検診エコーが見つけた胆嚢の影―「肝臓へ食い込む腫瘤」が告げる胆嚢癌
第103回医師国家試験 D問題 第20問
国試問題にチャレンジ
65歳の男性。人間ドックの腹部超音波検査で異常を指摘され来院した。身体所見に異常を認めない。腹部造影CTを別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.胆嚢結石
- b.慢性胆嚢炎
- c.胆嚢腺筋腫症
- d.胆嚢コレステロールポリープ
- e.胆嚢癌
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
胆嚢の内腔に突出し造影される充実性腫瘤があり、肝床から肝実質へ不整な低吸収域が連続していれば、肝浸潤を伴う胆嚢癌を考えます。胆嚢の肝臓側には漿膜がないため、胆嚢癌は肝床へ直接浸潤しやすく、この連続性が良性病変との決定的な違いになります。結石は造影されない高吸収、慢性胆嚢炎はびまん性で均一な壁肥厚、腺筋腫症は壁内小嚢胞やコメット様エコー、コレステロールポリープは10mm未満の多発性有茎性病変と、それぞれの画像の特徴を押さえておきましょう。胆嚢ポリープは10mm以上・広基性・増大傾向で癌を疑い、根治には外科切除が唯一の手段となるため、検診で見つかる無症状の胆嚢病変を正しく評価する力は臨床で欠かせません。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
65歳の男性で、自覚症状や身体所見の異常はなく、人間ドックの腹部超音波検査(US)で偶然に異常が見つかった。胆囊の疾患は、進行するまで無症状のことが多く、検診のUSで初めて発見される例が少なくない。 腹部造影CTでは、胆囊の内腔に向かって盛り上がる腫瘤があり、この腫瘤は造影剤で胆囊壁と同程度に染まる(=血流のある充実性の組織である)。さらに、胆囊が接している肝臓の面(肝床、胆囊窩)から肝右葉(前下区域)にかけて、周囲の肝実質より濃度の低い、境界が不整で不均一な領域が広がっている。
診断へのプロセス
胆囊の病変を見るときは、次の点を順に確認すると整理しやすい。 1. 内腔の病変は結石か、組織か:結石は多くが石灰化して高吸収に写り、造影されない。本例の腫瘤は造影される充実性病変であり、結石ではない。 2. 壁の変化はびまん性か、局所性か:慢性胆囊炎では壁全体が比較的均一に肥厚する。本例は局所の腫瘤である。 3. 大きさ:コレステロールポリープは通常10mm未満で、CTでは描出されにくい。本例はCTではっきり見える大きさである。 4. 周囲臓器への広がり:本例の決め手は、胆囊に接する肝実質に不整な低吸収域が連続していることである。胆囊の肝臓側の壁には漿膜がないため、胆囊の悪性腫瘍は肝床へ直接浸潤しやすい。良性の胆囊病変が肝臓へ入り込むことはない。 以上から、胆囊内腔に突出する造影される腫瘤と、肝床から肝右葉への浸潤像をあわせ、肝浸潤を伴う胆囊癌(進行癌)と診断する。
選択肢考察
- ×a. 胆嚢結石
胆囊結石は、成分によって見え方が異なるものの、カルシウムを含む結石はCTで周囲より白く(高吸収に)写り、造影剤で染まることはない。USでは強い高エコーとその後方の音響陰影(acoustic shadow)を伴い、体位変換で移動するのが特徴である。本例の腫瘤は胆囊壁と同程度に造影される充実性の組織であり、さらに肝臓への浸潤像を伴っているため、結石では説明できない。なお胆囊結石は胆囊癌に高率に合併するので、結石があっても癌の除外にはならない点に注意する。
- ×b. 慢性胆嚢炎
慢性胆囊炎は、多くが胆囊結石を背景に炎症を繰り返した結果、胆囊壁が線維化して肥厚し、胆囊が萎縮する病態である。画像では胆囊壁が全周性・びまん性に比較的均一に厚くなるのが典型で、本例のように内腔へ突出する局所的な腫瘤をつくることはない。また炎症性疾患であり、肝実質に不整な低吸収域として入り込む像も合わない。ただし、壁肥厚型の胆囊癌との鑑別が難しいことがあり、壁の層構造が保たれているかどうかが鑑別の手がかりとなる。
- ×c. 胆嚢腺筋腫症
胆囊腺筋腫症(アデノミオマトーシス)は、上皮が壁内に入り込んでできたロキタンスキー・アショフ洞(Rokitansky-Aschoff sinus:RAS)の増生と、筋層の肥厚を特徴とする良性疾患である。病変の広がりから、底部に限局する底部型(限局型)、胆囊の体部などが輪状に肥厚してくびれ、ひょうたん型を示す分節型、壁全体に及ぶびまん型に分けられる。局所の壁肥厚を示す点では本例と重なるが、USでは壁内の小嚢胞(拡張したRAS)や、壁内結石によるコメット様エコー(comet-like echo)が特徴的であり、そうした所見は示されていない。本例は腫瘤の形が不整で、肝臓への浸潤像も伴うことから、良性の腺筋腫症は考えにくい。
- ×d. 胆嚢コレステロールポリープ
コレステロールポリープは、胆囊粘膜の固有層にコレステロールエステルを取り込んだ泡沫細胞が集まってできる良性のポリープで、胆囊ポリープの中で最も多い。大きさは多くが数mm〜10mm未満で、多発しやすく、USでは細い茎をもつ桑実状の高エコー結節として見える。CTはスライス幅の制約もあり、5mm程度以下の小さな病変は描出されないことが多い。本例のようにCTで明瞭に造影される腫瘤があり、しかも肝臓へ浸潤している像は、コレステロールポリープとは一致しない。
- ○e. 胆嚢癌
胆囊の内腔へ突出し造影される充実性腫瘤があり、さらに胆囊窩(肝床)から肝右葉前下区域にかけて不均一な低吸収域が連続して広がっている。これは胆囊から発生した悪性腫瘍が、漿膜を欠く肝床側から肝実質へ直接浸潤した像と考えられ、肝浸潤を伴う進行胆囊癌と診断できる。60歳以上に多いこと、進行するまで症状に乏しく検診で見つかりうることも本例の経過と合致する。
胆囊癌の概要
・高齢者に多く、女性にやや多い。危険因子として胆囊結石、膵・胆管合流異常(膵液が胆道へ逆流しやすくなる先天異常で、胆囊癌の重要な危険因子)、陶器様胆囊(胆囊壁が石灰化したもの)などがある。 ・組織型の大部分は腺癌である。 ・早期には無症状で、進行すると右季肋部痛、黄疸、体重減少などが出現する。腫瘍マーカーとしてCEA、CA19-9が上昇することがあるが、早期診断には役立たない。
早期癌と進行癌
・早期胆囊癌:癌の浸潤が粘膜(m)または固有筋層(mp)までにとどまるもの。リンパ節転移の有無は問わない。 ・進行胆囊癌:固有筋層を越えて浸潤するもの。
進展様式
・肝床への直接浸潤:胆囊の肝臓側の壁には漿膜がないため、容易に肝臓へ入り込む。本例の所見がこれに当たる。 ・肝転移(胆囊静脈から門脈系を経由) ・リンパ節転移 ・肝十二指腸間膜への浸潤、胆管浸潤(閉塞性黄疸の原因となる) ・腹膜播種
胆囊の隆起性病変・壁肥厚の鑑別の目安
・コレステロールポリープ:10mm未満、多発、有茎性、桑実状の高エコー。 ・腺腫:単発のことが多い。癌化しうる。 ・胆囊癌:10mm以上、広基性(茎がなく根元が広い)、単発、増大傾向、内部に血流あり。 ・胆囊ポリープで大きさ10mm以上、広基性、増大傾向のいずれかがあれば癌を疑い、手術を考慮する。 ・腺筋腫症:RASの拡張による小嚢胞、コメット様エコー。 ・慢性胆囊炎:びまん性の均一な壁肥厚、胆囊萎縮、結石合併。
肝の低吸収域の鑑別
造影CTで肝に低吸収域を示す病変としては、胆囊癌の直接浸潤のほか転移性肝癌(多くは血流に乏しく低吸収、辺縁が輪状に造影されることがある)が挙げられる。肝細胞癌は主に肝動脈から血流を受けるため、動脈相で濃染し、門脈相・平衡相で周囲より低吸収となる(洗い出し、washout)のが典型である。本例は胆囊の腫瘤と肝床の病変が連続していることが、胆囊原発と判断する根拠となる。
治療
根治が期待できる唯一の治療は外科切除である。早期癌では胆囊摘出術(必要に応じて胆囊床切除を追加)、進行癌では肝切除・リンパ節郭清などを伴う拡大手術を行う。切除できない例では化学療法(ゲムシタビンを基本とする併用療法など)を行う。予後は一般に不良である。
POINT
・胆囊内腔へ突出し造影される腫瘤+肝床から連続する不整な低吸収域 → 肝浸潤を伴う胆囊癌。 ・胆囊の肝床側には漿膜がないため、胆囊癌は肝へ直接浸潤しやすい。 ・結石:高吸収で造影されない。慢性胆囊炎:びまん性の均一な壁肥厚。腺筋腫症:RAS・コメット様エコー。コレステロールポリープ:10mm未満の多発性有茎性病変。 ・胆囊ポリープは10mm以上、広基性、増大傾向で癌を疑う。 ・早期胆囊癌はm・mpまでにとどまるもの(リンパ節転移は問わない)。
