見た目より痛すぎる―多臓器不全へ突き進む劇症型壊死性筋膜炎の犯人
第103回医師国家試験 D問題 第19問
国試問題にチャレンジ
多臓器不全を併発する劇症型壊死性筋膜炎の起炎菌はどれか。
- a.バクテロイデス属菌
- b.クレブシエラ属菌
- c.黄色ブドウ球菌
- d.A群レンサ球菌
- e.腸球菌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
壊死性筋膜炎は皮下組織と浅筋膜に沿って急速に広がる重症軟部組織感染症で、嫌気性菌・腸内細菌科・腸球菌などの混合感染によるI型と、主にA群β溶血性レンサ球菌によるII型に分けられます。多臓器不全を伴う劇症型はII型にあたり、A群レンサ球菌の発熱毒素がスーパー抗原として働くことで、敗血症性ショック、DIC、急性腎障害、ARDSへ短時間で進行するレンサ球菌性毒素性ショック症候群(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)を起こし、致死率は約30%に達します。バクテロイデス、クレブシエラ、腸球菌はI型の構成菌となりうるものの劇症型の代表ではなく、黄色ブドウ球菌はTSST-1によるTSSとして区別して覚えます。見た目に不釣り合いな激痛と急速な進行に気づいたら、画像検査を待たずに緊急デブリドマンとペニシリン+クリンダマイシン、集中治療を開始することが救命の鍵です。日常的な菌が致死的な病態に変わりうることを知っておくことは、救急・外科・皮膚科のどの現場でも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
壊死性筋膜炎は、皮下組織と、筋肉を包む浅筋膜に沿って細菌感染が急速に広がり、組織を壊死させる重症の軟部組織感染症である。起炎菌によって大きく2つに分けられる。 ・I型(複数菌型):嫌気性菌(バクテロイデス属など)、腸内細菌科(大腸菌、クレブシエラなど)、レンサ球菌、腸球菌などの混合感染。糖尿病、末梢動脈疾患、会陰部の手術や外傷などを背景に起こる。会陰部に生じたものをFournier壊疽という。 ・II型(単一菌型):主にA群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)による。基礎疾患のない健常者でも、小さな外傷をきっかけに、あるいは明らかな入口がなくても四肢に発症する。 設問の「多臓器不全を併発する劇症型」とは、II型の中でも、壊死性筋膜炎に敗血症性ショック・播種性血管内凝固(DIC)・急性腎障害・急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などが短時間で加わる、レンサ球菌性毒素性ショック症候群(STSS)を指している。日本では「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」とよばれ、以前はtoxic shock-like syndrome(TSLS)ともよばれた。A群レンサ球菌が産生する発熱毒素(SpeA、SpeCなど)がスーパー抗原としてT細胞を大量に活性化し、サイトカインが過剰に放出されることで、急激にショックと多臓器不全に進む。致死率は約30%と高い。 以上から、劇症型壊死性筋膜炎の代表的な起炎菌はA群レンサ球菌である。
選択肢考察
- ×a. バクテロイデス属菌
バクテロイデス属(代表はBacteroides fragilis)は、大腸に大量に存在するグラム陰性の偏性嫌気性桿菌である。病原性は低いが、腸管の穿孔や手術の後に、腹腔内膿瘍、骨盤内感染症(子宮付属器炎など)、糖尿病性足病変などの原因となる。壊死性筋膜炎ではI型(複数菌型)の構成菌の一つになるが、単独で劇症型の多臓器不全を起こす代表菌ではない。β-ラクタマーゼを産生するため、ペニシリン系が効かないことが多い。
- ×b. クレブシエラ属菌
クレブシエラ属(代表はKlebsiella pneumoniae)は、厚い莢膜をもつグラム陰性桿菌で、口腔内や腸管に常在する。アルコール多飲者や糖尿病患者での肺炎(大葉性肺炎)、尿路感染症、胆道感染症、肝膿瘍などの原因となる。K. oxytocaは抗菌薬に関連した出血性大腸炎を起こすことがある。壊死性筋膜炎ではI型の構成菌になりうるが、劇症型の代表的な起炎菌ではない。基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生株やカルバペネム耐性株が問題となっている。
- ×c. 黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌は、伝染性膿痂疹、毛包炎・癤(せつ)、蜂窩織炎などの皮膚化膿性疾患や、骨髄炎、感染性心内膜炎の原因菌である。毒素性ショック症候群(TSS)毒素-1(TSST-1)などのスーパー抗原毒素により、高熱、びまん性の紅斑、その後の皮膚の落屑、ショック、多臓器不全をきたす毒素性ショック症候群(TSS)や、表皮剥脱毒素によるブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)も起こす。市中感染型のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による壊死性筋膜炎の報告もあるが、「多臓器不全を伴う劇症型壊死性筋膜炎」の代表的な起炎菌はA群レンサ球菌である。
- ○d. A群レンサ球菌
A群β溶血性レンサ球菌(化膿レンサ球菌、Streptococcus pyogenes)は、グラム陽性で連鎖状に並ぶ球菌である。咽頭炎、伝染性膿痂疹、丹毒、蜂窩織炎、猩紅熱などの一般的な感染症から、急性糸球体腎炎やリウマチ熱などの感染後の続発症、さらに壊死性筋膜炎とレンサ球菌性毒素性ショック症候群(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)まで、幅広い病態を起こす。M蛋白による食細胞からの逃避、ストレプトキナーゼやヒアルロニダーゼなどによる組織内での急速な拡散、発熱毒素のスーパー抗原作用によって、筋膜に沿って急激に壊死が広がり、ショック、DIC、多臓器不全に至る。II型壊死性筋膜炎の代表的な起炎菌であり、本問の正解である。
- ×e. 腸球菌
腸球菌(Enterococcus faecalis、E. faeciumなど)は、腸管に常在するグラム陽性の球菌で、酸素があってもなくても増殖できる通性嫌気性菌である。病原性は弱いが、尿路感染症、胆道感染症、腹腔内感染症、感染性心内膜炎、カテーテル関連の感染などを日和見的に起こす。セフェム系が効かない(自然耐性)ことや、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が問題となる。I型壊死性筋膜炎の構成菌になることはあるが、劇症型の代表菌ではない。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)
・臨床像:発熱、悪寒、筋肉痛などのインフルエンザに似た症状で始まり、患部の激しい疼痛(見た目の所見に比べて痛みが不釣り合いに強いのが特徴)、腫脹、紫斑や水疱の形成、皮膚の暗紫色への変化が数時間単位で進む。進行すると壊死した部分の感覚が失われる。その後、敗血症性ショック、DIC、急性腎障害、ARDS、肝機能障害などの多臓器不全に至る。 ・感染症法:5類感染症の全数把握疾患であり、診断した医師は7日以内に届け出る。 ・原因菌:主にA群レンサ球菌だが、G群(Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis)やB群のレンサ球菌によるものもある。
壊死性筋膜炎の診断
・臨床所見:所見に見合わない強い疼痛、急速な進行、水疱・紫斑・皮膚壊死、捻髪音(ガス産生菌による) ・検査:白血球増多、CRP高値、低Na血症、クレアチンキナーゼ(CK)上昇など。LRINEC(Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis)スコアが参考になる。 ・画像:CT・MRIで、筋膜に沿った液体の貯留やガス像を確認する。ただし画像検査のために手術を遅らせてはならない。 ・試験切開:筋膜が抵抗なく指で剥がれる(フィンガーテスト陽性)、灰色で悪臭のある「dishwater様」の滲出液、出血しにくいことなどが確定の手がかりとなる。
治療
・緊急での外科的デブリドマン(壊死組織の広範な切除)を繰り返す。救命のために四肢切断が必要になることもある。 ・抗菌薬:起炎菌が確定する前は、広域抗菌薬(カルバペネム系やピペラシリン・タゾバクタムなど)に、MRSAの可能性を考えてバンコマイシンなどを加える。A群レンサ球菌と確定したら、ペニシリンGにクリンダマイシンを併用する。クリンダマイシンは細菌の蛋白合成を阻害して毒素の産生を抑え、菌量が多く増殖が止まっている状態でも効果が落ちにくい。 ・集中治療による全身管理(輸液、昇圧薬、人工呼吸管理、腎代替療法など)を行う。重症例では免疫グロブリン大量静注療法が検討されることもある。
その他の重要な起炎菌
・Vibrio vulnificus:肝硬変の患者が、夏に生の魚介類を食べたり、海水に傷口が触れたりした後に、急速に進行する壊死性軟部組織感染症と敗血症を起こす。 ・Clostridium perfringens:ガス壊疽(主に筋肉が壊死する)を起こす。 ・Aeromonas hydrophila:淡水での外傷の後に起こる。
POINT
・劇症型壊死性筋膜炎(多臓器不全を伴う)の代表的な起炎菌はA群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)である。 ・病態はスーパー抗原によるレンサ球菌性毒素性ショック症候群(劇症型溶血性レンサ球菌感染症、かつてのTSLS)で、致死率は約30%。5類感染症の全数把握疾患である。 ・壊死性筋膜炎のI型は複数菌の混合感染(嫌気性菌、腸内細菌科、腸球菌など)、II型はA群レンサ球菌による単独感染。 ・見た目に見合わない強い疼痛と急速な進行が特徴である。治療は緊急デブリドマンと抗菌薬(ペニシリン+クリンダマイシン)、集中治療。 ・黄色ブドウ球菌によるTSS(TSST-1)と区別する。
