泡を吹く新生児に1本の管―コイルアップ像で見抜く先天性食道閉鎖症
第103回医師国家試験 D問題 第21問
国試問題にチャレンジ
生後3時間の新生児。在胎38週,体重2,550gで出生した。出生直後から泡沫状の唾液が口腔内から出ている。5%糖液を飲ませたら咳込んで嘔吐し,チアノーゼを呈した。体温35.8℃。呼吸数60/分。心拍数140/分,整。 診断のためまず行うのはどれか。
- a.ネラトンカテーテル経鼻挿入
- b.食道造影
- c.上部消化管内視鏡検査
- d.腹部単純CT
- e.腹部超音波検査
対話形式の解説
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ドクターまとめ
出生直後からの泡沫状の流涎と、初回哺乳時のむせ・嘔吐・チアノーゼは先天性食道閉鎖症の典型像です。疑ったら経口摂取を止め、ネラトンカテーテルを経鼻的に挿入してX線を撮影し、上部食道盲端でのコイルアップ像で診断します。造影剤を飲ませる食道造影は誤嚥の危険から原則行わず、内視鏡やCT、超音波は初期診断には適しません。腹部ガスの有無からGross分類の病型(最多はC型で腹部ガスあり)を推定でき、診断後はVACTERL連合など合併奇形、特に心奇形の検索が重要です。安全かつ簡便な手技で診断と誤嚥予防を同時に行う考え方は、新生児の救急対応の基本として身につけておきたい知識です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・生後3時間の新生児。在胎38週の正期産で、出生体重2,550gとやや小さい。 ・出生直後から泡のような唾液が口からあふれ出ている。 ・5%糖液を飲ませたところ、咳込み、嘔吐し、チアノーゼを起こした。 ・体温35.8℃とやや低体温、呼吸数60/分と新生児としては上限付近。
診断へのプロセス
胎児・新生児は常に唾液を飲み込んでいる。食道が途中で途切れていると、飲み込んだ唾液が行き場を失って口の中にたまり、泡沫状にあふれ出てくる。さらに哺乳(ここでは糖液)をすると、盲端となった上部食道がすぐにいっぱいになり、逆流した液体が喉頭・気管へ流れ込む(誤嚥)ため、咳込み・嘔吐・チアノーゼを生じる。この「出生直後からの泡沫状唾液」と「初回哺乳時のむせ・チアノーゼ」の組み合わせは先天性食道閉鎖症の典型像であり、まずこれを疑う。
設問の考え方
食道閉鎖症を疑ったときに最初に行う検査は、口や鼻から細く柔らかいカテーテル(ネラトンカテーテル)を食道へ進め、途中で先に進まなくなるかどうかを確かめることである。閉鎖していればカテーテルは盲端(多くは口から約10cm前後の位置)で行き止まり、そのまま胸部・腹部単純X線写真を撮ると、上部食道盲端でカテーテルが反転してとぐろを巻く「コイルアップ(coil up)像」が見られ、診断がつく。同じX線写真で胃や腸にガスがあるかどうかを見れば、下部食道と気管の間に瘻孔(気管食道瘻)があるかどうかの推定もできる。 簡便・低侵襲で、誤嚥の危険を増やさずに診断できる点が、この方法を最初に選ぶ理由である。逆に、造影剤を飲ませる検査や全身麻酔を要する検査は、この段階では行わない。
選択肢考察
- ○a. ネラトンカテーテル経鼻挿入
ネラトンカテーテルを鼻(または口)から挿入し、そのままX線写真を撮影する。食道閉鎖があればカテーテルは上部食道の盲端で止まって反転し、コイルアップ像を呈するため、ベッドサイドで短時間に診断できる。腹部のガス像の有無から気管食道瘻の有無(病型)も推定できる。さらに、挿入したカテーテルで盲端にたまった唾液を持続的に吸引すれば、誤嚥性肺炎の予防にもつながるため、診断と初期管理を兼ねた最初の手技として最も適切である。
- ×b. 食道造影
食道閉鎖が疑われる児にバリウムなどの造影剤を飲ませると、盲端からあふれた造影剤が気管へ流れ込み、誤嚥性肺炎や窒息を起こす危険がある。そのため、診断目的の食道造影は原則として行わない。盲端の位置を確認したい場合でも、カテーテルから空気を少量注入してX線撮影する方法が用いられ、造影剤を使うとしても専門施設で少量をカテーテル経由で慎重に注入し、直後に吸引するにとどめる。
- ×c. 上部消化管内視鏡検査
新生児の上部消化管内視鏡は、細径の機器が必要で、通常は全身麻酔や気道確保の準備のもとで行う侵襲的な検査である。カテーテル挿入とX線写真で診断できる食道閉鎖症に対して、最初に行う意義はない。気管支鏡による瘻孔の確認は手術時に行われることがあるが、初期診断の手段ではない。
- ×d. 腹部単純CT
腹部CTでは食道の連続性を直接評価できず、食道閉鎖症の診断には役立たない。被ばくもあり、搬送や鎮静の負担も大きい。胸部を含めたCTで盲端と下部食道の距離や瘻孔を評価することはあるが、それは診断確定後の手術計画の段階の話であり、最初に行う検査ではない。
- ×e. 腹部超音波検査
腹部超音波検査では胸部にある食道の閉鎖を確実にとらえることはできず、診断には不確実である(胎児期には羊水過多や胃胞の欠如・縮小から疑われることはある)。食道閉鎖症の診断がついたあと、合併しやすい腎・尿路奇形の検索(腹部超音波)や心奇形の検索(心エコー)として行う検査であり、最初に行うものではない。
先天性食道閉鎖症の概要
・出生およそ3,000〜5,000人に1人の頻度とされる。 ・胎児は羊水を飲み込めないため、妊娠中に羊水過多を伴いやすく、早産・低出生体重となることが多い。 ・症状:出生直後からの泡沫状の流涎、哺乳時のむせ・嘔吐・チアノーゼ、誤嚥性肺炎。下部食道と気管の間に瘻孔がある型では、胃液が気管へ逆流して化学性肺炎を起こしやすく、また啼泣時に空気が胃へ流入して腹部膨満をきたす。
Gross分類
・A型:上下とも盲端で瘻孔なし。腹部にガスがない(gasless abdomen)。 ・B型:上部食道と気管の間に瘻孔、下部食道は盲端。腹部にガスがない。 ・C型:上部食道は盲端、下部食道と気管の間に瘻孔。最も多く、全体の約85〜90%を占める。腹部にガスがある。 ・D型:上部・下部ともに気管との瘻孔あり。腹部にガスがある。 ・E型:食道の閉鎖はなく、気管と食道の間に瘻孔のみがある(H型瘻)。出生直後の流涎はなく、哺乳時のむせや繰り返す肺炎で見つかる。カテーテル挿入ではコイルアップ像を示さない。
合併奇形
約半数に他の奇形を合併する。VACTERL連合(V:椎骨奇形、A:鎖肛、C:心奇形、TE:気管食道瘻・食道閉鎖、R:腎奇形、L:四肢奇形)が有名で、心奇形(心室中隔欠損症、ファロー四徴症など)の合併は予後に大きく影響する。また18トリソミー、21トリソミーに合併することもある。診断後は心エコー、腹部超音波、脊椎・四肢のX線などで合併奇形を検索する。
初期管理と治療
・経口哺乳を中止し、上部食道盲端に留置したカテーテルで唾液を持続吸引する。 ・上半身を挙上した体位で誤嚥を防ぐ。保温(本例のような低体温に注意)、輸液管理を行う。 ・根治術は、瘻孔を切離・閉鎖したうえで食道同士をつなぐ食道端々吻合である。上下の食道の距離が長い型(long gap、特にA型)では、胃瘻を造設して成長を待ってから吻合する、あるいは段階的手術を行う。 ・術後合併症として吻合部狭窄、縫合不全、胃食道逆流症、気管軟化症などがある。
POINT
・出生直後からの泡沫状流涎+哺乳時のむせ・チアノーゼ → 先天性食道閉鎖症を疑う。 ・まず行うのはカテーテル挿入とX線撮影で、上部盲端でのコイルアップ像により診断する。 ・食道造影は誤嚥の危険があり原則禁忌。 ・Gross分類ではC型(上部盲端+下部気管食道瘻)が最多で、腹部にガスを認める。A型・B型では腹部ガスがない。 ・羊水過多、VACTERL連合(特に心奇形)の合併に注意する。
