「出生250に1」は多すぎる―髄膜瘤を疫学から術後管理まで一気に整理する
第103回医師国家試験 D問題 第60問
国試問題にチャレンジ
髄膜瘤で誤っているのはどれか。
- a.発生頻度は出生250に対して1である。
- b.葉酸摂取量と関連がある。
- c.母体血清中AFPが上昇する。
- d.脳室拡大は出生前診断の糸口になる。
- e.分娩は帝王切開が望ましい。
- f.排尿・排便障害の合併頻度が高い。
- g.出生後早期の手術が必要である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
脊髄髄膜瘤は神経管尾側の閉鎖障害で腰仙部に好発し、わが国での発生頻度は出生1万あたり数例程度であるため、「出生250に1」は明らかに過大です。開放性病変であるため羊水・母体血清AFPが上昇し、Chiari II型奇形に伴う水頭症(脳室拡大)やlemon sign・banana signが胎児超音波での診断の手がかりになります。分娩は神経組織の損傷を避けるため帝王切開が選ばれ、出生後は一般に48時間以内に閉鎖術を行い、その後も下肢麻痺や神経因性膀胱・直腸障害、脊髄係留症候群などの長期管理が必要です。予防には妊娠前からの1日0.4mgの葉酸摂取が推奨されており、抗てんかん薬内服中の女性などでは特に重要です。病態から各選択肢を順に検証し、数値の桁の違和感に気づく姿勢は、正誤問題全般に役立ちます。
解答・解説
正解はaです
本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。ここでいう髄膜瘤は、国試の文脈では主に開放性二分脊椎の代表である脊髄髄膜瘤(myelomeningocele)を念頭に置いている。
病態の基本
胎生3〜4週に神経板が管状に閉じて神経管ができる。このとき尾側(後神経孔)がうまく閉じないと、椎弓の形成不全を伴い、脊髄や髄膜が皮膚に覆われずに背部へ袋状に突出する。これが脊髄髄膜瘤であり、腰仙部に好発する。
設問の考え方
選択肢は「疫学」「予防(葉酸)」「出生前診断(AFP、超音波)」「分娩様式」「合併症」「治療時期」を網羅している。病態から順に考えれば、次のように整理できる。 ・神経管が開いている → AFP(α-フェトプロテイン)が羊水中へ漏れ出し、母体血清AFPも上昇する。 ・後脳の下垂(Chiari II型奇形)で髄液の流れが妨げられる → 水頭症・脳室拡大が起こり、胎児超音波で見つかるきっかけになる。 ・病変が腰仙部の脊髄に及ぶ → 下肢麻痺と膀胱直腸障害が残りやすい。 ・神経組織が露出している → 産道通過時の圧迫・損傷と感染を避けるため帝王切開を選び、出生後早期に閉鎖術を行う。 ・予防因子として妊娠前後の葉酸摂取が確立している。 これらはいずれも正しい。一方、発生頻度「出生250に1」はきわめて高すぎる値であり、これが誤りである。
選択肢考察
- ○a. 発生頻度は出生250に対して1である。
誤りであり、本問の正解である。出生250に1(0.4%)という頻度はダウン症候群などの頻度(出生約1,000に1)よりもはるかに高く、神経管閉鎖障害の実態とかけ離れている。二分脊椎の発生頻度は国や地域で差があり、わが国では出生1万あたり数例程度(出生数千に1例程度)と報告されている。欧米では葉酸強化食品の普及前はより高かったが、それでも出生1,000あたり1〜2程度であった。わが国は欧米より低いとされてきたが、近年も明らかな減少はみられず、葉酸摂取の啓発が続けられている。
- ×b. 葉酸摂取量と関連がある。
正しい記述である。妊娠前から妊娠初期にかけての葉酸不足は神経管閉鎖障害のリスクを高め、十分な葉酸摂取によって発症リスクを低下できることが大規模研究で示されている。神経管は妊娠に気づく前の胎生4週頃までに閉じるため、妊娠を計画する女性は妊娠1か月以上前から妊娠3か月まで、食事に加えて栄養補助食品から1日0.4mgの葉酸を摂取することが推奨されている(厚生労働省)。既往妊娠で神経管閉鎖障害児を出産した女性などハイリスク例では、より高用量が勧められる。WHOも妊娠前後の葉酸補充を推奨しており、母子健康手帳にも記載がある。また、バルプロ酸などの抗てんかん薬は葉酸代謝に影響し、神経管閉鎖障害のリスク因子として知られる。
- ×c. 母体血清中AFPが上昇する。
正しい記述である。AFP(α-fetoprotein)は胎児の肝臓や卵黄嚢で産生される蛋白で、胎児血中に高濃度に存在する。神経管が開いたままの開放性病変では、露出した神経組織や血管からAFPが羊水中へ直接漏出し、羊水AFPが上昇する。羊水AFPの一部は胎盤・卵膜を介して母体循環へ移行するため、母体血清AFPも上昇する。このため母体血清AFPは開放性神経管閉鎖障害のスクリーニング指標として用いられる(無脳症、腹壁破裂なども上昇の原因となる)。なお、皮膚で覆われた閉鎖性二分脊椎では上昇しにくい。
- ×d. 脳室拡大は出生前診断の糸口になる。
正しい記述である。脊髄髄膜瘤の大部分にはChiari II型奇形(小脳虫部・脳幹の大後頭孔への下垂)が合併し、髄液の流れが障害されて水頭症を生じやすい。胎児超音波検査で側脳室の拡大が見つかり、それを契機に脊椎・脊髄を詳しく調べて髄膜瘤が診断されることは多い。胎児頭部では、前頭骨が内側にくぼむlemon sign、小脳が後頭蓋窩に押し込まれて弓状に見えるbanana signも特徴的な間接所見である。
- ×e. 分娩は帝王切開が望ましい。
正しい記述である。出生前に診断された脊髄髄膜瘤では、経腟分娩で瘤が産道で圧迫・伸展されて破綻し、露出した神経組織が損傷して神経症状が悪化したり、感染(髄膜炎)の危険が高まったりするおそれがある。そのため陣痛発来前の予定帝王切開が一般に選択される。経腟分娩と比べた長期予後の優位性については議論もあるが、国試では「帝王切開が望ましい」と理解してよい。
- ×f. 排尿・排便障害の合併頻度が高い。
正しい記述である。脊髄髄膜瘤は腰仙部に多く、排尿・排便を支配する仙髄(S2〜S4)の障害を伴いやすい。そのため神経因性膀胱(尿失禁、残尿、尿路感染、膀胱尿管逆流による腎障害)や便失禁・便秘などの膀胱直腸障害が高頻度に合併する。清潔間欠自己導尿などによる長期の管理が必要となり、腎機能の保護が生命予後にも関わる。このほか、病変レベル以下の下肢運動・感覚麻痺、足部変形、脊柱側弯なども合併しやすい。
- ×g. 出生後早期の手術が必要である。
正しい記述である。露出した神経組織は乾燥・損傷・細菌感染(髄膜炎・脳室炎)の危険にさらされているため、出生後はまず滅菌した湿潤ガーゼなどで病変を保護し、一般に生後48時間以内(多くは24〜48時間以内)に修復・閉鎖術を行う。水頭症が進行する場合は、閉鎖術と同時または後日に脳室-腹腔シャント術などを追加する。なお海外の一部施設では胎児期に修復する胎児手術も行われている。
神経管閉鎖障害の分類
・頭側の閉鎖不全:無脳症(致死的)、脳瘤 ・尾側の閉鎖不全:二分脊椎 - 開放性(嚢胞性)二分脊椎:脊髄髄膜瘤(脊髄と髄膜が突出、神経症状が強い)、髄膜瘤(髄膜のみが突出、神経症状は比較的軽い) - 潜在性二分脊椎:皮膚に覆われ、椎弓の欠損のみのことが多い。腰仙部の皮膚陥凹、多毛、血管腫、皮下脂肪腫などが手がかりとなり、脊髄係留症候群を起こすことがある。
脊髄髄膜瘤の主な合併症
・Chiari II型奇形と水頭症(多くの例で合併、シャント術を要することが多い) ・病変レベル以下の弛緩性下肢麻痺・感覚障害、内反足などの足部変形、股関節脱臼 ・神経因性膀胱・直腸障害 ・脊髄係留症候群(成長に伴う神経症状の悪化) ・ラテックスアレルギー(頻回の手術・導尿による感作)
出生前診断
・母体血清AFP・羊水AFPの上昇(羊水アセチルコリンエステラーゼの検出も補助となる) ・胎児超音波:脊椎の開裂・嚢胞、脳室拡大、lemon sign、banana sign ・胎児MRIで詳細評価を行うこともある。
予防
妊娠前からの葉酸摂取(1日0.4mgの付加的摂取)が推奨される。リスク因子として、既往児、母体の糖尿病・肥満、抗てんかん薬(バルプロ酸、カルバマゼピン)などがある。
POINT
・脊髄髄膜瘤は神経管尾側の閉鎖障害で、腰仙部に好発する。 ・発生頻度はわが国で出生数千に1例程度であり、出生250に1ほど高くない。 ・予防は妊娠前からの葉酸摂取(1日0.4mg)。 ・開放性病変のため羊水AFP・母体血清AFPが上昇する。 ・Chiari II型奇形による水頭症(脳室拡大)が出生前診断の手がかりとなる。 ・分娩は帝王切開、出生後24〜48時間以内に閉鎖術。 ・後遺症として下肢麻痺と膀胱直腸障害が問題となる。
