生医学生
オッズのまま答えたり、尤度比を掛ける前で止めたりすると25%を選んでしまうわけですね。50%はどこから来るんでしょう。
ドクタードクター
50%は計算上どこからも出てこない、いわば目分量の選択肢だね。四分割表でも尤度比でも、正しく計算すれば75%に一致する。
医学生医学生
臨床実習の外来で、健診の腫瘍マーカー高値で紹介された方がいたんですが、精査したら何もなかったんです。あれも有病率が低いせいでしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。同じ検査でも、検査前確率が2%程度の健診集団だと、陽性的中率は20%前後まで下がる。陽性でも8割近くは偽陽性ということだ。逆に、症状や画像から疑いが強い人に使えば、陽性の重みはぐっと増す。陽性尤度比が10を超える検査は確定に役立ち、陰性尤度比が0.1を下回る検査は除外に役立つ、という目安も覚えておくといい。
医学生医学生
検査の結果だけでなく、誰に検査したのかで解釈が変わるということですね。
ドクタードクター
その通り。検査前確率は問診と診察から見積もるもので、そこに検査結果を掛け合わせて判断を更新していく。これがベイズ的な臨床推論の基本で、むやみに検査を出すべきでない理由でもあるんだ。

まとめ

検査結果の表から陽性的中率を求めるときは、表の人数比が実際の有病率を反映しているかをまず確認することが重要です。本問のように疾患群と非疾患群を別々に集めたデータでは、表から取り出せるのは感度(60%)と特異度(95%)だけで、与えられた検査前確率20%で四分割表を作り直すと、陽性者16人中12人が肺癌となり検査後確率は75%になります。陽性尤度比(感度÷(1-特異度)=12)を使い、検査前オッズ0.25に掛けて検査後オッズ3、確率75%と求めることもできます。感度・特異度は検査固有の性能ですが、的中率は検査前確率によって大きく変わるため、健診のように有病率が低い集団では偽陽性が増えます。この考え方は、検査をどの患者に行い、結果をどう解釈するかという日常診療の判断そのものに直結します。

解答・解説

正解はdです

問題の構造

表は、腫瘍マーカーのカットオフ値を1.5 ng/mLとし、1.5以上を「陽性」、1.5未満を「陰性」と判定したときの結果である。測定値2.0 ng/mLはカットオフ以上なので、この患者の検査結果は「陽性」である。したがって本問は「検査前確率20%の患者で検査が陽性だったとき、肺癌である確率(陽性的中率=検査後確率)はいくつか」を問うている。

手順1:表から感度・特異度を求める

感度(疾患がある人のうち検査陽性となる割合)=60/100=0.60(60%) 特異度(疾患がない人のうち検査陰性となる割合)=950/1,000=0.95(95%) 偽陽性率=1-特異度=50/1,000=0.05 注意:表の肺癌患者100人・非肺癌患者1,000人という人数比は、感度・特異度を求めるために集めた対象の比にすぎず、実際の有病率を表していない。したがって表の数字から直接 60/(60+50) と計算してはいけない(これは約55%となり、どの選択肢にも一致しない)。

手順2:検査前確率20%の仮想集団で四分割表を作り直す

仮に100人の集団を考える。 ・肺癌の人:100×0.20=20人、肺癌でない人:80人 ・真陽性:20×0.60=12人、偽陰性:20-12=8人 ・真陰性:80×0.95=76人、偽陽性:80-76=4人 陽性者は12+4=16人で、そのうち肺癌は12人。 検査後確率(陽性的中率)=12/16=0.75(75%) (1,000人の集団で考えても、真陽性120人・偽陽性40人で120/160=75%となり、結果は同じである。)

別解:尤度比(ゆうどひ)を使う方法

陽性尤度比 LR+=感度/(1-特異度)=0.60/0.05=12 検査前オッズ=0.20/0.80=0.25 検査後オッズ=検査前オッズ×LR+=0.25×12=3 検査後確率=オッズ/(1+オッズ)=3/4=75% 以上より、検査後確率は75%である。

選択肢考察

  1. ×a.  20%

    20%は与えられた検査前確率そのものである。検査が陽性であるという新たな情報を加味すれば、陽性尤度比12の検査なので確率は大きく上昇する。検査結果を反映していない値であり誤り。

  2. ×b.  25%

    25%は検査前確率20%をオッズに換算した値(0.20/0.80=0.25)と一致する。確率とオッズを混同したり、陽性尤度比を掛ける前で計算を止めたりすると選びやすい。検査後確率は75%であり誤り。

  3. ×c.  50%

    検査後確率を正しく計算すると12/(12+4)=75%となり、50%にはならない。なお表の人数をそのまま用いた 60/110(約55%)も有病率の異なる集団での値であり、検査前確率20%の条件を反映していない。誤り。

  4. ○d.  75%

    感度60%、特異度95%の検査を検査前確率20%の患者に行い陽性となった場合、100人の仮想集団では真陽性12人、偽陽性4人となる。陽性者16人中12人が肺癌なので、検査後確率=12/16=75%である。尤度比法でも検査前オッズ0.25×LR+12=検査後オッズ3、確率3/4=75%と一致する。

  5. ×e.  80%

    80%は検査前確率20%を1から引いた値(肺癌でない人の割合)であり、検査後確率とは無関係である。正しい検査後確率は75%であり誤り。

四分割表と主な指標

検査陽性・疾患あり=真陽性(TP)、検査陽性・疾患なし=偽陽性(FP)、検査陰性・疾患あり=偽陰性(FN)、検査陰性・疾患なし=真陰性(TN)とすると、 ・感度=TP/(TP+FN):疾患のある人を正しく陽性と判定する能力 ・特異度=TN/(TN+FP):疾患のない人を正しく陰性と判定する能力 ・陽性的中率(PPV)=TP/(TP+FP):陽性者のうち本当に疾患がある割合 ・陰性的中率(NPV)=TN/(TN+FN):陰性者のうち本当に疾患がない割合

有病率と的中率の関係

感度・特異度は検査そのものの性能であり、原則として対象集団の有病率に左右されない。一方、陽性的中率・陰性的中率は有病率(検査前確率)によって変化する。有病率が高いほど陽性的中率は上がり陰性的中率は下がる。有病率が低い集団(例:健常者の検診)では、特異度が高い検査でも偽陽性の占める割合が大きくなり、陽性的中率は低くなる。本問の検査でも、検査前確率が2%なら陽性的中率は約20%にとどまる。

尤度比

陽性尤度比 LR+=感度/(1-特異度)、陰性尤度比 LR-=(1-感度)/特異度。 検査後オッズ=検査前オッズ×尤度比、オッズ=p/(1-p)、確率=オッズ/(1+オッズ)。LR+が大きい(目安10以上)ほど陽性結果で診断を強く確定に近づけ、LR-が小さい(目安0.1以下)ほど陰性結果で除外に役立つ。本問の LR+=12 は確定に有用な水準である。

ベイズの定理との関係

検査後確率=感度×p/{感度×p+(1-特異度)×(1-p)}(p:検査前確率)。本問では 0.6×0.2/(0.6×0.2+0.05×0.8)=0.12/0.16=0.75 となる。

POINT

・測定値がカットオフ以上なら「陽性」として扱い、陽性的中率=検査後確率を求める。 ・表の人数比は有病率ではない。まず表から感度・特異度を出し、与えられた検査前確率で四分割表を作り直す。 ・感度・特異度は有病率に依存しないが、陽性・陰性的中率は有病率(検査前確率)に依存する。 ・尤度比法:検査後オッズ=検査前オッズ×LR+(本問:0.25×12=3 → 75%)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。