StudyMed医師国家試験

細い直腸、太い結腸―注腸造影の「口径差」が明かすHirschsprung病

第119回医師国家試験 D問題 第54問

国試問題にチャレンジ

第119回 D問題 第54問

日齢3の男児。腹部膨満と胆汁性嘔吐を認めたため産科診療所から紹介され受診した。在胎39週,体重3,300gで出生した。日齢1から母乳を開始し,日齢2から腹部膨満が出現し,夜間から胆汁性嘔吐を認めた。身長52cm,体重3,100g。体温37.2℃。脈拍112/分,整。血圧80/48mmHg。呼吸数30/分。大泉門の軽度陥凹を認めた。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は膨満している。立位の腹部エックス線写真(A)と注腸造影像(B)とを下に示す。  診断はどれか。

第119回 D問題 第54問の問題画像
  1. a.鎖肛
  2. b.腸回転異常症
  3. c.Hirschsprung病
  4. d.新生児壊死性腸炎
  5. e.先天性小腸閉鎖症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、生後まもない赤ちゃんの腹部膨満と胆汁性嘔吐から、消化管閉塞の原因疾患を絞り込む問題だ。カギになるのは、閉塞が消化管のどの高さにあるかという視点と、注腸造影の形の読み方。まず、胆汁性嘔吐という症状から何を考えるかな。
医学生医学生
胆汁が混じるということは、Vater乳頭より肛門側で詰まっているということですよね。
ドクタードクター
その通り。そして新生児の胆汁性嘔吐は、腸回転異常症による中腸軸捻転のような緊急手術が必要な病気を含むから、「まず器質的な閉塞を疑って急いで調べる」のが鉄則だ。では、立位の腹部エックス線写真からどこが詰まっていると読む?
医学生医学生
拡張した腸管ガスが腹部全体にたくさん見えて、ニボーもあります。十二指腸閉鎖のdouble bubbleとは違いますね。
ドクタードクター
いいね。少数の拡張腸管で終わるなら上部の閉塞、腹部全体に多数の拡張腸管が広がるなら回腸から結腸あたりの下部閉塞を考える。しかも骨盤の直腸ガスが乏しい。下部の閉塞を詳しく見るのに役立つのが注腸造影だ。
医学生医学生
注腸造影では、肛門側の直腸からS状結腸が細くて、その口側で結腸が急に太くなっています。
ドクタードクター
そこが決め手だ。この狭い部分と広い部分の境目の口径差を、caliber changeと呼ぶ。細いほうが神経節細胞のない腸管、太いほうが正常な腸管で、Hirschsprung病の典型像なんだ。
医学生医学生
えっ、細いほうが病変なんですか。拡張しているほうが悪いのかと思っていました。
ドクタードクター
多くの人がつまずくポイントだよ。Hirschsprung病では、腸管壁内の神経節細胞、つまり粘膜下層のMeissner神経叢と筋層間のAuerbach神経叢が、肛門側から連続して欠けている。神経節がない腸管は蠕動もしないし弛緩もしないから、細いまま機能的な閉塞部になる。その手前に便とガスがたまって、正常な腸管のほうが拡張するんだ。
医学生医学生
発生学の講義で、神経堤細胞が口側から肛門側へ遊走すると習いました。それが途中で止まるから、肛門側から連続して欠けるんですね。
ドクタードクター
まさにその理解でいい。正期産の男児に多いことも本例に合う。病歴では、生後24時間以内に胎便が出たかどうかを必ず確認したい。胎便排泄の遅れは重要な手がかりだ。ではほかの選択肢を見ていこう。鎖肛はどうかな。
医学生医学生
鎖肛なら、そもそも肛門から造影剤を入れられないはずですよね。
ドクタードクター
その通り。鎖肛は多くが出生直後の会陰部の視診で気づかれるし、今回は肛門から注腸できている。腸回転異常症はどうだろう。
医学生医学生
小児外科の臨床実習で、緑色の嘔吐の赤ちゃんはまず軸捻転を否定しろと教わりました。上部消化管造影でcorkscrew signが出るんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。腸回転異常症では、十二指腸空腸移行部の位置異常や軸捻転によるらせん状の走行が上部消化管造影でみられ、単純写真では上部の拡張と肛門側のガス減少が目立つ。腹部全体に拡張腸管が広がる像や、結腸の口径差はこの病気の特徴ではない。
医学生医学生
新生児壊死性腸炎は、NICUで早産の赤ちゃんに起こる病気というイメージです。
ドクタードクター
そう、主に早産児や低出生体重児に起こる腸管の壊死で、血便や無呼吸、ショックなど全身状態の悪化を伴い、単純写真では腸管壁内ガスや門脈内ガスがみられる。今回は正期産の正常体重児で全身状態も保たれている。そもそも穿孔が疑われる状況では注腸造影は行わない。
医学生医学生
先天性小腸閉鎖症も胆汁性嘔吐を起こしますが、注腸造影での違いは何でしょうか。
ドクタードクター
小腸閉鎖では、胎内で腸の内容物が結腸まで届かないので、結腸全体が細く未使用のmicrocolonになる。今回は結腸全体が細いのではなく、肛門側の狭い部分と口側の太い部分に差がある。この違いを押さえておこう。
医学生医学生
結腸全体が細ければ小腸閉鎖や胎便性イレウス、途中に口径差があればHirschsprung病、と整理すればいいんですね。
ドクタードクター
その整理で大丈夫。確定診断は直腸粘膜生検で、アセチルコリンエステラーゼ染色で太い外来神経線維の増生を確認する。直腸肛門内圧検査では、直腸を膨らませても内肛門括約筋が弛緩しない、つまり直腸肛門反射の欠如がみられる。新生児では口径差がはっきりしない例もあるから、画像だけで決めつけないことも大切だ。
医学生医学生
治療は細い部分を切除するんですか。
ドクタードクター
そう。まず浣腸や洗腸、必要なら人工肛門で減圧し、そのうえで無神経節腸管を切除して正常腸管を肛門へ引き下ろす根治術を行う。臨床で特に怖いのはHirschsprung病関連腸炎で、腹部膨満や発熱、悪臭のある下痢から敗血症やショックに進むことがある。Down症候群に合併しやすいことも覚えておこう。
医学生医学生
術前だけでなく術後も、お腹の張りや下痢には注意が必要ということですね。
ドクタードクター
その通り。新生児の胆汁性嘔吐を見たら、閉塞の高さを単純写真で推定し、造影で形を読み、緊急性の高い疾患から順に除外していく。この流れを身につけておけば、小児外科の現場でも落ち着いて対応できるよ。

まとめ

新生児の胆汁性嘔吐はVater乳頭より肛門側の器質的閉塞を示唆し、中腸軸捻転などの緊急疾患を念頭に速やかな精査が必要です。腹部単純写真で腹部全体に多数の拡張腸管がみられれば下部消化管の閉塞を考え、注腸造影で肛門側の狭小部と口側の拡張部との口径差(caliber change)を認めればHirschsprung病を疑います。本症は神経堤細胞の遊走停止により腸管壁内神経節細胞が肛門側から連続して欠如する疾患で、細い無神経節部が機能的閉塞となり口側の正常腸管が拡張します。小腸閉鎖ではmicrocolon、腸回転異常症ではcorkscrew sign、新生児壊死性腸炎では早産児の腸管壁内ガス、鎖肛では会陰の視診がそれぞれ鑑別の手がかりです。確定診断は直腸粘膜生検(アセチルコリンエステラーゼ染色)で行い、根治術の前後を通じて重篤化しうる腸炎に注意することが、新生児の腹部救急を理解するうえで重要です。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・日齢3の男児。在胎39週、出生体重3,300gの正期産・正常体重児である。 ・日齢1に母乳を開始し、日齢2から腹部膨満、その夜から胆汁性嘔吐が出現した。 ・体重3,100g(出生時から約6%減)で、大泉門が軽度陥凹しており、軽い脱水がうかがえる。バイタルサインに異常はなく、発熱やショックはない。 ・心音・呼吸音は正常で、腹部膨満が目立つ。 ・立位腹部エックス線写真(A):腹部全体にわたって拡張した腸管ガス像が多数みられ、鏡面像(ニボー)を伴う。小骨盤腔の直腸ガスは乏しい。ガスが腹部の広い範囲に分布していることから、閉塞部位は消化管のかなり肛門側(下部)にあると考えられる。 ・注腸造影像(B):肛門側の直腸からS状結腸は細く狭小化しており、その口側で結腸が急に太く拡張している。この口径の急な変化(caliber change)が本例の決め手となる所見である。

診断へのプロセス

①胆汁性嘔吐は、Vater乳頭より肛門側での消化管閉塞を示す重要な徴候である。新生児では腸回転異常症に伴う中腸軸捻転のように緊急手術を要する疾患が含まれるため、器質的疾患を想定して精査する。 ②腹部エックス線で、拡張腸管が腹部全体に多数みられれば、閉塞は下部(回腸~結腸)にある。十二指腸閉鎖のdouble bubble signや空腸閉鎖のtriple bubble signのように、少数の拡張腸管で終わる像ではない。 ③下部消化管閉塞の鑑別には注腸造影が有用である。結腸が細く未使用の状態(microcolon)であれば回腸閉鎖や胎便性イレウスを、遠位の狭小部と口側の拡張部の間に口径差(caliber change)があればHirschsprung病を考える。 ④本例は、正期産の男児で、哺乳開始後に腹部膨満と胆汁性嘔吐が出現し、注腸造影で直腸~S状結腸の狭小化と口側結腸の拡張(caliber change)を示しており、Hirschsprung病と診断できる。病歴では、生後24時間以内の胎便排泄の遅れがなかったかを確認したい。

選択肢考察

  1. ×a.  鎖肛

    鎖肛(直腸肛門奇形)は肛門が正常な位置に開口していない先天奇形で、多くは出生直後の会陰部の視診で診断できる。瘻孔を伴う場合は、男児では尿道・会陰部から、女児では腟前庭・会陰部から胎便が出ることがある。瘻孔がなければ、腸管の盲端の高さを知るために倒立位の腹部エックス線撮影(invertogram)などを行う。本例は注腸造影で肛門から造影剤が注入できており、肛門は存在する。また狭小部と拡張部の口径差は鎖肛の所見ではない。

  2. ×b.  腸回転異常症

    腸回転異常症は、胎生期に臍帯内へ脱出した中腸が腹腔内へ戻る際の回転・固定が正常に行われないことで起こる。新生児期には中腸軸捻転やLadd靱帯による十二指腸の圧迫で突然の胆汁性嘔吐をきたし、軸捻転では腸管壊死に至りうるため緊急手術を要する。腹部エックス線では十二指腸閉塞によるdouble bubble signと肛門側のガス減少(gasless)を、上部消化管造影ではTreitz靱帯(十二指腸空腸移行部)の右方偏位や軸捻転によるcorkscrew sign(らせん状の走行)を認め、注腸造影では盲腸が右下腹部にない位置異常を示す。本例のように腹部全体に拡張腸管が広がる像や、結腸の口径差は腸回転異常症の特徴ではない。

  3. ○c.  Hirschsprung病

    Hirschsprung病は、腸管壁内の神経節細胞(粘膜下層のMeissner神経叢と筋層間のAuerbach神経叢)が肛門側から連続して先天的に欠如する疾患である。無神経節腸管は蠕動が起こらず弛緩もしないため機能的な閉塞部となり、その口側腸管に内容物とガスがたまって拡張する。正期産の男児に多く、生後24時間以内の胎便排泄遅延、腹部膨満、胆汁性嘔吐などで新生児期に発症することが多い。本例の注腸造影で、直腸~S状結腸が狭小化し(無神経節部)、口側の結腸が拡張する(正常神経節部)口径差(caliber change)が認められることが診断の決め手である。確定診断は直腸粘膜生検(アセチルコリンエステラーゼ染色で外来神経線維の増生を確認)で行い、直腸肛門内圧検査で直腸肛門反射の欠如も確認できる。

  4. ×d.  新生児壊死性腸炎

    新生児壊死性腸炎(NEC:necrotizing enterocolitis)は、主に早産児・低出生体重児に起こる腸管の虚血性・炎症性壊死である。未熟な腸管、腸管血流の低下、経腸栄養(特に人工乳)、腸内細菌の異常増殖などが関与する。腹部膨満、胆汁性嘔吐、血便、無呼吸、体温不安定、ショックなど全身状態の悪化を伴い、腹部エックス線では腸管壁内ガス像(pneumatosis intestinalis)、門脈内ガス、穿孔による腹腔内遊離ガスがみられる。本例は正期産の正常体重児で、全身状態は保たれ、血便もなく、注腸造影の口径差もNECでは説明できない。また穿孔が疑われる病態では注腸造影は行わない。

  5. ×e.  先天性小腸閉鎖症

    先天性小腸閉鎖症は胎生期の腸間膜血流障害などで小腸の内腔が途絶する疾患である。羊水過多の既往が多く、出生後早期から胆汁性嘔吐と腹部膨満をきたす。腹部エックス線では閉塞部より口側の腸管が拡張し(空腸閉鎖ではtriple bubble sign、回腸閉鎖では多数の拡張腸管)、肛門側の腸管ガスは消失する。注腸造影では、胎便や腸液が通過しなかったために結腸が細く未発達なmicrocolonとなるのが特徴である。本例は結腸全体が細いのではなく、肛門側の狭小部と口側の拡張部との間に口径差がある点で異なる。

Hirschsprung病の概要

・病因:神経堤細胞が消化管を口側から肛門側へ遊走する過程が途中で止まり、腸管の神経節細胞が肛門側から連続して欠如する。RET遺伝子などの関連が知られ、Down症候群に合併しやすい。 ・疫学:出生約5,000人に1人。男女比は約3~4:1で男児に多い。 ・病型:無神経節部が直腸~S状結腸にとどまる短域型(通常型)が約80%を占める。ほかに長域型、全結腸型、小腸まで及ぶ広域型がある。範囲が広いほど重症である。 ・症状:新生児期の胎便排泄遅延(生後24時間以内に排泄されない)、腹部膨満、胆汁性嘔吐。乳幼児期以降に発見される例では頑固な便秘と腹部膨満、発育不良がみられる。合併症として腸炎(Hirschsprung病関連腸炎)があり、重症化すると敗血症やショックに至る。 ・診断: ①腹部単純エックス線:腸管全体の拡張、直腸ガスの欠如。 ②注腸造影:無神経節部の狭小化と口側腸管の拡張、その境界の口径差(caliber change)。注腸後24時間経っても造影剤が残る排出遅延も参考となる。ただし新生児では口径差がはっきりしないことがある。 ③直腸肛門内圧検査:直腸を風船で拡張しても内肛門括約筋が弛緩しない(直腸肛門反射の欠如)。 ④直腸粘膜生検:アセチルコリンエステラーゼ染色で粘膜固有層・粘膜筋板に太い外来性コリン作動性神経線維の増生を認め、神経節細胞が欠如している(確定診断)。 ・治療:浣腸や洗腸、必要に応じて人工肛門造設で減圧したのち、無神経節腸管を切除して正常腸管を肛門へ引き下ろす根治術(pull-through法:Soave法、Duhamel法など)を行う。近年は腹腔鏡補助下や経肛門的に行う術式が普及している。

新生児の胆汁性嘔吐をきたす主な疾患と画像の特徴

・十二指腸閉鎖・狭窄:double bubble sign(胃と十二指腸球部の拡張)、Down症候群に合併しやすい。 ・腸回転異常症(中腸軸捻転):上部消化管造影でcorkscrew sign、十二指腸空腸移行部の位置異常。緊急手術の適応。 ・空腸閉鎖:triple bubble sign。 ・回腸閉鎖・胎便性イレウス:多数の拡張腸管、注腸造影でmicrocolon。 ・Hirschsprung病:腸管全体の拡張、注腸造影でcaliber change。 ・新生児壊死性腸炎:早産児に多い。腸管壁内ガス、門脈内ガス。

POINT

・新生児の胆汁性嘔吐は器質的な消化管閉塞を示唆し、緊急の精査を要する。 ・Hirschsprung病は腸管壁内神経節細胞(Meissner神経叢・Auerbach神経叢)が肛門側から連続して欠如する疾患で、正期産の男児に多い。 ・注腸造影で、無神経節部の狭小化と口側腸管の拡張による口径差(caliber change)が特徴的である。 ・確定診断は直腸粘膜生検(アセチルコリンエステラーゼ染色)。直腸肛門内圧検査で直腸肛門反射が欠如する。 ・鑑別:小腸閉鎖はmicrocolon、腸回転異常症はcorkscrew sign、NECは早産児の腸管壁内ガス、鎖肛は会陰の視診で診断する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。